ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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今回の当選者は 陣代高校用務員見習い さんでした。
作者である自分があまりイベントネタをしないせいか、エイプリルフールの話です。

切大君、出番でーす。


清姫と一緒 【4周年記念企画】

 

「今日はエイプリルフールだ」

「それがまず嘘なんだけど」

 

 それはもう1ヶ月以上も前の行事だっただろうが。

 

「聞け。今回は貴様のマイルームが悪戯にも特異点になった。エイプリルフールの日で固定されている」

「質が悪いどころかエゲツないな」

 

「これを解決するのは簡単だ。嘘の概念を嫌う者と共に一夜過ごせばいい」

 

 蛇の気配と、焦げた鐘の匂いが脳裏を過って離れない。

 

「それは死んでくれと言った方が早いんじゃないか?」

「今回はあのバーサーカー娘と過ごして、取り敢えず生還を目指せ」

 

 取り敢えずって言ったな。

 エドモン・ダンテス、それが無理難題と理解した上で言った。

 

「……何故睨み続けている?」

「そりゃ旅行先の旅館で寝ている俺にこんな悪夢をプレゼントしてくれちゃったら睨みたくもなるだろうが!」

 

 特異点出来ちゃった……みたいに言うけど、作ったのお前だからな!

 

「……この説明口調の時は大体他のアヴェンジャーの調整ミスで出来た悪夢だ」

「……因みに誰の?」

 

「匿名希望の魔女だ」

 

 それ、匿名の意味なくないですか?

 

 

 

「……知らない天井……じゃなくて、知ってる清姫だ!?」

「はい、よくご存知の清姫です」

 

 最初に見たのは、満月の様な黃色以外が輝かない瞳と若葉を思わせる青緑の髪。

 

 いきなりその盲目的な視線を浴びるとは思っていなかったので、思わず後退りながら上半身を起こした。

 

「逃げるのですか? 生前の様に?」

 

 そんな俺の正面にスッと近付いて、微動だにせずに俺の目を覗き込む。

 エイプリルフールでいつも以上に気が立っているらしく、俺を生前――清姫伝説の安珍だといつも以上に思い込んでいる。

 

「逃げない、逃げないから!」

 

「うふふふ、そうですね。もう二度と、逃げたりしませんよね?」

 

 不味い。

 彼女の嘘嫌い属性が全面的に出ているせいなのか、俺の発する言葉全てが契約の様に重い物になっている気がする。

 

「今日は此処で……清――2人、っきりなのか……?」

 

 確認する為に出す言葉も、何度か修正を加えてから絞り出した。

 清姫は目を笑わせずに微笑み、頷いた。

 

「ええ、そうです。マスターと共に過ごして4月1日の呪縛を滅ぼすのが私の役目です。

 なんと悍ましい行事でしょうか……マスター、どうかもっと側に……」

 

 俺の胸に顔を乗せ、上目遣いでこちらを見上げる清姫。

 普段よりも可愛い仕草だが、俺には蛇が噛む場所を値踏みにしている様にしか見えない。

 

「……マスターの肌に触れて、体が火照ってしまいました」

 

 顔のすぐ下から、甘えた声が耳に届いた。

 

「……包み隠さず正直に申しますと、その……夜枷を……」

 

 恥ずかしそうにそう言った清姫の顔は俺を避けるように俯いた。

 

「……」

 

 言い切れず俺の言葉を待っているようだ。

 

「……駄目だ。今は、特異点をなんとかするんだろ?」

 

 俺は俯いたままの清姫を抱きしめる。

 

「俺は決して側を離れない。

 今は、それだけでいいか?」

 

「……はい」

 

 抱きしめ返す清姫を見て、一先ず安心した。

 どうやら最速灰化ルートは回避できたらしい。

 

「……これから、どうしようか」

「旦那様は何も心配せずに、寛いで下さいまし。私が、此処でのお世話を致します」

 

 満足したのか、両腕を下げて俺からするりと離れた。

 しかし、その瞳には未だに光が無く油断出来ない。

 

 マイルームは一応、ユニットバスがあるが一日中籠もっているとなると遊びの少ない場所ではある。

 

 襲撃の危険は無い。他のサーヴァントが侵入する事も無い。

 この状況で清姫が何もしてこない訳がない。

 

「マスター、お茶をお淹れしました」

 

 お盆に湯呑を2つ乗せて持ってくる清姫。

 だが、俺は今は会話しているだけでも嘘が出ないかと震えている。ならば、彼女もまた俺に言う事は真実だけの筈だ。

 

「清姫、何か薬を入れた?」

「はい。液体状の精力剤と媚薬を混ぜてを半分の量のお茶を入れた……お茶です」

 

 その分量はもはやお茶じゃないだろ。

 

「どっちに入れたんだ?」

「どちらにもです」

 

 笑顔で言い切り、そのまま俺に1つ差し出した。

 

「どうぞ」

「お、俺は、飲みたくない……」

 

「……そうですか」

 

 咄嗟に正直に答えると、残念そうに清姫はお盆をそばにある机の上に置いた。

 

「夫婦の営みは今でなくても良いですね」

「ああ……」

 

 あっちの行動は説明してくれるし、清姫は嘘を吐かない。なら……!

 

「清姫、俺に危害を加えないでくれ」

「当然です。私はマスターの妻ですので。

 ――ですが、マスターが私を欺いたり、裏切った場合はその限りではございませんよ?」

 

 この場で一番拘束力のある口約束は上手く躱された。

 

 ……このまま何もしないと清姫がどんな手を打ってくるか分かったもんじゃない。

 

「小賢しいマスターも大好きですがどうか私の逆鱗には触れないで下さいまし……ふぅぅ」

 

 息を吹きかける動作で、小さな青い火を目の前で吐き出す清姫。

 今まで一度も見せた事の無い、こちらを牽制するような仕草が、今日の彼女の危うさを物語っている。

 

「ふふふ……あ、喉が渇くように暖め合うのも悪くないかも知れませんね?」

 

 ずっとベッドに座ったままなのが一番不味い。俺は一度立ち上がって辺りを見渡した。

 

 時計はまだ午前2時を指している。

 エドモンは今回、俺に過ごせと言っていたので生き残って夜明けを迎える以外にこの悪夢から覚める方法はない。

 

「どうかしましたか?」

「あ、いや……」

 

 清姫を怒らせない、怪しい薬を服用しない。

 この2つを厳守した上で行動すればいい。

 

 ……本当、口にするのは簡単だけど、いざ実行するとなると……

 

「何でもない……うーん、ちょっと体を動かそうかなぁ」

 

 良し。此処は筋トレだ。筋肉は全てを……なんて筋肉理論に目覚めた訳ではないが、少なくとも俺が他の集中していれば清姫は邪魔をしないだろう。

 

 彼女は俺の喉が渇くのを待っている様だし。

 

「よっし、最初は腕立て伏せから……ん?」

「ふふふ、マスターのトレーニングなら私もお付き合いします」

 

 目の前で清姫も両腕を床に付けている。

 

「まあいいか……行くぞ、50回だ」

「はい」

 

 夢の中だからか、それともマスターとしてこの体が鍛えられているからなのか、普段運動しない俺でも簡単に……

 

「31……32…………33……っさ、34……!」

 

 ……とはいかなかったが、なんとか行けそうだ。

 

「マスター、頑張って下さい!」

 

 その真横では俺より先に終わった清姫がエールを送ってくる。

 

「……よ、43……ふぅ……ちょっと休憩を……」

「だーめ、ですよ?」

 

 吐息が当たる程の距離まで近付き、低い声で清姫が囁いた。

 

「まだ、止まってはいけません……マスターは、50回と仰ったのですから、此処で止めては“嘘”になってしまいます」

 

「……っぐ……よ、44……43……」

 

 彼女の圧に押されて、何とか50回の腕立て伏せを終わらせた。

 

「ふー……ふー…………」

「さあ、次は?」

「……え?」

 

「マスターは“最初は腕立て伏せ”と言いました。なら、次のメニューはなんでしょうか?」

 

 これでは、嘘を見抜くというよりも言葉狩りだ。

 

 軽んじていた己の言動と運動能力の無さを心の中で嘆いた。

 

「……27……28……」

「しっかり腰を下げませんと、燃焼するのは脂肪ではなく皮膚になってしまいますよ?」

 

 続けて現実世界では体育の授業でだって滅多にやらないレベルの筋トレメニューを続行させられた。

 

 スクワットの後は右手と左手に、それぞれ10Kgのダンベルを持って同時に持ち上げるトレーニング。

 

 清姫は応援で俺を持ち上げ続けた。

 

「頑張って下さーい! しっかり息を吸って……吐いて……吸って……吐いて……」

 

「旦那様なら、将来は私も持ち上げてくれます!」

「な、難易度……高いのでは……?」

 

「そんな事ありません! 私は確かに羽より重いですが、象より軽いですよ!」

「ぶ、ブラック求人の……給料並の……振れ幅……!」

 

 そして上体起こし。

 俺の足を抑える清姫の蕩けた顔が、膝の隙間から見えていた。

 

「あ……旦那様が、あんなに必死になって私に迫って……ああっ!」

「ちょ、っと! 片手! 放して、ません!?」

 

 ツッコミながらの筋トレは、思った以上に体力と精神力を削られる結果になった。

 

「っはぁ、っはぁ、っはぁ……もうムリ……!」

「うふふふ、頑張るマスターを見守れて私、嬉しいです」

 

 そう言って先に持ってきていたお茶を手渡そうとする清姫を手で静止した。

 

「ふ、普通の水で……お願いします……」

「ええ、分かりました」

 

 一応確認をとってから水を飲んで、漸く落ち着けた。

 

「はぁ…………」

 

 だが、今の運動で少しは頭が回る様になった。

 

 清姫と2人きりでいる以上、彼女を無視して過ごせる訳がない。

 逃げ回るには此処は狭過ぎる。

 

「……清姫、頼みたい事があるんだけど……」

「……! 何なりとお申し付け下さい。私は旦那様の妻ですから」

 

 彼女に何もさせない事は不可能だ。だから、此処はある程度彼女の願望を満たせる事を頼もう。

 

「……その……耳かきとか……頼んでいいか?」

「はい、喜んで!」

 

 

 

「……ふぁ……」

「ふふふ、欠伸が出ましたね……心地良いですか?」

 

「ああ、最高だな……」

 

 俺は髪を束ねた清姫の膝の上に頭を置いてベッドに横になっている。

 夫婦の様な行動でマイルームでも出来る事で彼女が暴走したりしないモノをイメージしたら、これしか思い浮かばなかった。

 

「耳かき棒……常備していたんですね……」

「まあ、元々の部屋の主が置いて言ったんだろうな」

 

 自分で言った言葉を確認する様に、カルデアのマイルームを見渡して僅かばかりの寂しさを覚えた。

 

「そうですか……では、大事に扱いますね」

 

 清姫の声が少し近くなった。どうやら耳掃除が始まるらしい。

 

 彼女が小さく漏らした呼吸音で耳かき棒が耳に当たらない様に中央から慎重に入っているのが分かる。

 

 やがて指では届かない深さで棒が皮膚に当たって、清姫の首が動いた。

 

「……痛いですか?」

「大丈夫だ……うん、ちょっと視線を感じるだけ」

 

 先までウキウキだったのに始まった途端、敵サーヴァントと対峙しているんじゃないかって程に鬼気迫っている。

 

「そうですか……ですが、旦那様の耳に潜む穢れを見逃さない為ですのでご了承下さい。

 痛かったら、遠慮なく申して下さい」

 

 耳かき棒が動き始めた。

 

 清姫の丁寧かつこちらを気遣う気持ちは、耳の中で触れては離れる棒の感触で分かる。

 

「大きいですね……少し、強めますよ」

「ぅん……」

 

 少し力の抜けた返事を返して直ぐ、棒が肌を軽くなぞった。先からもどかしい接触が続いていたから、その刺激に体が反射的に跳ねそうになる。

 

「……くすぐったいですか、マスター? ですが……これは中々頑固ですので、もう少しだけ……辛抱して下さい」

 

 頭を抑える為に添えられていた右手が少し強張り、清姫の顔ももっと近くなる。

 

「っん……もう少しです……早く、旦那様のお耳から……出ていきなさい……!」

 

 耳かき棒が入り口をなぞった。

 

「……取れた?」

「ええ……大きいです。

 ですが、これ以外は特に目立つ穢れはありませんでした。ちゃんとお掃除、しているんですね」

 

「まあ、たまに綿棒で――」

「――ですが、これからはどんな些細な汚れでも、妻の私が残さず綺麗にしますので、私に頼んで下さい」

 

 有無を言わせない口調で俺の耳に囁く清姫。

 

「ふぅぅ」

「っ!」

 

 突然息を吹かれ、今度は抑える間もなく小さく跳ねた。

 

「他の女に触らせる事は無いように……お願いしますね……?」

「は、はい……」

 

 右耳の後は左耳も、まるで心まで食い入るかの如く見られながら掃除され、開放された時には少しだけ冷や汗を流していた。

 

「ふぅ……疲れた様な名残惜しい様な……」

 

 ベッドから立ち上がり、背伸びをしつつ時計を確認した。いつの間にか5時30分を指している。

 夢の中では時間の流れは早くなる……が、最近は寧ろ延ばされる事が多々あった訳だが、こうなれば終わりも見えてくる。

 

「釘はいっぱい刺されたが、これで後は――っぬお!?」

 

 突然背後から清姫に抱きしめられた。

 

「な……どうかしたか……?」

「ああぁ……ますたぁ……」

 

 先まで事ある毎に影のある笑顔で微笑んでこちらを威圧していた清姫から、甘えた声が聞こえてきた。

 

「……この、匂い……」

 

 背後にピタリとくっついたまま、清姫が鼻を鳴らしている。

 

「匂い……?」

「大好きなますたぁの努力の、匂い……」

 

 入浴中を襲われたくなかった俺は、運動して多少汗をかいたがタオルで軽く拭いてから耳かきを任せていた。

 

 そのせいで、清姫に妙なスイッチが入ってしまったのか。

 

「と、兎に角一旦離れてくれ……!」

「ああ、駄目です……! はしたないのは重々承知ですが、私今はこうしていたのです……!」

 

 腕力ではサーヴァント相手に勝てないとは分かっていても、何とかしなければ思った俺は回された腕を掴んで引っ張ろうとした。

 

 ……しかし、結果的に言えばそれは止めておけば良かった。

 

 この時の清姫は本気で俺から離れたくなかったのだ。

 

「もっと嗅いでいたい……!」

 

 それ故に、彼女は魔力を自身の体から放った。

 

「うぉ……!? あっ」

 

 その勢いで腕は吹っ飛ばされ、机の上に置いてあった媚薬入りのお茶が入った湯呑は――マイルームのロックを制御する端末へと直撃した。

 

「……扉が、開いた?」

「っ!? マスター!」

 

 扉が開いて思わず足がそちらに向いたが、外から紫の煙が侵入してきた。

 

「っ⁉」

「うっ……ごっほごっほ! っく! この……!」

 

 俺を後方へ押し飛ばした清姫はその煙を浴びながらも、扉を力尽くで閉めてから炎を吐いて溶接した。

 外との繋がりが断たれた為か、煙は自然に消えていく。

 

「大丈夫か、清姫!?」

「うっぐ……………!?」

 

 慌てて声を掛けるが、清姫は苦しげに歯を食いしばって答えない。

 

「ふぅー………ふぅー……ふぅ」

 

 何度か息を吐いてから漸く落ち着いた様だ。

 

「……旦那様……」

「え?」

 

「私を……今すぐ……!」

「ちょ、ちょっと待て!?」

 

 両肩を掴まれ、どう見ても様子のおかしい彼女にそのまま力任せに押される。

 

「っく……! どうした清姫!?」

「聖杯の、魔力を、浴びて……! 虚実を……口にしてしまいそうで……!」

 

 どうやらエイプリルフールの特異点は本当に発生していたらしく、嘘嫌いの清姫は怒りが止まない様だ。

 

「っぐ……旦那様……! お願いします…………うっぐ!?」

 

 嘘という清姫的最悪の禁忌に抗っている影響か、代わりに口から火の粉が漏れ出している。

 

「どうしろって!? あ、令呪を……!」

 

 緊急事態だから仕方無しにと、俺は令呪を光らせる……しかし。

 

「消えたぞ! だけど、止まらない!?」

「駄目です……! 特異点の影響で、令呪が通じる程の繋がりが、ありません……!

 こ、これを……!」

 

 ぎこちない動きで片手を離した清姫は、自分の帯に付いている紐を指さした。

 

「……その……解いて、頂けますか……?」

「ちょっと、何言ってるか分かんな――い!?」

 

 肩を思いっきり握られた。

 いや、確かに清姫が嘘を言わない以上、それがこの状況から助かる手段なんだろうけどいきなり信じるには無理があるだろ。

 

「分かった分かった! 解くぞ!」

 

 もうどうなっても知らない。力一杯紐を引っ張った。

 

 同時に、清姫の着物は吹き飛んだ――

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ますたぁ……」

「おい、助かってないんだけど!?」

 

 頬を赤らめ、血走っている瞳でこちらを見る清姫。先より俺の状況が悪化している。

 

 首の直ぐ横に刺さったまま刃を向けている2本の薙刀が俺を逃さない。

 

「ああ……私、こんな形で初夜を過ごしたくは無かったのですが……今は、体がとても正直で……晒した肌を見て頂けるだけで、良くない快感が走っております……!」

 

 着物を脱いだ事で、彼女は和服の下に着込んでいた水着姿を開放し、ランサーのクラスへと変化した。

 

 三騎士クラスの1つであるランサーには対魔力がある。

 そのお陰で彼女は特異点の魔力に抵抗出来たが……色々と開放的になる水着に加えて、匂いでスイッチが入った後に、自分の嫌悪する嘘の侵食された反動でもはや我慢なんて概念は崩壊していた。

 

「これで、肌を重ね合ったらきっと……きっと、霊基に深く愛を、刻み込まれてしまいます……! これから先、誰に召喚されても、マスターの妻だった事は永遠に忘れない……いえ、人類史に私達の愛は語り継がれて、然るべきです!」

 

 清姫が服に手を掛けようとした時、俺は彼女の額に中指を内側に折って親指で抑える……所謂デコピンの状態で見せた。

 

「……悪いけど、清姫は無理。【ガンド】」

「あっ……」

 

 狙っていた訳ではないが、これで時刻はジャスト7時。聞き慣れたアラーム音が徐々に徐々に現実世界へ――

 

「――嘘です!」

「んっ!?」

 

 動けなくなった清姫が、今日一番の大声でそう叫んだ。

 

「私は無理だなんて……そんな酷い嘘を良くも……!」

 

「嘘じゃないって。

 今の清姫は無理だって事」

 

「今の……私?」

「ちゃんと服着て、落ち着いて、考え直してくれよ……な?」

 

 俺はそう言って落ちていた彼女の着物を羽織らせた。

 

「そ……そんな格好の良い事されても、誤魔化されませんからね! もう一度会ったら、燃やします!」

 

 最後に照れ隠しにとんでもなく物騒な事を言われながら、俺は現実世界へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 そして2日後。悪夢の中で出会い頭に燃やされた日(その記憶は残ってないけど)の翌日。

 

「マスター! 私、ご理解しました!」

「昨日出会って一瞬で炭にされた気がするんだけど、よくもそんな甘えた声で抱き付けるな」

 

 そりゃ、清姫は嘘吐かないしもう死んだ事は覚えてないけど、照れ隠しの文句をそのまま実行するってどうなの。

 

「私、解りました! マスターは、普段の私がお好きなのですね!」

「……ま、まぁな」

 

 照れながら正直に頷いてやると、清姫は嬉しそうに頷いた。そうだ、普段の落ち着いてこちらを尊重する清姫なら……

 

「この格好の私なら……愛して下さいますか?」

 

 あ、この子の狂化EXだったな……と心の中で頭を抱えていると、着物を協調する様にその場でグルリと回転した。

 

(別に俺が和服派か水着萌えかは関係なくて、心持ちの……)

 

 ……なんて説教しようとしたらいつの間にか別のサーヴァントに囲まれてしまっていた。

 清姫と談笑していたせいか誰の表情も、あまり良くない。

 

 ワルキューレの3姉妹、タマモ・サマー、アナ……その組み合わせに、違和感を覚えた。

 

 ……ん?

 

「…………あれ? 今日はランサー、多くないか?」

 

 ……思わず、着物の隙間を上から覗き見た。

 

 そこで水着を確認したのだが、それがヤンデレサーヴァント達の逆鱗に触れる事は完全に失念していた。

 

 殺気を放ちながら計5本の槍が俺を襲うが、上から大きな鐘が降ってきた。

 

「……ですので、この水着の清姫の魅力も……たっぷりご紹介しますね……?」 

 

 暗闇から迫ってくる蛇に飲み込まれる……

 

 

 ……より早く殺到する女神の鎖、鮫の蹴り、そして天使の槍。

 

 2日連続の数秒ゲームオーバー。

 

 残念ながら、水着の魅力を覚えている時間は無かったのだった……

 




次回はTwitter側の当選者、ヴォルフ さんです。

今回の話は自粛期間中の自分と重ねて料理シーンを書こうかとも思いましたが、公開されている公式のマイルームには調理場がないとの事だったので無くなりました。そりゃあ、マンションの一室じゃないんだからなくて当然でしたね。

恐竜さんを召喚しました。Fate/Requiemは未読ですので、書く前にちゃんと調べておきます。

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