ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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ヤンデレ・シャトーの4周年記念企画。最初の当選者は
第二仮面ライダー さん です。ありがとうございます。

今回は玲と謎のヒロインXオルタの話。最近の玲に不満を抱くXオルタ。そんな2人のデートとは……


デートと書いて爆弾処理 【4周年記念企画】

「おや、部長があんな所に」

 

 カルデアール学園高等部の廊下から、新聞部の部長である玲の姿を見た謎のヒロインXオルタ。

 

 窓の向こう側では校庭のベンチに腰掛けている。

 

 彼女にとってはマスター候補と言う特別な――将来的に自分の力を引き出してくれる存在であり、一生を共にするかも知れない異性である。

 

 護衛を任されている事もあって、なるべく側に居ようと常日頃から心掛けているが、今日は逃げられていた。

 

「では、早速迎えに――っ?」

 

 ベンチに座っていた玲の隣に、別の女性が座った。

 

「アレは、両儀さん……」

 

 顔見知りではある存在だが、自分の部長を狙う恋敵だ。

 だが、サーヴァントとしての力を振るうには玲との距離が離れ過ぎている。

 

 なのでポケットからイヤホンを取り出して盗聴器で会話を聞く事にした。

 

『部長さん、今日も部活かしら?』

『ああ、この学園は本当にネタに尽きねえからな』

 

『そうね』

『所で、お前に渡したい物があるんだけど』

『まぁ、指輪かしら?』

 

 思わず顔をしかめた。

 今すぐ宝具を真名開放してぶっ放したかった。

 

『これ、お前と沖田オルタの分の魔力パスリング。これで10km位離れても問題ないそうだ』

『……そう』

 

 それに刃を振り下ろそうとした両儀の腕を玲は握って止めた。

 

『次の修学旅行で、何時までも一緒に居られないからな。

 先生が夜なべして作ってくれたから……壊すなよ?』

 

『相変わらず強いわね……良いわ。貴方の強さに免じて、着けてあげる』

 

 大事に発展する様子が無く、Xオルタはそっと胸を撫で下ろした。

 

 それと同時に、無意識に今までの自分と比べてしまう。

 

「……先生の作った物です。唯の備品……」

 

 口ではそう言いながらも、今まで何かある度にアンパンを貰い、口封じにいちご大福、変わった物が食べたいと言えば駄菓子を奢られていただけ。

 

(……食べ物、ばかり)

 

 それに最近は部長と2人っきりで居られる時間が少ない。

 その不満は一度バレンタインデーで爆発した訳だが、別段その後は普段通りだった。

 

「……取り敢えず、あの危険なセイバーはポリスメン……では無く、親友のXさんに連絡しましょう」

 

 最高速度でメールを送信した数秒後、青い流星が学園内を走り、庭のベンチを真っ二つにしたと言う噂が流れる事になった。

 

 

 

「――玲!」

「ん? ああ、お前か……」

 

 現実の高校、校門を出ようとする玲の後ろから女子生徒が声を掛けて来た。

 

「久し振りに練習に付き合ってよ」

「やだよ。お前の竹刀、そこら辺の鉄パイプより痛ぇし。てか部活の練習は?」

 

 恐らく、夢の中のサーヴァントの殆どは驚くだろう。

 彼女は中学生時代から玲と竹刀で戦う仲だった。

 

「先生が休みで自主連。部員の誰も私の相手をしてくれないから玲に頼んでいるの」

「大体、俺とやっても剣道の練習じゃなくて喧嘩になっちまうだろ」

 

「変わらないよ。誰も玲の蹴りより早く打ち込んでこないし」

 

 速度の問題では絶対ないだろう。

 

「ねぇ、私が話しているのに何でスマホ弄ってるの?」

「FGO。ストーリー進めないと、弟にネタバレ食らっちまうからな」

 

 そう言ってスマホを指で操作し続ける玲に痺れを切らしたのか、女子生徒は竹刀に手をかけ――

 

「――っと、スタミナ無いし少しだけ付き合ってやるよ」

「そうこなくっちゃ」

 

 手刀で竹刀を掴んだ手の甲を抑えつつ、スマホを片付けたのを見て、互いに好戦的な笑みを浮かべつつ体育館へ向かった。

 

 周囲には誰もいないが、そのやり取りは傍から見れば特別な繋がりを感じさせる物だった。

 

 

(………………)

 

 

 

 

「――部長。行きましょう」

「んぁ……?」

 

 机の上で寝てたらXオルタに起こされ、しかもそこそこな力で腕を引っ張られた。

 のんびり屋なコイツがこうして来る時は大抵、何か怒っている時だ。

 

「ん、部室か? 取り敢えずアンパンいるか?」

「…………外出許可、取ってきました」

 

 アンパンを避ける様に紙を渡してきた。

 

 カルデアール学園の名前と仰々しい漢字が並べられ、中央には俺の名前が書かれている。

 

「外出?」

「デートです。今日は私と街に出ましょう」

 

「ほっほぉ……そりゃいいな」

 

 こんな可愛い後輩に誘われて断れる奴はいない。そう思って立ち上がった俺の目は周りの殺気に気付いた。

 

「へぇ……外出、デートねぇ……」

「武蔵か」

 

 普段から疑問だったが何でコイツ、制服を改造してまで帯刀してるんだ?

 

「でも、それって許可書があればでしょ?」

 

 瞬間、Xオルタが俺の前に移動して武蔵の刀を防いだ。

 

「許可書を斬るつもりでしたね」

「あらら……だけど、無駄よ。私の眼は既に斬れた許可書を視てます」

 

「逃げるぞ!」

 

 俺が近くにいるとサーヴァント候補の奴らの力が上がる。なら下手に応戦せずにここを離れるのが最善の手だ。

 

 許可書を掴んで廊下へ、そして階段を目指して走る。

 

「可愛い後輩とイチャイチャなんて、神仏が許しても私が許しません! 剣が鈍るから手を出さなかっただけで、普段から嫉妬と据え膳でムカムカな私の二天一流、思い知りなさい!」

 

 だいぶ煩悩塗れな刀で俺達を追いかけ回す武蔵。

 

「玲!」

 

 今度は階段の方から声を掛けられた。少し息が乱れ、汗をかいているデオンが立っていた。

 

「私も許可書を貰って来た!」

 

 俺達の足は前から突然登場したデオンに少し遅くなる。

 

「――貰ったわ」

 

 Xオルタの側に、武蔵の刀が輝いた。

 

 咄嗟に腕を掴んで、デオンの飛び越す様に俺達は階段をジャンプで降りた。

 

 その後ろでは、紙切れが舞い落ちていた。

 

 やられた――そう思って足を止めたが、今度はXオルタが俺を引っ張った。

 

「大丈夫。行きましょう」

 

 そう言って走り続ける後輩に足並み合わせてその場を去った。

 

「ふふ、外出許可は2週間に1回しか受け付けない。これでデートはご破算ね」

 

「あ、あれ? 私の外出許可は……?」

「え?」

 

 廊下の床に落ちた紙。

 真っ二つになったそれらの中央には、デオン・シュバリエと呼べる文字が書かれていた。

 

「あ」

 

「――やってくれたね、うどんサムライ!」

 

「ちょ、弁解! 弁解させて下さい!」

「問答無用!」

 

 上から、武蔵の悲鳴が聞こえて来た気がした。

 

 

 

「無事学園脱出だな」

「そうですね」

 

 なんとか迫り来る多くの生徒達をかわしつつ、俺とXオルタは学校外を出た。

 

 道中ずっと手を繋いでいたが、それを度々見ていたXオルタが嬉しそうに笑っていたので繋いだままにしておくか。

 

「それで、どこに行く気なんだ?」

「先ずは――」

 

 ぎゅるぅ、と聞き慣れた食欲旺盛な音が聞こえてきた。

 

 Xオルタは繋いだままの右手をそのままに、左手で首元のマフラーを掴んで恥ずかしそうに口を隠した。

 

「……食べに行きましょう」

「別に、今更恥ずかしがる事じゃねぇだろ? 3日に一回位のペースで聞いてんだし」

 

 途中で腕を若干強く握ってきたが、怒ったコイツが可愛いので構わず続けた。

 

「……部長の意地悪」

「へいへい、悪かったよ――っと」

 

 握力で勝てないと悟り、急に走り出したので合わせてやる。

 

「奢って貰います。一番高い所で」

「せめてしょっぱい物がある場所にしてくれよ?」

 

 俺の要求を完全無視する形で、男の俺には縁のないケーキやスイーツだけがショーケースに並べられた店に入った。

 

「さぁ、食べますよ!」

 

 机一杯にホールのケーキが乗った皿を並べ、頬張り始めるXオルタ。

 

 一応、大食いではなく美食家のつもりなので、1つ1つゆっくり食べている。

 

「こちらのチョコケーキはカカオ65%のビターな味わいです。先輩もどうですか?」

「いや、1人で食っていいぞ」

 

「どうですか?」

「いや、俺は――」

「どうぞ」

 

 押しが強い……じゃなくて、いつも以上に押してくる。

 普段なら俺が渡した菓子すら手に持ったら独り占めにするのに……

 

「わーったよ。全く…………ん、んめぇな」

「本当ですか!」

 

「お、おう……」

 

「良かったです。もっと食べて下さい。私の奢りです」

 

 椅子から立ち上がる程に喜んで、店に入る前は払わせる気満々だったのに奢るとまで豪語している。

 

 良く分からないが、機嫌が良くなるならもう少し位食ってやるかとチョコケーキを切り分けて皿に移した。

 

 もしかして俺に遠慮してるのかと思った俺はXオルタに声を掛ける。

 

「おい、別にお前が食っても――」

「――次はコレお願いします」

 

 と思ったら普通に残りのケーキを平らげて別の物を注文してやがった。

 

「あ、先輩ももう一個欲しいですか!?」

「……いらない」

 

 余り甘い物が好きじゃない俺の気分が見ているだけで悪くなりそうな程のケーキは、吐き気を上回る気持ちのいい食べっぷりによって緩和された。

 

「ふぅ……満足です」

「そりゃ良かったな……」

 

 あの量を十数分で食べ切った後輩にこの分野では勝てない事を悟りつつ、店を出た。

 

「で……この後どうするんだ?」

「ふぅ……腹ごなしも兼ねてショッピングモールに行きましょう」

 

 Xオルタが案内する様に腕を引っ張り、道中で軽く写真を撮りつつ俺達は目的地に着いた。

 

「先輩は何処か入ってみたいですか?」

「いや、ゲーセン位しかねぇよ。お前はどうだ?」

 

「私は……此処に入ってみたいです」

 

 指差したのはアクセサリーショップ。ビーズから宝石まで幅広い種類を取り扱っている……らしいが、俺には良く分からん。

 

「どれが私に似合うでしょうか?」

「俺に聞くなよ……なんだっけ? 誕生日石とか花みたいに言葉とかあんだろ? 店員さんに聞いてみるか?」

 

「中途半端なアドバイスですね」

「悪かったな中途半端で」

 

 結局何も買わずに出ていったが……やたら見てたネックレスがあった。

 

(まさかアイツ、先のケーキ払ったからか……?)

 

 いや、ホールのケーキを食いまくって、それで財布が尽きたならアイツが悪い。 

 

 悪いんだが……

 

(……っまあ、しゃーないか)

 

「あ、部長。私本屋で参考書を買いに行きますので少し待っていて下さい」

 

 そう言ってアイツが消えていくのを見届けた後に、再びアクセサリーショップに入った。

 

「……ん? 俺、もしかして誘導されてないか……?」

 

 妙な違和感を感じたが、まあ可愛い後輩の我が儘位聞いてやるかとあいつの見てたシトリンのネックレスに目をやる。

 

 値段は……学生からしたら結構な出費だが普段から大して使ってないし……まあいいか。

 

「今まで色気より食い気だったのに、急にどうしたんだか」

 

 女子に疎い俺は少し呆れながらも財布を軽くする事にした。

 

「――と、あいつも終わったか」

 

 会計を済ませてそとにでると、Xオルタが店から出てカバンの中に買った本を片付けている。

 

「待たせしました」

「買えたか?」

 

 俺の質問に頷きながら手を出してきた。

 

「はいはい」

「では次です」

 

 握ってやると視線を前へ変えて歩きやがる。

 そんなに照れるなら握らせなきゃ良いだろとは言わず、心の中に留めておこう。

 

 

 

 謎のヒロインXオルタは、悩んでいた。

 

(……デートって一体何をすれば……?)

 

 玲の周りの状況を知り、嫉妬や怒りに飲まれた彼女は強引に今日のデートを決行した。

 

 しかし本人が恋愛事に疎く、その上普段から行動を一緒にしている玲と学校を離れて歩いても何かが変わる事はない。

 

 一応、ネットで見た仕草で遠回しにプレゼントを強請れた。買ってくれたのは盗聴器で確認したので問題ない。

 

 だが――これ以上先は分からない。

 ゲームセンターで遊んで帰る? 否、それではデートの意味がない。

 

(先輩の心を掴まないと。今日はその為の日なんです)

 

 サーヴァントと戦える規格外な身体能力と戦闘センス。

 なら、ここは精神的に……そう思ったXオルタは握られた手指を動かして指と指を交互に絡ませる、所謂恋人つなぎをした。

 

「1階にゲームセンターがあります。

 その後、帰りにカラオケに寄りませんか? 此処を出て直ぐにあるそうです」

 

 玲に動揺した様な動きはない。

 

「別にいいぞ」

 

 既に時刻は4時近くまで回っている。今からゲームセンターで遊び始めれば、外が見えない事もあって暗くなるだろう。

 

 見た目は幼い彼女だが、今日は愛しの部長と共に大人になろうと背伸びした作戦を考えていた。

 

「まずはレースゲームです」

「軽く捻ってやるよ」

 

 騒がしい場所、しかしゲーム機の前に立てば2人だけの時間が始まった。

 

 

 

 

「お前、下手だなぁ」

「む……」

 

 挑んできた割にはこの手の操作になれていないのか、壁や障害物にぶつかり続けるXオルタと俺の間には順位で言えば8の差があった。

 

「よしよし、このまま一気に――っ!?」

「そのまま壁にぶつかってて下さい」

 

 突然、ハンドルが左に倒れた。

 Xオルタを見ると片手で操作に苦戦しつつ左手はこちらに向けていた。

 

「おま、念動力は無し、だろぉぉ!?」

 

 力づくでハンドルを動かすと今度は右に倒れ込んだ。

 

「――勝利です」

 

 座席型の筐体から降りてこちらにピースをした後輩の頭に、一切の迷いなく拳骨を落とした。

 

「……理不尽です」

「お前がな!」

 

 気を取り直す為にも、今度はシンプルな奴を選んだ。

 

「お、パンチングマシーン」

 

 取り敢えずこれでいいかと思って金を入れようとしたら、Xオルタが肩を叩いた。

 

「部長、弁償出来るんですか?」

「はぁ? 壊さねえよ」

 

 そう言って俺は上を指さした。

 そこにはサーヴァント用の文字があった。

 

「……自覚はあったんですね」

「ほら、どっちが上か勝負だ。純粋な筋力でだ」

 

 丸型の衝撃吸収材を思いっきり殴りつけた。

 

『EX』

 

「おっしゃ!」

「むぅ……」

 

 このままでは勝てない。

 勝負事に少しだけ熱くなっていたXオルタは本気でやろうと魔力を高め、握った拳を正確に中央へ――

 

「っわふぅ!?」

 

 ――叩き込む寸前で突然、両脇腹を俺に触られたせいで力も魔力も拡散し情けのない声を出した。

 

『E』

 

「ぶ、部長……」

「先の仕返しだ。可愛い悲鳴だったな」

 

「……度量の狭い事で」

「能力使ってまでハンドル抑えたお前が言うか?」

 

「ならば戦争です。ゲーマー7番勝負を宣言します」

「売られた喧嘩は買ってやるよ!」

 

 

 

 ……おおよそ、Xオルタの想定していた内容とは異なった展開だったが2人は時間が過ぎるのも忘れてゲームセンターで暴れ、時間を過ごした。

 

 2人の勝負は結局決着が着かず、最後のクレーンゲームで2人同時に景品が穴に落ち切らず店員を呼んだ。

 それがどうしても面白くて、2人で笑い出してしまった。

 

 そこで漸く、夕日が落ちる時間だと気が付いてカラオケボックスへ向かった。

 

「カラオケか」

「部長は何を歌いますか?」

 

「んー……まあ適当に検索するか」

 

 ソファに座り込んだ玲はタッチパネルを操作して歌を選び始めた。

 

 そんな玲の隣にXオルタは無言で座った。

 

「ん? 歌ならこっちに――」

「部長。キスしてくれませんか………あぅ」

 

 言ってしまった。

 

 自分自身の口から出た言葉で赤くなった顔を隠す様に、玲の肩に顔を押し付けた。

 

「……せめて、心の準備位しておけよ」

「うるさいです。ほんのちょっと煩悩が漏れただけで――」

 

 そんな彼女の額に玲は不意打ちでキスをし、頭を撫でた。

 

「――これでいいか?」

 

「あ……は、はい……」

 

 突然の感触に思わずおでこを両手で触って、戸惑いの表情を見せたXオルタを玲は笑った。

 

「これで我慢しろよ? 店員さんに見られると気不味いしな」

 

 そう言って再び歌を選び始めた。

 

(キスされたキスされたキスされたキスされたキスされた……!)

 

 幾らジュースを飲んでも歌を歌っても、彼女の顔から赤色が抜けない。

 

 互いに5曲ずつ終わった後でもそれは同じだった。

 

「……なぁ、自分から誘っておいて何で噛み噛みなんだ?」

「部長のせいです……トイレに行ってきます」

 

 Xオルタは立ち上がり、部屋を出ていった。

 

 ここ暫く、相手にされなかったり他の他の今まで浮かれていた彼女だったが、何かを思い出したかのように廊下でスマホを取り出した。

 

「おでこ……意味……」

 

 歌っている最中にキスの場所には意味があると言っていたクラスメイト達を思い出した。

 

「……っ」

 

 その結果に彼女は落胆した。

 おでこは友愛、愛よりも友情が強い事を意味する。

 

 そう書かれていた文の下には関係が長く続く等のポジティブな言葉が続いていたが、Xオルタの頭の中には玲に友情以上の感情で接している者達の顔が浮かんだ。

 

「やっぱり……駄目です」

 

 忘れていたストレスが込み上げ、独占欲が背中を押した。

 

「しっかり、部長を手に入れないと」

 

 

 

「もう8時だけど、まだ何処か行くのか?」

「もう1つだけ、付き合って下さい」

 

 カラオケも終わり、夜道を歩く俺達。

 疲れたのか口数の少ないXオルタの後を追いつつ、俺はカバンに目をやった。

 

(あのネックレス、今日中に渡したいんだがな……)

 

「着きました」

 

 横を見たXオルタに視線を合わせると、それはピンク色の看板とやけにカラフルなライトが特徴的な建物。

 

「……帰るぞ」

「部長……?」

 

「寝るならこんな所入んなくても寮があるだ――っ?」

 

 学園へ向かって歩き出すと、誰かに引っ張られたかのように体が硬直する。

 こちらに手をかざした状態のXオルタを見て、体に力を込めた。

 

「っ、うらぁ! ――っ!?」

「流石部長。私の見えざる手を振り切りましたね」

 

 違う。力を込めて破ろうとした瞬間、スキルを解いて勢い余った俺の体を再び掴みやがった。

 

「部長の力は強大です。ですが、サーヴァント候補生である私はそんな強大なマスター候補生である先輩から魔力が供給されています」

 

 Xオルタは自分のカバンに手を突っ込むと、見覚えのある物を取り出した。

 

「それは!」

「はい。魔力パスリングです。

 先生に頼んで作って頂きました」

 

 それを袖越しに装着しつつ、近付いて来るXオルタ。

 

「通常の供給に加えてこれで魔力を貰えれば部長の力を上回れます」

「っは! そう簡単に……行くか!」

 

 近付いて来た所で見えざる手を今度こそ振り切って、拳をXオルタに――叩き込むより先に、後ろへ飛んだ。

 

「っ危な!?」

「ネクロカリバーを躱しましたか……ですが」

 

 再び見えざる手が発動する。俺の体が何かに抑え付けられている。

 

「手加減はしません。部長を手にする為に……倒されて下さい」

 

 そろそろマジでやばい。

 見えざる手を解除する為に力を入れれば、無理な体勢で剣に応戦しなきゃならん。

 

 解除と同時に距離をとっても、結局捕まってイタチごっこだ。

 

「部長が、悪いんです!

 私の、前で! 平気な顔で! 女子生徒と喋って!」

 

 いつになく真剣で、鬼気迫る顔で剣を振るっている。

 

「私には、お菓子しかくれません!

 まるで、ペットみたいに! 子供をあしらうみたいに!」

 

 滅茶苦茶な剣筋を躱して、止まって、躱して、止められる。

 

「私は唯の可愛い後輩ですか? 面倒な女ですか?」

 

 ――だけど、いい加減口が過ぎたな。

 

「その通りだコノヤロー!」

 

 振られた刃を、受け止めた。

 

「カバンで――」

「毎回毎回バカみたいに食いやがって、しかも大体俺に強請るし!」

 

「あぅ……まだ!」

 

 驚いた隙に剣を手から蹴り飛ばしたが、それを空中で静止させた。

 

「女子との会話くらい良いだろ! モテ期の内に思い出作りさせろ!」

 

 再び取られる前にカバンで一発頬を殴って――っち、顔を捻って威力を殺したか。

 

 その一瞬の内にもう手に剣が戻ってやがる。

 

「駄目です。他の女が思い出に残るのも許しません」

 

「なら他の女との昨日より良い思い出を、俺に今日作ればいいだろ」

 

 剣を構えたXオルタは、その輝きとは対象的な弱々しい表情を浮かべる。

 

「そんな事……私には――」

「――出来るに決まってんだろ。

 好きな奴との1秒は、他の女の1時間より記憶に残るもんなんだよ!」

 

「っ――あ」

 

 驚いたXオルタの隙を突いて、今度こそ遠くまでネクロカリバーとやらを蹴り飛ばした。

 

「……好き……?」

 

 拾いにいく素振りも見せないアイツを見て俺は地面に落ちたカバンを拾った。

 

 良かった。全く切り裂かれてない。

 

「先輩、私の事、好きって……」

「全く……」

 

 中から到底無事とは思えない歪んだ形をした箱を取り出した。

 

「……これは」

「アクセサリーショップでやたら見てただろ」

 

 丁寧に包装されてたのになぁ、と残念がりつつ中身を見せた。

 

「シトリン……だっけか? ネックレスだ」

 

 そう言ってぼーっとしたままのXオルタの首に回した。

 

「ああ、くそ……こういうの初めてなんだ……上手く行かねえな……」

 

「……ゆっくりで、構いませんよ」

 

 気を遣わされたのが悔しいので、少しだけ急いで繋げた。

 

「ほらよ」

 

 黄色い宝石が、Xオルタの胸元で輝いた。

 

「……暗くて、よく見えません」

「あっち向けよ。派手な光があるぜ?」

 

 そう言ってコイツが誘って来たラブホを指差してやった。

 

「……本当に意地悪な先輩ですね。素直に褒め下さいよ」

 

「……綺麗だよ。お前の目には負けるけどな」

 

 クサイ、余りにもクサイセリフ。

 

 クサ過ぎて俺は顔を反らして、こいつに至っては笑いながら泣き出しやがった。

 

 

 

 

 

 

「――と言う訳で金輪際、私の部長に近付かないで下さい」

「おーい、独占欲止まってねぇぞ?」

 

 部室で俺のやったネックレスを見せびらかすXオルタ。

 

「へ、へぇーそんな物貰って舞い上がっちゃたんだ? 可愛いわねぇ?」

 

「ジナコ。ジャンヌオルタは喜んでいるのか?」

「喜んでないっすよ。どう見ても喧嘩売ってるじゃないっすか」

 

「えっちゃん! どういう事ですか!? メインヒロインの私を差し置いて!」

 

「あ、敗北ヒロインXさん。こんにちわ」

 

「ほほう? かつてない殺気が溢れて来ます。

 さてはセイバーだなオメー」

 

「部長がお相手しますよ? キャスター(物理)ですよ?」

 

 誰が脳筋キャスターだ。て言うか自分の喧嘩は自分でやれ。

 

「シトリンね……」

「沖田ちゃんには良く分からないがなんかムカムカするぞ」

 

「……さて、此処での報告はこれで十分ですね」

「おう。十分な挑発だったな」

 

 そう言って部室を離れようとすると、式が立ち上がりXオルタに耳打ちする。

 

「貴女、その宝石の意味は知っているかしら? 宝石言葉は友――」

「――部長から直接もっと意味のある言葉を貰ったので」

 

 ドヤ顔で切り返した。

 それを見て式の顔が鋭くなった。

 

 あれは、次に会った時に刺すつもりだ。 

 

「じゃあ次に行きましょう部長」

「どこ行くんだよ?」

 

 

 

「……んあ?」

 

 現実で目を覚ました。

 すると横にはXオルタがいた。

 

「おはようございます。ご家族に報告に行きましょう」

 

「いや待て……そもそもFGOやってる奴にしか見えないんじゃ――」

「――なら弟さんにだけでもご報告しましょう」

 

 引っ張られるまま一緒に真の部屋に向かった。

 

「たのもー」

「どういうテンションな――」

 

 ――そして眼前に広がる光景に、思わず腕を鳴らした。

 

 青いコートの金髪変態女が弟に覆い被さっているの目の当たりにしたら、そうなってしまっても仕方ないか。

 

「やあっ……義兄上殿、ご機嫌麗しゅう」

「そうか、そんなに俺の機嫌がよく見えるか? そうかそうか……!」

 

「あ、えっちゃんも来たんだ!」

「お兄ちゃんのお嫁さんのえっちゃんです。

 これからは義ねぇっちゃんと呼んでください」

 

「え、お嫁さん!?」

 

「真。ちょーっとこいつらに用があるからな。待ってろ」

 

 俺はライネスの首根っこを掴んだ。

 

「ご婚約おめでとう義兄上殿」

 

「おう、そして今日がお前の命日だ」

「何故だ。何もしていないんだ、未遂だ」

「なら半殺しで許してやる」

 

 

「……むぅ……真さんに対する思いには、まだ勝てませんか……」




因みに作者の一番好きな宝石はアメジストです。紫色でお手頃価格なのが最高です。(真実の愛? 知らない言葉です)

次回はTwitterでの当選者、そこら辺のだれか さんです。


オリュンポスの胃もたれが漸く抜けて来ました。アレは本当に筆の進みに影響しました……今回は大したサーヴァントを呼べず、ストーリーの後はPU1が引けない体になっていました。
もしカイニスを引いたら暫くすまないさんになってしまう自信があります。

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