ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
現在、記念企画を行っています。参加を希望したい方は活動報告か固定ツイートに目を通して頂けると幸いです。
「いらっしゃいませー!」
俺は今、ヤンデレ・シャトーの中でバイトをしている。
何故かと言うと、あるサーヴァントにお金を払う必要があるからだ。
「さぁさぁ女性サーヴァントの皆さーん! マスターの接客レジでの買い物は4割増しです! お金は減りますが愛しの彼に会えるチャンス! スマイル0QP! マスク開帳1000QP! 商品の手渡し3000QP! お得ですよぉ!」
「あ、あの……すいません、マスク開帳してスマイルして、下さい……あとポテトとドリンクを手渡しで」
「はい、全部で5365QPになります。お持ち帰りですか?」
「いえ此処で頂きます……!」
しかも、此処はサーヴァントが全員ヤンデレ化するヤンデレ・シャトー。
俺を独占し商品化した以上、どんだけ釣り上げてもお金が入ってくる。
「ありがとうございました!
次のお客様、お待たせ致しました」
しかも、これで4日目……しかし、最終日は明日だ。
もうすぐ平穏が手に入る……そう信じて俺は今日も接客を続けている。
4日前――
「ヤンデレ・イズ・マネーシステムぅ?」
「はい! その通りです!」
俺の目の前には猫耳、褐色肌、露出過多の属性を抱える美女、ミドラーシュのキャスターとその横におかしな機械があった。
「今回、エドモンさんとの交渉の結果、マスターの労働力としての所有権を頂きましてぇ」
「なんでマスターの所有権をサーヴァント間でやり取りしてるんだ?」
「ですが、やっぱりマスターが素直に働いて下さるとは思いませんのでそこは別に報酬をご用意致しました」
そう言いながら隣にあるATMの様な機械に掌を向けた。
「それがこの塔のサーヴァントに対するヤンデレ付加を無効にする、ヤンデレイズマネーシステムで御座います!
この画面に表示されている500万QP! これを払えば即座に効力を発揮します!」
言ってるのが悪巧みのケモ耳なので半信半疑の疑寄りと言った所だ。
「あー、その目は信用していませんね? ですが残念ですが……マスターは私に従って働く以外の選択肢は、商品としてオークションに出品させて頂くしかありませんねぇ?」
ヤンデレ・シャトーの中なのに、この金好きは俺すらも金の種にする気か。
「まあ、私も鬼では御座いません! 今の私の計画では10日で払い切れると思っていますのでどうかどうか、快くご協力下さい!」
有無を言わせぬ笑顔でこちらにユニフォームを渡してきた。
「労働内容は接客と簡単な雑用です。
ま・ず・は……客寄せの為に掃除からですね!」
受け取ると同時に、何処からともなく店が現れた。外見はガラス張りのファーストフード店だ。ミドラーシュのキャスターだからだろうか、MCの2文字が店名らしい。
辺りの景色も何処かの表通りに変わっており、持っていたユニフォームを着せられ、手には箒を持たされていた。
「……しょうがない……やろう」
これみよがしに落ちている木の葉をかき集め、ちりとりに押し入れていく。すぐ近くにゴミ箱があるのでその中に入れる。
「あれ? マスター、何やってるのこんな所で」
そんな中、突然声をかけられた。
相手は水色の女性らしい服を着たセイバーのサーヴァント、シュヴァリエ・デオンだ。
「デオンか。
えーっと、バイト中?」
思わず疑問符で答えてしまった。
「バイト? 従者である私達サーヴァントが休日を貰い街を散策しているのに、マスターが働くなんて……」
「あ、別に気にしなくても大丈夫だよ。休日、楽しんで来てね」
「……ああ、勿論だ」
そう言ってデオンは離れていった。
「……さて、そろそろ中に戻るか」
ファーストフード店と言えば一日中少なくない客がいるイメージだが、店員は俺以外にも働いているが、多分いつも通りこちらに干渉してこないモブキャラなのだろう。
「あ、マスター! マスターはこちらのレジで接客お願いします!」
俺を見たミドキャスが指を指した場所には、他とは異なる黒色のレジが置かれている。
「サーヴァントのお客様はこちらで対応して頂く予定です。此処で注文すると割高になるんですよ!」
「えぇ……それはどうなの?」
「ふふふ、ヤンデレサーヴァントにとってマスターのサービスは何者にも変えられない商品です! それに、私の力でマスターを自分の好みの服装に見せていますので間近で見たくなるのは間違いなしです!」
本当に、えげつない商売だな……俺、実は犯罪の片棒を担がされているのでは……
「――いらっしゃいませー!」
他の店員の声に、俺はハッと顔を上げた。
「いらっしゃいま――で、デオン……?」
「あ、マスター!」
何故か見覚えのないサングラスと麦わら帽子を着けたデオンが入店して来た。
「良かったぁ……お昼時なのに空いてるね」
「はいはい! サーヴァントの方にはこちらのマスターレジでのお会計をお願いしまーす! 幾ら喋っても良いですからね!」
「でも、こんな所で白いタキシードなんて着て、汚れたりしない?」
どうやらデオンにはそう見えているらしい。
特別な礼装でそう見えていると言って納得してもらった。
「じゃあ、注文しようかな? えーっと……ハンバーガーセットを頼むよ」
「ハンバーガーセットですね。お飲み物は何にいたしますか?」
「オレンジジュースで」
「畏まりました」
お釣りとレシート、注文された物を渡してデオンは席に座っていった。
だが、こちらに近い席に座り、食べながらこちらをチラチラと見られているのは落ち着かない。
早く誰か来てくれと思ったら、段々、普通のお客で店が混み始めて来た。
デオンに見られ続けている内に、漸く2人目のサーヴァントがやってきた。
「やっぱり、マスター……ですね? どうしてこちらに?」
「いや、バイトなんだけど」
白のフードで黒髪を隠しているサーヴァント、ワルキューレ・オルトリンデが入って来た。
「バイト……働いているんですか?
その……随分、立派な服ですが……」
同じ説明をしつつ、注文を承った。
そしてデオンの隣に座り、今度は2人に監視され続けられる事になる。
「眼福ですね……」
「そうだね……此処はなるべく多くのサーヴァントに知られないようにしよう」
「私も、スルーズ姉様達には秘密にしないと……!」
そしてやって来る3人目の客。
「おっー! ま、マスター! なんと美しい装いか! 此処の店主は、余に劣らぬ天賦の才の持ち主か!?
感激したぞ!」
「ね、ネロ……えーっと、ご注文は?」
「勿論、マスターを頼もう!」
「非売品です」
「む……なら仕方あるまい。では注文するぞ! それと、これは余の借りてるホテルの住所だ。仕事の後に来るがよい」
ネロの一歩先を行く行動に2人が少々驚きつつハイライトを消しているのが見えたがお客様同士のトラブルに巻き込まれたくなかったので、静観して置く事にした。
初日は十人程度のサーヴァントの相手をして終わった。
「はーい、お疲れ様です!」
「これでいいのか? 明らかに俺より他の店員のが働いていた気がするけど……」
「いえいえ、これで良いのです!
きっと明日はもっと沢山のお客様が来ます。
取り敢えず今日の分はマシーンに入金して……残り497万6000QPですね!」
まだまだ先は長そうだ……
2日目。
またしてもデオンがやって来た。
まるで誰かから隠れる様にサングラスと帽子を被っているが……
因みに、値上げしているが彼女は昨日と同じ物を頼んでいた。
「はぁ……ずっと見ていられるよ……ここは、オアシスかなぁ」
そんな事を言っていたデオンだったが――
「――はぁい、マスター! ヴィヴ・ラ・フランス!」
この王女の出現にサングラスがズレるほど狼狽えた。
「じゃあ、私も……あそこに座っているデオンと同じ物を貰えるかしら?」
そして当然の如くバレている。ニコニコと隣に座ったマリーに汗を垂らしているようだ。
「ふふふ、計算通り! サーヴァント間で隠し事等不可能! 昨日の客はそのまま今日の収入源です!」
ほくそ笑むミドラーシュのキャスターを肯定する様に、サーヴァント達が次々と入店して来た。
「オルトリンデは注文なしね。
独り占めしたんだもん。あ、席も窓側ね」
「そ、そんな……!?」
「メドゥーサ? 何故注文を取りに行くのかしら? 私達は自分で取りに行けるわよ?」
「セイバーの余よ! 余を誘わぬとはどう言う事だー!」
昨日と打って変わってより騒がしく、忙しくなる接客。
「ねぇ、マスターも一緒に食べない?」
「休憩時間はいつかしら?」
「私も雇ってくれないかしら?」
「はいはい、残念ですがマスターは私と契約しておりましてぇ……手を出すのは駄目ですよぉ?」
俺に近付こうとするサーヴァントもいたが、ミドラーシュが契約書を見せると殺気立った目で睨みつつ去っていく。
中には取り引きを持ちかける者もいたが、彼女はそれを断った。
「ふふふ、サーヴァントの持つ品々なんて魔術師やらに目を付けられてしまうので換金するのですら危ういですからねぇ……現ナマでお願いします」
500万QPだったら誰か持ってくるのでは……と思ったがマスターの俺が此処にいる以上、レイシフトして周回に行く事も出来ないらしい。
その日は1日目の10倍程の売上が出た。
「今日は此処で接客して下さい。あ、マスクもお忘れなく」
だが、ミドキャスは此処で一気にサービスを変更した。
レジを外から見えないボックス仕様にし、マスクを着用させる。
しかもマスク開帳と手渡しを有料化した。
流石にこれでは客が減るのでは……と思ったが、そこはこの商売上手、ボックスを防音加工し、外側に“愛しのマスターとの2人っきりの時間”の煽り文句。
お客は減るどころか増加し、釣り上げた値段はそのまま利益に。
「さぁ、500万QPが見えてきましたよー! じゃんじゃん稼ぎましょう!」
5日目。
サーヴァント達はやはり昨日同様に沢山入ってくる。
値段は4日目と同じだが、アルトリアを初めとした魔力消費の激しいサーヴァントが来店し、大量に購入するので衰える事なく売れていく。
「お待たせしました、こちら注文の品です!」
「ふむ……どうせ誰も見ていないのだ。
1つ食べるか?」
そう言ってアルトリア・サンタがポテトを差し出すが、直ぐ様レーザーが放たれポテトを灰にした。
『お客様、店員への過度な干渉はお止め下さい』
「っち。無粋な店主だな。
トナカイ、また頼むぞ」
俺に対しての安全性があるのは良い事だ。
その後、アルトリア・サンタはこの後ハンバーガーセットを15個単位で8回買いに来た。
「今日も多いな……お待たせしました、ご注文をどうぞー」
「あ、本当にマスターが店員なんだ! これはイシュタりん並のボッタクリショップでも払うしかないね!
先ずはマスクからお願い!」
カラミティ・ジェーンまで来たか。
「はい、マスク開帳ですね」
「スマイル1つ!」
「はい!」
すっかり板についた流れだ。
「ふふふ、いーねいーね! あ、じゃあ、此処にキスとか――ギャウ!?」
突然、上から現れたピコピコハンマーの様な防衛システムでふっ飛ばされた。
『セクハラをする方には即、退場です! 後、こちらで代金は差し押さえさせて頂きますのでご承知を!』
……こんな感じで、本当に俺への安全性はバッチリだった。
やがて閉店時間を迎え、今日も店の前で待ち受けているヤンデレ・サーヴァント達の眼光を浴びつつ店の奥に入った。
「おめでとうございまーす!」
目の前でクラッカーを鳴らされた。
「……あれぇ?
可笑しいですね。今はこうやって目標達成を祝うとお伺いしたのですが……」
「……って、事は……」
「はい! 10日掛かると思っていた500万QP、貯まりました!
これで直ぐにでもヤンデレ・イズ・マネーシステムが起動できますよ!」
「じゃあ、直ぐにでも始めてくれ」
「はいはいー!」
そう言ってミドラーシュのキャスターはATMの様な機械を動かし始める。
「……所でぇ……実は先に言っておく事があるのですが」
喋りながらも彼女の手は止まっていない。
「ん? 何?」
「500万QP、実はこの機械が出来上がった際に私の霊基から強化に使われたQPを戻して入れて置いたんですよ」
「え?」
「つまり、この機械を動かすだけならもう既に十分な蓄えがあったんですけどぉ……
……ふふふ、結婚式の費用って新婚旅行なんかも合わせて500万位掛かるそうですね?」
頬を赤く染めてこちらを振り返ったミドキャスは、システムを発動させた。
「――それじゃあ、事務室に行きましょう」
「み、ミドキャスっ……!?」
「暴れないで下さいねぇ。
確かに霊基は衰えましたがマスターとの力比べに負ける程じゃありませんからね」
やっぱり、信用してはいけなかったか……!
「サーヴァントのヤンデレ化を解除できますけど、私はマスターが好きなままなんですよ」
「なんで……?」
「私、以前言いませんでしたか? 本当の宝は時間です。マスターとの時間を、末永ーい物にするためなら……多少のお金位、ケチケチせずに使う事にしました。これで誰にも邪魔されないで結婚できるなら安い買い物ですね」
そう言って扉を開けたミドキャス。
中は殺風景な紙だらけの作業部屋だったが……数回の瞬きの内に、急に天蓋付きのベッドが置かれた、雰囲気のある部屋へと様変わりしていた。
「仮にも女王の初夜ですし……それっぽい雰囲気の部屋でしたいですよね?」
豊満な胸を当てる様に俺を抑え、ベッドの前で止まった。
「おっと……そうでした、マスターはまだお店の服のままでしたね……匂いが酷いですね」
先までの楽しそうな顔とは違う、血の気の引いた顔をしていた。
「私、頑張って店長っぽく振る舞ってましたが正直マスターが他の女性と共に話しているのを見て気が気じゃなかったです……もうあんな接待は二度とごめんです……」
あわあわと震えながらも、今度はシャワールームへと俺を引っ張るミドラーシュ。
入ってすぐにこれから自分が行おうとしている事を想像して、目を光らせた。
このままでは、間違いなくミドラーシュのキャスターにベッドまで行く事なく……体を重ねる事になるだろう。
しかし、礼装はないし令呪での命令も契約書で効かない。
他のサーヴァントに対して命令を行うとしても、ヤンデレ化を解除した際に細工されたのか届かない。
(も、もう駄目か……?)
「ふふふ……此処でシてしまうのも、それはそれで良いかもしれませんね……」
完全に餌を前にした肉食動物だ。
もはや、此処まで…………!
「で、此処がミドラーシュのキャスターさんのお宅? ファーストフードだなんて、大きな商売を好む彼女にしてはせせこましい事業ね……シャッターは閉まっていなかったからまだ開いているのだと思っていたけど……いないのかしら?」
事務室に2人が入った頃、ヤンデレでは無くなったサーヴァント達と入れ替わる様にライダークラスのイシュタルが店に入ってきた。
商売事で良くミドラーシュのキャスターと盛り上がる彼女は、最近景気の良さそうな友人の顔が見たくなって来ていたのだった。
「まあ、いないなら少し儲けの秘密を勝手に探らせて貰おうかしら?」
そう言って店に勝手に忍び込み、ドリンクを注ぎ、あまりの物のハンバーガーを食べながら物色を始めた。
「……って、何よこれ!?」
やがて、ATM……もとい、ヤンデレ・イズ・マネーシステムに気付き悲鳴を上げた。
「あー! 見てると何か……黒歴史を思い出すわ!
月とか夏の過ちとか……!!」
己の、依代の少女の叫びが一致した。
『これを壊せ』と……
「ごめんなさい。一番高い宝石使うから許してね……?」
そう言って取り出した宝石を……懐に戻した。
「えええい!! なるべく安く消え失せろぉ!!」
結局、数発の魔弾を叩き込み、スクラップに変えた。
「っはぁ……はぁっ……良し……ん?」
イシュタルは己の本来の目的を思い出した。
マスターである。
自分が目を付けていたマスターを使ってアコギな商売をするキャスターを懲らしめて、あわよくば自分の手中に収めようと考えていたのだった。
「あ、そうだ! マスター、マスターは何処に――」
『――!!』
同時に、店のドアの方から爆音が聞こえて来た。
「感じます……ますたぁの窮地を……あの獣女の匂いも!」
「マスターさーん、何処ですか?
他の女のお店で働けるなら、ぜひ私と一緒にブリテンを救国して頂けませんかー?」
「マスター! お金が欲しいなら、お姉さんが頑張るから! 変なお店でバイトとかしちゃ駄目だよ!」
「やはり、主を差し置いて休息していては白百合の騎士として面目が立たない」
入ってきたサーヴァント達は直ぐに事務室へ向かった。
その余りの威圧にイシュタルは思わず隠れてたが、やがて事務室から先の数倍の爆音が聞こえて思わず退散したそうだ。
「……うう、折角の結婚式と旅行計画が……そしてラクダの生息地に永住する私の人生設計がぁ……」
「全く……今回ばかりは危なかったな……」
「ねぇねぇ! 結果的に言えば、あの忌々しい機械を破壊した私のおかげよね?
じゃあ、私のお店で働いてくれないかしら?」
「いや、もうバイトは――」
「ますたぁ。温泉旅行の旅行費を稼ぐ為にこの仕事を一緒に……」
「アットホームな職場と、実力のある騎士達と一緒にブリテンを復興しましょう!」
「マスター、お姉さんの肩を揉んだり、マッサージをしてくれたらお小遣いあげちゃうけど?」
「トナカイ、出勤だ。イースターも子供達の為にプレゼントを配送するぞ!」
「余のマネージャーをお願いしたい! 望みのままの報酬を用意しよう!」
「あ……あの、この前のハンバーガーをお願いしたいんですけど……」
「――本当に、今は働きたくないから! 勘弁してくれ!」
復刻アポクリフォコラボに因んで……なんて気の利いた話ではなくミドラーシュのキャスターのメイン回でした。
やっぱりお金を重要視する彼女のヤンデレは中々扱い辛い物でしたが、楽しんで頂けたのなら幸いです。
次回は恐らく4周年記念企画です。貼りきって行きたいと思います。