ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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今回は短めな話になりました。

今月の25日はヤンデレ・シャトー第1話投稿日、4年目となります。
ダラダラと遅い更新ではありますが、読者の皆さんの応援のお陰で続けて来られています。ありがとうございます。
今回も記念企画をしたいと思いますので、3月25日の活動報告、もしくはツイッターの投稿をご確認頂けると幸いです。

これからも応援して頂けたら幸いです。



ヤンデレ支配者

 

 

「調教の時間です、マスター」

 

 縄で縛られ、体を吊るされた俺の眼前には白いバニースーツを着たルーラー、水着アルトリアが立っていた。

 

 捕まったのは少し前。

 いつも通り逃げ回り、足掻き、そして最後に捕まった。

 

 慌てていたとはいえ、至近距離でガンドを外したのが決め手だった。

 

「それでは……始めます」

 

 彼女はカードを取り出すと、それを俺の首に当てた。

 

「っ……!」

 

 僅かに痛みが走った。アルトリアはそこを指でなぞって付着した血を俺に見せてから舐め取った。

 

「これから、このカードでマスターの腕を切ります」

「う……!」

 

 想像するだけで血の気が引いていく。

 そして有言実行。彼女は俺の反応を一見してすぐに俺の右手を掴むと手首にカードを当てた。

 

「――あっ、くっ!?」

 

 切れ味が鋭いせいでただ切られるだけなら大して痛くはなかった。

 しかし、彼女が筆の様にカードを動かし傷を抉るので俺の口から悲鳴が漏れる。

 

「痛いですか? 私も、貴方に逃げ回られている間、心臓の内側から針が刺さる様な痛みを何度も何度も味わいました」

 

「っぐ……!」

 

 手を一切止めずに、感情のない声でアルトリアは腕を傷付け続ける。

 

「ですが、こうやって貴方が痛みで苦しんでいると、先まで感じていたモノが今の貴方が同じでいてくれる様に思えて……辛さを忘れる程に嬉しくなります」

 

 漸く彼女の手が止まったが、俺の呼吸は絶え絶えだった。

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

「辛かったですか? ですが、これからも続けますので早く慣れて下さいね?」

 

「なん、で…………こんな……?」

 

 か細い声だったが、彼女は視線を合わせて答えた。

 

「決まってます。貴方を私のモノにする為です」

 

 縄が解かれ、腕を見ればAltriaの文字が刻み込まれていた。

 魔術で傷は塞がっていたが、傷跡が残る様に治されてしまった。恐らく、消せない様にする為だろう。

 

「私のモノだと皆が周知する為にこれから1日に1回、私の名前を体に刻みます」

 

 アルトリアは手を添えて俺の顔を持ち上げた。

 

「そして、貴方が私のモノだと自覚する為でもあります」

 

「俺は、アルトリアが好きだ」

 

 痛みに恐怖しつつも、まだ少し残っている好意を口に出した。

 

「ええ。存じております。それが本音である事も、マスターがまだ私から逃れようとしている事も」

 

「っ……!」

 

「ルーラーである私の目から、隠し通すのは不可能です」

 

 縄を解かれ、彼女は俺を担いだ。

 

「本当に私を愛するまで、私の元から逃れようと微塵も考えなくなるまで……私が愛してあげます」

 

 

 

 ……ルーラーであり、ラスベガス一のカジノのオーナーであるアルトリアの目は俺の僅かな抵抗すら見逃さない。

 

 ご飯も部屋も娯楽も、全て完璧に用意してくれる。工具や、学生である俺では縁遠いアクセサリーも。

 

 だが、逃げようとすれば行動する前に見抜かれ、調教部屋で傷を付けられる。

 

「……どうしました? 箸が止まっていますが、口にあいませんでしたか?」

「……なん、でもない……です」

 

 感情の無い顔で鞭を振るう彼女と常にこちらに微笑みかけている彼女が同一人物とは思えず、恨む事も出来ずにいた。

 

 絶望する事も折れる事もない俺の心――もしくは主人公の心――は彼女に屈しはしなかった。

 

 いっそ愛の霊薬でも飲まされてしまった方が楽だったかもしれないが、彼女はそれさえ許さない。

 

「薬なんて不純物は不要です」

 

 本当に、俺の本心から愛を引き出そうと飴と鞭を交互に使って接してきた。

 

「どうか、諦めないで下さい」

 

 諦めない……そうだ、こんな痛みに負けてたまるか。

 

 来る日も来る日も痛みに、調教に耐え続けた。

 

 彼女の与えてくれる物で幸福を感じ、痛みの時間を耐え抜いた。

 

 他のサーヴァントの名前を口にした時には鞭で叩かれる事もあった。

 

「二度と、私以外の名前を口にしないで下さい」

 

 2週間が経った頃にはアルトリアの名前は両手両足、掌と手の甲、足の裏にまで刻まれた。

 

 だけど、俺は挫けない。

 いつか、俺の思いは届く。

 俺は……そう信じて。

 

「…………」

「…………」

 

 だから、俺は指輪を差し出した。

 

 アルトリアがくれた宝石類を削って、金属品を叩いて、指を傷付けない様にヤスリで擦り、接着剤がなかったので蝋で輪っかに宝石をくっつけた。

 

 今まで見せた事のなかった表情で驚いた彼女は一度ニコリと微笑んでから、俺の手に指輪を戻してから左手を差し出した。

 

「付けて頂けますか?」

 

 こうして、諦めなかった俺はアルトリアへ思いを伝える事が出来た。

 もう、名前を刻まれる事もない。彼女は俺の体に刻まれた名前の傷を消し去ってくれた。

 

 俺の愛は漸く報われたんだ。

 

 

 ――そう言う風に彼女が俺を作り変えたのだとは、微塵も疑う事も出来なかった。

 

 

 

「……」

 

 頭を捻っても前日の夢を思い出せずに迎えた悪夢の時間。

 

「マスター!」

 

 俺を呼ぶ声は肩より低い位置から聞こえてきた。

 

「マスター! 聞こえとるじゃろ!」

「えーっと……ふーやちゃん?」

 

「む、なんか馴れ馴れしいが、良かろう。今はその名で妾を呼ぶ事を許そう。特別じゃぞ?」

 

 不夜城のアサシン、と言う形で真名を隠しているサーヴァント。

 

 ちっこい、偉そう、派手好きと暗殺者とは思えない要素を沢山含んでいるが……その実、戦闘よりも拷問を好む女帝である。

 

(この塔で出会いたくないサーヴァントランキングなら、上位に食い込む事間違い無しの危険幼女……!)

 

 しかし逃げる気はない。

 逃げ出したいが、逃げれば彼女が使役する酷吏と呼ばれる顔を布で隠した不気味な者達に捕まり拷問されるのが目に見えている。

 

「じゃが――妾に恐怖するのは良き事よ。目聡いマスターは好きじゃぞ?」

 

 しかも、こちらの考えはまるっとお見通しと来た。

 こちらに近付き伸ばされた彼女の手に思わず目を閉じた。

 

「……?」

「んー! ……これ! 頭を下げんか!」

 

 精一杯俺の頭に手を伸ばす彼女を見て、恐る恐る言われるがまま頭を下げた。

 

 すると、ふーやちゃんは漸く届いたその小さな手で俺の頭を撫でた。

 

「よしよし……怖がる必要はない。そなたは妾のマスター……故に」

 

 そう言った彼女の笑みは――歪んでいた。

 

「連れて行け。てーちょーにな」

 

 その言葉と共に、いつの間にか俺の隣に立っていた酷使達が同時に俺の腕を掴んだ。

 

「な、なんで……!?」

「ふふふ……何を驚く? 妾のマスターは妾の物じゃ。足の爪の先からこの髪の毛一本まで、な」

 

 酷使に引っ張られ、後ろには扇子で小気味の良い音を鳴らして歩く不夜城のアサシン。

 

 連行され辿り着いた場所は、彼女の部屋だろう。

 中華らしい装飾や意匠の施されたその部屋は彼女らしい顔を見せていた。

 

 勿論、部屋の奥には彼女が愛用するであろう拷問器具が猛獣の爪や牙の様な凶悪さを見せつけている。

 

「ふむ……お香がちときついか? 蓋をしてお

け」

 

 酷使の1人に命令し、煙の出ている器を塞がせた。

 

 お香に嫌な予感がした俺は思わず息を止めたが、酷使に首を掴まれ無理矢理呼吸をさせられた。

 

「っはぁっはぁっはぁ……!」

 

「おい――」

 

 呼吸を整えようとする俺の前で、その酷使の首が跳んだ。

 血は出なかった。

 

「っ!?」

「――妾はてーちょーに、と言った筈じゃぞ?」

 

 地面に溶ける様に、首を跳ねられた酷使は消滅した。

 

「ふー……マスター。余計な事はしないほうが良いぞ? 身の安全は保証するが、苦痛は少ない方が良いじゃろ?」

 

 そう言って玉座の様な椅子に腰掛けた。

 俺はその前に正座の姿勢で座らされ、小さい不夜城のアサシンに今は見下されている。

 

「ではこれより尋問を始めるぞ」

「尋問……?」

 

「ふふふ、先ずは――妾の事をどれ位好いておる?」

「え? え、えーっと……?」

 

 どの位? そもそも召喚してからまだそんなに日が……と考えた所で扇子が頭に振り下ろされた。

 

「返答が遅いっ!

 妾を愛しておらぬのか!?」

 

「あ、愛してます!」

 

「よろしい。

 うーむ、まだまだじゃのぉ……次、愛しの妾の為に何をしてくれるのじゃ?」

「え……」

 

 面接か? 俺は面接を受けているのか?

 

「せ、戦闘指示とか……?」

「ほぉーー?」

 

 めっちゃ機嫌悪そうに掌を扇子で叩く動作を早めた。

 

「りょ、料理と家事全般には自信があります!」

 

「……ま、次第点かのぉ」

 

 ホッと息を吐いた。

 

「……しょーがない……マスター」

「はい」

 

「痛いのは好きか?」

「き、嫌いです……!」

 

「うむうむ、ならば――」

 

 

 

 再び酷使に引っ張られて俺は牢屋に入れられた。

 

 そこには何もなかった。

 明かりもなく、水もなかった。

 

「……」

 

 暫く経っても誰も来ない。アサシンが来るのかと思ったがそんな事もなかった。

 

 時計もない。真っ暗闇の中で俺に出来る事は寝るしかなかった。

 

「……誰か」

 

 だが、目が覚めても変化なかった。

 

「お香の匂い……」

 

 夢だというのに空腹感を感じ始めた。

 一切何も見えない事が不安になってくる。

 

「おーい!!」

 

 叫んだ。

 もうヤンデレとかどうでも良いから誰か来て欲しかった。

 

「誰かぁ!!」

 

 しかし、誰も来ない。

 

「ふーやちゃーん!!」

 

 ひたすら叫んだ後、疲労した俺は倒れた。

 

「……………っ!」

 

 目を開くと、牢屋の扉が開いていた。

 それを見て、俺は考える事すらせずに全力で飛び込んだ。

 

「おお、マスター」

「……! あ、アサシン……」

 

 目の前に現れた彼女に、頭を下げた。

 

「た、食べ物を下さい!」

「ふふふ、だいぶ素直になったようじゃのぉ」

 

 彼女の奥にいた2人の酷使が肩を掴んだ。

 恐怖に顔が引き攣った。

 

「連れて行け――妾の部屋に」

 

 

 

「――ふーやちゃんは、嫌いです」

「うむうむ、そうかそうか」

 

 鍋の中の粥をレンゲで掬ってこちらに差し出した。それを俺は食べる。

 

「次は2つじゃ。

 どうすれば妾を好きになる?」

「……ん、わからない」

「妾は可愛いか?」

「可愛いです」

 

 再び差し出された粥を食べる。

 

「妾と、結婚する気はないか?」

「ないです」

「何故じゃ?」

「……子供だから」

 

 レンゲが割れる音がした。

 

「そうかそうか……」

 

 酷使が持ってきた別のレンゲを握り、粥を差し出して来た。

 

「妾の他に好きなサーヴァントはおるか?」

「います……」

「それは誰じゃ?」

「それ、は…………」

 

 視界が何度も何度も閉じる。

 おか、しい……眠い……

 

「…………」

「……むう、薬を嗅がせ過ぎたか。

 まあ良い」

 

 

「マスターから全て、全てを聞き出してやるのじゃ。妾に心の内を全て曝け出した丸裸のマスターなら、掌握するのは容易じゃ」

 

 そう言ってマスターの頭を一撫でした後に……

 

「さーて、次は快楽で口を割らせようかのぉ?」

 

 ……見た目相応な笑みと不相応な野望を零した。

 




こう言う話は痛くないのが好きです。

最近ミドラーシュのキャスターやゴルゴーンを召喚しました。
両方共大きいです。(何がとは言いませんが)
これでメドゥーサは小中大が揃いました。姉様達もいます。

合体するしかないですね。(戦隊ロボ脳)

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