ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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今回はハーメルン側からの最後の当選者 ジュピター さんです。

今回は企画開始からサーヴァントの追加が多くあった為、リクエストの変更をお尋ねした所、希望して下さいました。
その結果、あのマスターが再登場しています。
ご了承下さい。



兄弟で行くカルデアール学園 【3周年記念企画】

 

「ねぇ、兄ちゃん」

 

「んー? 何だ?」

 

 お互いにソファーで寛ぎながらスマホを持ってFGOをやっていると、弟の真が俺に声を掛けてきた。

 

「この前のライネス師匠が出て来た夢さ、兄ちゃんも同じ様な夢を見た事あるんでしょ?」

「あー……そうだな」

 

 少々言葉に詰まる。あの夢、たまに刺激が強いもんがあるので出来れば弟にその話はして欲しくないのが本音だ。

 

「どんな夢だったの!?」

「あー……学校だったな」

 

「学校? もしかして、サーヴァント達と学校に通う夢なの!?」

 

「まぁ、そんな所だなぁ……」

 

 また現実世界に現れたりしたら、今度こそ本気でぶっ飛ばしてやろうか。

 

「良いなぁ、俺も行ってみたい!」

「ははは、ならしっかり勉強しなきゃなー」

 

 そんな会話をしていると、俺は母さんに呼ばれた。

 

「ちょっと、玲」

「何?」

 

「あんたのベット大きいでしょ? 真を一緒に寝させてあげて」

「はぁ? 何で?」

 

「お昼にね、真の友達が遊びに来たんだけどその時にジュースを零しちゃって今洗っているのよ」

 

「代わりの布団は? 来客用の」

「今見てきたら破れてたりで酷くってね。今度新しいの買う事にしたから」

 

「え、今日兄ちゃんと寝るの!?」

「うん。あ、真、お母さんの部屋でも良いけど……」

 

「ううん、兄ちゃんと一緒がいい!」

「そう? ……そっか……」

 

 母さんが俺に厳しいのって、真が俺に懐いたせいじゃないのかと一瞬考えたが口には出さない事にした。言わぬが花だ。

 

「じゃあ玲、よろしくね」

「はい」

 

 そう言ってリビングの机に歩く母さんの肩が、がっくりと落ちた気がした。

 

(不機嫌になって面倒な事頼んだりして来ないと良いけど……)

 

 

 

 しかし、この日の夜にそんな事より面倒な事が起こるのだった。

 

「――と言う訳で、カルデアール学園一日見学だ。いやぁ、玲君なら弟君のエスコートを任せても問題ないね?」

 

「ちょっと待て」

「すごい! ダ・ヴィンチちゃんだ!」

 

 弟のテンションと反比例に俺のテンションは下がっていく。

 この夢の中に弟と一緒だなんて冗談じゃない。

 

「ふふふ、私の事は先生と呼ぶ様に……あ、でもお義姉さんでも良いよ?」

「おい、誰がお義姉さんだレオナルド先生」

 

「酷いな。その呼び方は生活指導行きだぜ? 個室で2人っきり、何も起こらない筈もなく……」

「起きねぇよ。起こそうとしたら抵抗するわ、拳で」

 

「ねぇ、兄ちゃん! 早く行こうよ!」

 

 真は俺の気持ちなど露知らず、英霊だらけの危険地帯に急いでいる。

 

「はぁ……分かった」

 

 取り敢えず何があっても弟だけは守ろうと固く決意して、職員室を出た。

 

「部長」

「……Xオルタか」

 

「あ! 謎のヒロインXオルタだ!」

 

 一番付き合いの長いサーヴァントではあるが……

 

「部長の弟さんですね。始めまして。新聞部副部長兼お兄さんのボディガードをしています」

「うん、よろしくね」

 

「これ、お近付きの印に……あんぱんです」

「おい、それ昨日俺が買ってやった残りか?」

 

「…………どうぞ遠慮なく」

 

 おい、何だ今の間は。

 そして、横から更にサーヴァントが現れた。

 

「久しぶりだな、我が弟子よ!」

「あ、ライネス師匠!」

「ほほう……黒幕のお出ましか」

 

(っぐ……確かに我が弟子の悪夢には現れる事が出来たが、厄介な保護者が一緒か……! だが、こんな事もあろうかとちゃんと防御手段をこしらえて来たぞ!)

 

 取り敢えずぶっ飛ばすかと拳を鳴らしたが、その後ろから更に2人、背丈の小さな影が現れた。

 

「始めまして……拙はグレイと申します」

「美遊です。ライネスさんから案内役の補佐をお願いされました」

 

 何処かで見たサーヴァント達だ。全体的にちっこい。

 

 カルデアール学園の制服は紺が主色のブレザーの筈だが、ライネスとグレイは黒いリボンと白のセーラー服で後者はフードを羽織っており、美遊は赤色のリボンと白のセーラー服で統一感が無い。

 

「中等部と初等部の生徒さんですか」

「……カルデアール学園って小中高一貫だったか?」

 

「部長、2期の設定です。お忘れですか?」

「何だそのメタ過ぎる後付け!」

 

「2人に紹介しよう。こやつが我が弟子の真だ!」

「始めまして!」

 

「資料には目を通しました。マスター候補だと伺っています」

「ライネスさんのお弟子さん……その、ライネスさんは良い人なので、よろしくお願いします」

 

「グレイ? なんのフォローだ、それは?」

 

「騒がしくなりましたね」

「はぁ……おい、真、大丈夫か?」

 

「す、凄いよ兄ちゃん! 俺のカルデアにいるサーヴァントがこんなに!」

「お、おう……」

 

 真は純粋に喜んでいるだけか……ちと危機感が足りない気がするが、こいつには俺よりも優れた直感があるから危ないと思ったら直ぐに逃げるだろ。

 

 最悪の場合は俺が守ってやらないと……

 

(この2人は私にとって都合の良い事に、我が弟子との恋愛に発展する可能性の低い。片や義兄、片や同性愛、ふふふ……只々勝つとはこう言う事だな、司馬懿殿)

 

「グレイさん、フード可愛いね」

「そ、そうですか……?」

 

 真の奴、あれはナンパか? 

 まあ迷惑そうだったら止めてやるか。

 

「拙の顔はその……あまり見ないで欲しいです」

「うん? 分かった」

 

 とか言いながらチラチラと興味の視線が止まないが……ま、仕方ないか。

 

「美遊さん、でいいですか?」

「はい、名字は一応エーデルフェルトですが、長いので美遊で構いません。真さんと呼べばいいでしょうか?」

 

 初等部……真と同じ小学生。

 たしか魔法少女的なサーヴァントだったか。

 

「……先から随分小さい娘ばかり見ていますが、私はお気に召しませんか?」

 

 Xオルタが腕にしがみついて来た。

 

「いや、お前は十分可愛いけど、兄貴としちゃ弟が心配だ」

「そーですか……真君、もう行きましょう。見学ですし、のんびりとばかりはしていられませんよ」

 

「はい」

「最初は何処に行くのかな?」

 

「はい。マスター候補の授業風景を見る為に、高等部の3年生の教室から見ていきましょう。その間々で特別教室等も解説します」

 

「俺以外のマスター候補か……そう言えば見てないな」

「現在、数名のマスター候補は交換留学中ですので、部長を含めて在籍中のマスター、及びマスター候補は4名だけです」

 

「少ない! そんなに少ないの!?」

 

「では先ずこのクラスです」

 

 Xオルタに促されるまま、3年生の教室を覗いた。

 

 

 

「…………」

「ねぇカドック、聞いているのかしら?」

 

「……ああ」

「そう。なら、早く答えなさい。

 先の休み時間、何を楽しそうにアタランテ・オルタ学級委員長と一緒に話していたのかしら?」

 

「次のテストについてだ。

 委員長の範囲予測は的確だからな、一考に値する」

 

「そんな事、する必要ないじゃない。放課後に私と一緒にテスト勉強をするのだから。それとも、そんな予定を忘れて他の女子と話す方が嬉しいのかしら?」

 

「アナスタシア……」

 ……君、キャスタークラスなのにテストは毎回赤字ギリギリじゃないか! しかも、僕と契約してからは魔眼に頼ってテスト勉強を怠っているだろ!」

 

「あら? だから貴方と勉強しているじゃない?」

「僕だって決して良い点が取れる訳じゃない! そんな僕を頼る君の為に委員長と相談していたんだ!」

 

「……嬉しいわ、カドック……私の事をそんなに考えてくれているのね……

 けど駄目。私の為の勉強なら貴方1人で考えなさい。

 貴方ならきっと出来るわ」

 

「……簡単に言ってくれるな」

 

「ええ、だって貴方はこの私のマスターなのだもの――」

 

 

 

「……おい、あいつら授業中に何してるんだ?」

「甘いですね。噂通りのラブラブっぷりです。カドック先輩とアナスタシア先輩」

 

 どうして周りの奴らは見慣れた感じで子供を見る様な優しい笑顔で見守っているんだ?

 

「ほほう……某兄並に弄くり甲斐のありそうなお方だな」

「熱愛、でしょうか……?」

「私もイリヤと……」

 

「……あの人達……」

 

 真はカドックとアナスタシアの姿に涙

が僅かに顔を出したが、目元をこすって微

笑んだ。

 

「次に行きましょう。次は現マスターである教師とマスター候補のクラスの筈です」

 

「……所でだが……」

 

 ライネスの言葉に視線を動かして真を確認した。

 だが、真はグレイと美遊の2人に抱き着かれていた。

 

「グレイ、エーデルフェルト殿? 何故、我が弟子に抱き着いているのかな?

 義兄様と彼の師匠である私の前で……失礼ではないかな?」

 

「あ……えと、つい……」

「拙も、失礼しました……唯、拙の師匠からはライネスさんに振り回されない様にしっかり守ってやれ、と言われてまして……」

 

「兄めぇ……やってくれたな」

 

 ライネスにとって障害となった様だが、俺もそろそろ一発入れるべきだろうか。相手は女だが、サーヴァント相手ならセーフだろう。

 

「……部長、行きますよっ」

「おい、引っ張るな……!」

 

 Xオルタに引き摺られ、仕方ないのでその場では拳を下ろした。

 

 

 

「オフェリア! 今日も君は美しい!」

「ナポレオン先生、教室が違います」

 

「大丈夫だ! 自習にしてきた!」

「大丈夫じゃないですか。早く自分の教室に戻って下さい」

 

「どうだ、この後一緒に食事でも……」

「お断りします。早く戻って下さい」

 

「マシュ嬢も誘ってやろう!」

「……考えておきます」

 

「おっし! んじゃあ、先生はりきって行くぞ――うぉ!?」

 

「さっさと出ていけこの年中発情教師! PTAに訴えられてしまえ!」

 

「ほら、早く出ていって。虞美人先生、項羽先生のクラスが校外見学で会えなくてイライラしているから」

「オーララ……それはご愁傷さ――のわっ!?」

 

「オフェリア・ファムルソローネ!

 それ以上余計な事を言うと反省文を書かせるわよ! モミアゲ男! さっさと出てけ!」

 

 

 

「こっちも負けず劣らずだな……」

「これがマスターとマスター候補がいる最後のクラスです」

 

「……グレイ、いい加減離れないか……?」

「駄目、です……師匠との約束ですから」

 

「あ、暑い……」

「大丈夫ですか? こちら、スポーツドリンクです。蓋は既に開けてあります」

 

 真は抱き着かれ、引っ張られ、甲斐甲斐しく世話をされている様だが、俺はもうこの拳を振り下ろしても良いか?

 

「部長、今日は一段と目が動きますね」

「当然だ。弟の身に何かあれば……!!」

 

 一緒の部屋で寝ていた俺が母さんに殺される……!

 

「……そんなに、セーラー服が良いのでしょうか……」

 

「ええい! 我が弟子を離せグレイ!」

 

「――おや、部長とえっちゃんではありませんか。此処にいたんですか」

 

 曲がり角から俺達の前に新聞部の部員でアサシンなのにセイバークラスを名乗る変人サーヴァント、謎のヒロインXが現れた。

 

「Xさん……この学園では出番が1回しかなかった貴女も、遂にチョイ役再登場ですか」

 

 Xオルタはぱちぱちと小さな拍手で煽っている。

 

「酷い言い草ですね!? ですが、私はえっちゃんと違って水着も出ている勝ち組セイバーなのでそんな事で怒ったりはしません!」

 

「くたびれOL……ブラック企業……独身……」

 

「っく、なんと邪悪なマントラ! しかし、私はそんな呪いには惑わされません! 同じ未来を辿らない様に部長のヒモを目指します!」

 

「おい、なんでそうなる」

「え? だ、だって……良く良く考えたら私……部長くらいしか、仲の良い男子がいないんですし……寧ろメインヒロインルートでは?」

 

「駄目です。部長は私が一生甘味に困らない職に就くんです」

「おいコラ」

 

「ジョークです。飲み物もお願いします」

 

「……それで、Xは何の用だ?」

 

「はい! 部長の弟さんが来ていると聞いたので早速セイ……じゃなかった、不審者からお守りする為に馳せ参じたんです!

 ……あれ? 件の弟さんは?」

 

 しまった――! 辺りを見渡すがそこには初・中等部の連中と真の姿が無かった。

 

「やられた! おい2人共、真を探すぞ!」

「任せて下さい! よっし、ポイント稼ぎます!」

 

 謎のヒロインXが駆け出したのを見てXオルタは逆側を指差した。

 

「私達は中等部に行きましょう」

「おう!」

 

 

 

「兄ちゃん達、来てないみたいだけど大丈夫かなぁ……」

 

 ライネス達に連れられ、真は中等部まで来ていた。

 

「大丈夫だ。見学の時間はそんなに長くないんだし、義兄様には後から来てもらおう」

「此処は中等部です。拙達の学び舎ですね。週に二回、師匠の魔術講義もあります」

 

「初等部はもう1つの別の建物です。真さんが転校してくればこちらに入りますね」

 

 そんな案内と共に、彼女らは1つの教室の前で止まった。

 

「此処は……?」

「講義準備室……だが、一応兄、ロード・エルメロイⅡ世が顧問する魔術部の部室となっている」

 

「ライネスさん、鍵がかかっていますが……」

「大丈夫だ。トリムマウ」

「はい」

 

 水銀の魔術礼装がメイドの形となり現れ、鍵穴に指を入れるとすぐにドアは開いた。

 

「え、怒られない?」

「問題ない」

「いえ、問題だらけです。先生にバレたら怒られますよ」

 

「……では美遊殿は帰って貰って結構だ。何、部活見学みたいな物だ。終わったら直ぐに出よう」

「……なら、私も見学させて貰います」

 

 ライネスの言葉に初対面の真を心配した美遊は着いて行く事にした。

 

「さぁ、入りたまえ」

 

 元々の機能が講義準備室と言う事で部屋の中にはところ狭しと本や大きいポスター、DVDやマイク等の電子機器関連の物も置いてある。

 

 それでも一応部室として使う為に整理された様で、中央にはU字型のソファーとその中央の机には一切物は置かれていない。

 

「まあ、少々窮屈だがね」

「こんなに狭い部屋で魔術って、大丈夫なんですか?」

 

「何、部室と言ったが此処で集合してその日の研究内容を記録するだけで、魔術を行使する時は学校の庭内で行うのさ」

 

「なるほど……所で、奥のあれは?」

 

 美遊が指さしたのは部屋の中で一番目立つ、黒い布で覆われた170cm程の高さの物体。

 

「あれは鏡です」

「鏡?」

 

 グレイはフードを少々引っ張った。

 

「師匠の授業で使う為の物ですが……拙が、この顔を見たくないと言ったので塞いでくれたんです」

 

(そう言えば兄は妙な事を言っていたな……マスター候補がいる時は覗くなとか……)

 

「そうなんですか……あ、布がズレてしまっていますね。直しましょう」

 

 美遊は鏡の布をズレを直そうと鏡に近付いて、握った。

 

「――見つけたぞオラッ!!」

 

「っきゃ!?」

 

 そこに突然、ヤクザの様な怒号と共に玲とXオルタが入ってきた。

 驚いた美遊は握っていた布をパッと離してしまい、鏡はその姿を顕にした。

 

『あ――』

 

 

 

 俺はようやく見つけた弟の頭を指で小突いた。

 

「全く……勝手に行くなって」

「ごめんなさい」

 

「まあ、悪さをした訳でも無いだろうし……おい、Xオルタどうした?」

 

 周りを見ると、Xオルタだけではなく美遊とグレイもおかしい。全員俯いている。

 

「どうやらあの鏡の影響だな」

「鏡ぃ?」

 

 ライネスが指差した先には巨大な姿鏡があった。床には黒い布が落ちている。

 

「良くは分からないが、あの鏡をマスター候補がいる時に見ると不味いらしい」

「随分と限定的だなおい」

 

 取り敢えず、俺はなるべく鏡に映らない様に近付いて一気に布を被せた。

 

「おい、Xオルタ!」

「――! ……マスター……?」

 

「部長だ部長。どうした、なんかあったか――」

 

「――部長!」

 

 Xオルタが急に抱き着いてきた。弟の前でなければ役得と喜んでいたが今は少々気不味い。

 

「お、オイオイ……」

 

「真……さん」

「真さん……」

 

「あ、あの、2人共、大丈夫……?」

「おい、まこっぁと?」

 

 真の声に顔を向けようとしたが、Xオルタの手が俺の顔を阻んだ。

 

「先輩、余所見しないで下さい……私だけ見て下さい」

「おい、あんまり邪魔すると何時ものパターンだぞ?」

 

「真さん……手を握らせて下さい……」

「あ、あのグレイさん……?」

 

「…………」

 

 急に態度の変化した3人。

 鏡が何かしたのは間違いないだろう。

 

「グレイ! 幾ら君であってもいい加減に……」

「ライネスさん、何を怒っているんですか? 拙は、お側にいたいだけです」

 

 唯一、美遊だけはその場から動かない。しかし、俺もXオルタに睨まれて動けない。此処で宝具を取り出される様な事があれば――

 

『――』

 

 鳴り響いたチャイムに全員の力が抜けた気がした。

 

「……お昼の時間です。私はお弁当がありますが皆さんはどうしますか?」

 

「部長。新聞部の部室で食べましょう」

「……まあ良いけど、真も来いよ」

 

「う、うん……?」

「待って下さい。拙もご一緒して――」

「――グレイと私は学食だろう? そうだ、我が弟子も一緒に購買部に行こう。何か買ってやろう」

 

「え、えっと……」

 

 真の奴、悩んでるな。

 安全を考えるなら奴らと一緒に行かせるのは言語道断だが、こっちはこっちで、Xオルタのストレスが……

 

「なら、私も行きます」

 

 美遊がそう言った。三つ巴なら、大丈夫だろうか……

 

「どうする真?」

「えーっと……俺は、俺のサーヴァントと、一緒がいい」

 

「分かった……危なくなったら逃げろよ」

「うん! ……え、危ないの?」

 

 最後の一言に不安を覚えたので、なるべく早く合流しようと心に決めた。

 

 

 

「――ライネスさんではなく、拙が奢ります」

「いや、師匠である私が奢るべきだろう」

 

「真さん、欲しい物は決まりましたか? こちらのカレーパンや麻婆サンドは激辛なので気を付けて下さい」

「う、うん……」

 

 師匠達は言い合いをしていて、美遊さんは商品を教えてくれる。

 

「ライネスさんは借金があります。少額でも出費は抑えるべきでは?」

「あーあー、知らないなー! 大体、サーヴァントなら借金とか関係ないだろ」

 

「えーっと……決まったけど」

「仕方ありません」

 

 美遊さんは財布を取り出すと俺が選んだ焼きそばパンとりんごジュースの代金を払ってくれた。

 

「い、いいの?」

「ええ。大丈夫です。さ、食べましょう」

 

 俺達が少し歩き出すと後から師匠達も遅れてやってきた。

 2人とも代金を払うと言ったがまた喧嘩するなら要らないと言われて、少し恥ずかしそうに財布をしまった。

 

 そして、中等部の屋上にやってきた。

 

「どうだい、此処が私のお気に入りでね」

「初等部より1階分高いですね」

「特殊教室が初等部より多いですからね」

 

「学校の屋上って普通は立入禁止じゃないの?」

 

「カルデアールの校則では、屋上の立ち入りは禁止されていません」

「まあ、鍵は職員室だがトリムマウがいるのだから必要ないな」

 

「それやっぱり不法侵入なんじゃ……」

 

 だけどそんな俺の不安には目もくれず、3人はベンチに……座らなかった。

 

「さ、どうぞ座って下さい」

 

 全員、妙に力が籠もっていて怖いな。

 

「弟子は師匠の隣に――」

「――どうぞ、此処に座って下さい」

 

 グレイさんは強い口調で真ん中を勧めてきたので、ライネス師匠に悪いかなと思いながらもそこに座った。

 

「それでは私は此処に」

「私はこっち」

 

「……私の場所が無いようだが……?」

「ライネスさんは私の隣です。どうぞ」

 

 グレイの言葉に普段なら見せる事の無いぎこちない笑顔をしながら師匠は座った。

 

(ええい、見通しが甘かったか? グレイもエーデルフェルトも簡単に我が弟子に惚れた。……それにこの学園の影響か、トリムマウを維持できるのが数十秒、しかもメイドの形を取らせるだけでかなりの集中がいる。

 こうなれば強硬手段も……)

 

 皆一斉に自分のお昼の袋や蓋を開け始めた。

 

「む、グレイが唐揚げ弁当とは珍ら――」

「はい、あーん……して下さい」

 

「あ、あー、んっ……美味しい!」

「ふふふ、良かったです。」

 

「な、なな……! ぐ、グレイ!?」

「ライネスさん、どうしました?」

 

 美遊さんは半分くらい残ったパンを俺に向けた。

 

「チーズ蒸しパンです、どうぞ」

「え、でも食べかけじゃ……」

 

「私、今ダイエット中ですので遠慮せずどうぞ」

 

「エーデルフェルト殿!?」

 

 断り辛いので、それを手にとって食べた。

 

「き、君達は間接キスのプロか!?」

 

「か、間接キスって、師匠! そんなふうに言わないで下さいよ!」

 

「……」

 

 突然、グレイさんは何故か半分以上残っていた弁当を無言で閉めた。

 

「真さん……失礼します」

「え」

 

 俺はグレイさんに抱き着かれて、そのまま跳躍したグレイさんは屋上の扉の上に跳び、ライネスさんと美遊さんを見下ろした

 

「ほ、ほほう……グレイ、ついに私に牙を剥くか……」

「グレイさん、真さんを離して下さい」

 

「拙は御二人と戦うつもりはありません」

 

「何……?」

 

 すると、足元から扉を開く音が聞こえてた。

 

「あー! 美遊、こんな所にいたぁ!」

「い、イリヤ……!?」

 

「もう! 授業中に先輩に呼ばれたと思ったら、何で中等部の屋上にいるの!? 今日は私とクロと一緒に食べる約束でしょう! ほら、行こう!」

 

「ま、待ってイリヤ! 今それどころじゃ――……」

 

 扉が閉まった。

 と、思ったらまた開いた。

 

「ライネスさん! ここに居ましたね!」

「っげ、頼光教師!?」

 

「高等部、中等部、初等部!! どんな生徒であろうと風紀を乱す者は、私が赦しません! あと私は生徒です。先生ではありません!」

 

 黒いセーラー服を着た女の人がやってきた。

 そしてその人は、ライネス師匠を掴んで引き摺っていった。

 

「匿名希望の生徒からライネスさんが不法侵入を行っていると通報がありました! 屋上へは暫く立入禁止です!」

「ぐ、グレイ! 図ったなぁ!? 後で覚えてお――」

 

 ……師匠の声が消えた。

 

「……はぁ……さて、真さん」

「な、何?」

 

「2人っきり、ですね」

 

 そう言ってグレイさんは俺を両手で抱き締めた。

 

「真さんは、何か感じますか?

 拙は今、凄いドキドキしています……」

「グレイ、さん……?」

 

「この後、次の段階……行ってもいいでしょうか?」

「次……?」

 

 何を言っているのか分かんない。今のグレイさんはなんか怖い。

 

 鼻息が荒くて顔も赤いし、それに……だんだん顔が近付いている。

 

「ま、待って!」

 

 思わず両方のほっぺを両手で止めた。

 

「うにゅ……な、なんれふか……? 拙は、真さんにキスをしようと……」

「な、何でキスを……?」

 

 と聞いたら、何故かグレイさんは恥ずかしそうに顔を離してフードの端を掴んだ。

 

「だ、だって……真さんの事、大好き、ですから……」

 

 うーん……? でも、母さんや兄ちゃんからはキスは好きな人が出来たら中学生からしていいって言われたし……

 

(あ、だけどグレイさんは中学生だから良いのかな? でも、俺は小学生だし……んー? この場合ってどうなんだろう?)

 

 兄ちゃんに会ったら聞こう。

 

「兎に角、俺は母さんにキスは中学生になってからって言われてるから駄目!」

「な、なるほど……お母様にご挨拶が先なんですね?」

 

「うん? 多分そうだね」

「分かりました。今度お伺いします」

 

「――おーい! 真ぉ!!」

 

「あ、兄ちゃん!」

 

 屋上の扉から聞こえてきた声に、俺はすぐに返事を返した。

 

「……あれ、Xオルタさん、何で縛られているの」

「部長の愛情表現です」

 

「俺が女子生徒や先生に挨拶する度に宝具を取り出して暴れるから縛ってんだよ。

 おい、まだ反省なしか?」

「ふふふ、こうしていれば部長はずっと私の事を考えてくれますね……嬉しい」

 

 Xオルタさん、苦しくないのかな? ずっと楽しそうに笑ってる。

 

「ほら、行くぞ。下でライネスと美遊が頼光先輩に叱られてるからな。次はお前だぞ、グレイ」

「……真さん、助けて下さい」

 

 頼光って確かランサーとバーサーカーで、俺の事を息子って呼ぶ人…………怖い人、だったよね?

 

「えーっと……ごめんね?」

 

 

 

 グレイが叱られている間に、俺達は4人で見学を続行した。

 

「我が弟子、グレイに何もされなかったか?」

「う、うん。別に……」

 

「本当ですか?」

「大丈夫だよ」

 

 俺も心配だが此処で態々追求して焚き付けてやる必要も無いだろうから、黙っておく事にした。

 

「部長」

「なんだよ?」

 

「後輩にこんな格好をさせて歩かせるなんて、今日は一段とSっ気がおありですね」

 

 Xオルタは未だに両手を縛っている。昼休みに決着がついて良かった。

 

「仕方ねぇだろ。お前が暴れるのが悪い」

「ですが、これで正式に私と部長の中が学園に知れ渡ります。実に良い事です」

 

「おう。どう見てもしょっ引かれているがな」

 

「ぐ……何故他人の夫婦漫才なんか見せられているんだ……!」

 

 誰が夫婦だ。

 

「で、次の行き先は?」

「特別教室を回っていこうと思う。理科室が一番近いだろう」

 

「理科室ねぇ……」

 

 特に見てもおもしろいもんなんて無かった筈だが、まあ良いか。

 

 廊下の端にある理科室に辿り着き、俺達はざっと中を見た。

 

 と言っても、理科室らしく薬品やフラスコみたいな簡単な道具が入った棚と複数人で使う大きい机が並べられている位だが。

 

「わー……広い」

「まあ、普通の学校よりもデカイのは確かだな」

 

「因みに、教師の中には危険な薬物や作成段階の薬をここに保管しているそうです」

「それ、下手したら此処が一番危険なんじゃないだろうな?」

 

「まあ、あくまで噂ですし」

 

「……」

「我が弟子よ」

 

「なんですか?」

「ちょっとこっちに来てくれ」

 

 ライネスの声に俺は視線を向けた。あいつ、また何か妙なことを企んではいないだろうな?

 

「来ましたけど」

「良し良し。師匠の言う事はしっかりと聞く事だ。

 なにせ、此処以外は危険だからな」

 

(――!? あいつ――!)

 

 瞬間的に後ろに飛んだ。

 少し遅れて理科室の薬品棚の窓が2箇所割れ、バレーボールサイズの水銀が2つ飛び出した。

 

「し、師匠!?」

「安心しろ。誰も傷付けはしないさ」

 

「やろぉ、自分の礼装を理科室に隠してやがったな……!」

「ですが、この程度なら――!?」

 

 水銀は枝分かれを始め、俺達と真、ライネスの間にフェンスの様な物を展開した。

 

「学生になってもサーヴァントとマスターの関係は変わらない。ならば、マスターが近くにいる私は通常通り魔力供給を受ける事が出来る……我が弟子よ。逃げるぞ」

 

「え……えっと?」

 

 戸惑った様子の弟を抱えて、ライネスは逃げ出した。

 

「くっそ……待ちやがれ!」

「駄目ですよ、部長!」

 

 俺が水銀の壁に近付くと、フェンスの様に細かった水銀が集まり始め、野球ボールのサイズの弾丸として放ってきた。

 

「危な! うぉ!?」

 

 咄嗟に躱したが、躱した弾はそのまま床で俺目掛けて跳ね返り、足に命中した。

 

「っぐ……邪魔くせぇ!」

 

 水銀が重りになる上に、魔術的な効果なのか床にへばり付いて動き辛い。

 

「どうにかして突破しなねぇと……!」

 

 

 

 

「師匠? 此処は……保健室ですけど、何処か具合でも悪いの? 怪我したんですか?」

「ふふ……覚えておくと良い。保健室は男女が隠れて事を起こす場所だ」

 

 僕を連れて此処に来るまでの間、師匠に何であんな事をしたのかと聞いたけど、返事は返ってこなかった。

 

 だけど、今は何だか嬉しそうだ。

 

「隠れて……何をするんですか?」

「ふむ、日本の情操教育は分からないが、子供がどうやって出来るか、君は知っているか?」

 

「? えーっと確か精子が――あっ!?」

 

 師匠は俺をベッドに押した。

 

「ふふふ、知っているのならアウトじゃないな」

 

 その手には縄が握られている。

 

「少々、女遊びが過ぎたな。私も我慢の限界だ」

「お、女遊びなんてしてないですよ!」

 

「グレイやエーデルフェルトの娘、師匠であり私を蔑ろにして喋っていたな」

 

 何処からともなくガムテープまで取り出して来た。 

 

「では、実際にどうやって子供が出来るか、逃げられない様にしてからじっくりと……教えて……やろ……」

 

 急に師匠の目がトロンとしてきた。

 

「し、師匠……?」

「おか、しい……眠気が……」

 

 そして、ゆっくりと師匠の体が倒れ、見てみると師匠は寝ていた。

 

「な、何で……?」

「この保健室で風紀を乱そうとする生徒には眠っていただきます」

 

「な、ナイチンゲール……さん?」

「先生と呼びなさい」

 

 赤い服……の上に白衣を着たバーサーカーなお医者さんだ。

 

 先生がライネス師匠をベッドに寝かせていると窓が開いた。

 

「――先生っ! 此処に別校の男の子はいませんか!?」

「落ち着きなさい、ガール。彼ならそこにいます」

 

 窓から入ってきたのは紫色の衣装を着た魔法少女姿の美遊さんだ。

 

「ありがとうございます。さあ、行きますよ、真さん」

「え、ど、何処に、いぃ!?」

 

 腕を捕まれ窓から連れ出された僕はそのまま空へと連れて行かれた。

 

「何処に行くの!?」

「こちらです」

 

 こうして僕が連れてこられたのは……校内の更衣室だった。

 

「な、なんで……?」

「真さん自身は気付いていないかもしれませんが……水銀やライネスの香水のせいで今、とても匂います」

「え? そうなの……?」

 

「はい。ですので、此処でこれに着替えてもらおうかと」

 

 そう言って美遊さんは服を取り出した。

 この学校の制服だろうか?

 

「サイズは合うと思います。どうぞ」

「う、うん……あの、ずっとこっちを見ているの?」

「大丈夫です。裸くらいなら、家族で見慣れていますので」

 

「いや、こっちが落ち着かないんだけど……」

「どうぞ。早く着替えて下さい」

 

 恥ずかしいけど上だけだし、僕はサッと脱いで急いで着た。

 

「これで良い?」

「……はい」

 

 あれ、だけど俺の服は……?

 

「大丈夫です。サファイアが今消臭してくれるそうです」

『どうも、美遊様の魔術礼装のサファイアです』

 

「あ、そう言えばステッキがいるんだったね。ずっと見えていなかったけど……?」

「普段は見えなくしているんです」

『初等部にはやんちゃな娘が多いので、見つかって振り回されない様に普段は隠れています』

 

「そ、そうなんだ……」

『現在、美遊様のご命令で服の方を私の中で浄化しています。もう暫くお待ち下さい』

「うん、分かったよ」

 

(本当はもう終わっていますが……これで宜しいですか、美遊様?)

(うん、ありがとう)

 

 サファイアはまた消えた。

 俺は更衣室を出ようと立ち上がった。

 

「あ、ちょ、ちょっと……待ってくれますか?」

「ん、何?」

 

 美遊は慌ててポケットから紙を取り出した。

 

「その、そんなに喋ってないし、変な人だと思わないで欲しいんですけど……」

 

 彼女は一呼吸置いた。

 

「……私は真さんが好きです。カルデアにいた時から」

「み、美遊さんも覚えていたの!?」

「はい………鏡を見た時に、思い出しました」

 

 美遊さんは僕の両腕を掴んで顔を近付けた。

 

「優しくて何時も頑張っている貴方のお側で戦うのは誇らしくて、でも帰ってきたら女の子として扱ってくれたのが嬉しかった。私の我が儘で、イリヤを呼ぼうと何度も召喚してくれた」

 

「出来なかった、けどね……」

 

 美遊さんは頭を降って続けた。

 

「この気持ちは、もしかしたら、イリヤがいたら手に入らなかったかもしれない。

 だけど……悪い気分じゃないです。だから、言葉にさせて下さい」

 

 握られた両腕に更に力が込められて行く。

 

「好きです。これからもずっと、お側にいさせて下さい」

 

 そう言った彼女に少し驚いたけど、目の前の彼女の心に自分がいる事に気付いて、胸の中が暖かくなった気がした。

 

「うん。よろしくね」

 

 だから、その思いのままにただ頷いた。

 

 

 

「我が弟子、遊びに来たぞ」

「すいません。マスターはこちらですか?」

「真さん、デートしましょう」

 

 あの日の見学の夢以降、家に来るサーヴァントが増えた。盛り塩の効果は無かったか。

 

「上等だ。纏めて座とやらに送り返してやらぁ……!」

 

 これはアヴェンジャー共を締め上げてやる必要があるなと思いながらも、拳を強く握りしめた。

 

 が――

 

「真ちゃん、玲! 早く朝食に来なさい!」

 

「きゃぁ!?」

「っつ!?」

「あっ!?」

 

 勢い良く扉が開いた瞬間、3人のサーヴァントはぶっ飛ばされ、その姿を消した。

 

「……あれ? この扉、立て付け悪くなってないかしら?」

「さ、さぁ……」

 

「全く……真ちゃんはまだ寝てるの? 玲、あんたは早く支度しなさい」

「へいへーい」

 

 どうやら、盛り塩や御札より母さんの方が効き目はありそうだ。

 

 先まで殴ろうとしていたサーヴァント達に若干同情しながらも、これ以上犠牲が出る前にアヴェンジャーの方を止めてやろうと決意した。

 

 





書いていてラブコメ風味が強いと感じました。
学園モノの雰囲気に飲まれてしまった感が否めない……

水着イベント、カーミラさんと沖田さんが来ました。
ミッションも終わりましたのでフリクエで石を貯めています。せめてもう11連したい……!

次回は3周年企画最後の話です。ハロウィンまでには投稿したい。

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