ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
書く内容さえ思い付けば睡眠とあらゆる自由時間を削って一週間で書けれるんだと気付きました。(今更)
取り敢えず書いてボツを量産するより、本当に書きたい物を思い付く発想力を鍛えたいです。
この話はいつにも増して、
※英霊の座、召喚システムの設定無視
※アルトリア・オルタのキャラ崩壊
が含まれています。苦手な方は是非時間を無駄にしない様に他の方の小説を読む事をおすすめします。
暗い廊下の中を彼女は黄金の聖剣を携えてこちらに真っ直ぐ歩いてきた。
見つけている純白の衣装は美しく、その姿が頼りない光の中でもはっきりと見える。
「マスター、見つけました」
――だが、それは俺にとって街灯が照らす暗い夜道に現れた幽霊の様な恐怖の対象でしかない。
死に装束と提灯を持った白い人影と同義なのだ。
「マスター。ここにいたんですね」
近付いて来た彼女から、逃げだしたいような、でも逃げたら後が怖いので、何も出来ずにいた。
「マスター、手を握ってもいいですか?」
握りながら言うな。とは言えず、黙って手を差し伸べた。
「マスター、もっと沢山撫でて下さい」
わかったから聖剣を下げろ。しかし、そんなことが言える訳もなく聖剣を向けられたまま彼女が求め続ける間は手を動かした。
「マスター! やりました! 私達の邪魔をする外敵を全て倒しましたよ!」
――いや、リリィなのに戦闘力高いってどう言う事……? カリバーン魔力込め過ぎでボロボロになって、半分炭にしか見えないし。
「マスター」
「マスター」
「マスター、マスター、マスター、マスター、ますたぁ……!」
「ーー……つ、辛い……」
休日の朝、目覚めた俺は迫って来る笑みと底の見えない光の無い瞳を引き摺っているせいで余り夢見が良いとは言えなかった。
「……セイバー・リリィ怖い……」
そしてちょっと泣いた。その涙は欠伸と一緒に流れていたのだと思いたい。
だがその日は不幸にも午前中にとてつもなく疲れる日であった。
「……ぐ、何で色々怠くなる5月に大掃除なんて……はぁぁ、疲れたぁ……」
自分の部屋に戻ってくるや否や今朝見た夢など忘れて普段はあまりしない昼寝をした。
こんな時にでもヤンデレ・シャトーは容赦なく俺の前に現れる。
幼きアルトリアの悪夢として。
「…………アルトリアだらけとか……リリィで酷い目に合った俺への当て付けか? だろうな」
独りで愚痴り独りで納得した俺は監獄塔ではなく大奥と化した舞台に移動させられていた。
和式なのは良い事だが、此処は迷い易い迷宮の様な場所だ。部屋だらけで何処からサーヴァントが来るかもわからない。
「マスター!」
「っげ、この声はリリィか……!」
振り返ってもまだ姿が見えないのを確認した俺は慌てて姿を隠す事にした。
幸い、大奥は襖だらけだ。部屋と呼べる物は少ないが、入っておけばそれだけで隠れられる筈だ。
「……此処は……ええい、ままよ!」
少々不安を感じたが襖の先に続く胡散臭い感じがする部屋に入った。
「……なんだろう。床の模様も壁の絵も胡散臭く感じる……」
「マスターもそう思いますか」
聞こえて来た声に体がビクッとした。部屋の中に既にサーヴァントがいた事に気付かなかった。
「ど、ドチラ様デ……?」
片言になってしまった。そもそも、どちら様であろうとアルトリアでしかない。
「なるほど。マスターは己がサーヴァントすら忘れてしまう薄情者でしたか」
敬語と共に毒を吐いて現れたのは、冬の時期は厳しそうな薄めの黒いサンタ服を着て、白い袋を担いだアルトリア。
「あ、オルタ! サンタ姿って事はライダーの方……ん?」
俺の頭に違和感が過った。
ライダーのアルトリア・オルタは冷酷な暴君で有りながらそのイメージを払拭する為にサンタクロースとなり、本来より少々はっちゃけた性格の筈だ。
「……姿は忘れられていない様で安心しました。それで、追手から逃げたいのでは? 戸を閉めなくて良いんですか?」
「あ、ああ……そうだな」
前門のアルトリア、後門のアルトリアだが目の前の彼女から逃げるのは流石に難しいので俺はそっと襖を閉めた。
閉めた瞬間に、部屋の胡散臭さがました気がした。
「……? あ、あれ……!?」
「どうやら一度開けて閉めるとその襖は半刻程閉まり続ける様です」
「……知ってた?」
「勿論です」
担いでいた袋を地面に下ろすと、彼女は両手を背後に隠してゆっくりとこちらに歩いてきた。
そして、彼女の異変の正体に漸く気が付いた。彼女の瞳の色が、金色では無い事に――
「――翠、か?」
「漸くお気付きになりましたか?」
目の前で彼女は首を傾けて微笑んだ。
その目の色はアルトリアに善性がある証だ。
だがサーヴァントは生前の記憶は持っていても召喚された後の記憶は――いや、この話は止めておこう。俺だってうろ覚えだし。
「リリィ……なのか?」
「ええ。今はオルタとも、ライダーとも呼んで下さって結構ですよ?」
リリィの記憶、恐らくカルデアに召喚された事を覚えているライダーなのだろう。
「クリスマスでは無いのが残念ですが、どうですかこの服? 少々大人っぽく見えるでしょうか?」
「ま、まぁ……見えるかな?」
指で服を摘んでおへそをチラチラしない。そんな破廉恥な娘に育てた覚えはないですよ。
「ふふ、脱いで欲しいですか?」
「だ、駄目に決まってるだろ!」
慌てて止めると、彼女は何故か酷く嬉しそうに笑った。
その瞳には薄っすらと……
「……? な、何で泣いてるんだ?」
「――っ、な、何でもありま、せん……!」
姿形、肌の色すら変わった筈なのに涙を流すライダーはアルトリア・リリィにしか見えなかった。
「り、リリィ?」
「……違います。私はライダーで、オルタです……白百合なんかじゃないんです……!」
大粒の涙の重さは彼女の心が耐えきれる物ではなかった様で、その場に崩れ落ちる彼女の元に慌てて駆け寄った。
「――触らないで下さい!」
だが、俺が差し伸べた手を彼女は拒んだ。
両手で顔を抑える彼女の指の隙間からは涙が漏れ出ている。
「私は、私は……リリィではないのです……!
王として、暴君としての道を歩んだ、マスターの下さった経験を全て、この手で踏み躙った……!」
アーサー王となった彼女の王道とは、例え正道であろうと邪道であろうと、決して幸福とは言えはしない、先の見えない歴史を歩み、背負う事になる。
カルデアに幼きリリィとして召喚され、その経験と記憶を持った彼女が暴虐の王に染まるのはきっと想像出来ないほどの苦しみを味わって来た上でなのだろう。
(って、色々考える事は出来るし心中を察する事も出来るけど……)
俺が慰めるのかと、ある意味自分らしい不安に駆られながら横を見ると鏡が置いてあった。
普段なら鏡の配置に疑問を持つかもしれないが、先に今重要な情報を届けたのは反射された自分の姿だった。
――今の俺はカルデア所属の人類最後のマスター……間違いなく、彼女と共に歩いてきた主だ。俺が声をかける事に何の問題も無い。
「リリィは後悔しているのか。その結末に」
「……はい。勿論です」
リリィは他のアルトリアを見た筈だ。もっとも彼女達がリリィにその生涯を語るとは思えないし、リリィは結局ブリテンの最後を知らずに王座に座った。
その結果が後悔を持ったオルタ、と言う事だ。
最も、それは生前での後悔はなくカルデアの記憶と共に此処に現れた故の後悔な気がする。
ならば、やっぱり言葉は要らない。
「……マスター、放して下さい。私は――」
「――おかえり。頑張ったね」
腕の中で、白百合に戻った彼女は泣いた――
――いい加減、俺も学習するべきだろう。
そんな反省を眼前まで迫った彼女の唇を見ながら思った。
「んっ……はぁ……ん、っん……!」
ヤンデレ・シャトーは良い話を感動的には終わらせてくれない。そんなの、もうとっくに知っていた筈なのに。
(感触が弱い、まだ若干遠慮してる…………じゃなくて! この胡散臭い部屋、自動で閉まる襖とか、丁度良い所に置いてある鏡とか、本当に嘘臭くなるレベルで準備してやがったな! アラフィフめぇ……大奥になっても悪巧みをしやがるか……!)
「んはぁ……マスター? 苦しく、ないですか?」
「苦しい。翻弄されている自分に後悔してる」
「……?」
こちらを見下ろす首をちょこんと傾げた。
オルタの見た目でこっちを気遣ったりリリィの仕草をするの止めて下さい。結構効く。心とか心に。
「私を、汚れて帰ってきた私を……受け入れてくれて、ありがとうございます……!」
(サーヴァントとの力の差とか関係なく、励ましたのが自分だから抵抗し難い)
「……やっぱり、私はカルデアが……いえ、マスターの隣が、良いです」
そっとその細い腕を俺の胸に置いた。
「うん」
「マスターに、もっともっと近付いて……良いですか?」
……最後のチャンス。
最悪斬られるが、此処で断らねば……!
「……リリィ。俺はまだ誰も隣に置くつもりはないよ」
「空いているなら私が頂きますね?」
また唇が重なり、顔が上がった際に見えた表情はまるで俺から何かを奪ったかの様な悪戯な笑みだった。
「ずっと一緒です。私のアヴァロンは此処です。私の聖剣の鞘は、マスターです」
っく、Stay nightファンが聞いたら暴動を起こしそうなセリフを……!
「……マスター、私の全てを預けても良いですか?」
「さ、流石に……荷が重いと――」
「――来なさい」
後方に落ちていたプレゼント袋がもぞもぞと動き、中から黒い聖剣が彼女の手へと飛来した。
「それで……何が重いんですか?」
「いえ……何でもないです」
(重いのは愛だよ)
「……それでは、確かに預けました」
首筋に向けられた刃が離れて行くのを見て、俺は溜め息を吐いた。
「……?」
「私の我が儘はここまでです。お付き合いして下さって、ありがとうございました!」
――彼女の事もお願いしますね。
最後にそれだけ言い残すと、彼女の体は光の粒子となって消え去った。
「彼女……リリィの事か。任されました」
俺は立ち上がった。
取り敢えず、この部屋を出てリリィに会いに行こう。
「良し、もう開くな」
俺は戸を開いた。
「――」
「……マスター、漸く、会えましたね」
そこに立っていたのは黒い馬に跨ったアルトリア。ランサーの方のアルトリア・オルタだ。
俺を見つめる翠色の瞳を見て全てを察し、最速で襖を閉めようとした。
「マスター、私はこの時をずっと待っていました」
「うぉ!?」
しかしそれは何でも無いかの様に彼女の選定剣が入り口に挟み込まれ、引き手を握ったままの俺ごと剣で襖を押し開けた。
「貴方の僧侶に相応しい成長を遂げたと自負しています」
「黒いのに成長を自負……?」
「こ、これは大人の黒です! ミステリアスさが出て格好良くなりました、です、よね?」
……ランサーのアルトリア・オルタはクールな筈が残念さが偶に出てたけど、もしかして謎のヒロインXの影響で更に残念感が出てないかこのアルトリア・オルタ・ランサーinリリィ。
「で、ですがマスターもきっとこっちの方が好みでしょう!? 胸も大きいですよ!」
先のシリアスは何処に行ったんだ?
いや、同一人物で性格が異なるなんて英霊相手ならしょっちゅうあるけど。
「取り敢えず馬から降りない? なんか先から彼、気不味そうにしてるんだけど?」
その恐ろしい風貌からは想像もしていなかったが、ラムレイは場の空気を気にしているらしく、先程から俯いたままだ。
「あ、ご、ごめんなさいラムレイ! 外で待っていてくれる?」
はいはいごゆっくりとも言いたげに顔を振りながら出ていった。
「……」
「……えーっと、帰る?」
「帰りませんよ! ……そうです、漸く会えたマスターを好きに出来るんです」
む、不味い。ヤンデレに覚醒か。
俺は身構え、彼女の顔を油断なく見つめた。
「こんな好機は他に無い、ですよね?」
冷酷な印象を与える血の気の薄い顔が僅かに微笑んだ。
来るか……?
「……」
「……!」
しかし、何故か彼女は突然両手で自分の顔を隠した。
「あ、っあぁ……! 久しぶりに見たマスターが、凄い格好良くなってる……!」
「……はい?」
「む、無理! 無理です! そんなに見つめないで下さい!」
……うーん、何かの漫画で見た事あるぞこんな反応。
生真面目社員を演じていたOLが久しぶりにイケメンになった幼馴染に会った時の反応だ。
(OLって……そこも師匠譲りか?)
「……えーっと、もう帰っていい?」
「待って下さい! もう少し見てれば慣れますから! ……あ、あれを相手って……ハードル高すぎませんか……? で、でも、初恋ですし……」
純粋……と言うか、只々残念なだけな気が……
「……ふ、ふむ! 覚悟は出来た! さぁ、来るがいいマスター!」
「いや、俺は行かないんだが?」
「……わ、私からじゃないと、いけないんですか?」
いや、こいつ本当にヤンデレ・シャトーの効果受けてんの!? 今までに無いほど受け身で流石に怪しくなり始めてるぞ!?
『マスター』
「っ!?」
そんなバカをやっている中、突然外から聞こえて来た声に驚いた。
俺の召喚したアルトリアはオルタ・サンタとランサー・オルタを除けば、セイバー・リリィだけだ。
そして、この部屋の扉は閉められていない。彼女は直ぐに聖剣を片手に部屋へと入って来た。
「漸く見つけました」
「幼き日の私ですか……」
リリィは普段から他のアルトリアを(不意打ちや奇襲込みとはいえ)容赦の無い攻撃で排除している。
元リリィのランサー・オルタが果たして勝てるのか……?
「……マスター? もしかして私の心配をしてくれていますね?」
「ま、まぁ……」
出来れば病みの低いランサーに勝ってもらいたいが、不安しかない。
「X師匠直伝!」
リリィが斬り掛かるが、ランサーはそれを聖槍で受け止めた。
「二刀流!」
「何!?」
何処からか2本目の剣を取り出し、1本を抑えたままの聖槍の下からランサーへと突き出した。
――しかし、ランサーは全て見切っていたかの様に聖槍を自身の右側へと傾けつつ左へと移動し、逆に弧を描く軌道の槍先でリリィの顔を狙った。
「っく!? あうっ!?」
間一髪で横に飛んで躱すが、脇腹へと放たれた蹴りで吹き飛んだ。
「奇襲も奇策も、知られているなら通用しない」
「うっく……!」
しかも、リリィを見れば蹴りを放たれた箇所には小さな刺し傷が出来ていた。
ランサーの靴底には鋭い棘が輝いている。
「そして、王になった事で初めてカルデアで得た知識は最大限活用出来る。貴様では10年経っても私に勝てないと知れ」
戦闘になった途端、イキイキしているランサーを見てやっぱり仕事だけは出来るOLなんだろうなと再認識した。
「メルトリリスの足……」
「はい。これには毒は濡れませんでしたが、反動の大きい聖槍の開放の際などはこれがスパイクの役割を担っています」
アーサー王物語完全崩壊だ。
「っく……わ、私は……! 例え、私が相手でも……! マスターの為に……!」
「っく……! ま、眩しい……! 健気……!」
いや、何でリリィが立ち上がる姿にダメージ受けてるんだよ。
「ですが、大人気なくとも今日は私がイチャイチャするんです――――!」
大人気ない真名開放で部屋の壁ごとリリィを遥か彼方へと吹き飛ばしたランサー。
「……心苦しい戦いでした」
「嘘だろ」
言ってる事と齎した被害の大きさが合ってないんだよ。
「それでは、そろそろマスターを頂きます」
「来るな」
「……先程から思っていたのですが」
「――何様のつもりですか?」
「……え?」
は? え? 何だ急に……言葉だけじゃなくて雰囲気も変わってないか?
「確かに恩人でありマスターではあるが、私は見下される程貴方の下にいるつもりは無い! 驕るのも大概にして貰おうか!!」
急に威圧され反応が遅れる。
何が起きているのか理解する前に、彼女は俺を押し倒した。
だが、目を開ければそこには怒りではなく、喜びの感情を顕にしたランサーがそこにいた。
「……え、えぇ……?」
「……驚きましたか? これでも私、ちゃんとアーサー王に成ったんですよ?」
「あ、さてはカリスマスキルを使ったな?」
思い出したかの様に彼女のステータスを確認する。
「はい。王ですので、当然所持しています」
スキルはCランクだ。でも本来は暴君だからEランクの――ん?
『暴君として振る舞いながらも、幼き日の明るさと優しさを失わなかった結果、彼女の背伸びを放っておけない者が続出した』
……残念な事って、デメリットだけじゃないんだなぁ。
「な、何ですかその生暖かい眼差しは!?」
「いやぁ……愛されてるなーって」
「と、当然です! 私の想いを理解したんですねマスター?」
受け取り方に語弊があるが、俺は修正するのも面倒だったので真っ先に彼女の腕を掴んだ。
「なんですか?」
「なんで自分の服に手を掛けてるんだ?」
「え? だって、マスターが愛を理解して下さったのなら合意ですよね?
あ、分かりました!
サーヴァントですから手で脱がなくても良いって事ですね?」
俺はすーっと目を伏せて魔力を解こうとする彼女の背中に手を回して慌てて引き寄せた。
「わぁ!? ま、ま、マスター!?
い、今脱ぎますからちょっとだけ待って頂けませんか?」
「脱衣禁止」
俺は令呪でそう命じた。
「……マスター……令呪を使ってまで着衣プレイをお望みでしたか? 気が付かず申し訳ありません」
「いや、プレイも何も一切するつもりは無いけど」
「……どうして、ですか?」
「どうしても、私を受け入れない気ですか?」
翠色の瞳から何かが消えた。弱々しくも、怒気を含んだ声が口から出てきた。
「私は、マスターと会えて幸せでした。マスターと旅をして、戦えて幸福でした。
マスターとの別れを嘆きました。マスターがくれた時間の尊さを知りました。
私の国の過酷に立ち向かいました。結末はともかく、後悔のない人生でした。
……私はその全てが今この時、この再会の為だと思っていました。例え私を知らなくても、私の知るマスターと再び出会い、王として生きた私の記憶に、女性としての喜びを与えてくれる……」
「それは……全部君の願いだ。君だけの。俺の思いは1ミリだって入っていない」
言ってしまった後に、先程まで見ていた明るい側面が既に手遅れな程に絶望色に染まり切っている事に気がついた。
瞳の色は病み始めた合図ではなく、先迄のリリィに成り切れていない彼女がそれを諦めた証だ。
幼き頃の関係を築き直す事を辞めた彼女の雰囲気は、カリスマも子供の純真さもない、妖しさの混じった黒となった。
「……マスターは私を思ってくれないのですね。じゃあ、もう良いです」
彼女は冷たい眼差しでこちらを見ながら唇を重ねた。
「体だけ、先に頂きます。
ええ。もう乙女なんて言える歳では無いですから、暴君の、否、私のやり方で貴方を陥落させて見せます」
体を押し付けられ、手は俺の口を塞いだ。
「――」
「もう、声だって聞こえません。何も聞きません」
大きく育って柔らかくなった胸や足を体に密着させ、片手で俺の動きを封じ、もう片手で口を封じたアルトリア・オルタ。
瞳から抜け落ちた何かは愛に等しい感情の筈だが、それが無くても彼女の体すべてが俺を絡め取るべく愛の形に成っていた。
今宵の夜は、長い。
最近の更新速度が少々不安ではありますが、そろそろやっておかないといけないのでは無いかと思っているんですよ。
それじゃあ、そろそろ活動報告とツイッターで募集しましょうか……
……所で3周年とUA、どっちを企画のタイトルにしましょうか?