ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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くだ子のキャラが分からない……

※皆さんのぐだ子のイメージと違う場合がございます。ご注意下さい


2人でヤンデレ・シャトー ぐだ子編

 目が覚めれば監獄部屋。ヤンデレ・シャトーの中だ。

 

「今日は再びヤンデレ・シャトーの悪夢を体験してもらう」

「鬼かお前は!?」

 

(寝て早々これである。いや、その前に、一昨日の記憶がない件について知りたいんだが。……昨日のネコミミ騒ぎはちょっと楽しめたんだけどなー)

 

 ネコミミについては【ヤンデレの無いカルデア……? 短編集】を読んで下さい。

 

「昨日は大変だったようだからな。今回の特別ルールは……こいつだ」

 

 アヴェンジャーがマントを翻すと、1人の美少女が現れた。

 

「えーっと……どこ、此処? アヴェンジャー、此処は?」

 

 現れた美少女は明るい茶髪をポニーテールと呼ぶべきか、サイドテールと呼ぶべきか悩ましい位置に髪を束ねている。

 瞳の色は黄色で、着ているのは女性用のカルデア礼装。

 

(ぐだ子……だと!?)

 

「今回はこいつと一緒に逃げ回ってもらう」

「いや、状況を説明してよ。あとあの人は?」

 

「今から説明してやる。此処はヤンデレ・シャトー。今日はこの塔に5人の女性サーヴァント共が、お前達を狙って時に争い、捕縛しようとする。そんな連中から殺されずに生き残るのがお前達の目的だ」

 

「……いや、全然分かんないんだけど……まあ、アレだよね? 何時ものお祭り騒ぎ、だよね?」

 

「そう捉えてもらっても構わない。お前達の生死が掛かっているが、な」

 

「……今回は何かペナルティがあるのか?」

 

「初日に行った通り、お前のペナルティは拷問(アレ)だけだ。しかし、こいつが死ねば……?」

 

「えっ!? 私が死ぬとどうなるの!?」

「さぁ、な?」

 

 アヴェンジャーが意味深な一言を漏らす。暗に、俺に彼女を守れと言っているのか。

 

「その男は別世界でお前と同じく世界を救おうとしている、同業者だ」

 

「別世界!?」

 

「お前達は今宵限りの運命共同体。生き残りたくば精々協力し合うんだな」

 

 それだけ言うとアヴェンジャーは消え、俺達のいた牢獄部屋も監獄塔の廊下へと変貌する。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙。

 しかし、彼女はこの塔は初めてだ。俺がリードしなければならないだろう。

 

「……取り敢えず、自己紹介をしておくよ。俺は岸宮切大。君の名前は?」

 

「……衛波白嗣(エナミハクツ)……」

 

「エナミ、だね? 取り敢えず、この監獄塔の説明をするよ」

「うん、お願いします」

 

 俺は彼女にサーヴァントの部屋の数は今回は恐らく5つ、この先には裁きの間があり、その先の階段を越えると今いる場所に戻ってくる事を伝えた。

 

「――で、サーヴァントが5人全員清姫状態だ、って状況」

「詰んでませんか、それ?」

 

「まあ、今回のサーヴァントによるね。牛若丸辺りはまだいいけど、メディア、清姫、リリィの辺りは危ないからね」

 

「なるほど……」

 

「もし拘束されたら後はサーヴァント達次第、説得次第だ」

 

「それで、生き残る為の作戦とかは?」

「臨機応変に対応、後は神に祈れ」

 

 大体いつもそんな感じだった筈だ。

 そしてそこでエナミの顔が硬直した。

 

「ん? どうし――」

 

 同時に俺も硬直する。

 彼女の後ろからセイバーリリィがやって来ているからだ。

 そして視線とは逆方向から引っ張られる俺の服。

 

「ま・す・た・ぁ?」

 

 耳元に響くこの甘い声は――清姫だ。

 

「マスター!」

「っきゃ!?」

 

 そして目の前ではキマシタワーが建設された。リリィがエナミに抱き着いたのだ。

 

「マスターが2人……ですが、安珍様は1人だけのはず……どうしましましょうかと悩みましたが、男性のマスターで間違いありません」

「……選ばれた事を喜ぶべきか、悲しむべきか……」

 

「王となる私の婚約相手は、やはり女性でないと行けないでしょう。ならば、こちらの方こそ私の愛しきマスターです!」

「ちょ、ちょっとリリィ……!?」

 

 うまく別れた……が、このままエナミと離れてしまえば、彼女の手助けが出来なくなる。

 

 しかし、清姫が扇子を構えたので事態が悪化する。

 

「……ですが、気が変わりました。私の前で他の女性とイチャイチャしているマスターには消えてもらいます。そもそも私、嘘も偽物も大嫌いで御座いまし」

 

「私のマスターに手を出そうが出さなかろうが成敗します! “二兎を追うものは二兎とも取れ!”と、X師匠に教わりましたし、そちらのマスターも頂きます!」

 

 一触即発。2人の覇気が形取り、背後に龍と獅子が見える。

 

(そうだ、令呪!)

 

 そう思い手の甲を見る。

 

(……1画しかない!? ネコミミ(昨日)使ったせいか!?)

 

 しかし、この場でどちらかを止めるのに令呪を使えばもう片方に殺されてしまう。

 

 エナミに令呪を使えと指示を出せば、その前にリリィが何かしでかすかもしれない。

 

「り、リリィ……少し落ち着いて! 喧嘩は駄目だよ!?」

「残念ですがあちらは武器を下げるつもりは無いようです。

 ご安心ください! マスターは私が守ります!」

 

「き、清姫……彼女は偽物じゃなくて、女性と言う可能性のもう一人の俺なんだが……」

「尚更、浮気は許しません」

 

 駄目だ! どっちか片方でも世話焼き系のヤンデレならワガママを言ったりしてなんとかなるけど、妄執系は説得出来ない!

 

「だ、ダメ!」

「っひゃ!?」

 

 俺の心が折れそうになっている間に、エナミがリリィに抱き着いた。

 わざとなのか偶然なのか、その腕でリリィの慎ましい胸に触れている。そのせいでリリィも動けないようだ。

 

(な、なるほど! そんな手があったか!)

 

 と、俺の残念な頭は歓喜しているがそんなアホな事は言っていられない。

 

「令呪を持って命ずる! 清姫は自分の部屋に帰れ!」

 

「そ、そんな!? マスター、私を裏切るのですか……!?」

 

 清姫の怒気が怖いが、言葉とは裏腹に彼女の体は暗い廊下の奥へと消えていく。

 

「……マスター! 私を選んで下さったのですね!」

 

 リリィが俺に抱き着こうとエナミの拘束から抜け出して駆けてくる。

 

「はい、それじゃあどうしようか?」

「ま、マスター!? 放してください!」

 

 が、エナミがリリィの服の襟を掴んで止めた。

 

「リリィ。お前の部屋はどうなってるんだ?」

 

「ええっと、マスターと寝るためにキングサイズのベッドがあって――」

「ハイ却下。そんなもんがある時点でセキュリティは無い筈だから他のサーヴァントに簡単に侵入される」

 

「サーヴァント毎に部屋が違うの?」

「ああ、何でも部屋が小さくなる代わりにセキュリティがしっかりしている部屋が出来るらしい。だから、キングサイズのベッドなんかある時点でリリィのセコム不足は明らかだ」

 

「せ、セコム不足……」

 

「前回はマシュの部屋が最高クラスのセキュリティだったな。もしマシュがいれば――」

「――女の前で別の女の話をするか。しかも、オレの話題は無しみたいだし、終いには凹むぞ」

 

 その声が耳に届いた時には既にリリィが戦闘態勢を取っていた。

 現れたのは両儀式、直視の魔眼で死の線を見て斬る事が出来る彼女は、ヤンデレ・シャトーでは随一のディープキス魔だ。

 

「……両儀、式……!」

「そんな、式まで……」

 

「ガッカリさせて悪いけど大丈夫だ。オレがすぐに、そんな事が気にならないくらい愛してやる」

 

「させません! マスター達は私と一緒にブリテンを救済するのです!」

 

「破滅の決まった国の運命をマスターに背負わせる訳にはいかない」

 

 式はナイフを構え、リリィも体に魔力を張り巡らせる。

 

「マスターに免じて、気絶で終わらせてやる!」

 

「そう簡単には行きませんよ!」

 

 2人が戦闘を始める。普段なら止めようとするのだが……

 

(……此処は逃げる! 幸い、式の気絶宣言にリリィも釣られて手を抜いているようだし……)

 

「エナミ、一旦離れよう!」

「……はい!」

 

 俺はエナミの手を掴むと、暗い廊下へと駆け出した。

 

(だが、式がいたら例えマシュがいてもセキュリティが通用しないぞ……)

 

 

 

「っ!」

 

 戦いの場を放れ、数分程廊下を走っていたら俺はその足を止めた。

 

「? どうしました?」

「明るい……」

 

 ヤンデレ・シャトーの廊下は暗い。

 30m程先の様子が見えないくらいと言えば分かるだろうか。

 だが、目の前にある廊下は電球でも点いているかの様にやけに明るい。

 それだけではない。先まで暗かった筈の後方まで同じ様に明るくなってる。

 

「不味い……もしかして、メディアかもし――んっ!?」

 

「……ん……ぁは、正解よ、マスター」

 

 警告しようと後ろのエナミを見た筈なのに気が付けば、代わりに手を繋いでいた紫色のフードの女性、メディアに唇を奪われていた。

 

 神代の魔女でキャスターのサーヴァント、メディア。彼女の魔術は強力で、俺の様な凡人には破る所かいつ発動したかも分からない。

 

「こっちの可愛いマスターには眠ってもらったわ。旦那様に仕えるのも、可愛い女の子を愛でるのも、私のしたかった事……」

 

 そう言ってメディアは指を鳴らす。

 

「っ……」

 

 すでに部屋の中。

 先の廊下の幻覚に気付いたのではなく、気付かされたのだと直ぐに分かった。

 

「今回は精神操作なんてしないで、マスターの良妻になってみせるわ」

 

 そう言ってメディアはエナミをベッドに寝かせると、被っていたフードをとる。

 

「そこで寛いでて。何か食べ物を作ってあげる。リクエストはあるかしら?」

 

 少なくとも今の彼女に、何かしでかす気が無い様だ。

 

「……サバ味噌」

「はい。直ぐに作って、あ・げ・る」

 

 小さく笑ったメディアはキッチンへと姿を消す。

 

(さて、どうしたものか……)

 

 俺は先ず部屋のドアに目を向けてから、頭を振った。

 

(メディアがなんの準備も無しに俺を自由にする訳が無い……ドアに行っても外には出れないだろうな。なら……)

 

「エナミ! 起きろ!」

 

 俺はエナミの頬を軽く叩く。このくらいならセクハラにはならないだろう。

 

「……ん……わぁ!?」

「気が付いたか?」

 

 愉快な声を上げて起きるエナミだが、俺にそれを気にする余裕は無い。

 

「大丈夫か? メディアが気を失わせたらしいが……」

 

「……そっか、私は……一応、大丈夫みたいです」

 

「そうか……今、メディアは料理をしている頃だ。まだドアは試していないが、恐らく簡単には出れないだろうな」

 

「どうします?」

 

「しばらくメディアに従おう。こちらを害する気は無いみたいだし、彼女の魔術を破って他のサーヴァント達もやって来るかもしれないしないしな」

 

「……分かった」

 

 彼女は若干戸惑いながら首を縦に振った。

 無理もない。

 

「マスター! サバ味噌が出来ましたよ!」

 

 そう言ってキッチンからお盆に白米と味噌汁の茶碗とサバ味噌の乗った皿を持ってメディアがやって来た。

 乗っている数を見るに、2人前の様だ。

 

「……それじゃあ、たーんと召し上がって下さい!」

 

「頂きます」

「い、いただき、ます……」

 

 が、箸が見当たらない。

 

 直ぐに白米の茶碗をメディアが持ち上げた。

 

「それではマスター……あーん」

 

「またこれか……」

 

 ちょっとげんなりしながら、俺は大人しく口を開けた。

 

「あー……っ」

 

 口に入れられた。普通の白米だ。

 

「こちらのマスターも……あーん」

 

「あーん」

 

 メディアの差し出した白米を、エナミは躊躇いなく食べた。女同士だからか、恥ずかしく感じる事も無いのだろう。

 

「……うん、旨い」

 

 味噌汁を啜る。箸を使わなくても飲めるので、メディアとエナミを横目で見つつ飲む。

 

(清姫がもう令呪の命令から開放される頃だろうな……ん、もう2時半か……7時まで後どれくらいだろうか?)

 

 清姫の最後に見た顔を思い出して悪寒を感じながらも、俺は時計を確認する。前のヤンデレ・シャトー同様、体感時間は実際の時の流れより遅いらしい。

 

「ん……っん……ッチュ」

「ん、んー!?」

 

(……気が付いたらキマシタワーが建っている、だと……!?)

 

 戦慄。少し目を放した隙にメディアが口移しを始めているのだ。

 

「んっ!? んー!? っは、み、見ないで――ぅん!」

「あらあら、照れひゃっひぇ……ん」

 

 見ている俺に気付いてエナミが顔を真っ赤にしている。俺は黙って目を逸らした。

 

(……このまま誰も来ないのか?)

 

 そんな訳が無いと分かってはいるが、目の前のキマシタワーを見てそう思ってしまう。

 

「ん……さあマスター、サバ味噌ですよー」

 

 エナミを解放したメディアは、サバを口に入れ、こちらに唇を向けてきた。

 

「はいはい……」

 

 もう慣れた。まだ照れ臭いが流石に何度も経験しているのだ。

 

(こんな事に慣れたくは無いんだがな……)

 

「ん……っちゅ、ぅん」

「っ! んー、んー!?」

 

 腹いせも兼ねて、激しく舌を動かして、メディアの口内を貪り尽くす。

 

「んー……」

 

 俺の予想外の動きに、メディアも多少戸惑った様だ。

 

「……っぷはぁ……美味しいな、サバ味噌」

「っはぁ、っはぁ……ますたぁ、激しい……」

 

 口を放すと、呼吸の乱れたメディアは顔を真っ赤にして、こちらを見つめる。

 

「もう駄目ぇ!」

「うわぁ!?」

 

 先のキスでスイッチが入ったのか、メディアが俺を押し倒して上に跨がる。

 

「マスター、ますたぁ、ますたぁ……」

 

 俺を何度も呼びながら、メディアは自分の服へと指を伸ばして衣類を脱ぎ始める。

 

「ちょ、待て! 初体験が公開プレイとか絶対嫌だぁ!!」

 

「ますたぁ、ますたぁ――」

「――えい!」

 

 が、俺の心配はメディアの頭に直撃した鍋によって終了した。

 

「……え、エナミ、さん?」

 

 両手で鍋を持ったエナミがメディアの頭に振り下ろしたようだ。

 

「よかった……サバ味噌の鍋が宝具化してたみたい」

 

(い、意外とアグレッシブ……)

 

「助かったよ」

「へへへ……」

 

 嬉しそうに照れる彼女を見つつ、倒れ込んだメディアを抱き上げ、ベッドに乗せる。

 

「こちらから攻めるのは厳禁、だな……」

 

 冷や汗が吹きだした。俺1人だったら完全にアウト、貞操も精も全部持っていかれてただろう。

 スイッチが入って周りへの警戒心が薄れていたのも助かった。

 

「……さて、魔術の足止めもこれで止まるから、他のサーヴァント達が――」

 

 俺の言葉が終わる前に、ドアが炎に包まれ消滅した。

 

「――きちゃった、ね?」

 

「ますたぁ……逃しませんわよ……?」

 

「そろそろ本腰入れて調教するかな?」

 

「マスター……マスター、ここに居るのですね?」

 

(ヒエー! ……せめて1人くらい消滅してくれてもいいじゃないですかー!?)

 

 降臨ダウンのペナルティが無くなった途端にこのクズ思考。そんな自分を嫌悪しつつも、状況を打開しようと思考を張り巡らせる。

 

(そういえば、後1人は誰だ? なんでまだ姿を表さない?)

 

「ど、どうしよう……?」

 

「式さん達にはあのマスターをお譲りします。私は、男性の方と少しお話させて頂きます」

 

「……リリィ、どうする?」

 

「マスター……、ああ……マスター」

 

 恍惚な表情を浮かべるリリィは完全に正気を失っている。

 

(これは、詰んだ)

 

「では、早い者勝ちという事で」

 

 その言葉と同時に清姫が直ぐに俺の前へとやって来た。

 

「ま・す・た・ぁ」

 

(ニッコリと満面の笑みを浮かべているのに、戦慄を禁じ得ない……!?)

 

「っふぁ……式……駄目ぇ……リリィも、止めてぇ……」

 

「っん、っちゅ……こっちのマスターも耳が弱いな……」

 

「先のお返しに、よーく揉んであげますからね、マスター……」

 

 視線が動かせないのが残念である。

 東京タワー並の大きさのキマシタワーが建っているのに、それが恐怖で見る事が出来ない。

 

「ふっふふ、あちらは楽しそうですわね」

 

 無情にも腕から聞こえる金属音。同時に体全体が脱力する。

 前にも使われた純粋な人間を無力化させる手錠だ。

 

「ふっふふ、私の部屋にご招待いたします」

 

 ロクな抵抗も出来ずに、俺は清姫に連れ去られ、廊下へと出た。

 

 

 

「……令呪を持って命ずる」

 

 

 

 俺は清姫の部屋に連れて行かれ、例の押し入れの地下室に連れて行かれた。

 この前同様に布団に押し倒され、清姫は俺の服を先に脱がしてきた。

 

「……ん、っちゅ……」

「っひ……は……」

 

 そして清姫は体の中心部を舌でなぞり始める。

 

「……れろれろ」

 

 更に乳首をなめ始め、清姫は俺の下半身を見て笑い始める。

 

「勃ちましたね?」

「あ、あの……ま、まだ心の準備が……」

 

「ますたぁ……? 私の事、好きですか?」

「す、好きだよ!」

 

「なら大丈夫です」

 

(いや何でそうなる!? このデジタル思考娘!?)

 

 

「――やりなさい」

 

「えーい!」

 

 唐突に聞こえた気合の声。

 

「……!?」

 

 刹那、俺の上に跨がっていた清姫は地面へと転がり、体が消え始めた。

 

「……ま、ます、ったぁ……」

 

 未練がましい目と声で俺に手を伸ばした清姫は消え去った。

 

「……大丈夫ですか、キダさん」

 

「え、エナミ……? それに、アルテミス……?」

 

 急に変わった状況にまるでついて行けない。

 

 エナミは式とリリィの2人に捕まって調教らしき事をされていた筈だ。

 なのに何故アルテミスが?

 

「もう大丈夫です」

 

 そう言って彼女が近付いてくる。

 

「式も、リリィも、メディアも、清姫もみんーな消えたから、もう安心していいよ」

 

 笑顔。

 瞳からハイライトが消えており、俺が彼女の今の行動に好感を持っていると完全に思い込んでいるのか、声は嬉しそうに弾んでいる。

 

「いま手錠を壊してあげますね。アルテミス!」

 

「りょーかい!」

 

 手錠はあっさり壊され、力も両手も自由となる。

 

「え、エナミ……?」

「もう大丈夫です!」

 

 彼女は俺の両腕を掴む。

 

(コレは、完全に……)

 

「上に行きましょう! 何か温かい物を作ってあげます!」

 

(ヤンデレだ……!)

 

 

 

 まさかの伏兵に戦慄したが、あちらはまだ令呪が残っている上に、アルテミスが控えてる。ならば、従うしか道が無い。

 

「ご飯できたよ! メディアに対抗してサバ味噌と味噌汁!」

 

「ああ……ありがとう」

 

 飯は作ってくれるし、箸もちゃんと用意されている。

 

「どう?」

「……うん、旨い!」

 

 もしかしたら、一番まともなヤンデレかも……!

 

(障害排除がガチ過ぎていまだに引いてるんだけどね!)

 

 だが、時間も既に5時半。あと少しでこの悪夢も終わるだろう。ならば耐えるだけだ。

 

「さあ、どんどん食べてね!」

「ああ」

 

 とにかく、時間が過ぎるまでは箸を動かしてゆっくり食べよう。

 

「味噌汁も旨いな!」

「あはは! 美味しいでしょう? 隠し味に私の血を入れたからですね!」

 

(ヤバイ、この娘本当にヤンデレなんですけど……)

 

 夢だ夢だと思い、味噌汁を完食する。

 

「サバ味噌にも、ね?」

 

 ……完食する。不味い訳ではなく、むしろ美味しいので苦にはならない……

 

(訳ないだろ……SAN値がゴリゴリ削れてるんですけど……意識し出したら吐き気が……)

 

「ごちそうさま……」

 

「嬉しいな! 美味しく私が食べられたみたいで!」

 

「じゃあ、俺は食器でも洗うかな?」

「大丈夫、大丈夫! アルテミス、お願い!」

 

「はーい! これも花嫁修業だね!」

 

(それでいいのか月の女神……)

 

「じゃあ、こっちに来て」

「おう?」

 

 机の向こうにいるエナミに呼ばれて俺は彼女の側に行った。

 近づいて彼女の隣に座り込むと、彼女は俺の手を握った。

 

「えへへ……好きな人と手を繋ぐと、幸せって感じる」

 

「そ、そうか……?」

 

 何だか、今迄より接触面積は少ないはずなのに、照れてしまう。

 

「でもね、コレは夢なんでしょう? 終わったら、夢で終わっちゃうんでしょう?」

「ま、まあな……」

 

 俯く彼女。手に込められた握力が若干強くなる。

 

「……私だけ、好きになって……」

「え?」

 

「現実世界で彼女も嫁も作らないで! 私だけを好きになって!」

 

 彼女は俺の目を見てそう叫んだ。

 

(不味い、急にヤンデレスイッチが入ってるぞ!?)

 

「私を愛して、私を見て、私を欲して、私を思い出して、私だけ愛して、私だけを見て、私だけを欲して、私だけを憶えて!!」

 

 急に早口で叫びだす彼女。正気が微塵も感じられない、ではなく、凄まじい狂気が

感じられる。

 

「私私私私私私、愛して愛して愛して愛して愛して愛して!!」

 

「うっ!」

 

 握っていた手を放して、押し倒された。

 

(ヤバイ! 依存と束縛の複合系のヤンデレかよ!)

 

 こちらから何らかのアクションで落ち着かせるべきか?

 しかし、脳裏に先のメディアが思い出さる。

 

「……私だけを、愛して。私だけが、愛してあげる」

 

「ええい! 落ち着け!」

 

 彼女を止める為に、自分を奮い立たせる為に、そう叫んだ。

 

「忘れない! 愛してやるし、一生彼女も嫁も作らない! 約束してやる!」

 

「……本当に? 私だけを愛してくれる?」

 

「おう!」

 

「本当に、愛してくれる?」

「ああ、男に二言はない!」

 

「……そっか。じゃあ、約束ですよ?」

 

 

 

 彼女の言葉を最後にヤンデレ・シャトーは何時もの如く消滅し、気が付けばアヴェンジャーが立っていた。

 

「ふっ……今回も無事に生き残ったか、運の良い奴め」

「あれ? もう7時に……?」

 

「忘れたのか? お前、明日の目覚まし時計を6時に設定していたんだろ?」

 

「あ、そうか。昨日寝る前に宿題思い出して早く起きる為にセットしたんだった」

 

「そういう事だ。そろそろ目覚めるだろう」

 

 

 

 ……また、妙な悪夢を見たらしい。

 

「うーん……さて宿題しないとな」

 

 携帯を見る。6時丁度だ。宿題は数学の問題が数問だけ。これなら一時間もかからないだろう。

 

「……うん? メールが……13件!?」

 

 寝る前に全て確認したはずなのにと、嫌な予感を感じながら俺は新着メールに目を通す。

 

“愛してます、ずっと見てます。起きたら返信して下さいね? 貴方のエナミハクツより♡”

 

 

“約束しましたよね? これからずっと愛してください♡”

 

 

“実は私、現実にちゃんと存在するあなたの学校の後輩なんです! 家の前で、待ってます!”

 

 

「……嘘だろ?」

 

 急いで部屋のカーテンを開ける。

 

 家の前には、茶髪の女子生徒が、こちらニッコリと笑いながら見上げて、口を動かした。

 

「キダさーん、おはようございます」




くだ子はなんとなく、後輩だけどそういう垣根の無い女子……のイメージで書きました。
例えるなら、幼馴染……みたいな感じでしょうか?

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