エネルギー強化されたロッド。その強さは本当に同じ棒かよと思うくらいだった。ヤバイ。ロッド強い。この強化に関しては時間制限こそあるものの、再発動まで間隔を空ける必要がない。使用→終了→使用と繋げることが可能なのだ。エネルギーさえあれば。加えて強化状態のエネルギーチャージ率は体感で二倍ほどに膨れ上がっている……ような希ガス。実際通常時よりガンガンエネルギーが溜まっていく。ヤバイ。ロッド凄い。
「うぉぉおッ!!」
思いっきりぶん回して迫り来る光弾を掻き消す。ちなみに驚くのはそれだけじゃない。ロッド自身の攻撃力も比べ物にならないほど高くなっていて、これこそ専用機という感じがやっと味わえた。やっとだよ。これなら量産機使った方がマシとか言われる日はもう来ない。つーか来んな。
「クソ、ガァッ、コラァ!!」
ただまぁ、そんな動作で全てを防げる訳も無く。況してや相手は確実に学習してくる機械だ。間隙を縫うようにして放たれた光弾がモロにぶち当たる。ぐらりと揺らぐ体勢をなんとか立て直し、尚も避けて防いで当たっての繰り返し。全く嫌になっちゃうぜ。なんて巫山戯たことを言えていたのが二十分ほど前くらいまでか。
「フゥーッ、フゥーッ……」
既にブレードの冷却時間は終わった。エネルギーも十分。今すぐにでも放てる。けど、それを放つための隙を全然見せてくれない。こんなんに一人で勝とうとする方がおかしいんですけどね。メインキャラ組の到着はまだですか。ガチで。リアルに。
「ッ! しつけぇ、なぁッ!!」
またもや放たれた光弾を叩く。避ける。同じように数発ほど被弾する。これは痛い。じくじくと肌が焼けるような感覚。シールドエネルギーだってもう多くはない。体の方も無傷とはいかなかった。所々マジでずきずき痛むし、酷ければ血まで出ている。あのISの攻撃力が高過ぎるっつーんだ。クソが。イテェだろオイ。
「ぜぇーっ、はぁーっ、げほっ……」
どうする。考えろ。もう動き回って翻弄して一撃当てるなんて事はエネルギー残量的に無理だ。一か八かの瞬間加速も消費が激しいためにそう使えない。この状態で確実にブレードをぶち当てるなんて状況を作れるか? 俺には到底無理なように思える。
「うげっ……鉄の味……」
正直諦めたい。八方塞がりだろ、これ。操縦者の集中力・体力共にギリギリ、機体のエネルギーもギリギリ。相手の攻撃を防ぐのに至ってはギリギリどころかもう無理な段階までいってる。じっくりと嬲られるのを待つような感覚だ。……なんか下らんことでも考えて紛らわせようとも思ったが、それすら思い付かない。マジでヤバイだろコレ。
「……まーたか、テメェは、よぉッ!!」
光弾。光弾。また光弾。一体何度対処すれば満足してくれるのだろう。機械だから満足するとかそういうのは無いか。今までと同じようにロッドを振り回して防ぎ、避けて、また被弾。オイコラ。またか。痛いだろうが。少しは手加減とかそういうものをしてくれても罰は当たらないと思うんだが。
「ぜぇーっ、ぜぇーっ、ごほっげほっ、はぁっ」
いかん、このままだとマジで死ぬのを待つだけだ。何も出来ずに力尽きましたとか洒落にならん。どうせなら何かをやり遂げてから死にたい。例えば、そうだな。目の前の
「……やるっきゃ、ないよなぁ」
ぼそりと呟いた言葉は自らに染み込んでいく。今まで生きて帰ることを最優先に考えてた訳だが、多少のリスクも背負わずに勝つなんて出来る筈もない。だって俺は所詮俺だ。そんなチート主人公並みの活躍を期待されても困る。
「──ッ!!」
先ずは接近だ。
「っ、らぁッ!」
がっしと福音を左手で半ば抱くようにしながら拘束する。ぶっちゃけハグみたいになってるが上出来だ。むしろ良くやった。福音は近くにいる標的を屠ろうとウイングスラスターを奇妙に動かして周りを取り囲んでくる。当然そう来るよな。けれども遅い。
「少し痛い、けど、我慢、してくれッ!」
──エネルギー解放、刃生成。強化状態解除。残存時間10秒。
これは……なるほど。エネルギー強化状態でブレード展開すると、残存時間を伸ばす代わりに強化が解ける訳か。今回はそんなに要らないがな。
「消えろォォォォオオオオオオッ!!!!」
◇◆◇
「あ、あは、あはは、あはははははッ!!」
笑った。笑った。笑わせてもらった。なんと愉快なことだろう。思わず腹を抱えてしまう。それくらい面白いコトなのだ、これは。
「ひぃーっ、あ、あはぁっ、あははひはっ!!」
駄目だ。堪えきれない。涙まで出てきた。おかしすぎて笑い声までおかしくなってくる。この私をここまで楽しませてくれるのはそうそういない。それこそ彼が初めてだと言っても良いくらいじゃないか。最初からほんの少しの興味は持っていたが、ここまで私の中で大きく膨れ上がるとは思わなかった。……実に、イイ。
「あー……オカシイなぁ、本当。どこまで楽しませてくれるのさ、君は」
それこそ運命を感じる。そんな下らないモノを本気で信じたことなんて無かったけど。彼はどうも不思議な人間だ。遠くから見ている分にはツマラナイヤツだったというのに、近付けば近付くほどその姿を変えていく。変わっていく。嗚呼、これは目を離せない。
「初めてだよ……そう、初めてだ。私は今初めて、君を見たような気がする」
彼のことは認知できていた。数少ない私が見ようと思った人間だから。どんな性格で、なにが好きで、なにが嫌いで、普段の生活はどうなっているのかも知っている。そして彼自身の墓場まで持っていくような秘密も。
『ヒィッ!? い、いや……えっと、ぼ、ぼくは何も知ら──すいませんすいません! ごめんなさい! だからそのドライバーを仕舞って下さいお願いします!』
「……フフ。今思えば、あの時は凄く可愛かったなぁ」
まるで小動物が敵に見つかったみたいに震えながら縮こまって。
『俺、知ってるんす。この、世界』
「アレさえ隠し通せれば、今頃普通の人生だったかな? いいや、それでも私は君に興味を持ったハズだね」
彼の記憶に興味はない。ある程度どんなモノかは想像がついているし、その程度のモノにずっと興味を向けられるほど私は一つに集中出来るタイプとは違う。けれども彼への興味はある。むしろ大きくなっている。
「君を動かすのも面白いけど、うん。やっぱり君自身で動く方が何倍も面白いや」
イイ、なぁ……。
「かなりイイよ、あっくん」
◇◆◇
「はぁーっ……はぁーっ……」
天を仰いで乱れた息を吐く。鈍い痛みが駆け抜ける左腕には、ISスーツを着た実に麗しい女性が一人。福音の操縦者である。つまるところ、やってやった。
「どうだ……天災、テメェ……」
俺は、やったぞ。
「なめんじゃ、ねぇ……」
こちとら腐っても転生者だ。別にそういうプライドは無いけれど、変な意地ってヤツがある。しかしながら初めてじゃないだろうか。こうやって原作の事件を俺自身で解決したことなんて。……成長、してんのかな。
「あ」
なんて思っていればいきなりフラッと来る。そりゃまぁ限界来てますもんね。当たり前か。これISが待機状態になったら終わったんじゃとか思ってる間に待機状態になったじゃねーかどうすんだオイ。
(せめてこの人だけでもどうにかしたいんですけど……)
無理か。
「──ったく、無茶しすぎね、アンタ」
「……鈴?」
ふわっと受け止められて、その顔を見る。
「残ってた専用機組で即刻連れ戻して来る計画だったのに……なに倒してんのよ」
「……出来れば一夏が良かったなぁ」
「あたしで悪かったわね。ほら、さっさとゆっくりしなさい。アンタキツいんじゃないの」
「だな、ちょっと、うん。寝るわ……」
鈴ちゃんの腕もなかなか安心するっつーのは……言わない方が良いか。