『あっくん、天才束さんの作った機体を侮って貰っては困るね』
『は、はぁ……』
ここに来る前に偶然出会った束さんとの会話を思い出す。セシリアの所へ行こうとしていた折にばったりと出くわしたんだっけ。それはどうでもいい。重要なのは話の内容である。状況が状況だけにあまり理解出来なかったけど、少し引っ掛かったっつーかなんつーか。
『もっとISを、武装を頼ってみなよ。君自身の力なんてちっぽけなんだから、どう足掻いても切り抜けられる訳が無いさ』
『ちっぽけ……いや御尤もっす』
『全く予想外だよ、ここまでISとシンクロ出来てないとは束さんもビックリしちゃう』
『シンクロ……?』
リミットオーバーアクセルシンクロォオオオ!!
『そんなあっくんに一つアドバイスをあげよう。そのロッドに隠された能力はまだ残ってる』
『マジすか。……具体的にはどんな?』
『さぁねー』
けらけらと笑ってにこにこ笑顔を振り撒く束さん。反射的にファブリーズをかけようとしてしまった俺は悪くない。いつの間にか振り撒く=ファブリーズという方程式が組み上がっていたんだ。あの時の俺は激流に身を任せどうかしていた。今なら分かる。
『それらは君自身が作り出していくものだよ。最初から設定されているのはあれだけさ☆』
『え、えぇ……?』
そう、今なら分かる。あの時束さんが「見つけ出す」のではなくて「作り出す」と言った意味が。いや正直まだあやふやだけど。要するにあれだろ? 俺が望めば力は手に入る的な中二展開まっしぐらなんだろ? いいぜ、やってやる。ばっと片手を大空に掲げてぱちんと指を鳴らした。叫ぶぜ、この想い!
「
『キアアアアアア……!!』
「無理か!? いや無理か!!」
当たり前ですよねー。うん。知ってた知ってた。獣みたいな咆哮を上げながら突っ込んできた福音さんをロッドで受け止める。冷却時間を見るに九分間はどうしても粘らなければならない。なにその無理ゲー。果てしなく駄目な感じが漂ってくる。例えるなら目隠しをして事務椅子の上でタップダンスを踊るようなもん。
「いやぁッ!?」
近距離でウイングスラスターがうねうね動いて周りを囲もうとしていた。これはヤバイ。これはマズイ。包んでからのエネルギー光弾でリンチだろ? 容赦なく死んじまうぜこの野郎。さっさと逃げるに限る。全速力で逃げ出して少し離れた場所で待機。こいつ相手に接近戦は辛いぞぉ……遠距離戦も同じか。
「ちなみに一夏たちは……。あー、うん。まだそんな遠くまで行ってねぇよなぁ」
つーかよく考えると俺が一人になれたのは奇跡だ。絶対止められると思ってたのに。……まさか皆が愛想を尽かして放置なんて事は無いよね? 僕のことを信じてくれてるだけだよね? は、はわわ。不安。
「っと。余所見は駄目だって? ははは、嫉妬深くて可愛いっすねー」
へらへら笑ってこんなこと言ってるけど内心スッゲービビってるのは内緒。こ、こえーっ。福音さんマジヤンデレ。私以外は見ないでとでも言うのか。余所見したら殺されちゃうの? 想いが重くて嬉しい限りだなぁ(白目)だが残念。俺には彼女がいるのだー!
「よっ、ほっ、とっ。……うん、やっぱ遠くの方が光弾は避けやすい」
バラ蒔かれても来るまで時間があるしなんとか見て避けられる範囲内だし遠くだと一つ一つの隙間が広がって避けやすいし。それでもこれ回避無理だろってやつはあるんですがね。なんやねんこの変態攻撃。いかんいかん。このままでは福音=変態というレッテルが張られてしまう。……別に良いな。減るもんじゃないし。
「つーかこのロッド、マジで何とかならないのか」
冷却時間中だと言うのにエネルギーが満タンまで溜まってしまった。ちなみにこれを無理矢理使おうとすれば暴発して自分がダメージを受ける。せめてあれだよな。ブレード状に展開せずにロッド自身に纏わせる的なことが出来たら良いんだが。
「こう……一旦解放して、また戻す、ような……感じで」
福音さんからの熱烈なラブコールをギリギリ回避(数回に一度は直撃)しながらイメージを探る。出来たら良いな、こんなこと。物は試しだ。ロッドをきつく握り締めて、冷却時間警告を無視しながら強引にエネルギー解放。そのままロッド全体に行き渡るように……。考えるな、感じろ。
「あ痛ぁ!?」
バチっと掴んでいた手が弾かれて危うく落としそうになる。既の所で掴み直したが。ふぅ、心臓に悪い。つかやっぱ駄目ですよね。なんか流れそうな気がしたんだけど。……いや、まさか実際に流れてたのか? 以前の暴発はこの程度じゃ無かった。もっとエネルギーが爆発四散する勢いで怖かったのを覚えている。だとすれば。
「全体じゃなくて、両端にエネルギーを集約させれば」
攻撃に使うエネルギーを全部に纏わせたから駄目なんじゃなかろうか。握る部分は確保しておき、基本相手にぶち当てる端の方へ寄せていく。ブレードの火力には追い付かなくとも何とか攻撃力の底上げには。
「あ」
──エネルギー強化、発動。残り180秒。
「……で、出来た」
◇◆◇
「……蒼」
代表候補生でもない、同じ程度の実力でもない、ただ男でISを使えるというだけ。そんな蒼が
「一夏。あいつの表情を見たか」
「箒……」
「あれは駄目だ。何を言っても聞きはしない」
「……じゃあ、尚更止めるべきじゃ」
「一夏」
凛とした声音で言われて言葉が詰まる。しんと静まり返った一瞬。背後から
「一夏っ」
「……箒、でも」
「あいつがそう簡単に死ぬタマか。意地でも生きて戻ってくるさ。……確実に、な」
「どうしてそう言い切れるの」
確証なんてない。死んだって何らおかしいことではない。だからそう言った。蒼が確実に生きて帰ってくるなんて保証がどこにも存在しないのは分かりきっている。あるのなら私だってここまで必死になりはしないだろう。……いや、分かんないけど。
「これは私が見ていて思ったことなんだがな」
「……思ったこと?」
「あいつは姉さんに好かれている」
「確かに束さんとは仲が良いけど……」
好かれてる、のかなぁ? どっちかって言うと面白いから弄られている印象なんだけど。だってあの束さんだし。何考えてるかさっぱり分からない不思議な人だから憶測もつかない。あれで好かれてるのか……。
「どういう理由かは知らんがな。姉さんはあいつを大事にしている。IS使用直後の蒼を守りきったのは紛れもない姉さんだ」
「……確かにそう言えば」
「まぁ、姉さんの事は私でも良く分からない。全て勘違いという可能性もある」
「……そりゃあ、束さんだしね……」
というか箒も最近までは凄く嫌ってたから仕方ないような気が。あ、いや、今もだけど。
「とにかく、今は直ぐにでも戻って状況を知らせよう。あとは応援と準備を整えて、再戦だ」
「……それまで保つかな、蒼」
「保たせるよ、あいつは。後ろに人がいると意地でも倒れない馬鹿だからな」
だから心配なんだよ。
もう最後くらいオリ主無双させてあげようかと考えてみたけど、うちのオリ主の無双する姿が思い浮かばなかった。
愛の力で何とかなるかな?(白目)