①:今とほぼ同じ人格
②:自分の好みのタイプの『男性』が来ると出てくる。ガチホモ。相手がノンケだろうが構わず喰ってしまう肉食系男子。
やべぇ、カッケェな。格好良くない?
「海だっ!」
「海だぁー!」
「うぅぅぅぅみぃぃぃぃ!!」
「ハルトォォォオオオオ!!」
「どさくさに紛れて叫ぶ兄さんは嫌いだ……」
やってきました臨海学校。トンネルを抜けたバスの中で女子が声をあげ騒ぎ立てる。元気やな。外は眩しい太陽がギラギラと輝く晴天。その光が反射する青い海はとても綺麗だ。キラキラ輝いてる。キラキラキラキラ、輝くの。初日からこうも良いスタートだと後が心配になるとか言うが、そこに関しては何の問題もない。何故なら既に問題が発生すると分かっているからね!
「……海だな、一夏」
「そうだね、蒼」
窓越しに景色を眺めながら隣の嫁へ話し掛ければ、ほんわかとした声音で返された。うん。今日も機嫌が良いようでなによりです。部屋が一緒に戻ってからと言うもの、以前より一夏の笑顔をよく見かける。加えてちょっとキツめだったあれやこれやも信じているとのことで緩くなっているのだ。今のこいつは世界で一番天使に近い。断言しても良い。いや、俺の中ではね。
「蒼兄は泳げるのか?」
「微妙。少し苦手だ。あとラウラ、その呼び方どうにかなんないの」
「……やはり駄目か? 部隊の皆はこう呼んだ方が良いとすすめて来たのだが」
「可愛いからOKで」
「了解した」
こんな美少女にお兄ちゃん扱いされるとか至福すぎてヤバイだろ。正直なところ『お兄ちゃん』で無ければどう呼ばれても全然構わない。蒼兄だろうがお兄だろうが兄様だろうがお兄様だろうが兄さんだろうがばっちこいである。流石ですお兄様。お兄ちゃんだけはちょっとね。うん。まぁ、別に大丈夫だけど好き好んで呼ばれたく無いと言うか。
「なんか蒼、ラウラに甘くない?」
「いや、妹的な感じに思うとなんだかな」
「……まさかロリk」
「違うからな。断じて違うからな。つか彼氏に変な性癖の可能性を示唆するんじゃない」
そもそもロリコンはあいつだ、数馬だ。現在も年下である彼女と非常にお熱いと弾から聞いているが、趣味自体は相変わらずらしい。可愛い女子小学生を見つけるとつい親切にしてしまうとかなんとか。現状それが彼女さんにバレても優しくしてるとかで褒めてもらってるらしいが。信頼関係ヤバイよぉ……。
「蒼さんは幼女趣味でありましたの? ごめんなさい、少し距離を置かせていただいてもよろしいでしょうか」
「うん。誤解ですセシリア。違うって」
だからその養豚場の豚を見るような目をやめてください。貴女には果てしなき夜の女王様としての才能が眠ってるんだよ。将来セシリアと結婚した旦那さんは苦労するだろうなぁ……。いや、むしろドMの人なら我々の業界ではご褒美です理論で良い感じになるかもしれん。ドM怖い。ドM強い。
「なぁ、蒼」
「? どったの箒」
「覚悟はいいか。私はしたくない」
「え? いや、なにを──」
「姉さん、海来るってよ」
「はは、憂鬱だなぁ……」
知ってた(白目)。どうにも箒のテンションが朝から低い訳である。優しいお姉さんから連絡が来てそれを知っちゃったんですね。仕方無いよ、だって天災なんだもの。時には予測不可能回避不可能というまさに大規模自然災害並みの力を伴うから気を付けよう。IS世界で一番気を付けるのは千冬さんでもなければ一夏でもありません。天災です。
「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ。あと篠ノ之、その件について詳しく教えろ」
「分かりました織斑先生……」
千冬さんの言葉で全員がさっと座り、箒がため息をつきながら返事をする。青い空。白い雲。広い海。見える景色はこんなにも綺麗で清々しさを感じさせるというのに、一部関係者の心はどんよりと暗く曇っていく。美しい花に刺があるように、素敵なイベントで不穏は付き物なのだ。
◇◆◇
花月荘。これからの三日間俺たちがお世話になる旅館の名前である。あらあらうふふと笑う女将さんがとても若々しく見えました。多分あれは七不思議に登録されてもおかしくないレベル。年を取らない綺麗な女将さんのいる旅館! 的な。冷静に考えると男ホイホイになってしまうという事実。ちなみに部屋の方ですが、どこぞの世界最強クラスのお義姉さまが手を回したのか一夏と同じでした。
「うぁー……疲れた」
「はっや。まだ旅館に着いたばかりじゃん」
「いや、これは精神的にだな」
「だからってゴロゴロしない」
お前は俺のお母さんか。いや、まぁ将来的にはお母さんと呼ぶこともあるかと思うけど。うん。そうじゃなくてだな。何を考えているんだ俺は、全く。ひとつ息を吐きながらゆったりと立ち上がって、ぼりぼりと首をかく。
「……まぁ、でもあれだ」
「?」
「折角買った水着を使わないってのもあれだから、海行こうぜ、海」
「……ふふっ、そうだね。行こうか」
暑いなぁ……。この時期にしては些か暑すぎると思うんだがそこら辺どうなのよ太陽さん。さんさん。今のは太陽のサンと後につくさんに加え太陽さんさんという三つのものをかけた高等技術なので笑っておくように。ここテストに出すからな。
◇◆◇
更衣室に向かう途中で箒とばったり出くわし、そのまま一緒に歩いていた時だ。道端にこれは明らかに罠だとでも言わんばかりのモノが置いて……いや、刺さっていた。
「箒、あの、これって……」
「間違いない。やつだ」
「自分の姉をやつ呼ばわりって……」
まぁ仕方無いか、と唯一のフォローを即座に台無しにする一夏。それも仕方無い。こいつは中学のとある時点まで束さん相手に思うことは殆ど無かったのだが、ある日を境にこうなってしまったのである。当たり前だ。天災の被害を受けている人達は擁護など先ずしない。擁護したところで無意味だから。
「とりあえずどうするよ。抜く?」
「むしろ逆に押してみるか」
「いや、ここはいっそ潰すのも」
「「アリだな」」
議題の中心になっているのは眼前の道端に刺さっている白いウサギの耳。どう考えても天災のアレです本当にありがとうございました。スイッチでしょ? これスイッチなんでしょ? ちゃっかり引っ張ってくださいという張り紙までしてあるし。しかしそこは篠ノ之束被害者の会プレミアム会員である俺達だ。ただ引っこ抜くだけで終わらせる訳がない。
「ならせーので潰すぞ。蒼、一夏」
「OKっすよ箒」
「こっちも大丈夫」
「よし、
「「待って」」
俺と一夏。二人して声が重なる。ちょっと待って。待ってくれよ箒。
「どうした二人とも」
「いっせーのなのか? せーのじゃないのか?」
「どちらでも良いだろうそんなこと」
「良くないよ箒。ほら、タイミングって重要だし」
「そう言われればそうだな。ならば一、二の、三で行こう。それで良いか?」
ぐっ。サムズアップで答えた。こくりと箒が真面目な表情でうなずく。
「いくぞ、一、二の、三、はぁ──」
「「ストップ」」
「──ぁあッ!?」
突然の制止をうながす声により箒の繰り出されかけていた足は絶妙な軌道を描いて僅かに逸れる。どんっと地面に当たれば凄まじい衝撃音が鳴り響いた。どこからか「あっぶねぇぇぇぇええ」という声が聞こえた気もするが気のせいだろう。空耳空耳。
「なんだ次は」
「一、二の、三、はいなのか。一、二の、三じゃないのか」
「どちらでも良いだろうそんなこと」
「良くないよ箒。ほら、タイミングって重要だし」
「そう言われればそうだな。ではいっせーのでやろう」
ぐっ。サムズアップで答えた。こくりと箒が真面目な表情でうなずく。
「いくぞ、いっせーのっ、せぇぇ──」
「「ステイ」」
「ぇぇぇえええいッ!?」
バガンと凄まじい蹴りがまたもや地面に放たれる。瞬間に「うぉぉぉおおお!?」という声が聞こえた気もするが気のせいだろう。空耳空耳。
「今度はなんだ」
「いっせーのっせなのか。いっせーのじゃないのか」
「どちらでも良いだろうそんなこと」
「というかさっさと着替えない?」
「そうだな。俺たち何してたんだろ」
「ああ、本当に何をしていたんだか」
言ってそそくさとその場を離れる。全く箒は掛け声が合わないってどういうことだ。つーか蹴り強いな。流石は武道を嗜む大和撫子。そもそも俺たちは何のためにあんなことを繰り返していたんだろう。大事な何かを忘れている気もするが……まぁいっか!
がばっ。
「私の出番は!?」