っ
ぱ
い
月曜日。流石に遊びまくったせいか、ぐっすり寝ても疲れは完全にとれなかった。特に腕が痛い。エアホッケーのしすぎで。弾が持ち掛けてきた勝負なのだが言い出しっぺが一勝も出来ないって逆に凄いわ。一夏にはフルボッコにされ、ロリコンには容赦なく叩きのめされ、鈴にはフルスロットルでラブゲーム。俺? もちろん特に苦戦することなく勝ちました。弾は弱い(確信)。さすがはチワワと言ったところか……。
「これは死ぬ予感が……」
「私もちょっと腕が痛いかも……」
一夏とお互い腕をさすりながらため息をつく。確かに弾は弱かったが凄くない訳ではない。俺たち四人を相手にして休みなしの連続でゲームをしておきながらブンブンと振り回される両腕。技術さえあれば敵はいなかっただろう。腕だけムキムキなんじゃねえのあいつ。
「あの格好良さを女子の前で披露できたらなぁ、弾だってなぁ……」
「うん。まぁ、彼女を作れそうではあるよね」
「それにあれだ。鈴もはしゃいでたし、少しは元気になってくれる……と良いんすけどねぇ……」
「元気になると思うよ、多分」
多分とかつけんなよ、不安になるだろ。今でさえ普通に不安だというのに。これ以上不安にされたら一体どうなってしまうのか。きゃるるん! 私の名前は植里蒼! IS学園に通う高校一年生! ひょんなことから女性にしか動かせないISを動かしちゃって……女の子ばっかりの学校に入学することに! これから私、どうなっちゃうの~!?
「ホント、そういう気遣いは出来るんだから」
「気遣いじゃねえよ。あれだ、ただの押し付けだ」
「照れながら言っても効果ないよ」
「マママジで違うし。そそそんな訳ないし」
目をバタフライさせながら吃っても全然駄目ですね。むしろヘタレなのがバレる。いや、もう周知の事実か。俺がヘタレだということくらい。……自分で言ってて悲しくなってきた。泣きたい。涙腺崩壊までしちゃうレベル。やはりメンタルが豆腐ですね。
「そういうところも好きだけど」
「……に、二度も同じ手はくわねぇぜ。そんなの恥ずかしくともにゃんともないわ」
「噛んでるし。顔真っ赤だし」
「うるせぇバーカ」
いやぁ暑いなぁ! 六月だってのにどうしてこんなに暑いのかなぁ! 夏の到来早すぎィ! ついこの間まで寒かったかと思えば次は燃え尽きるほどヒート。季節の移り変わりは早いもんですね~、あっはっは。この燃えるような頬をなんとかしてくれよ。顔から火が出るってこういうことかい? 今ならフライパンも温めることが出来そうだ。
「拗ねないでよ」
「拗ねてねぇし」
「じゃあ照れてるの?」
「照れてもねぇよ!!」
ばっとそらしていた顔を向き直す。そうすればどうなるかは容易に想像のつくことで、ばっちり一夏と向き合うはめになった。瞬間にニコッと笑顔を向けられる。やめてくれ。その笑顔は俺に効く。さっきより若干温度上がってませんかね? これも地球温暖化のせいってやつなのだろうか。多分そうだろう。そうに違いない。あまりオゾン層破壊してるとレックウザさんがブチ切れて降りてくる可能性が微レ存。
「ほら、照れてるじゃん」
「……うっせぇ。しょうがないだろ」
「なにがしょうがないの?」
「お前可愛いんだし」
ぴたっと一夏の言葉が途切れる。見てみればかぁっと耳まで赤くなっていた。褒め言葉に弱いのはお互い様ってやつかね。俺も褒め言葉に弱い。一夏も褒め言葉に弱い。主にお互いからの。つーかあれだな。なんかやり返してやった感があって良いなコレ。やっぱりこいつ相手には主導権を握るに限る。
「……そういうの、反則だと思うなぁ」
「お前も同じようなもんだろ」
「そうだけど……むぅ……」
そう呻きながら悔しいとばかりに赤い顔で眉間にしわを寄せる一夏。褒めたんだから嬉しそうな表情くらいしてもええんやで? 人の好意は素直に受け取りましょう。若干捻くれてる俺が言うのもなんだけど。
◇◆◇
そうして迎えた朝のホームルーム。開始と同時に言い放たれた山田先生の言葉で、俺はすべてを悟った。どれくらい悟ったかと言うと天上天下唯我独尊なんて呟いちゃうくらいには悟った。思わずもう少しで悟りの境地を垣間見るところだったぜ。
『ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!』
あぁ、ついに来たか。来ちゃったかぁ──と。注目すべきは二名という点。うん。原作と同じ展開ですね。ならばその後の展開も簡単に想像できる。というか九割方予測はついた。幸いなことに俺を織斑一夏と勘違いする要素は皆無なのでどこぞのブラックラビットに殴られはしない。ハズ。多分。そこ確定じゃないのかよ。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
二人いる転校生のうちの一人、シャルロッ……シャルルさんが挨拶をする。まぁ、当たり前のように事情を知らないその皆さんは呆気に取られる訳で。一夏も含めて全員がぽかんと呆ける姿はさぞ面白いだろうなぁ。千冬さんが若干笑いそうになってるし。
「お、男……?」
誰が呟いたかそんな言葉に対してシャルロ……シャルルさんは。
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国から転入を──」
「きゃ……」
「はい?」
「きゃぁぁああああああっ!!」
沖縄料理ーッ!! それミミガー。テンションの跳ね上がった彼女たちの声は声を呼び、最早ソニックウェーブと言っても遜色ない。冗談じゃねえ。ソニックウェーブもソニックブラストもお断りである。タイミング良く音爆弾投げなきゃならないでしょうが。
「男子! 二人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「それに美形! 守ってあげたくなる系の!」
「お父さんお母さん夜の営みをありがとうっ!」
「本当イケメン! 本当イケメン!!」
どうして二回も言ったし。
「あー……騒ぐな。静かにしろ」
「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」
ピタリと声がおさまれば、自然と視線が向くのはもう一人の転校生。さらっさらの銀髪が腰辺りまである色々な意味でちっこい眼帯美少女。見るからに軍人っぽい立ち姿と雰囲気が凄い。あれだな、やっぱりドイツがナンバーワン。世界一ィィイイイイイ!!
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
マジで立ち姿がやべぇな。かっけぇ。下手な男より滲み出る格好良さがあるぞ。ピシッとしてるのがとても良いですね。ギロリと睨むような目付きの悪さが無ければ女の子として完璧だった。怖い。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「……」
はい、ということで二人目はみんな大好きラウラ・ボーデヴィッヒちゃんでしたー。ちっこくて可愛らしいですね。なんて言おうものなら大口径リボルバーカノンを突き付けられそうなので言いませんけど。むしろちょっとビクビクしてるまである。
「……えっと、以上ですか?」
「以上だ」
おどおどしながら聞いた山田先生へ無慈悲な返答。なんてことだ。ほら見ろ、あの人泣きそうになってるじゃないか。どれだけ無慈悲なのよ貴女。弱点特効と見切り+2の火力盛りなの? 無慈悲レギオス弓構成なの? なんて考えていたらばっちりと目が合う。え、嘘やろ?
「おい、貴様」
「はっ、はい」
「植里蒼、だな」
「そ、そうです、けど」
なになになんなのなんなんですかの三段活用。スタスタと歩み寄ってくるラウラさんに果てしない恐怖を感じる。BGMはおそらくダース・ベイダーのテーマ。千冬さん繋がりで。すっと伸ばされた腕がついっとネクタイを掴む。標的を固定してダメージを逃がさないようにする気か!? や、やめろ! 死ぬぞ! 俺が!
「──ネクタイが曲がっている」
「…………へ?」
いや、なんて?
「それでも教官に認められた男か。ふざけるな。強さが足りないのなら身嗜みくらい整えていろ。教官の評価を下げるつもりか」
「あ、はい。すいません……」
なんで俺は初対面の人に説教されてんだろ。まぁぶっ叩かれてないだけマシだと思いますかね。原作一夏はここでバッシーンいかれてたからな! うんうん。植里くんは凄くマシ。ポジティブだ。ポジティブシンキングだ植里蒼。
「それと、久々だな織斑一夏」
「あ、うん。久しぶり、ラウラ」
「言っておくが、私はまだお前を認めていない」
「えー……あれだけISのこと色々と教えてくれたのに?」
「当然だ。教官の身内が弱いままなどあり得ん」
……えーと、とりあえず一夏よ。お前いつの間にラウラさんと知り合ったの?
これも全部おっぱいってやつのせいなんだ。おっぱいを眺めながら小説を書いていたら、いつの間にかおっぱいになっていた。うーん、バッドおっぱい。でもナイスおっぱい。おっぱいに罪はない。罪があるのはおっぱいを見詰める僕たちなのだと、通り掛かった警官さんが言っていた。
ごめんなさおっぱい。