四月下旬。入学してからもう一ヶ月が経とうとしているこの時期になれば、ISの操縦だって少しは上達していた。……んなら良かったんだけどなぁ。やっぱり植里くんに才能なんて無かったのね。分かりきってたけど。千冬さんの飛行操縦実践の授業ではかなり厳しい言葉を投げ掛けられたものだ。もう少しでメンタルブレイクされるとこだったわ。ガラスのハートが砕け散る勢い。むしろ豆腐メンタルなんで豆腐が爆発四散するといった方が想像しやすいな。食べ物は大切に扱いましょう。
「だから、ぐいっとやってすぱーんだ」
「えぇ……(困惑)」
「箒、それじゃあ分からないよ」
そして現在。放課後の自主練習を終えた俺達はアリーナから寮へ戻るために歩きながら話していた。うむ。一夏の言う通りよ箒。感覚派はこれだから。シンパシーを感じればいいのか? このジャパニーズヤマトナデシコにシンパシーを感じればいいのか? トゥギャザーしようぜなのか? 無理だな。あ、ちなみに箒って呼ばれるのを許されました。なんかセシリアのことを呼び捨てなのに昔からの付き合いである自分が他人行儀なのは許せないとかなんとか。勿論最初の頃はセシリア共々口にするのに苦労したのは言うまでもない。
「むぅ。何故分からないのだ」
「蒼はこう見えて考えるタイプだからね」
「こう見えてってどういう意味──ん?」
と、そんなことを話していた時。不意に視線を向けた前方に立っている大きなボストンバッグを持った小柄な少女と目が合う。目と目が合う。え、なんなの? 瞬間好きだと気付いちゃったの? 首を傾げていればかの少女はスタスタと此方に歩み寄ってくる。あら、この子ツインテールじゃありませんか。小柄に見えただけあって背は低い。お胸の方は……し、将来に期待しとけばワンチャンあるから(震え声)。もしくは小ぶりな
「……あ」
「どうしたの蒼……って、あ」
「どうしたんだ二人とも……む?」
二人も気付いたようである。尤も認識の違いはあるだろうけど。一夏の場合はあのツインテール……はっ! という感じ。箒の場合は誰だあのちっぱいは……む? という感じ。憶測だから多分間違っているだろう。箒のキャラがブレブレなのはしゃーない。隠された素質をつついて開花できないかと思ってる。できないか。できないだろうなぁ……。はてさて、先程の特徴で最早向こうから近付いてくる女の子の正体は分かっている。てか気付いたら目の前にいるんだけど。え? 速くね?
「……」
「……な、なに?」
そいつは俺の顔をじいっと見詰めたあとに、左右へすっと視線を移す。そして再度俺へと目を向ける。言外に女を侍らせてるとはどういうことだと告げてきているような気がした。うん。分かる。分かります。昔の俺と付き合ってたお前がそういう態度をとるのは分かってますよ? 特に一年ちょっと前なのだからそれはもう天変地異でも起こったのかというのが感想だろう。自分で言ってて悲しくなってきた。
「ちょっと失礼するわね」
「え? ちょ、なっ……」
すっと顔に手を伸ばされて何をされるのかと
「……やっぱりアンタか」
「久々に再開した友人への態度がそれか」
酷くない? 千冬さんに砕かれた心の破片を踏みにじる勢いだよこの子。まぁズバズバ言うのが昔から変わってないことに喜ぶべきか悲しむべきか。こういうストレートな性格も嫌いではないので喜んどこう。おしとやかなこいつとか想像できない。明るく元気に前向きに。活発という言葉がよく似合う美少女(小)。なにがちっちゃいのかはご想像にお任せします。
「眼鏡ないほうがしっくり来るわね。外見はともかく」
「相変わらず口が悪いな、凰さん」
「相変わらず性格悪いわね、蒼」
なんだと貧乳。言ったら俺の体が無事ですまないので絶対に言わないが。ソースは五反田。中国四千年の歴史をその身に刻まれたくはないのだ。弾のやつは馬鹿だからなぁ……失言ってレベルじゃないもんなぁ。数馬? もう少し幼ければグッドだったらしいです。
「……はぁ。久しぶり、鈴さん」
「明らさまなため息ね。それともう一度」
「めんどくせえなお前。……よっす、鈴」
「よろしい。褒美としてこの眼鏡を返してあげるわ」
ははー、ありがたき幸せー。受け取った眼鏡をかちゃりとかけ直す。スッキリと晴れた視界ではしっかりとこいつを見ることが出来た。身長と胸は相変わらず、か。
「……アンタ今変なこと考えなかった?」
「いや、別に」
「ふーん。そ、ならいいけど」
あっぶねぇええええ。セーフッ! セーフッ!! こいつが妙に(胸のことに関して)鋭いのを忘れていた。それらは全部禁句だ。貧乳と漏らした弾は言わずもがな。貧乳はステータスとフォローした数馬だってその身に深い歴史を刻まれた。その点俺は紳士ですからそういう失言の類いをどうにかしないよう頑張ったわけです。ただ怖かっただけとも言う。
「しっかしあのアンタがねぇ……へぇ……こんな美少女たちをねぇ……」
「……別に侍らせてる訳じゃねぇぞ」
「少なくとも親しくはあるようだけど?」
「いやまぁそりゃそうだけど」
一人は彼女で一人はお前と同じく昔から付き合いがあったし。ハーレムとかそういうのではない。断じてない。一夫多妻とかはうちの嫁さんが認めてくれそうにありませんので。いや、認めてもする気は更々ないけど。
「……今気付いたけど、アンタの気持ち悪い喋り方も直ってるのね」
「うわー、傷付いたわー。植里くん心の傷負っちゃったわー」
「はいはい。ツバでもつけときなさい」
鈴ネキはほんま男前やな! 思わず惚れてまいそうやで! 嘘。冗談です。三歩後ろに下がって待機してるうちの世界
「ったく。アンタは何をしてんのよ。ISなんて動かしてくれちゃって」
「俺だって好きで動かしたわけじゃない」
「でしょうね。お陰でその唯一の男性操縦者と面識のある私は土下座されてまでここに行ってくれって頼まれたのよ。今思えば失言だったわね」
「あー……なんかすまん」
原作だと一夏だからウキウキるんるんだったものね貴女。劣化版どころか比べようもない俺で本当すいませんね。これも全部そこにいる篠ノ之さんって人のお姉様がいけないんだ。この世すべての理不尽は天災へと繋がる。これIS世界の常識だから。
「……別にいいわよ。久しぶりに顔を見るのも良いかと思ってたし」
「なら最初からそう言えよ」
「なによ。そういうの恥ずかしいじゃない。悪い?」
「……いや、別に」
恥ずかしいくせしてストレートに伝えてくるのは良いんですね。変なところで恥ずかしがる奴である。俺、弾、数馬が被害をこうむるのはいつものことだった。三人で凰鈴音被害者の会を作ろうかと話し合ったほどだ。内容は三人で集まってただひたすらに愚痴って愚痴って愚痴るだけ。ロリは良いぞ。彼女欲しい。リア充死ね。
「あ、あいつらは元気?」
「相変わらず。せいぜい数馬に彼女が出来たくらい」
「ふーん、あのロリコンが。……で、一夏は?」
「うん? ……あっ」
そこで思い出した。つーか何で忘れてんだよ。俺や弾や数馬が凰鈴音被害者の会の会員だとすれば、ここにいる篠ノ之箒や五反田蘭、凰鈴音はまさに、そう──。
「久しぶりだね、鈴」
「は? アンタ誰よ」
「信じてもらえないかもしれないけど、織斑一夏だよ」
「…………は?」
織斑一夏(♂)被害者の会の会員、である。
一夏とオリ主だけなら深すぎる絶望も、同じ傷を負った者がいれば軽くなるというものです
モッピー「コッチオイデー」
鈴ちゃん「」