お風呂に入ってスッキリすれば、あとは寝るだけ。今日は色んなことがあって大変だった。唐突な天災の来訪やらまともに使えない専用機やらセシリアさんとの試合やら一夏ちゃん無双やら二十人の精鋭に囲まれた天災の大脱出劇やら。もう体はくたくたです。くたくたしすぎてしなびちゃうまである。しなぁ。なんだかどっと疲れが襲ってきたので早急にベッドへ腰掛けた。眠い。寝たい。疲れた。疲レタス。レタスって食べると眠くなるらしいっすね。
「そういえば蒼」
「ん? なんだ一夏」
ぼーっとしていれば隣のベッドで待機状態の白式を弄っていた一夏から話し掛けられる。なんかようか
「今日、負けたね」
「おう。すっかりはっきりコテンパンだぜ。いやぁ、手も足も出ねーわ、流石に相手が相手──」
「悔しい?」
ピタリと会話が途切れる。うーん。そういう質問は反則だと思うんですよね。俺的にはこういう時に思うことってあんまりないんですけど。そもそも普通の人間は最初から負ける戦いに挑んでおいて悔しいなんて言ったりしない。途中でへんに希望を持たない限り。……へんに希望、持っちゃったんだろうなぁ。
「悔しいもなにも、格上相手にあれだけやれたら上出来だろ。何も言うことなし。蒼くんは頑張った!」
「悔しいんでしょ。はっきり言いなよ」
「……分かってんじゃねーか」
「今の蒼、明らかに態度がおかしいからね」
マジか。結構いつも通りだと思うけど。やっぱり付き合いが長いから分かるってやつか? 誤魔化すのはかなり得意な部類のつもりですし。感覚とかで判断されたのならたまったもんじゃない。そんなのどうやって誤魔化せばいいのかと。嘘もつけないし隠し事だって無理じゃないですかやだー! 詰み、投了、負けました。
「いや、分かってるよ? 初心者の俺がセシリアさんに勝てる訳ないってのは十分理解してる」
「うん」
「ぶっちゃけ俺みてーなのには似合わないし思う権利すら無いと思うよ? ほら、実力を鑑みればね」
「それで?」
「悔しくなんかねぇよバーカ」
「悔しいんだね、よしよし」
やめろよ頭撫でるんじゃねえよちょっと良い匂いするじゃねえか悔しいじゃねえか文句あるかゴルァ! 俺だって歴とした男の子ですもの。きちんと棒のついた童貞の道程を歩んできた男ですもの。馬鹿なことしか考えられない男ですもの。負けたら悔しいですよね。下手に勝てそうだったから余計。多分こういう奴がギャンブルのカモになるんだと思う。いやまぁ、一応他の理由もあるにはあるんだけど。
「その気持ちがあれば十分だよ。確かに機体は酷いけど、ああいうのは使い方次第で強くなるから」
「使い方次第って……才能も何もないのにどうしろと」
「もうちょっとスタイリッシュな作戦を考えるとかかな? 今日のアレは確かに有効だったけど」
うっわ、演技してたこともバレテーラ。そりゃあバレるか。それか千冬さんが見破って伝えてくれたのか。どちらにせよ一夏には今日の俺の動きが全てバレバレだったらしい。なんなのお前。俺のこと好きなの? 付き合ってるから当たり前でしたね。もう既に冷めていたら否定されるけど。
「まぁ、そういう訳で蒼は頑張りました。悔しい思いもしました。なのでご褒美をあげます」
「あ? ご褒美……ってうおい!」
「はい、ごろーん。ほら、力抜いて」
「……強引だな」
無理矢理横にさせられて出来上がった状態は一夏のふとももon俺の頭。所謂膝枕。や、やわらけぇ、やわらけぇよ。適度に筋肉があるんだけど女性特有の柔らかい感触が何とも言えない。嘘みたいだろ、こいつ一年ちょっと前まで男だったんだぜ。元来から女の子の素質があったんじゃないかと疑うレベル。女子力高すぎィ!
「……蒼」
「ん」
「格好良かったよ」
「……二度目だな」
「うん。二度目だよ」
さらさらと俺の髪を撫でながら一夏が微笑む。なんだかくすぐったい。でも決して嫌な感じではなく、どちらかと言えば気持ち良いほどだ。安心もする。これが母性ってやつだろうか。こいつに母性があるとかクッソ笑えるな、草不可避だわ。……とか、去年の俺なら爆笑しながら言ってたんだろうけど。今となってはそれすら不思議に思えなくなるんだから別の意味で笑える。大概俺も好きだね、こいつのこと。
「……すまん。良いとこ見せられない彼氏で」
「気にしてないよ。むしろ蒼らしくて良いかも」
「ぐっ……否定できねぇ」
実際俺が純粋に格好良かったら果てしなくコレジャナイ感があると思う。ほら、植里くんはどこか残念というか決まるときに決められないというか格好つけようとして失敗してるというか。結局残念ってことですね。一般人的転生者ですらもっと格好良く活躍できるぞ。例え転生特典が無かったとしても。
「あ、もしかして悔しがってるのもそれが関係してる?」
「………………いや、別に」
「へぇ~、そうなんだ~」
じろじろと見てくる一夏。きちんと否定したのに伝わらないってどういうことですかねぇ……。いや、別の意味ではしっかり伝わっちゃってますけど。だから嫌だったんだよこれ言うの。なんだよ意外とか言うんじゃねえよ少しはそれくらい思いますよだって大切な人なんだから仕方ないじゃん。
「……俺が弱かったらお前がなんか言われるかもしれねぇだろ。そういうの嫌じゃん、普通」
「普通は逆だよ、それ」
「逆ぅ? アホか、別に俺の事はどうでも良いんだよ」
「……はぁ」
俺の言葉を聞いた一夏が盛大なため息をつく。なにそのまた始まったよみたいな顔は。何も変なこと言ってませんよね? え? 存在自体が変? 転生者だからしゃーなし。なんて馬鹿げたことを考えていればさすさすと撫でていた手が一旦離れ、ぺちんと軽く頭を叩かれる。千冬さんとは大違いな優しい一撃。千冬さんも優しいっちゃ優しいけど。
「どうでも良くないって。蒼が私のことを思ってくれるのなら、私は蒼のことを思ってるの」
「しかしだな一夏、俺は──」
「問答無用。自分を大切にできない人は駄目」
「……分かった分かった。以後気を付けます」
おぉ怖いおぉ怖い。一夏は下手に怒らせると普段の態度からは考えられないほど怖くなるからな。あと極端に周りが見えなくなる。その割によくプチ切れを起こすから分からない。熱しやすく冷めやすいかと思えばガチ切れがデカイだなんて。これは本気のプッツンではない。ただのプッツンだ。というやつだぜ。
「……もうそろそろ寝よっか?」
「だな。さすがに眠い」
「うん。じゃあ、お休み、蒼」
「おう。お休み、一夏」
膝枕をやめてそれぞれのベッドに入り、電気を消す。体も頭もよほど疲れきっていたのか、直ぐに意識は落ちていく。とりあえず、お疲れ様。
◇◆◇
「植里さん」
「は、はい」
「先日は失礼なことを言ってしまい申し訳ありませんでした。今までの非礼、お詫びいたしますわ」
「い、いや、そんな大袈裟にせずとも気にしてないですからセシリアさんっ」
翌日。朝っぱらから来訪があったので誰かと思いドアを開けてみれば驚き桃の木山椒の木。居たのは昨日俺たちと激闘を繰り広げたセシリアさんである。一体何かと突っ立っていればこの有り様よ。一夏に負けたから渋々謝りに来たんですかね。確か勝ち負けでそんなことを言ってたなぁ。マジで実行するとは。
「見誤っておりましたわ。情けない男かと思っていましたが、意外とそうではないのですわね」
「え、いや……そんなことは」
「──あの一撃、かなり効きましたわよ?」
「あ、あは、あはは……」
い、いやぁ、そんなに効きましたか。それはなんとも嬉しいことで。
「今度また、お茶でもしましょう。貴方に少し興味が沸きましたわ」
「……別に、つまんない男ですよ、俺」
「それを決めるのは貴方ではなく、わたくしですわよ?」
「そうですけど……」
ただヘタレなだけの男だからね? 貴女の嫌うそこらの女に媚びへつらってる男共と変わってるところなんて無いからね? セシリアさんのお眼鏡に適えるとは到底思えません。
「それでは、朝早く失礼しました。わたくしはこれで」
「あ、はい。どもっす」
「あぁ、それとひとつ。セシリアで構いませんわ」
「……ま、マジっすか」
難易度高くね?
「ではまた、
「……じゃあまた、せ、セシリアさっ……セシリア」
「ふふっ、ええ」
にこりと笑って去っていくセシリアさn……セシリア。はたして名前を呼び捨てに変える意味はあったのか。友人感覚みたいなものかね。恋心は当然のごとくあり得ないとすればそれくらいしかない。つーかあれだろ。ちょっと面白そうだからちょっかい掛けられてるだけだろ。知ってる。
「……仲が良さそうだねー」
「うおっ!? ……なんだ、一夏か。ビビらすなよ」
「別にビビらせてないって。……にしても、セシリアさんと良い感じじゃなかった? ん?」
「ばっかお前、そんなんじゃねえよ」
その後に部屋で思いっきりイチャついたのは内緒。滅茶苦茶セックスはしてない。ほら、俺たちってピュアな恋愛をしてますんで。
◇◆◇
「──ふぅん、ここがそうなんだ……」
最後のって一体誰なんだろう……(すっとぼけ)
分からないなぁ、誰なんだろうなぁ、とりあえず貧乳はステータスだなぁ。
作者は元気だって何度言えば。無理なら更新してないヨ!