現在。寮の一室。詳細に述べると俺と一夏の部屋。そこには三人の男女が微妙な空気の中座っていた。比率は男一人に対して女は二人。修羅場かな? それとも3Pかな? いいえただ気まずいだけです。床で正座をしながら向かい合うのは一夏と箒さん。そこから少し離れたベッドの上で教科書と睨めっこしている俺。ふむ。偉いやろ? 授業の復習をきちんとする植里くん偉いやろ? ドヤァ。というのは冗談。授業内容が全く分からなかったので理解しようと教科書見てるだけなんです。落ちこぼれ植里くんダサい。
「……えっ、と……」
「……な、なんだ」
そして二人の間に流れる空気が本当気まずい。どれくらい気まずいかと言うと先生のことを間違えて「お母さん!」と大声で言ってしまった時くらい気まずい。むしろ恥ずかしいですね。レパートリーは無駄に豊富。お母さんから始まり母さんだのママだのマミーだのマイマザーだのマザー・テレサだの。最後だけちょっと違いますね。いや大分違う。マザー・テレサなんて呼ばれたら先生も対応に困っちゃうよ。
「……ご、ご趣味は?」
「う、うむ。武道を嗜んでいる」
「お見合いか」
思わずそう突っ込んでしまった俺は悪くない。ご趣味はって。ご趣味はってお前。お見合いか。お見合いなのか? いや、お見合いなんだろう。箒さんも真面目に答えないで下さい。余計ややこしくなる。加えて百合百合しくなる。箒さんが百合に目覚めるだって!? いや、むしろ変態に目覚めるべきだと思うんだ(提案)。箒さんは人間的リミッターを外せば素晴らしい人材になると俺の第114514感が告げている。円周率って素晴らしいですよね! おっ
「普通に話せ普通に。なんでそんな緊張してんだ」
「えっと、じゃあ……き、休日の過ごしかたは」
「た、鍛練に費やすことが多いな」
「お見合いかっつってんだろーが」
なんでそんなお見合いみたいな雰囲気だしてんの。お見合いなの? お見合いなんだな? よろしい、ならばお見合いだ(意味不明)。そもそも君たちは色々と話すためにそうしているのに全く話せてないじゃないか。わけがわからないよ。どうして人間はそんなに(ry。
「……一夏」
「あ、はい」
「……本当に、一夏なんだな?」
「う、うん。そうだけど」
その返答に箒さんは大きくため息をついた。最終確認というやつか、自分の心に決着をつけるためのものか。どちらにせよこいつが織斑一夏ということは既に周知の事実だ。なんせあの織斑千冬が猫可愛がりしているのだから当然とも言える。お陰で俺よりも注目されてましたよこいつ。やっぱり原作主人公には勝てませんわ。根っこから違うよ根っこから。神は二物どころか全てを与えました。
「あぁ、鬱だ。死のう」
「やめなさい箒さん」
「そうだよ箒。私が女になったくらいで」
「くらいですむか大馬鹿者っ!!」
そうそう。すむわけねーだろ阿呆一夏。箒さんは初恋の相手が女になってて傷心なんですよ。気付いてさしあげろ。……はっ、もしかしてこれはあれか。傷心の箒さんを優しく慰めてあげることでフラグが発生するパターンか。植里くんハーレム来るー? いや来ない。箒さんはそんな単純な女の子じゃないから。そも他人事のように言ってるけどこれって俺もちゃっかり関係してんのよね。一夏と付き合ってる訳だし。
「? なんで?」
「そっ……それは、だな……」
「箒? どうしたの、顔赤いよ」
「なっ、なんでもないっ!」
皆さん見ました!? リアルツンデレですよ! ツンデレ!! デレ要素少ないけど。なんかもうこいつら見てるだけでいいわ俺。IS学園とか決闘とか授業とか全部放棄して見ていたいわ。箒だけに。……審議中。
「わ、私は自分の部屋へ行く」
「あっ、箒」
ばたーんと閉められる部屋の扉。そう上手くいってはくれないか。やっぱり蘭ちゃんは凄かったんやなって。堂々と告白するあのメンタルには感服です。ああまでやらなくていいと思うけど、もうちっと雰囲気を良くしたいのも事実。どうしたものか。あ、こんなこと考えてるのって転生者っぽい。転生者設定がきちんと仕事をしている……だと……。
「……なんだったんだろ」
「分からないお前が怖いよ」
「え?」
イケメンなんだからモテる自覚くらいしろってんだ。俺みたいな非リアならともかく。ふはは、自慢ではないが伊達に一夏と付き合うまで一度も女性からアプローチをかけられたことが無いんだぜ。本当に自慢じゃなかった。心が痛いよ。
◇◆◇
「ふあぁ……」
眠い。思わず出た欠伸がそれを主張してくる。腕時計を確認すれば九時を少し過ぎた頃。あの後食堂で飯を食ってから先に風呂へ入らせてもらい、それから今までずっと教科書を読んでいたわけだから──大体一時間ほどもこうしていたらしい。やべぇ。俺ってば案外集中力続くのね。ゲームばかりしていたからだろうか。ちなみにゲームが上手い奴は大抵勉強も出来る。ちょっと腹立つのはご愛嬌。
「──あれ、蒼。まだやってたの?」
「ん、おう、一夏か」
風呂から上がって声をかけてきたそいつは、意外そうな表情でこちらを見る。なんだよ、そんなに俺が真面目なのがおかしいか。むっとした顔で見返してやると苦笑された。ふむ。わけが分からん。
「蒼でも難しいことはあるんだね」
「おい、それは俺に喧嘩売ってんのか。買うぞこら。五百円で」
「違うって。ほら、中学の時は殆ど勉強してないくせに毎回一位とか二位だったじゃん」
「ちょっとはしてるわ。一夜漬けだけど」
テストは授業さえきちんと受けていれば前日の一夜漬けで意外とどうにかなる。ばっちり覚えてぐっすり寝る。そうして次の日にちらっと見返せば大体は覚えてる。この状態でテストを受けると「あ、これ昨日やったところだ!」と進研ゼミの漫画的展開で問題が解けるわ解けるわ。尚、時々「あ、ここ昨日やったけど……思い……出せない……ッ!!」という地獄が待ち受けている模様。思い……出した!
「それで、どこが分からないの?」
「あー……こことか」
「どれどれ、ちょっと見せて……あぁ、これはね」
後ろに回り込んだ一夏が肩越しに教科書を覗き込んでくる。……近ぇな。近すぎてシャンプーの香りが漂ってきてんじゃねえか。あれ、そもそもここのシャンプーってこんな良い香りだったっけ。やばい。なんか知らんけどやばい。つか当たってんだよオイ。オイコラ。おっぱいが当たってるんですよ一夏さん。後ろからもたれ掛かるんじゃねえ。精神衛生上とてつもなく厳しいので勘弁してください。感想? あ、はい。とっても柔らかいです。
「──って蒼? 蒼ー? 話聞いてる?」
「あ、うん。聞いてる聞いてる」
「……じゃあ今言ったところ音読してみて」
「えっと……あー……」
「……」
「すいませんでした」
ぎゅっと軽く頬をつねられる。
「いたた」
「ちゃんと聞いててよ。二度も言うのは手間だし」
「す、すまん……」
「……」
いやだって仕方ないでしょう。背中あたりに柔らかなそれが当たってるんですよ? こちとら息子を起こさないよう必死でそれどころじゃありませんよ。話なんて入ってくる訳がねぇ。ふぇぇ……童貞には刺激が強すぎるよぉ……。あっはい。まだ童貞です。卒業してません。僕たちは
「顔、赤いよ?」
「ッ……お、お前、分かってやってんだろ」
「一体なんのこと?」
ぐぬぬ。こいつめ、なかなか良いパンチ打ってくるじゃねえか。人が強く出られないからって押してきやがって。
「当たってんだよ馬鹿野郎」
「あててんのよ……みたいな?」
「やめろよ……」
「とか言いながら真っ赤だね」
うっせ、ほっとけ。
あん
ぱん