「ちょっとよろしくて?」
「ん?」
二時間目が終わった休み時間。必死で理解に努めていた脳みそはほぼ限界。加えて精神の方も最初からゼロに等しい。そんな極限状態でぐったりする俺へと声をかける勇者がいるとは思わなかった。つーか忘れてた。しかもここ唯一の男子生徒だったり彼女持ちだったりと色々アレな部分があるのにだ。やっぱりこの人ってメンタル強いのね。どうかその強さを少しでも分けてもらいたい所存である。
「あー……はい。一応は」
「……随分と適当なお返事ですわね」
や、さーせん。俺ってばこう見えて人見知りしちゃうタイプなの。貴女のことが綺麗すぎて緊張しているだけだから気にしないでくれ。そんなことを言えたのなら俺の人生180度変わってた。言えないからこうなってるんだよなぁ……。キザな台詞は言う人によって印象が変わるから仕方ない。
「まぁいいですわ。大方、イギリスの代表候補生にして入試首席のこのわたくし、セシリア・オルコットに話し掛けられて緊張しているのでしょう?」
「………」
セ尻ア・オルコット?(難聴)それはまた良い尻をしてそうな名前で……え? 違う? あ、はい。しかしながら中々にインパクトのでかい初対面である。自己評価高すぎてやべーな。これくらい大きな態度がとれる人間に俺もなりたいものだ。到底無理でしょうが。はてさてこの金髪美少女。名はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生で入試首席。ISはブルー・ティアーズ。付け加えるなら極度のメシマズだったり。なぜそんなことを知っているかって? そりゃもちろんこの人原作ヒロインです本当にありがとうございました。
「ちょっと、訊いてますの?」
「あ、はい。すいません。少し緊張してまして」
「なら仕方がありませんわね。相手がわたくしなんですもの」
ふふんと胸を張るセシリアさん。同時に日本人からすると十分に大きな二つの果実がぽよんと揺れる。でかいすごいやばい。なにより眼福すぎる。ずっと見ていたくなる素晴らしさですね! と言っても所詮はヘタレチキン豆腐メンタル。揺れた瞬間にさっと目線を他所へずらした。これだから童貞は……(呆れ)。どどっどどど童貞ちゃうし! 冗談でもそんな事言ったら約一名に殺されそうですがね。てか現在進行形で冷めた目を向けられてる。こいつまたかとでも言いたげな目だ。
「あら、どうかなされましたの?」
「い、いや、なんでないっす」
「そうでしたか。……それにしても」
言って腕を組みながら此方を見下ろしてくるセシリアさん。やだ、女王様みたい。なに? 今から鬼畜プレイでも強要されるんですかね。豚のように鳴きなさい、ほら、ほらぁ! しぱーんしぱーん。ぶひぃぃぃぃぃいいいい!! みたいな。ねぇな。あったとしても俺は絶対に屈しない。え、SMプレイになんか負けないんだからっ! 数日後、そこには豚と成り果てた植里の姿が。なにそれ怖い。
「貴方みたいなのがISを……本当ですの?」
「い、一応事実です、よ……?」
「……その弱々しい態度、なんとかなりませんの?」
「えーっと、その、すいません……」
なんで俺謝ってんだろ。いかんいかん。相手のペースに呑まれている。こんな様では一夏を口で言いくるめるなど夢のまた夢。到底無理だ。つっても初対面の女の人はなぁ……原作知識で知っているとは言えなぁ……まだ若干苦手でなぁ……。うん。しゃーなし。今まで近くにこういうタイプの人が居なかったのも関係ある。嫌いではないんだけど、少し苦手というかなんというか。女子的にそれは嫌いに入るとか言っちゃいけない。俺は歴とした男の子ですから。間違っても男の娘ではない。
「もういいですわ。唯一男でISを操縦できると聞いていましたからどんな人かと思えば……期待はずれですわね」
「あ、あはは……」
ピクリと眉が動く。一夏の。いやなしてお前が怖い顔してんの。罵られてるの俺。馬鹿にされてるの俺。貶されてるの俺。全部俺。原作だとお前が受けたあれこれ全部受け止めてるの俺。やべ、こう思うと俺カッケー。ふふふ、なんか今一番転生者っぽいことしてるわ。セシリアさんと話してる俺KAKKEEEEEEE! けどまともに対応出来てないからダサイ。俺DASEEEEEEEE! 結局はいつものクッソ格好悪い植里くんじゃねーか。訴訟。
「けれどもわたくし
「そ、そうですか」
「ISのことで分からないことがあれば聞いてくれてもよろしくってよ?」
「あ、ありが──」
「その必要はないよ」
ガタリと席を立ってそう言う一夏。なんてこったい。どうしてそこで立つのか。もう少しでこの人を穏便に追っ払えたんだぞ。結構神経使ってたんだぞ。ちょっと突付いたらハリセンボンみたいにぼんってなりそうだから気を付けてたんだぞ。うむ。今度からセシリアさんのことはハリセンボンさんと呼ぼう。てかこの人マジで苦手になりそうなんですが……。
「貴女は……あぁ、恋人の方ですか」
「うん。そう、そこにいる植里蒼の
「セシリア・オルコットですわ」
「え、えーっと……」
なに、この雰囲気。やべぇ。セシリアさんは普通なんだけど一夏の方が普通じゃない。やべぇ。これは駄目な空気。やべぇ。そこはかとなくマズイ気がする。やべぇ。さっきから俺の本能も必死で「やべぇ」って連呼してる。やべぇ。警鐘をカンカン鳴らしまくってる。やべぇ。なんなら鳴らしすぎて鐘が潰れるんじゃないだろうかと言うほど。やべぇ。やべぇやべぇ言い過ぎてやべぇって何だっけと思ってきた。矢部ぇ。それはちょっと違うんじゃないかなって。
「まぁ、そういうことだから。蒼には私が教えることになってるだよね。ねぇ、蒼」
「……お、おう。そうだな」
「だから、セシリアさんの手助けは別にいらないかなって」
「……いらない、ですって?」
あれれー? おっかしーぞー? さっきまで普通だったセシリアさんの様子も変わった。嘘やろお前煽り耐性ひっく。ちょっとの刺激で爆発するセシリアさんはまるでニトロとかそこら辺のものっぽい。おっぱい揉んだら一体どんな反応見せるんでしょうねぇ……。
「貴女、わたくしが誰だか知ってそれを言っているんでしょうね」
「もちろん。イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんでしょ?」
「それで分かりませんの? 一介の生徒と代表候補生の差は歴然だと思いますが」
「大丈夫。私も代表候補生だから」
その言葉に教室が静まり返る。まさに今明かされる衝撃の事実。一夏は代表候補生だった。え? いや、ちょっと待て。何がなんでもおかしい。あの一夏が? 女になってISを使い始めた一夏が? 元男の一夏が? 代表候補生だって? うん。ありえない。幾ら一夏と言えども一年経たずして代表候補生入りなんてチートにもほどがある。よってこれは一夏のついた嘘だ。嘘なんだ。嘘だよね? 嘘だと言ってくれ。
「だ、代表候補生が二人も!?」
「しかも植里くんの彼女さん!!」
「世界最強の夫婦……」
「リア充がっ……リア充がっ!」
「世の中は不平等。はっきり分かんだね」
「何故だ……一夏ぁ……」
嘘だろ承太郎……。
「あら、そうでしたか。これは失礼しました。なんせ極東の島国の情報なんて手に入りづらいもので」
「ふふっ、同じ島国でもご飯が不味いところよりかはマシだと思うなぁ」
「……」
「……」
火花が飛び散ってる。やだ、なんか怖い。女の子同士の戦い怖い。あれ、一夏って一応元男だよね? 女に馴染みすぎじゃないっすか。いや、それは前からだな。しいて言うなら女の子らしさが良い意味でも悪い意味でも増している。ホルモンバランスの影響とかそういうのですかね? 俺にはよく分かりません。そんな時、まるで天から使いが降りてきたかのように、グラードンとカイオーガの戦いを静めるレックウザのように、救いのチャイムは鳴り響いた。サンキューチャイム。
「……また後で来ますわ、織斑一夏さん」
「どうぞご自由に、セシリア・オルコットさん」
とりあえず色々と言いたいことはある。いつの間に一夏が代表候補生になっただとかどうしてなれたのかとかセシリアさんのおっぱいは揺れてたとか。けれども一言だけに絞るとすれば。
女って怖い。
モッピーはいずこへ。