重く響き渡る音が、どこからともなく聞こえる。
「除夜の鐘を聞きながら飲む酒も良い。そうは思わないか、植里」
「千冬さん。俺未成年です」
いや、精神的には成人ですけども。そう思うも目の前に座る酔っ払いは片手に握り締めた酒瓶を見詰めるのみだ。焼酎らっぱ飲みとかこの人大丈夫かね。世界最強だから大丈夫なんでしょう。今日は大晦日。もう少しすれば元旦。つまりごんごんと先ほどから鐘が鳴らされている現在の時刻は十一時半を回ったくらい。本来ならこの時間を家でゆっくり過ごすつもりだったのが、とある理由で態々織斑家にて過ごしている。
「いや、植里というのももうアレだな。蒼と呼んでもいいだろう?」
「……別にそれは構いませんけど」
「蒼。ふむ、植里の方がしっくり来るな」
「もうどっちでもいいです」
蒼でも植里でもBLUE SKYでも好きに呼んでください。出来れば普通でお願いしたいけど。誰が好き好んでBLUE SKYだのBLUEBERRYだのRASPBERRYだのVERYNICEだのと言われなければいけないのか。後半とか全然蒼と関係無いじゃねえか。ふざけんな。VERYNICEに至っては最早褒めてるだけという。人のつけるあだ名って結構意味不明なものが多いよね。
「ならば蒼と呼ばせてもらおうか。なんせもう他人では無いのだからな」
「……確かに知り合いですよね」
「違う。家族だ」
「家族っすか……」
どもー! 植里蒼ならぬ織斑蒼でぇっす☆今日からみんなヨロシクねー! という訳じゃない。むしろそんな事態に陥ったらどういうことだと問いたい。養子縁組かな? もしくは婿養子。女性優位のこの世界だと普通のことだから問題はない。俺が婿に入るという問題はあるが。そこ気にしちゃいけないのよね。
「うちの一夏と結ばれたのだから当然だな」
「いや、まぁ。そうはそうですけど」
「違うのか?」
「違わないっすね」
今明かされる衝撃の事実ゥ! 植里くんは一夏の告白をOKしていた! なになに? そこら辺の描写を詳しく? 特に面白くもなんとも無かったのでカット対象です。男が吃りながら『……えっ、と。その、なんつーか……あー。うん。まぁ、はい。よろしくお願いします』なんていうシーン誰も見たくないだろうよ。マジで誰得。このヘタレ系チキン主人公どうにかして。さっさと件の美少女に刺されてからバラバラに切り分けられてNiceboat展開するしかない。Niceboat。
「正直、お前がそう簡単に了承するとは思っていなかったんだが」
「……ぶっちゃけ、あの容姿であんなに熱い告白されたら断れませんよ」
「それが理由か。つくづくお前は変わってる」
「変わってますかね」
人間ってそんなもんだと思います。見た目的にクリティカルヒットした後に追い討ちをかけるような言葉でのダイレクトアタック。ただでさえ女の子に告白された回数ゼロだったのにあんなことされちゃあ見る目がガラリと変わるもんですよ。自分でもチョロイって思う。まだ会ってないけどセシリアさんよりチョロイ。この作品一番のチョロインは俺だったんやな! うせやろ。
「あぁ。なんせ私やあの馬鹿をただの女性と同じように見ているからな」
「……え。それって変っすかね?」
「篠ノ之束と織斑千冬を見れる奴などお前を入れて片手で数えるほどしかいないさ」
「なんか良く分かんないすけど」
そこに居るんだから誰でも見えるでしょ。いや、束さんの場合は光学迷彩マントとか作って姿くらい消せられそうだけど。流石だな大天災。人類史上最も質の悪い歩く自然災害と勝手に呼ばせてもらっているだけはある。あの人の一挙手一投足で新たな法則が次々と生まれてんじゃないの。
「もしもお前が私たちと同じ年代に生まれていれば、この世界も少しは変わっていたかもしれん」
「そんな大層な人間じゃねーっすよ」
「それもそうか。お前じゃあな……」
「あの、だからって即座に否定するのは……」
ぼくの心が砕かれちゃうのぉぉおおお! やめて。砕かないで。ダイヤモンドは砕けない。よって黒曜石は砕けない。うっ、頭が(トラウマ)。
「体も弱い。心も弱い。辛うじて意志は少し強い。あの馬鹿が切り捨てそうな一般人じゃないか」
「本当に切り捨てられて良かったんすけど」
「お前の何かが引っ掛かったんだろう」
「マジっすか……」
いったい俺の何があの人の琴線に触れたんだ。それさえ隠しておけば俺は今でも平和な生活が出来ていたというのに。非日常が多くなると日常が恋しくなる。アニメと同じだな。ファンタジーや厨二バトルものばかり見ていると時々ほんわか日常ものが見たくなってくるのだ。より詳しく言うと心がぴょんぴょんしたくなる。ご注文はうさぎです。なんて考えていればいつの間にやら新年明けました。はい。くっそ適当でぐだぐだな年越しですね。しかもまだ蕎麦食ってねえし。
「蒼~、初詣行くよ~」
「ほら、お呼びだぞ蒼」
「……うっす。そんじゃ行ってきます」
「車と兎に気を付けておけ」
車はともかく兎に気を付けなければいけないのか。そう思ったが直ぐ様ぴんと来る。おっぱいラビットのことですね分かります。ご注文はうさぎだけどお前じゃないんだよなぁ……。性格が好みじゃないのでチェンジで。チェンジでお願いします。
「行こっか、蒼」
「おう」
兎よりワンサマ。はっきり分かんだね。
◇◆◇
「やっぱり寒いね……」
「この時間だし当たり前だろ」
新年迎えた直後。深夜。こんな時間帯でも初日だから当たり前のように人は多い。まるで人がゴミのようである。これなら三分間待った方が良かったか。いかん。それだと目をやられる心配がある。至近距離でバルスとか言われた日には失明は免れない。例えグラサンをかけていたとしても。バルス!
「そういえばおみくじどうだった?」
「凶。予期せぬ事故が起きるとかなんとか」
「うわぁ……結んできた?」
「勿論。お前は?」
「大吉。予期せぬ幸せが訪れるとかなんとか」
「この差はなんだ……」
やだ、泣きたい。
「あとは拝んで帰ろっか」
「だな。これでも受験生ですし」
不可解な天災の行動。おみくじで出た結果。補足として僅かに存在する原作知識。それらを総合した結果として勉強しても全部無駄になる予感しかしないけど。多分気のせいだって信じてる。気のせいじゃないと冗談抜きで禿げかねないので勘弁してください。ハーレムは原作だけで十分なのよ。
「神様。いえ、ピッコロさん」
「それは違うよ」
「じゃあ桂馬さん」
「落とす方の神様……」
桂馬さん本当尊敬します。落とし神モードの使い方を是非ご教授願いたい。六つ同時とか明らかに人間やめてる。ならほど、だから貴方は落とし神なのか。リアルにも持ち込めるギャルゲスキルの数々に震えた日々が懐かしい。それはともかく賽銭入れて鈴を鳴らし二礼二拍手一礼。願い事は……うん。まぁ、妥当に。後が支えているのでさっさとその場を後にする。寒い寒いと呟く一夏の手をきちんと握りながら帰路につけば、ふとそういえばなんて問い掛けられた。
「蒼はなんてお願いしたの?」
「そういうお前は?」
「蒼とずっと一緒に居られますようにって」
「そ、そうっすか……」
やっべ。なんだこれ。凄い恥ずかしいんですけど。意識し出した途端にこれですか。確かに辛いわ。ハーレム主人公が鈍感になるのも頷ける。関係ねぇな。しかも一夏によると俺も人のこと言えないらしい。お前もなと言い返した自分の選択肢は正しいと思う。
「それで、蒼は?」
「あー、えっと、だな。……お、お前の幸せ」
「それならもう叶ってるよ」
「え? いや、マジで?」
聞き返すと一夏が握っていた手にぎゅっと力を込めて指を絡めてきた。いわゆる恋人繋ぎ。ふぇぇ……童貞には辛いシチュエーションだよぉ……。
「だって、蒼と一緒にいるのが私の幸せだから」
「…………あっそ」
ナチュラルに恥ずかしくなる言葉はやめろ。照れて何も言えなくなるから。
最近もう駄目だと思った瞬間。
「今日も書かないとな……あ」
書きたいんじゃなくて書かないとって時点で既にモチベが尽きかけてるんだよなぁ……。だから駄作者なんだよコイツ。ほらさっさと書けや(セルフ)
一応学園やります。モチベ? HAHAHA、睡眠時間の二時間や三時間削れば何とかカバー出来るさ!(白目)