「じゃあ五反田。5×3は?」
「先生、馬鹿にしてるんですか? 中学生ですよ? 俺でもそれくらい簡単に出来ます」
「おぉ、なら答えは?」
「──18」
「ちょっと小学校行ってこいお前」
授業中。教卓に立つ先生(ハゲ)の話をぼうっと聞きながら板書する。かりかりとシャーペンを走らせていればクスクスという笑い声が聞こえてきた。また弾が馬鹿解答をしやがったせいで。略して馬解答。5×3が18ってお前どういう計算してんの……(困惑)。遂に脳内思考が数学の法則を越えでもしたのか。多分あれだ。五反田数学では5×3=18なんだよ。凄い数学ですね(白目)。
「先生」
「なんだ御手洗」
「俺も小学校に行きたいんですが」
「座れ」
悔しそうに数馬が着席する。いやなにを本気にしてんだお前。お兄さんもビックリだよ。弾ならまだしも数馬を小学校に送り込むとかアウト。事案発生。いや、彼女がいるからそれは大丈夫か。問題なのはその彼女さんとイチャイチャしないかという点だな。普通に考えても無理でしょう。結果。数馬を小学校へ行かせなかった先生(ハゲ)は有能。やはりハゲは優秀である。また髪の話してる……。
「ついでだ御手洗。5×3は?」
「……15です」
「よろしい。が、どうしてそんなに嫌そうに言う」
「数字的に対象じゃないので」
流石っす数馬さん。略してさすかず。たかが数字にも己の好みを向けるその精神、思わず憧れちゃいそうになっちゃったぜ。よく考えたらロリコンなので憧れるのもあれだと正気になって思ったが。それでも数馬は実際格好良いので仕方無い。だから彼女も出来る。比べて五反田数字の創始者である五反田弾くんを見てみよう。イケてる容姿。まるで彼女の一人くらい持ってますというような雰囲気。結構な身体能力。されど奴はマジでモテない。本当モテない。可哀想なくらいモテない。 モ テ な い ( 確 信 )
「…………なぁ、一夏」
「え、なに?」
前を向いたまま小声で後ろのそいつに話し掛ける。はてさてクラスの馬鹿二人が馬鹿やってる間、というよりその前から少し気になっていることがあった。恐らくは俺の自意識が過剰なだけだろうが、それでも一度気にしてしまうとどうも引っ掛かって仕方無い。ならば正直に吐いてしまった方が授業にも集中できて悩みも解決できるというまさに一石二鳥。ちらっと視線だけを少し向けて問い掛けた。
「なんか背中に視線を感じるんだけど」
「……気のせいじゃない?」
「……なら良いんだけど」
そっかー、気のせいかー。そっかそっかー。遂に俺もヘタレ・非リア・コミュ障に加えて自意識過剰【new!】が発動しちゃった訳ですね。マイナススキルのオンパレード。最早なんらかの能力に目覚めちゃっても良いんじゃないかと思うレベル。例えば大嘘憑きとか荒廃した腐花とか。いや、先ずは親にガソリンを飲まされてからですね! 無理に決まってんだろJK。
「……ふむ」
「……、」
視線を感じる、だと(驚愕)。しかし分かる。分かるぞォ。この背中に突き刺さるような視線ッ! まるで俺の動作を事細かに観察するような感覚ッ!! 間違いか? いいや違う。断じてこれは間違いなんかじゃあない。ふっふっふ……甘い。甘いぞォ。MAXコーヒーよりも甘いッ! ──そうだろう、織斑一夏。貴様、見ているなッ!!
「い、いきなり振り向いてどうしたの?」
「とぼけるんじゃあねえぜ。お前今、見ていただろう?」
「……なんのこと?」
「植里、織斑。授業中は静かに」
怒られちゃったよ。ちくしょう。てっきり視線が強すぎて授業中ってことを忘れてたぜ。しかもこんな時に限って馬鹿共が騒がない。騒げよ、ほら、もっと。もっと熱くなれよぉぉおお!
「…………む」
「…………、」
視線の方が熱くなりやがった。ええい、違うわ。お前じゃないんだ。熱くなるのは周りの奴等の方でお願いします。別に熱い視線とかいりません。いらないんだよ。てかマジで誰からの視線だ。背中に穴があきそうなんだけど。もしこの視線の主がカルナさんなら多分死んでるぞ。真の英雄は目で殺す。目からビーム凄いっすね。
「いーちかちゃーん?」
「な、なに?」
「見るのやめよーね?」
「べ、別に見てないよ……?」
嘘つけ。そんだけ分かりやすく狼狽されて嘘と信じれるほど俺は馬鹿じゃない。バレバレだっつーの。アホだアホ。ここにアホがいるぞ。なんだ、いつものことジャマイカ! つまり別に何の問題も無かったんですね! な訳ねーだろぶっ殺すぞ。
「ふーん。ほうほう、まだ言うか」
「え、えーっと……」
「おい植里。前向け」
「……うす」
まーた怒られてるよこの馬鹿。学習しろって奴だな。全く馬鹿馬鹿しい。そうだ、京都へ行こう。違う違う。そうだ、もう気のせいでよろしい。気のせい気のせい。俺の自意識過剰! はい、終了! 閉廷! 解散! もうそれでえーやん! いーんだよ、グリーンだよ。
二時間目、国語。
「つまりここの文法が……」
「……ふぅ」
「……、」
三時間目、英語。
「はい、ここの英文訳分かるやつー?」
「……ふんふむ」
「……、」
四時間目、体育。
「死ねぇ蒼ォ!」
「くたばれ弾!」
「随分殺伐としたキャッチボールだな……」
「……、」
昼食、昼休み。
「蒼ー、グラウンド行こうぜー」
「すまん弾。宿題やってないから無理」
「大丈夫大丈夫。俺もやってないから☆」
「全然大丈夫じゃねーじゃねえか」
「……、」
五時間目、美術。
「好きなもの描いてこーい」
「適当に風景でいいよな……」
「……、」
六時間目、音楽。
「今日はビデオ見まーす」
「ビデオってまだ残ってんのか……」
「……、」
そして放課後、帰路。
「なぁ、一夏」
「なに? 蒼」
じぃーっ。
「マジで言うけどよ」
「うん……?」
じぃぃーっ。
「お前さ」
「うん」
じぃぃぃーっ。
「見すぎ」
「……あ、あはは。なんのこと?」
ズビシと手刀を隣に並ぶ頭へ叩き込む。痛いなんて言いながら一夏は当たった部分を押さえて立ち止まった。まーだはぐらかすつもりでいやがりますよコイツ。今日一日でもう背中に何か刻み込まれそうだったわ。もし一夏が吸血鬼なら死んでる。
「ばーか。普通に気付くわ」
「だよね……ごめん」
「別に。怒ってはねーよ。ただ理由が知りたい」
「理由……理由、か……」
見られるだけなら良いんだよ、見られるだけなら。いや、本当は良くないけど。でも基本的に注目されることのない俺だから視線とかそういうものの理由を深く考えてしまうのだ。背中に変な紙でも貼ってあんじゃねえかとか後頭部に十円ハゲでもあるんじゃないのとか。
「特に意味はないけど、ちょっとした確認……みたいなものかな」
「確認? なにをだよ」
「それはほら……気持ち、的な」
「んだそれ。ワケ分かんねぇ」
俺の背中を見れば何らかの気持ちの確認でも出来んのかよ。すげーな俺の背中。やっぱりそれって
「私は分かっちゃったんだけどね……」
「なにが?」
「う、ううん。何でもない。……さ、先に帰ってるからっ!」
「あ、おい。……ったく、変な奴だな」
うん。おかしい。やっぱり全然解決してないじゃないですか数馬さん。一夏ちゃんいつも通りじゃないままですよ。むしろ酷くなってる気がする。あれ、もしかして数馬に頼んだこと間違い? いや、そんな筈はない。あいつはロリコンはロリコンでも精神的イケメン成分たっぷりなイケロリコンだ。大丈夫……だと思う。
「……帰るか」
もしも駄目だったら今度は自分で何とかしよう。毎回数馬に頼るのもアレだし。
感想欄で溢れるおまいらの優しさに画面がぼやけて見えなかった。優しくされるとつけあがるので適度にケツ叩いてくれてもいいのよ。
毎日更新途切れさせるとね……妥協して段々書かなくなっちゃいそうだから。多少無理してでも書いてます。終わりまで駆け抜けたい。でもそれで今のペース結構時間かかるのよね……。書かなきゃ(使命感)