植里蒼の朝は早漏い。間違えた早い。どれくらい早いかと言うとたんまり脂肪の溜まったお腹で走るくらいには早い。ちなみにそれは遅いって言うんだって。動けない太っちょはただの太っちょ。動ける太っちょはスタイリッシュイケメン。あの変に惹かれる格好良さの理由はなんだろう。大きなハンデを背負ってなお俊敏な動作をする姿への憧れとかだろうか。ちなみに自分はむしろその逆に近い体型である。ガリとかホネとか皮とかまではいかないけどガリレオとか湯川学みたいな。後半が完全に違っている件について。なんなの、実に面白いとか言っちゃう子なの俺。それならまだ邪王真眼発動させるわ。弾けろリアルッ!! ぴきーん。
「……ふあぁ……」
「……ん。よし」
今日も今日とて朝一番に鼻腔を擽ってくれるこの匂いは間違いない。一夏の用意する料理だ。数馬からの連絡で分かってはいたが、それでも友達の悩みという奴は気になる。実はとても重いことなんじゃないかとか、少しでも力になれないかとか。つっても原作主人公だから大抵何とかなるって分かってるんですけどね。大体あいつがどうにかならないのは恋愛事情だけ。どうにかっつーよりどうにもって感じだが。
「今日も一日がんばるぞい!」
植里蒼ガンバリマス。けど頑張るのは嫌いだからやっぱガンバリマセン。なんだ結局いつもの無気力系ヘタレメンズの僕ですね! あふっ。昨日蘭ちゃんから罵倒されすぎて調教されたみたいだ。俺はヘタレ。俺はヘタレ。ヘタレチキンの糞メンタル。やだ、なんか弾々死にたく……違った段々死にたくなってくる。あの子の影響力すげえな。流石は未来の生徒会長。応援してる。それはさておきさっさと着替えて食卓へ。飯の用意は着々と進んでいるようだし。まぁ、一先ずは。
「おっす、一夏」
「おはよう、蒼」
◇◆◇
「いただきます」
「いただきます……の前に蒼」
「ん?」
茶碗を持とうとすれば一夏から声がかかる。雰囲気的に怒っているという訳では無さそうだ。どちらかと言うと普段より若干テンションが低い。一体何事だというのか。いつも通りの朝食風景かと思われたこの時間に変な空気が流れ始める。朝飯くらいほんのりほんわかとゆっくり食べようぜ(提案)。ほんわかぱっぱ、ほんわかぱっぱ。猫型ロボットかな?
「今までごめん」
「へ?」
ぺこりと頭を下げる一夏ちゃん。長い黒髪がさらっと揺れて実に宜しい。眼福眼福。なんて思ってる場合じゃないんだよなぁ……。ちゃっかり思ってるじゃんとかそういう無粋なツッコミはしてはいけない(戒め)。ぶっちゃけこちとら何が何だか分からんのです。いきなり頭下げられて謝られても罪悪感しか沸いてこない。ここでも出てくる弱いメンタル。やはり俺のメンタルが豆腐なのは間違っている。だと良かった。
「いや、お前、え? なにが?」
「蒼に色々と酷いことしちゃって」
「酷いこと? お、覚えがねぇぞ……」
「文化祭の日とか」
文化祭? 聞いてふんふむと考える。……あぁ、あの殺意の波動に目覚めた織斑一夏ちゃんのことね。はいはい分かった分かった。たったこれだけで理解するとか蒼くんあったまいー! 冗談。別に良くない。でも頭の良さは一つじゃないからね! 勉強が出来る=頭が良いではあるけど頭が良い=勉強が出来るでは無いんだよ! 多分、きっと、めいびー。
「あれがどうしたんだ」
「え、いや……それが酷いことなんだけど……」
「うん。先ずお前さ、最初から思い返してみろ」
「さ、最初……?」
最初。ことの始まり。つまるところコイツがTSした時まで遡る。朝起きれば何故か女の子になっていた。天災によりそんな経験をしてしまった織斑一夏くんは咄嗟の判断のもとに俺の部屋へと駆け込む。女性が苦手と公言していて一人暮らしの尚且つ転生者でもある俺の部屋へとだ。これ、普通に考えたら明らかに悪意が垣間見えちゃうのよね。女の子になって行く先が女の子を苦手とする奴のところってお前……。
「この一連の事件に巻き込んだ時点でかなり酷いと蒼くんは思うんです」
「うっ……ご、ごめん」
「ん。ただまぁ、そういうことだ」
未だに下げられたままである一夏の頭に手をポンと置き、かなり適当に撫でくり回す。わしゃわしゃ。髪の毛は女の命とか聞いたことあるし、これでちょうど良い罰って奴じゃないっすかね。
「うわっ」
「あの程度、本気で酷いとは感じねーわけよ。むしろ俺の身を案じてくれたのかと思って感謝までしてた」
「……でも」
「ぶっちゃけこの程度で壊れる関係なら今まで友達続けてねーんだよ馬鹿一夏」
ぱっと手を離してバチンとでこぴん。不意をつかれた一夏はあうっと言いながら後ろへのけ反る。俺のでこぴん織斑家相手にのけ反り【中】とかつえー。ガード貫通も夢じゃない。額を守ってなお防げないでこぴんとかそれめっちゃ怖いな。武術の応用か何か?
「いったぁ……」
「痛いか。ならこれがお仕置きでいいな。はい。この話終わり。さっさと飯食って学校行くぞ」
「……蒼はズルいよ」
「ズルくて結構。別に綺麗な心してる訳でもない」
なんと言っても蘭ちゃんに触れることを躊躇うレベルの汚さを持ってるからね。せめてもの救いは蘭ちゃん自身が綺麗なので俺の汚さも中和されて弱く見えるということくらいか。一夏の奴も綺麗な心を持ってるから余計に弱まること間違いなし。やっぱり一般人はこうだから駄目なんですかね。聖人みたいな生き方なんぞ出来るとも思わんが。嘘はつくし誤魔化しもする。悪口も言えば少しの意地悪だってやる。
「なんだ、嫌われるとでも思ってたのか?」
「……す、少し……」
「その方が酷いわ。俺のことなめてんのかテメェ」
「……ごめん。本当に、ごめん」
「ったく……」
なんかさっきから一夏のごめんばっかり聞いてる気がする。これじゃ美味い飯も不味くなるってもんだ。折角こいつが毎日しっかりと作ってくれているのだから、きちんと噛み締めなきゃいけないのに。もぐもぐ。満腹感を得るだけならガム噛んでればいい。一時期だけ毎朝のご飯がガムなんてこともあったし。
「こんなに長く一緒に居るんだ。そんじょそこらの些細なことで嫌になる訳ねーだろ、
「……親友、か……」
「不満か?」
「…………ううん。満足だよ」
その割に不満足そうですけどね。
「ありがとう、蒼」
「こっちこそ、仲良くしてくれてサンキュー」
「………やっぱり蒼ってズルい」
「なーにがズルいだ馬鹿一夏」
どうやら一夏からすると俺はかなりズルいらしい。一回ならまだしも連続で言われるとは思わなかった。しかも今回は自覚症状ゼロ。まぁ、狡賢さも頭が良いって事の一つだし、良いと言えば良いこと……なのか?
最近更新が遅れ気味ですいません。ちょっと忙しさが増しておりまして。それでもまだ、まだ毎日更新はやめない……ッ! ハズ
まぁ、こんなテキトー作品を真面目に楽しみにしてる人なんてあまり居ないと思いますが。