織斑一夏が女になった。その情報は電光石火のごとく伝わり、じたばた(イケメン)によってヒットポイントを減らされていた女子全員を悉く撃墜する。三タテとか六タテどころじゃない。歩くだけで膝を折り、喋れば顔を俯かせ、笑顔を咲かせれば頬が染まる。幸福→失墜→また幸福のループかな? いや違う。一夏ちゃんが可愛すぎるからいけないんです。立ち振舞いやイケメン特有の格好良さと見た目の可愛さによるギャップにハートを撃ち抜かれたお方も多くいたようで。
「一夏ちゃん可愛い~」
「ふふっ、小さなお口にご飯を頬張る姿。いいわね」
「これだけでお米三合はいけます!」
「むしろ主食でしょこれは」
静かに食べるべきであろう昼食時になってもその勢いはとどまるところを知らない。
「人気者だな一夏ちゃん」
「……うっさい」
机を向かい合わせて向こう側に座る一夏は、もぐもぐとご飯を食べながらそう溢す。しかし体は正直なようで、頬っぺたはほんのりと赤い。恥ずかしがっちゃってこいつ。注目されるのに慣れてないって訳じゃあるまいし。可愛いとか言われたこと無かったからだと思うが。格好良いとは散々言われてたけど。ちっ、このイケメンが。
「照れんな照れんな。可愛いよ一夏ちゃ~ん」
「ふんっ」
「ッッッ!!」
弁慶蹴られた。ちょういたい。しかも爪先で。くそっ、こいつなんてことしやがる。シューズだから地味に威力も増してるしよ。暴力ですよ暴力。理不尽な暴力ふるうヒロインは嫌われるんだぞ。最近すぐ殴るメインヒロインが多くていけませんね。もっとこう、純愛をですね、強調したいというか、なんというか。つまり一夏ちゃんサイテーってことだ。冷静に考えたらからかった俺の自業自得でした。
「一番の理解者がふざけるのってどうなの?」
「……反省はしてる。後悔は」
「どうなの?」
「すいませんでした」
謝罪って大切だよね! 悪いことをしたら謝る。これ社会の常識だから。悪いことをしてなくても自分が悪いと思ったら謝る。あと妙に威圧をかけられても謝る。ヘタレチキンで非力なぼくは強さに逆らえんのです。じんじんと残る脛の痛みに耐えながら、お茶碗片手に箸を動かす。うん。今日も美味しいのか美味しくないのかよく分からん微妙な美味しさの給食だ。一夏の飯食ってると舌が贅沢になりそうで怖い。まぁ、これも今年度で最後だと思うと感慨深い気もしないでもないが。でもやっぱ一夏の方が美味しいんだよなぁ。家事力高すぎでしょこいつ。
「一夏」
「なに?」
「水炊き」
「……案の一つとして」
ちっ、決定は出来なかったか。久々に鍋が食いたい。つーか俺が何の脈絡もなく言っただけで夕飯に水炊き食いたいってことがよく分かったなこいつ。テレパシーでも備わってんの? 普通はそれがどうしたってなると思うんだけど。不思議に思ってじっと見ていれば、如何にも不服そうな表情でなにと聞いてくる。
「いや、どうして分かったのかと……」
「長いこと一緒に居ればそれくらい分かるよ」
「お前怖えな……」
「? ……普通じゃないの?」
世間一般ではそれを異常と言うんですよ一夏ちゃん。仲の良い夫婦ならまだしも、たかが友人関係でそれはちょっと厳しいんじゃないでしょうか。いや、日本人だから十分にあり得ると言えばあり得るけど。空気を読むとか外国人からすれば意味分からんらしいし。気配察知だったりそういうのもそうなんですかね。やっぱ日本人は全員ニンジャの素質があるんやな! 忍者死すべし慈悲はない。ショッギョムッジョ。
「おやおや数馬さん。ラブラブな二人ですねぇ」
「そうだな弾。俺もロリの嫁が欲しい。ヒロイン力天元突破済みでバッチコイ」
「真性のロリコンすぎて引くわ」
「中学生はな、ババアなんだよ」
弾の野郎が何か言ってきたが、さすがは数馬さんだ。何時でも己の本能に付き従うその態度。憧れます。理性が仕事してないけど、数馬には先ず理性なんて必要ないからね。イエスロリータノータッチ、でも同意の上なら遠慮しないが座右の銘なのも頷ける。決して幼女の嫌がることをしない数馬は生粋の紳士だ。まさに男の鑑だ。最早漢と言っても過言ではない。多分数馬には良い嫁さんが出来るだろうね。確証はないけど直感的に。
「あ、そういえば言い忘れてたんだけどね」
「なんだよ」
「私、IS操縦者になるんだ」
「ふーん。そっか」
なるほどなるほど、一夏ってばISに乗るんだね。となると専用機とかどうなんだろう。あるとしたらやっぱり白式か? 束さんのことだから十中八九零落白夜を使えるよう細工するんだろうけど。あれはロマンだよ。一撃必殺で諸刃の剣とか凄い燃える。もろはのずつきも好きですよ。ときのほうこう? あ、すいませんそれはあくうせつだんの方が好きです。話が逸れた。しっかし一夏がIS操縦者かー……。ん? いや、ちょっと待て。今は中学三年生の序盤。本来なら一夏がISと密接に関わり始めること自体原作開始……つまりほぼ一年後。この時期でISに乗る? ちょっと待てなにそれどういうこと。
「……え? いや、えぇ?」
「なんか、春休み中に適性検査みたいなものしたんだけどね、Sだっけ? なんかそれくらいが出ちゃって」
「IS適性……S……」
「こっかだいひょーこーほせー? とかなんとかになるために訓練受けるらしいよ。まぁ、体動かすの得意だし良いんだけど」
IS適性S。それは原作でもヴァルキリーだったりブリュンヒルデだったりモッピーだったりしか出していない数値だ。普通に代表候補生より高いレベル。つーか本来の一夏ならそこまで適性は無い筈だ。確か原作のIS適性はBとかそこらだった気がする。なんでこんな跳ね上がってんだこいつ。
「チートか。TSによるチートですか」
「なにいってるの?」
「お前も自覚しろ。それ、世界に数えるほどしか居ないクラスだから」
「え? マジ?」
「マジもマジ。大マジだっつーの」
蛙の子は蛙。親子ではないが、血の繋がっている姉妹も似たようなもんだろう。最強にて最凶である千冬ネキの妹である一夏ちゃんも最強にて最凶。疑う余地もない事実である。そんな存在を目の前に飯食ってる一般人な俺。正直言うとなにしてんだろって思う。ただ下手なこと言うとその最強にて最凶から手酷い仕置きを喰らうので動くに動けない。あまり弄りすぎても駄目なんだとこいつが女性になってから気付きました。これも全部天災のせいやな。訴訟。
「どうりで千冬姉があんなに驚いてた訳だよ……」
「え、千冬さん驚いたの? その顔見たかったわ」
「ちょっと目を見開いただけだけどね」
「それで驚くレベルなのかよあの人……」
そんな微細な変化にも気付けるこいつもどうかしてると思うけど。全く、織斑家は一家揃って全員どうかしてるぜ! つっても俺の知る限りは二人しかいないけど。識る限りではあれも織斑家なのかどうか。あの、某魔法少女みたいな名前の女の子。僕はね、(精神的に)魔法使いなんだよ。あれ、なんだか視界がかすむなぁ。教室内に霧でもかかってるのかなぁ。やだ、辛い。ぼーくにでぃーてぃーすてーさーせーてよー。童貞になる道程を歩むのは死にたくなるからやめてください。
「ま、姉弟揃って仲良いことよ」
「なにが?」
「IS扱うのが上手いことで」
「世界最強と比べられたくはないなぁ……」
言いながらちょっと熱意が燃えてるところはこいつらしさを感じる。意外と抜けてるように見えて地味に負けず嫌いだからな。ほんと変なところで頑固。そのくせ変なところで抜けてる。でもぜんたいてきにみるとやっぱりイケメン。それが織斑一夏。それこそがインフィニット・ストラトスの主人公。白式に角がついてればパッカーンて割れるだろうになぁ……。なんとなく声的に。
「ホント仲良いなあいつら。端から見たらカップルじゃねーか。そう思うだろ? 数馬」
「はいはいそうだな。……ん、すまん弾。メールだ」
「誰からよ」
「去年知り合った小五の子。ちなみにすごい甘えてくるぞ」
「いや、知らねーよ。つーか事案」
「馬鹿め。同意の上でしかも中学生と小学生ならセーフだ。セーフに違いない。いや、してみせる」
数馬ェ……。手を出してはいないけどある意味出してはいた訳ね。というか普通にレベル高過ぎじゃありませんかね。ロリコンでも中々実行に移してガチ目に仲良くする奴は居ないと思うんだけど……偏見かな? いや、明らかに数馬はおかしい。
「御手洗。校内での携帯電話の使用と性癖についてあとで職員室な」
「うーっす。まぁ、無駄だと思いますが」
ほんとこいつの性癖直すのは無理だろ。
「数馬はいつも通りだね」
「その方がらしくていいさ。俺もお前も、不思議とあれで安心するだろ?」
「……まぁ、ね」
変態でクールでロリコンでかなり空気を読まないエアブレイカー数馬だが、居ないとそれはそれで寂しいものがある。結局、いつも通りが一番って訳よ。いつも通りが。
やっぱり疾走感が足りませんね。ちょっとグダり気味だもの。まぁ、疾走感が足りないからと言って失踪したりしませんが(ここ笑うとこ)はい。すいません
私もいつかはブラックコーヒーを甘くするような小説を書きたいものです。
……ホモ成分足りねーなこれ。お前どう?