始業式もつつがなく終わり──式場への移動開始時間と同時に全員がいつもの調子に戻ったのは凄かった──担任からのありがたいお話があるのかと思えば、それよりも先にとても面倒なものがあった。
「──というわけで、諸事情により今は女らしい」
「織斑一夏です。よろしくね?」
にこっと笑う一夏。ぴしっと固まる教室。変だな、この流れはつい先ほどにやった筈なのだが。ギチギチと油のきれた機械のように首を動かして教室内を見渡す。全方位から刺すような視線。主に女子生徒からの視線が強いかなー? んー? おかしいなー、この流れはさっきやったからやる必要無いと思うんだけどなぁ。よし、身動きがとれなくなる前に一言。
「ステイ」
じょしせいとにこうかはないみたいだ……。
「どういうこと植里くん!?」
「いや、だから」
「あれって五反田くんの冗談じゃなかったの!?」
「え、や、普通に考えて」
「答えてよぉぉぉぉぉお!!」
「あ、あのだな、その」
「はっきり言わんかいワレェ!!」
今度は先程より激しく、というよりマジな雰囲気でがくがくと体を揺らされる。やめて、吐きそう。女子に囲まれてあれなのと体を揺らされたことによって吐きそうだからほんとやめて。公衆の面前でリバースなんてしたくないんですよ! 決してリンクジョーカー編のあれではない。吐くほうのリバース。嘔吐のほうのリバース。復活ともちゃうぞ。
「折村が……女?」
「違う。織村が女。アーユーオーケー?」
「織斑が女な。ったく、アホかお前ら」
「織斑一夏は男。つまり女であるあの子は……」
「折村一華ちゃん?」
「いや、織村一花ちゃんだろ」
「それだと織斑の名残がある。折村一香でFA」
「いい匂いしそう(小並感)」
ダメだ、野郎共は思考が追い付かなさすぎて変になってやがる。くっそ使えねー。そもそも名前の案を言葉にすんじゃねえ。文字じゃないからさっぱりだよこんちくしょー。織斑一夏は織斑一夏です。だってワンサマーだしねあいつ。一花とかワンフラワーじゃねえか。ネタに出来ない名前など要らんのだよ。ワンサマはワンサマ。つまりワンサマがワンサマでワンサマのワンサマがワンサマァァァァ!! した結果ワンサマーちゃんになったんだ。うん。どういうことだってばよ。
「えっと、皆さん、さっきので理解しなかったの?」
「あれは冗談だと思ってたのよぉ!!」
「は?」
「織斑くんと同じクラスでテンションアゲアゲよ!!」
「あ、なるほど、つまり」
「本当だなんて聞いてないよぉ!!」
「あ、はい。じゃあ、本当です」
「シバき倒したろかあぁん!?」
ひえっ。勘弁してよ……。
「しかし、うん」
「織斑がマジ女。それつまり?」
「青春?」
「謳歌?」
「彼女?」
「リア充?」
「ちくわ大明神」
「砕け散れ」
「誰だ今の」
まだマシ。そうだ、まだマシなんだよ。まだ混沌としてないだけマシ。先程はみんな精神が安定してなかったからね。俺も含め。女子の五割は席を立って此方に詰め寄り、男子の五割は席に座ったまま服のボタンを外していってる。脱ぎたがりが多いクラスですねぇ……。ちなみに残りの奴等は大半ぽっかーんと口を開けてる。その口にぽんかん詰め込んでやろうかと思うくらい開けてるから本当誰かぽんかん貸して。
「五反田くんがいきなり一夏が女になった反応ごっこしようぜ! とか言うから変だと思ったのよ……」
「オイコラ弾」
「あの時はおかしかったの。織斑くんと同じクラスになれておかしかったのよ」
「テメー何してんだオイこっち見ろ」
「まさか本当だなんて、あぁ……っ」
「そうか、分かったぞ。全部テメェのせいなんだな!」
五反田死すべし慈悲はない。どうりで皆妙に聞き分けが良くて始業式と同時にケロッとしてた訳だ。最初から全部演技だったんだから、それは当然ですよね。そしてぼくはクラスメイトのノリが良すぎて驚くばかりだよ。なんでそんなテンションアゲアゲやねん……。確かにうちの中学にはノリが良くてアホやってる奴等ばっかだけど、こんなにも良いなんてお兄さん感動しちゃう。今年はボケ倒したるよオラァ!
「本当にこうなるとは……やはり織斑さんは凄いな」
「あ、あはは。一応自慢の姉なんで……」
一応をつけるあたり一夏も千冬さんに苦労させられているのだろう。大体あの人基本的な家事スキル皆無だからどうしようもねぇよ。本当家事万能な誰かさんのヒロイン枠だよ。身内が正規攻略対象。途端にエロゲー感が増すな。近親相姦は文化です。いや、それ文化にしちゃ駄目な奴だから。一夏に助けてもらおうかと思ったけど目を合わせてくれないので諦める。くそっ、裏切りやがったなイケメン美少女。仕方無いので野郎共をちらり。
「新時代が……幕を開けるッ!!」
「やったぜ」
「ハッルゥアショォー!!」
「すぱしーば、すぱしーば!」
「俺の勝ちだ、アーチャー」
「流石に気分が高揚します」
「ここからが、俺の……いやッ!!」
「俺たちのターンだ!!」
お前らのその変な団結力はなんなの? 馬鹿なの? 死ぬの? ふざけてんじゃねぇ。ふざけてんじゃねぇぞコラ。全員揃ってそげぶしたろか。まずはその幻想ぶち殺したろか。いいや、それよりも現状をどうにかする方が先決ですね。周りに女子が多すぎてちょっと体が震えてきましたよ。助けて一夏。助けて弾。どうにかして俺をここから連れ出して。信じてるからぁ!
「あれ? つーまーり?」
「織斑×植里?」
「体は違えど精神的BL……」
「私はパス。足りないんだよ成分が」
「私はイケル。うんうん。TSもまた愛だよね!」
「ふふっ、スイーツですねえ……おっと失敬鼻血が」
「うんうんそれもまたアイ(カツ)だね」
……あの辺は、うん。大丈夫だな、きっと(白目)。今も一部の物好きがよだれ垂らしたり鼻血垂らしたりしてるだけで、中には半裸の男子を熱心にスケッチしている人もいますし。筋肉の付き方がうんぬんかんぬん言っててちょっと怖いんですけど。クリエイティブ精神に溢れてますねぇ……。男の上半身なんか書くとは、一体どんな内容なんだろう。多分バトルものとかだろうな。うん。そうに違いない! きっとそうなんだ! イチャイチャボーイズルァヴなんてないんや。
「織斑の女体化。友人の植里は知ってた。つまり」
「長年連れ添った友との友情が愛情へ」
「だが相手が相手だけに沸き上がる葛藤!」
「悩みに悩んだ末、織斑は一つの決断を下す……」
「私は、蒼のことが好きなんだ──と」
「ふぅ、いいエサでした」
「ちょっとSS書いてくる」
「スレ立て乙ー」
あそこは……あそこは……あそ、こは……。えっと、取り敢えず落ち着こう。趣味なんて人それぞれだもんな。俺だってTSモノの一つや二つ読んだことありますよ。その当事者に友人がなるとか考えたこともありませんでしたけど。勿論自分がなるとも思ってなかった。世界っておかしいよね。そこら辺のヒロインより可愛い
「なんで織斑くんが……」
「えっと、その」
「植里くんじゃ駄目だったの……?」
「あ、その、ごめんなさ」
「謝ったら警察はいらないよぉ……」
「え、でも、あ、すいませ」
「私らが欲しいのは謝罪ちゃうねん……」
どうしろって言うのよぉ! テンションがた落ちマジ落ち状態の女子を、女性経験皆無の俺がどうにかできるわけねぇだろうが! 冷静に考えて謝ること以外出来ないんですけど。謝ることさえ禁止されたらもう何も出来ませんよ。いやだ……こんな地獄、嫌だよぉ……。学校休めばよかった……。なんで学校来たんだろ俺。もう帰ろ。つーか帰りたい。帰らせて。帰る。帰るって言ったら帰るんだから! 蒼おうち帰るもん!
「うーっす。遅刻してすいま──って、なにこの空気」
「数馬ァ!!」
神や。神がここにおった。
「え、なんで蒼はそんな女子に囲まれてんの?」
「よく来た数馬! 良かった、お前ならこの空気を壊してくれそうだから良かった……ッ!!」
「つーか、誰この女の子」
「うっ……あ、あはは。やっぱ分かんないよね……。織斑一夏だよ、数馬」
「一夏? 一夏ってあの?」
「う、うん。その、ありえないかもだけど、女になったんだよね……はは」
「ふーん」
幾ばくかの沈黙。じろりと一夏を眺めてから数馬が一言。
「マジかお前」
「信じてくれると、嬉しいかな……」
「……蒼があの調子、弾もだんまり、一夏はいない。なるほど……まぁ、一旦信じる」
「そ、そっか……あの、ありがと──」
「けど折角なら小学生くらいになれば良かったのに」
沈黙。感謝の言葉を伝えようとして固まる一夏。いつも通りの数馬の様子にやれやれ顔な弾。よくやったと心底思いながら天井の染みを数える俺。周り見たら女子がいっぱいだしね。これがコイツの変わったところ。見た目も悪くない。クールで格好いい方だと思うし、性格の方もどちらかと言えば優しい。だが、一番の欠点がコイツには存在する。幼女趣味。ペドフィリア。言い方は色々あれど、簡潔に言えば──。
「JCは甘え、俺が欲するのはJSのみ」
御手洗数馬。この男、真性のロリコンなのだ。
この作品に登場する数馬くんは適当に練り上げた設定の都合でこうなっており、原作との関連性は同一人物という以外にありません。ご了承ください。
イチャラブを期待の皆様。あとすこしお待ちください。ホモの皆さんは我慢強いって聞いたことあるから大丈夫だとは思いますけど(曖昧)
ちなみに。
御手洗数馬→みたらいかずま→ミタライカズマ→カズマ→衝撃のォ!→……はっ!
ティンと来た(`・ω・´)