伝説の使い魔   作:GAYMAX

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皆様のご意見や、他の小説なども参考にして色々な書き方を試していますので、読みづらい or 読みやすかったら指摘していただけると助かります。


番外編
番外1話 ゼロが使い魔


「動かないわねぇ……一度でも動けば安定しそうなものだけれど……」

「ちょっとミシア?あなた、何してるのよ?」

「あら、ルイズちゃん」

 

 ここは学院の正門近くの平原。のどかな景色に似合わない怪しい機械群に囲まれながら、ルイズに話しかけられるまでミシアは悩ましそうに体を動かしていた。

 ゴウンゴウンと重低音を出す機械群。いつもとは少しだけ違うミシアの様子。そもそも機械の概念すらもないハルケギニアでは珍しいどころではない光景に、幾人もの生徒が気になっていたものの、いつもは見せないその物憂げな表情が魅力的すぎて、ルイズが発見するまでは誰もが本能に逆らうのに必死で話しかけられなかった訳だ。

 

「……そうね、そうしましょう。ルイズちゃん?プリエ様を呼んできてくれたら、ゴホウビ♥あげちゃおうかしら?」

「それはコレの説明よね?」

「さて、どうかしら♥」

「……まあ、いいわよ」

 

 ミシアの言うゴホウビが自分の望まぬものだったとしても、プリエがいるなら大丈夫だろうと思い、ルイズは素直にプリエを連れてきた。するとミシアは、ルイズが望んだ通りに謎の機械群の説明を始めてくれた。しかしその話は時間論と次元論から始まり、多重世界論や平行世界論にまでも移行し、ルイズとプリエを随分と困惑させた。難解すぎるどころか、そもそも人間が理解できるかも怪しい話は、すぐさまルイズの興味を霧散させ、ちょうど後ろに寝心地抜群の柔らか枕が二つもあったため、ソレも相まって彼女を眠りまで導いてしまった。

 

 まあ、結局あの機械群は何なのかと言うと―――

 

「――これは、時間を遡ることができる、限定的な超時空ゲート生成機になります。平たく言えばタイムマシンですね♥」

 

 プリエが少しだけ顔を歪める。時間の遡行には苦い思い出があって、()()()()を無意味に繰り返しただけだった。あの後、もしかしたら理性を取り戻したのかもしれないが、それならば自分の隣には()がいるはずで、そうでないということはやはり失敗してしまったのだろう。

 俯きかけたプリエは、自分に寄り掛かって眠るルイズの幸せそうな顔を見て、微笑みを浮かべた。

 

「……ほらルイズ、起きて」

「ふぇ?」

 

 プリエに優しく起こされ、色んな意味で魅力的な枕からぼんやりと離れたルイズは、軽く伸びをして眠気を払う。

 

「ウフフ、先生の前で熟睡するなんて、イケナイ子♥」

「……だって、よく分かんないんだもの。それに、すっごく気持ちよく眠れたし……。それで、結局なんなの?ソレ」

「タイムマシン、だとルイズちゃんは分からないカナ?過去への移動装置よ」

「へー、すご──すぎないソレ!?

 

 “過去に戻る”など、聞いたことすらない。創作モノの物語にすら滅多に存在しない、想像すらも難しいもの。その空想すらも超えた現実が今目の前にあり、ルイズは変えたい過去を吟味していた。子供の頃の黄色い世界地図や、姫様とのごっこ遊びで壊してしまったあの工芸品、思い切って昔のウラヌスをボコボコにしてやってもいい。

 

「うふふふふふ……」

「ルイズ?すごい顔になってるわよ?」

「ふふふ──ハッ!?い、いえ、な、なんでもないわ!そ、そういえば!なんでプリエを!?」

 

 邪悪な思念が顔にまで出ていたルイズは、その痴態を隠すために大げさに話題を変える。意外にもミシアがルイズに茶々を入れることはなく、その疑問に素直に答える。

 

「成功を心の底から祈ってもらいたいのよ♥」

「え?それだけ?」

 

 ルイズの反応は当然だろうが、プリエ本人まで首を傾げていた。てっきり魔力だとか、高度な魔法だとか、そういったものを要求されると考えていたのだ。

 

「祈るだけって……そんだけでいいの?」

「自覚はないのかもしれませんが、プリエ様の祈りは現実を捻じ曲げます。プリエ様の祈りのおかげで、“ロト666の一等が当たった”とか、“猫背が直った”と大評判なんですよ♥」

「うさんくさ……。まあ、いいけどさ」

 

 半信半疑のまま、プリエは指を組み合わせた手を胸の前に掲げ、目を閉じる。いつ見ても完成されている祈りの所作にルイズは魅了され、恋に焦がれる乙女のようにプリエを見つめる。しばらくして“そういえば、ミシアはどうしているのだろう?”と思い、彼女を確認してみると、なにやら超高速で手を動かしているようだった。

 やがて、装置の三つの長いトゲの先で浮いている透き通った水晶玉のようなものが徐々に黒く染まっていき、機械の駆動音も連動して大きくなっていった。水晶玉が光すらも飲み込むような漆黒に、重低音だった駆動音がキュルキュルという高音になったとき、タイムマシンの中心部に渦巻きが現れた。

 

「安定化指数、99、100……よし、成功ね♥」

 

 嬉しそうにそう呟くミシア。彼女は愛おしそうに装置の一部を撫でている。ルイズはプリエを連れてきただけなのだが、何故だか結構な達成感を味わっていた。

 ルイズは出現した渦巻きに目を向ける。渦巻きは、下の装置から伸びる二本の棒も合わせて鏡台のようになっている。宇宙科学が発展していないこの世界の住民であるルイズには分からないが、青と白を基調とした渦巻きは雄大な銀河系を彷彿とさせた。

 

「綺麗……」

 

 その神秘的な魅力に引き寄せられ、ルイズは渦巻きへと手を延ばしていく。

 

「……ねえ、アレって触っても大丈夫なの?」

「はい。もちろん安全ですよ♥」

「なら大じょ──ん?」

 

 自分の期待した返事の通りなのだが、同じ言葉で返ってこなかった返答がどうにも引っかかる。基本的に従順なミシアだが、自分の全てに完全に付き従う訳ではない。重大ではないが重要なことを甘く覆い隠したまま、他人を陥れることが得意なのだ。あの夜魔30体による大乱交パーティー寸前の出来事も、ミシアが画策したという噂もあるのだから。

 しかし、ここでプリエは重大なミスを犯していた。ハルケギニアでのまったりとした生活に馴染むがあまり、ミシアの言葉の意味を()()()()()()()のだ。

 

「へ?」

 

 ルイズの呆けたような声が、静かに響く。ルイズは暖簾に腕押しするように、スルリと渦巻きの中に吸い込まれて姿を消していた。

 

「アンタ……」

「大丈夫ですよ、()()()()()()()ですから♥」

「アンタのそういうとこ、殺したいくらい大ッキライよ」

「ウフフ♥安心してください。ルイズちゃんはすぐに呼び戻しますよ。()()()()()()()()()()、ね♥」

 

 

 

 

 

 

「どうしよう……」

 

 時空の狭間(はざま)でぼそりと一人呟くルイズ。危険だったらすぐに止めてくれるだろうと油断していたのがいけなかった。キチンと危険性を聞いてから触ろうとするべきだったのだ。

 しかし、いくら嘆いたところで現状は変わらない。今はただ状況を受け入れて、自分のできることをすることが大切なのだ。そうなると、“どの時間に行ってしまうのか”を考えなければならない。

 

 最悪なのはプリエを召喚したときの時間に行ってしまうことだろう。そうなってしまえば生きて帰ってこれる気がしない。あのときのプリエを思い出して思わず身震いすると、何かの魔法の残滓が漂っていることに気づいた。

 

「これは……」

 

 自身も使ったことのある魔法の残滓。しかし、このままでは効果もないまま消えてしまうほどの儚いもの。コレがこんなところに流れ着いた理由を考えながら、ルイズは魔法の残滓を再構築していた。

 

 

 

 

「『召喚(サモン)』!」

 

 二年生への進級試験で、平賀才人という異世界人を召喚したルイズは、試験官のコルベールに凄まじくゴネて、特例で一回のみ召喚魔法の使用を認められた。人を召喚する事自体が異例であり、努力家のルイズの必死の訴えに流石にいたたまれなくなったため、コルベールは許可を出したのだ。

 だが、普通は呼び出された存在が死ぬまでは召喚の魔法が使えなくなるため、そうやって失敗すればルイズも納得をせざるを得ないだろうという打算的な考えもあった。

 しかし、人を召喚したという異常を正しく理解できていれば、ルイズに二度目の召喚を行わせるということはなかっただろう。

 

 大きく響き渡るルイズの鈴を鳴らすような声。当然の如く何も起きようとしない平原。わなわなと肩を震わせだしたルイズがゆっくりと杖を下ろし、コルベールがため息をつきながらルイズに励ましの声を掛けようとして、ルイズにボロクソにこき下ろされた才人が周りの生徒と同時に彼女をバカにしようとしたとき、ソレは起こった。

 突如として草原いっぱいに広がる魔法陣。複雑怪奇な模様を描くそれは普段の召喚魔法陣とは全く異なるもので、始祖ですらこの魔法陣の意味を理解はできないだろう。そもそも、その全貌を観察する暇もなく、完全に展開された一瞬後にソレはまばゆい光を放った。

 その場の者は思わず全ての行動を中断して、目をつぶってしまう。それでも、光が去った後ですら、暫くは視力が戻らなかった。

 

「あー良かった……」

 

 風で草の擦れる音のみが聞こえていた草原に、やけに落ち着いたルイズの声が小さく響く。もしかして二度目の召喚はうまくいったのか?生徒たちは好奇心に駆られ、まだ視力が戻っていないというのにムリヤリ目を開いていく。

 

「…………あれ?」

 

 しかし、そこに立っていたのはルイズ一人。結局はいつもの通り失敗で、爆発せずに済んで良かったということなのだろう。ルイズに期待してしまった己を少し恥じながら、いつもよりも少しだけ強くルイズを罵倒しようと各々が思い始めたとき、生徒の一人が異変に気づいた。

 

「ん……?……なあ、ルイズが二人いないか?」

「何をバカなことを……あれ……?本当に二人いる……?」

 

 かくして、罵倒の嵐で埋まるはずだった場の音は、驚愕の大合唱で埋まってしまう。

 

「ほら、起きなさい」

「……何よ~……どうしたのよ~……?」

 

 そんな場の空気は関係ないとばかりに、凄まじい光に驚いて気絶してしまったルイズを起こす、もう一人のルイズ。ペチペチと頬を叩いてやると、不思議なことに彼女の意識はすぐさま戻った。

 

「ん~……?なんで私が目の前にいる……の…………えええぇぇぇーーーーー!?」

 

 大合唱に負けんばかりの大絶叫。その叫びは、近くでショックを受けていたコルベールを我に返らせる。

 

「……ええと……ミス・ヴァリエ──違う……君はその……なんだね?」

 

 召喚されたルイズに向かって恐る恐る言うコルベール。スキルニルという分身を作り出す魔法具や遍在の魔法は知っているが、どちらも召喚の魔法とは何の関係もないからこそ、混乱しているのだ。

 

「これは失礼しました。なにぶん人の自我が生まれたばかりですので

私は風の化身、風を司る存在。召喚主の御姿を借りて、気まぐれに参じた次第です」

「風を……ですと……?」

 

 “有り得ない”コルベールの頭にはまず否定が浮かんだ。四大元素の一つを司る存在などいるはずがないし、世界の四分の一がこんな小さな少女に詰まっているとは思いたくない。

 しかし、完全に否定しきることはできなかった。コルベールが少女から感じたものは、到底人間とは思えないもの。この場で目を閉じれば感じることができるが、存在が大きすぎて、身近すぎて普段は感じ取れないもの。

 つまり、自然のような雄大さを少女からヒシヒシと感じ取っていたのだ。

 

 ……まあ、少女が言ったことは勿論全て嘘なのだが。未来から来たルイズは、バカ正直に「未来から来た」などと言って起こる面倒ごとを避けるため、召喚されるまでの短い間にそれっぽい嘘を考えていたのだ。

 

「ほ、ホントに……風の、化身……なの……?」

「ええ、ホントよ」

 

 過去のルイズの戸惑いに微笑みながら言葉を返すと、過去のルイズは俯いてわなわなと肩を震わせる。恐らく、喜びにうち震えているのだろう。

 

「聞こえたでしょ!やっぱり私は『ゼロ』なんかじゃないのよ!!」

「う、嘘だ!そいつもホントは平民なんだろ!」

「『ゼロ』のルイズなんかにそんな大層な存在が召喚できるワケないしな!」

「そうだそうだ!金にモノを言わせて魔法具か何かで変身させたんだろ!」

「うるさいわよ!ホントに成功したんだから黙ってなさい!」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる生徒たちと過去のルイズ。あまりにも幼稚な様子に、未来のルイズは思わずため息をついてしまう。

 だからと言って、プリエのように圧倒的な存在感と殺気で黙らせるのはかわいそうだ。召喚したのだから今日の授業はもう終わりのはず。未来のルイズは、くだらない言い争いを続けている過去のルイズを魔力で浮き上がらせる。

 

「うおっ!?ま、マジ!?」

「えっ?私、浮いてる?」

 

 杖も呪文も無しで人を浮き上がらせるという芸当には生徒も閉口するしかない。というか、コルベールの横の才人以外は、驚きで開いた口が塞がらないようだ。

 

「それじゃ、そろそろ部屋に行きましょ。いいですよね?先生」

「ま、待ってください!コントラクト・サーヴァントがまだですぞ!」

 

 ああ、そういえばそうだった。自分のときは必死すぎて、使い魔の契約のことをすっかりと忘れてしまっていた。挙句、常識的な魔法の発動方法など、全部が全部抜け落ちてしまっていたようだ。

 知識量も魔力量もケタ違いである未来のルイズならば、部屋だろうが普通に成功に導くことができるだろうが、あとで色々と言われるのも面倒だから、素直に過去のルイズを降ろした。

 

「しかし、この場合はどうするべきか……」

「か、風の化身と契約します!そっちの平民なんていりません!」

「なんだと!」

 

 特に記憶や考えなどは読んでいなかったが、未来のルイズは三人の言葉から全てを把握した。しかし、ここで契約したとしても、未来のルイズは元居た時間に戻らなくてはならないし、なんでもかんでもこっちの力で解決してしまったら、過去のルイズを自信過剰にさせてしまう危険性だってある。

 

「まあ待ちなさい。私は気まぐれで呼び出しに応じたの。それを完全に実力だと思われたら困るわ」

「え?」

「そりゃあ少しは実力もあったけど、本来は私のような存在を呼び出せるなんて奇跡なのよ? それに私は風。風とは自由気ままなものなの」

 

「ま、待って!それじゃ!」

「心配しないで、すぐに見捨てたりなんてしないわ。だけど、いつかはいなくなるんだから、そっちの彼と……ね?」

「ぬぐぅ~……!いいわ!分かった!その代わり、あなたともキチンと契約するわよ!」

「へ?」

 

 その返事は未来のルイズにとって少し予想外だった。使い魔は基本的に一人に一体なのだが、過去のルイズは二人目が召喚できたのだから契約だって二人分できると考えているのだろう。

 

 そういえば、もしかしたらウラヌスをボコるために役立つかもと、少し前に召喚と契約の魔法を解析したのだが、契約の魔法は召喚の魔法の一部であり、だからこそ召喚された者にしか使えなかったのだ。そして、契約した使い魔…厳密には召喚した者が死ぬまでは魔法の再使用ができない。逆に言えば召喚した者になら誰でも契約できる訳だ。

 その制限を無視することができるのは、自分のような超越的なメイジに限られ、自分をここに導いた魔法陣は本来なら効果を発揮せずに消えるはずだったのだ。それを魔力でムリヤリ補強して、ほとんど別の魔法に変えてここに来たのだから、自分自身に契約の魔法は効くのだろうかと、未来のルイズは考えていた。

 

 その間に過去のルイズは才人との契約を終えたようで、緊張した趣でこちらに迫ってくる。まあ、なるようになるだろうと未来のルイズは思い、目を閉じて流れに任せることにした。

 契約の呪文が聞こえ、優しく唇が重なる。すると、過去のルイズから未来のルイズへと魔力が送り込まれ、未来のルイズ自身の魔力も使って左手にルーンが刻まれる。どうやら、召喚と認められたようだ。

 

「……色々と予想外な出来事があったけど、コントラクト・サーヴァントは無事成功したようだね。二人とも、ちょっとルーンを見せてくれますか?」

 

 コルベールはそれぞれの右手と左手を取り、珍しいルーンだと言って才人のルーンからスケッチを始めた。

 才人に刻まれたルーンはプリエと同じもの。しかし、自分に刻まれたルーンのことはよく分からない。ただ、自分の属性は虚無であるのだから、特殊なルーンであってもおかしくはないだろう。

 プリエの指導によって掴み取った力に比べたら微々たるものだろうが、一応後で調べてみることにしよう。

 

「それでは、これにて儀式は終了です。各自寮に戻って、使い魔との絆を深めておくように。では、解散」

 

 コルベールの号令でほとんどの生徒は飛び去っていくが、その中でこちらへと歩み寄ってくる者が二人。キュルケとシャルロ…いや、タバサだ。キュルケは皮肉を言ってくるぐらいだろうが、タバサに根掘り葉掘り聞かれるのは非常に面倒くさい。

 未来のルイズがパン、と手を鳴らすと、いつの間にかそこはルイズの自室だった。

 

「はぇ!?」

「え?」

 

 一緒に連れてきた二人は驚いて声を出す。ハルケギニア広しと言えど、自由自在な空間転移魔法など聞いたこともないだろう。一応、似たような魔法は存在するが虚無属性。どちらにせよ伝説の魔法である訳だ。

 

「それじゃ、私はちょっと調べものがあるから失礼するわ」

「ま、待ってよ!」

 

 待たない。待ったところでキラキラした目の過去のルイズに質問責めされるだけだ。それじゃあ何のためにキュルケたちを撒いたのか分からない。未来のルイズは微笑みを残すと、一陣の風となって部屋から消えてしまった。

 図書館の前で実体化し、髪を一つに纏めながら中に入る。司書に挨拶をして、タイトルを流し読みしながらそれっぽい本を探していく。

 ふと目についたのが『始祖の使い魔たち』という本。虚無の属性は元々始祖の属性なので、普通の本よりもこういう方面から調べた方がいいかもしれないと思い、手に取って読み始めた。

 

 ビンゴだ。始祖の使い魔のルーンと一致した。プリエと才人のルーンはガンダールヴのルーン。私のルーンはヴィンダールヴのルーンらしい。

 この本曰く、ガンダールヴは『あらゆる武器を使いこなし、千の兵をも蹴散らす』ようで、ヴィンダールヴは『あらゆる幻獣を自在に扱う』ようだ。あの平凡な少年にそんな力があるかは分からないが、プリエなら申し分ないだろう。

 

 しかし『あらゆる幻獣を自在に扱う』か。確かに、いろんな生物と仲良くなるのはうまくなったが、その程度でいいのだろうか?プリエなど、自分と全く関係ない使い魔に芸をやらせることができるというのに。

 ……あれ?待てよ……プリエは見たことのない魔法具でも使い方が分かる。これはミョルズニルトンの特徴だ。最後の使い魔は記すことすら憚られるらしいので記述がないが、恐らくその条件も満たしているだろう。

 …………プリエを基準に考えるのはやめよう。千の兵どころか万のメイジを鼻歌交じりで蹴散らせるだろうし、そもそも始祖よりも魔法が得意な使い魔ってなんだ。

 

 それにしても、何故才人がガンダールヴなのだろうか?自分はまだ、プリエたちと比べるとひよっこもいいところだが、普通の魔王ぐらいなら瞬殺できるようになった。戦闘能力的にはこっちだってガンダールヴになってもいいはずだ。

 ……もしかして、使い魔の特徴ではなくて、ルーン自体がこういった力をもたらすのだろうか?割と気になるし、機会があれば試してみたいものだ。

 必要な情報は得られたので本を閉じ元の場所へと戻すと、視界の端にコルベールの姿が見えた。

 

「こんにちは先生。またお会いしましたね」

「おや?君は…風の化身殿かな?」

「ええ、その通りです。体格も服装も同じなのに、よく分かりましたね」

「なに、雰囲気が別も――ゴホン!…まあ、生徒をよく見ていることにしておいてください」

 

 その返答を、ルイズは苦笑で濁す。この頃の自分があまりにも子供っぽいのは分かっていることとはいえ、面と向かって言われると流石に恥ずかしいのだ。

 

「そういえば、風の化身殿はどういった用事で図書館に?」

「はい、少々調べ物を。ですが、もう終わりましたので、主人のところへ戻ろうかと」

「そうでしたか。…本来なら一人の生徒を贔屓するような行動は慎むべきですが、どうか、貴方の主人を見捨てないでいただきたい」

 

 ルイズに向かって頭を下げるコルベール。これにはルイズも驚いてしまった。マジメな教師だとは思っていたが、他の教師と同じように、もう諦められていると思っていたから…

 思わぬ言葉に目頭が熱くなるが、今の自分はルイズではなく風の化身。ムリヤリ涙を引っ込めて微笑みを作る。

 

「大丈夫です。見捨てられるような人かそうじゃないかぐらい、一目見れば分かります。なんたって、私は風の化身なんですから」

 

 それだけ伝えると、すぐさま一陣の風となってその場を去る。はねっ返りでもない自画自賛なんて気恥ずかしいし、何よりコルベールの安心した表情を見たら、恥ずかしさと感動を抑えきれなくなってしまうだろう。少々無礼だとは思ったが、今の自分は風の化身なので、少しぐらいの無礼には目を瞑ってもらおう。

 そしてそのまま自室へと戻ると、予想外というか、できれば違って欲しかったというか、癇癪を起こした過去のルイズと才人が言い争いをしていた。

 

「あっ!あんたどこに行ってたのよ! ほら!あんたからも言ってやってよ!役立たずの平民なんて犬扱いで十分だって!」

「ふざけんなよな!そりゃアイツみたいに魔法は使えないけど、だからって犬扱いはねえだろ!」

 

 未来のルイズは乾いた笑みを浮かべながら、二人を魔法で眠らせる。コルベールにああは言ってしまったが、やっぱり世界でも放浪した方が良かったかもしれないと、ルイズは少しだけそう思ったのだった。




時系列としては22話以降だけど23話よりは前という感じです。

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