伝説の使い魔   作:GAYMAX

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ホントは後日談はミシアやウラヌス中心の話から始まる予定だったのですが、別になくても整合性が取れることと、あんまり読みたい人いなさそうな気がしたのでボツになりました。


後日談
学院での一日


 

 レディース アンド ジェントルメン、ご機嫌いかがかな?僕はギーシュ・ド・グラモン、愛の探求者さ!可憐な乙女たちに愛を配るのが僕の生きがい。充実した日々を過ごしてるよ。え?最近はどうなのかって?

 

―――あの…ごめんなさい!

 

―――遠慮する

 

―――プッ

 

―――すまないが、私は女の子にしか興味がなくてな

 

―――は?ついに頭に蛆でも湧いたわけ?

 

……まあ、そんなことはいいのさ。それよりも、プリエさんが魔界に帰ってしまってから、本当にいろいろなことがあったんだよ

 

 その中でも、一番印象に残っていることは銃士隊の反乱事件だね。プリエさんが帰っちゃったから、ルイズもテミスもしばらく無気力でね、仕方ないから王都奪還の四国連合軍が急遽結成されたんだよ

 なんでか知らないけど、トリステイン以外の国だけで10万も兵が集まったんだよね。たぶん、最強と噂されている銃士隊の実力の確認とか、その鼻を明かしてやろうだとか、そういうことなんじゃないかなぁとは思ったけどね。だとしても内乱なのに他国から人が集まりすぎだとは思ったけど。

 

 ドットからラインになったし、いくら銃士隊の人たちが強くても、100倍の兵力差なら大丈夫だと思って僕も志願したのさ。……結論から言うとね、僕らは惨敗だったよ

 

 僕のワルキューレなんて目じゃないほどのスピードで襲いかかってくるし、剣の一振りで風のトライアングルに匹敵する衝撃波を起こすし、挙げ句の果てに数十人掛かりでようやく倒したその銃士隊は見習いだったという始末さ

 こんな人があと399人もいるんだよ?しかも、それ以上の人たちは残り600人……銃士隊以外の暴徒鎮圧に加えて、見習い5人、正規隊員1人捕まえたってのはすごい戦果だと思うよ。

 

 間違いなくトリステイン最高戦力の一人であるはずのシエスタは、部隊長10人、副総隊長一人と戦って、8人を捕縛したんだけど副総隊長と相打ち。同じく最高戦力のワルド子爵は、残りの副総隊長2人に辛くも倒された

 プリエさんが直々に鍛えたアネットってメイドは、半分ぐらいの銃士隊を戦闘不能にして、アニエスさんと三日三晩の死闘を演じたあと、ついに倒されてしまった

 

 10万もの兵力が、『メイド魔王』のシエスタが、『閃光』のワルドが、『伝説のメイド』のアネットが、たった1000人に全て蹴散らされてしまった。信じられるかい?たった1000人にだよ? 『3倍の兵力さえあれば、こちらから攻めても大した痛手も負わずに勝利できる』と、兵法書にも載ってるんだよ?

 あのときは、思わず勝利の高笑いを上げているアニエスさんと一緒になって笑ってしまったね

 

 でもね、そんなアニエスさんですら、『伝説』の足元にも及ばなかったんだよ

 

 やっと説得が成功したのか、ルイズがついに来てくれて、ゲンコツ一発でアニエスさんを倒しちゃったんだ。そのままテミスと一緒にものの10分で反乱を鎮圧、僕らの苦労はなんだったんだって話だよね

 

 ちなみに、プリエさんの直属の部下の二人は、あの程度じゃ魔界ゲートが開かないことを知ってて、こんなしょうもない内乱を止めることがバカバカしくなっちゃったんだってさ。仕方ないよね

 

 とにかく、死人は一人も出なかったけど、明らかに過去最悪のしょうもない内乱が終わってから月日は過ぎた。ウラヌスさんとミシアさんも魔界に帰ってしまったんだ

 

 プリエさんのときほどじゃないけど、みんなが悲しんで、テミスは特に悲しんでいたよ。でも、そんな悲しみも無事に乗り越えて、僕らは平和に暮らしている

 

 じゃあ、今からは僕たちの日常を語ろうか

 

 

 

 

 

 

「皆さん。炎とは、火の魔法とは、はるか古代から破壊だけを司る魔法だと思われてきました」

 

 弱まった夏の日差しが扇状の教室を程よく照らし、生徒が授業を受けやすいようにと、とあるメイドがかけた魔法により心地よい冷風が吹く室内は、生徒の眠気を誘う。

 しかし、寝ぼけ眼をこすっている生徒はいても、こっくりと頭を揺らしている生徒、ましてや突っ伏して夢の世界へと旅立ってしまった生徒なんて一人たりともいなかった。

 

「確かに、火とは破壊の側面が強いでしょう。水には癒し、土には創造、風には祝福、虚無には……なんでしょうな?」

 

 真面目な調子で話していたコルベールの予期せぬボケに、思わず教室の中で小さな笑いがいくつか漏れる。

 

「コホン。えー、つまり私が言いたいことは、他の属性には破壊以外の使い道があり、火は基本的に破壊しか使い道がなかったということです

しかし、火には必ず別の使い方があるはずだと、私はそう思い続けて研究をしてきました

そして、優秀な協力者により、ついにそれを実現させることができました!テミス君、お願いします」

 

「は、はい!

皆さん、すでに私と会ったことがある方もいるかもしれませんが、はじめまして。私はテミス、先月からここで教師を勤めさせていただいています。これからよろしくお願いしますね」

 

 簡単な自己紹介を終え、ぺこりと頭を下げるテミス。猫娘族の特徴であるネコミミとしっぽが、教師用のローブを押しのけて存在を主張している。

 完全に成熟し、強い色香を放つその肢体とは裏腹に、その顔には未だあどけなさが残っており、相反する二つの要素が奇跡的に互いを邪魔せずに存在しているため、彼女は不思議な魅力を纏っていた。

 

 普段は人気のないコルベールの授業にここまで人が集まった理由の半分は、初めて教壇に立つ彼女を一目見ようとして。である。なんとも下心満載の理由であるが、これは理由の半分だけ。

 もう半分の理由、それは―――

 

「さて皆さん、これが火の新たな可能性、『再生の火』です」

 

―――若き天才が為す、芸術のような新魔法のためだ。

 

「死と共に火を纏い、燃え盛る業火の中で若々しく蘇るという不死鳥の伝説

あいにくハルケギニアに不死鳥は生息していませんが、その伝説をヒントに作り上げたものがこちらになります」

 

 テミスが右手に灯る炎を掲げ、誰にでも見えるようにゆっくりと教室を回っていく。

オレンジが強いその炎は優しく揺らめいており、テミスを焦がすことは決してない。『再生の火』を間近で見た生徒から、ポツポツと感嘆の声が上がった。

 

「実は、意外とすぐにこの魔法は完成したんです。ですが、当時のこの魔法の発動には虚無の属性が必須で、とても一般的に使えるようなものではありませんでした

そこで、なんとか系統魔法だけで作り上げられるように色々と改良を加えましたが、それでも今はヘキサゴンスペルに落とし込めるだけで精一杯です」

 

 それは、伝説から伝説への落とし込み。ヘキサゴンスペルとは、王族やそれに準ずる血族のメイジが二人がかりで唱える魔法である。しかも、ただ優秀であるだけでは唱えることは叶わず、二人の息の良さも重要になってくるのだ。だからこそ伝説と言っても差し支えないほどの魔法である。

 ただ、同じく伝説の虚無よりは習得が容易であり、特殊な才能がなくても、人を超越しなくても唱えることができるが。

 

「ですが、私はいつかこれをスクウェア…いえ、トライアングルクラスにまで落とし込み、新たなる火の道しるべとしてみせます!」

 

 一通り教室を回りきって教壇に戻ってきたテミスの堂々とした宣誓に、皆が大きな拍手を送る。テミスは気恥ずかしいのか、頬をほんのりと染めて居心地が悪そうにモジモジしているが、ピンと張ったネコミミはピコピコと嬉しそうに動いている。

 

「先生。それでいったい、どういうことができるんですか?」

 

「あっ!は、はい!」

 

 このままでは時間がかかると思ったのか、それとも単純に我慢がきかなくなったのか、そんな声が上がりテミスは慌ててふわふわとしていた意識を現実へ戻す。

 

「これは一旦対象を破壊してから再構築、つまり再生させます。では、実際にやってみましょうか」

 

 テミスが空中に再生の炎を固定し、一枚の羊皮紙をバラバラにしてその中に放り込んだ。すると、炎が激しく燃え上がり、しばらくすると一枚の羊皮紙を吐き出して勢いが元に戻る。

 くたびれてボロボロだった古い羊皮紙は、新品同様の張りを取り戻していた。思わず教室中から大きな拍手が上がる。

 

「ありがとうございます、これが再生です。実は、再生と水の癒やしは厳密には違います

癒やしは生物が生きるための力、気を活性化させて対象を治癒するので、死んでしまったものや無生物には効果がありません

対して再生は、構成因子を新しいものへと置き換えることにより対象を治癒するので、どのようなものにも効果を平等に発揮します」

 

 テミスの説明は、学生たちには(いささ)か難解だったようで、多くの学生がうんうんと唸りながら、羊皮紙へと要点らしきワードを書き出して情報を整理している。

 

 そんな中、教師であるコルベールすらもうんうんと唸っていたが、彼のソレは学生たちのものとは意味が異なっていた。

 

「あ、あの、テミス君?も、もしかして…その魔法なら、私の…髪の毛も……」

 

「はい、問題なく再生しますよ」

 

「ほ、本当かね!?」

 

「よかったら、使ってみますか?」

 

「是非とも!では、早速…」

 

 テミスが空中に炎を固定し、コルベールは禿頭を恐る恐る炎へと近づける。

傍目から見れば、残り少ない毛根ごと一切の髪を葬り去ろうとしている狂人に見えるためか、生徒たちは思わず息を呑んでしまう。

 

 そして、ついに彼の頭が炎の中に入る。その瞬間、炎は一瞬で燃え盛り、コルベールの頭をすっぽりと包み込んでしまった。

 生徒たちの中から小さく悲鳴が上がるが、直後に聞こえた気の抜けるような声により、すぐに平静を取り戻した。

 

「おぉ……これはすごく、気持ちの良いものですなぁ…」

 

 その見た目に反して、心地よい暖かさ。さすがに再生の火というだけのことはある。

 

 だがテミスもほっと一息ついた。いくら理論が完璧であり、ルイズやシエスタにも協力してもらって安全性を確かめたとはいえ、普通の人間にコレを使うのは初めてなので、万が一が起こり得る可能性だってあったのだから。

 

 炎がいっそう激しく燃え盛ったかと思うと、唐突にパッと消えた。

 

「これで、私の髪が…?

テミス君、手鏡はありますかな?」

 

「どうぞ」

 

 テミスが差し出した手鏡を受け取ると、コルベールは期待半分、不安半分といった調子で恐る恐る手鏡を覗き込む。

 

「……おお!やった!やりましたぞ!!」

 

 彼の言葉を皮切りに、教室の中に溢れるのは今日一番の拍手の音………ではなく、笑い声だった。

 困惑するコルベール。ここは人体にさえ問題なく作用する素晴らしい魔法の成果と、己の頭髪の復活を讃え、拍手喝采となる場面ではないのか。

 

 しかし、皆が笑うのも無理はない。再生の火は完璧にコルベールの頭髪を復活させていたが、むしろ完璧すぎた。世の女性が羨むほどの全く痛みのない長髪。おそらく絹のように肌触りが良いであろうソレを持つのは冴えない40代の教師。

 そのアンバランスさだけでも笑いを誘うというのに、直後に年甲斐もなく狂喜乱舞するコルベール。彼が飛び跳ねるたびに舞うサラッサラの長髪。そりゃあ我慢できるはずもない。

 現に、テミスですら口元を手で隠してクスクスと上品に笑っているほどだ。

 

 狐につままれたような顔をするコルベール。それがより滑稽さを引き上げていて、いつの間にか終業の鐘が鳴り響いていたというのに、誰一人気づかずに皆が皆しばらく笑い続けていた。


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