伝説の使い魔   作:GAYMAX

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最終話 それから、これから

 プリエが魔界に帰って月日は経ち、私は三年へと進級していた。

プリエが帰ったことで生徒たちや銃士隊、軍の大部分が暴動を起こし、プリエファンクラブなるものがあることが明るみに出たり、テミスがハルケギニアに残ることになったり、新入生としてティファニアが入学してきたりと、いろいろな出来事があった。

 

 あの戦争で数々の功績を打ち立てた私の二つ名は、いつの間にか『伝説』となっていた。プリエと同じ二つ名で呼ばれるのは嬉しいが、プリエと並び立つ域ではないのに同じ二つ名というのはこそばゆい。

 それでも、プリエが私を認めてくれたから、私は胸を張って受け入れることにした。

                                           (……ぶっちゃけ、女王様でなければいいし。)

 

 そして、私は再び使い魔を呼び出すために、プリエとの出会いの始まりである、学院の近くの草原にいた。

 やはり私が呼び出す存在が気になるのか、学院のほとんどの生徒と教員が遠巻きから見物していた。嘲笑や罵倒を投げかけるために残っていた去年とは、いろいろと正反対だ。

 

「いい男を頼むわ。とびっきりいい女ならもっといいわね」

 

「黙りなさいキュルケ!あんたの意見なんて聞かないからね!」

 

 隣に控えるキュルケが、からかうように言う。私はそんなキュルケに笑顔を返しながら、語調だけは強く言い切った。

 

「なら、プリ…包容力のある女性を」

 

「言いかけたわね?」

 

 私を挟んでキュルケの反対側にいるシャルロットが、そんなことを半分本気で言う。だが、残り半分は冗談であるようで、その言葉からは強い執着などは感じられなかった。

 

「とにかく、これは私の使い魔なんだから私の好きにさせてもらうわ!」

 

「ルイズのいけずぅー」

 

「残念」

 

 口ではそう言うものの、二人ともあまり残念そうではない。やはり、プリエの代わりなどいないことは分かっているし、私と同じで、プリエはいつか戻ってくると信じているのだろう。

 

 とりあえず、とっとと召喚するとしよう。『世界扉(ワールド・ドア)』の虚無魔法のおかげで何度でもやり直しが効くので、失敗は許されない想いで臨んだ一年前とは比べ物にならないほど気が楽だ。

 

 まずは悪魔から、それもとびっきり強いけど私よりは弱い悪魔を召喚しよう。

 

「『召喚(サモン)』!」

 

 『召喚(サモン・サーヴァント)』はコモンマジック。元々呪文の泳唱は必要ないが、私は頭の中でイメージを固めるだけでそのイメージに沿った者が呼び出せるようになっていた。

 

 プリエを召喚したときのような魔法陣が展開され、やはり一瞬後に光を放つ。あのときとは違い、この召喚魔法陣は自分の魔力だけで生成されていることが分かる。

 そうして光が引いて現れた者は──

 

「我が名は邪神ヴァルヴォルガ…我を呼び出したのはお前か…」

 

 大きな二対のコウモリのような翼を広げ、威厳たっぷりにそう告げたソレは、まさに悪魔、邪神といった姿をしていた。

 二対の腕、不気味なほどの白い肌、胸に埋め込まれたクリスタルのようなものを中心に伸びる赤い紋様、彫像のような厳めしい顔つきにミノタウロスのような立派な角、額には胸と同じようなクリスタル、よく見ると小さい翼が更に一対存在している。

 足があるべき部分は、凶悪な魔獣の顔の骨で構成されており、大きく開かれたその口は太陽のような球が鎮座していて、その瞳は先ほどの球と同じ憤怒の炎で燃え盛っているように思える。額の部分には中性的な人間の生首が埋め込まれており、後光を放つ姿は禍々しくもどこか神々しかった。

 そして、全体的な高さは4から5メイルといったところか。

 

「…却下」

 

 だからこそ、私は迷わずにそう決めた。

 

「ええっ!?ちょっ、ちょっと待ってよ!これでもボク、召喚されるまでの間にいろいろと妥協したんだよ!?」

 

「そうよそうよ!本当は悪鬼羅刹でもない人間のとこになんかミッキーちゃんを使い魔に出したくないんだから!」

 

「ガハハハハハ!殺せ殺せ!」

 

「うん、却下」

 

 確かに強大な悪魔を求めたのは自分だが、これほどまでに悪魔だ!という見た目をされると、連れ回すだけで様々な問題を引き起こしそうだし、そもそも何かの拍子に間違って退治してしまいそうだ。

 

「ど、どこが気に入らないの?ボク頑張って直すから!」

 

「そりゃいろいろと言いたいことはあるわ

だけどとりあえず、殺せ殺せ言うような危険な悪魔は使い魔にできないわね」

 

「ガハハハハハ!最終的に決めるのはミッキーだ!言ってて虚しくなるが、俺は安全だと思うぜ嬢ちゃん」

 

 下の魔獣に陽気な声でそう告げられ、なんだか拍子抜けしてしまう。強大で凶悪な見た目なのに結構気さくな感じを受け、やはり強大な悪魔はのほほんとする傾向があるのかもしれないという憶測が強まった。

 

「………そう

それと、あんたの名前ヴァルヴォルガじゃないの?」

 

「ボクは悪魔将軍ミッキー」

 

「私は堕天使オルフェリア」

 

「ガハハハハハ!ワシは凶獣ドライゼン!」

 

「「「みんな合わせて邪神ヴァルヴォルガ!」」」

 

 一番上がミッキー、真ん中の生首がオルフェリア、下の魔獣がドライゼンで、その三体が合わさってヴァルヴォルガ、か……

 

「………そんな邪悪なトリオを使い魔にできる訳がないじゃない!」

 

「ええっ!?ボクより邪悪な伝説の魔王を使い魔にしてたじゃないか!」

 

「うるさい!プリエを悪く言わないの!だいたい、堕天使はもう懲り懲りよ!『世界扉(ワールド・ドア)』!」

 

 ミッキーが言うようにプリエが邪悪だったとしても、私にとっては最高の存在だったのだ。悪い評判はあまり聞きたくない。どちらにせよ、既に用事はないため虚無魔法で元の世界へのゲートを生成する。

 

「じゃ、じゃあ最後に一つアドバイス!あんまり見た目と肩書が邪悪じゃない悪魔を呼びたいんだったら、予言者プラムがいいと思うよ!」

 

 それを言い残すと、ヴァルヴォルガは次元の渦に吸い込まれて消えていった。

 

「……一発目からどえらいもの呼び出したわね」

 

「……アレは忘れましょう

というか、気になること言ってたわねあいつ」

 

 次は、オススメされた予言者プラムを呼び出してみることにしよう。邪神のオススメだけに不安が拭えないけど、あの邪神ですら今の私の敵ではなかったのできっと大丈夫だろう。

 

「『召喚(サモン)』!」

 

 召喚魔法陣からの光が引いて現れたのは、私よりも身長が低い小さな女の子。しかし、先程の邪神にも引けを取らない魔力と、本来白い部分が黒く、瞳孔が紅で彩られた瞳から、人間でないことはすぐに分かった。

 

「お初にお目にかかりますわ超魔王、私は予言者プラム」

 

「……ちょっと待ってよ、どういうことよそれ」

 

 聞き捨てならない単語に彼女への警戒が吹き飛び、私は思わず聞き返していた。プラムは嘲るように微笑みを浮かべ、手の甲を上品に口元まで持っていく。

 

「あらあら、ご存知ないようね。超魔王を倒した者は超魔王の称号を手に入れるのよ?

そんなアナタに使い魔として呼び出されるなんて光栄ですわ」

 

「………いろいろと言いたいことができたけど、まあいいわ。率直に言うけど、あなたは却下よ」

 

「それは残念。理由をお聞かせ願える?」

 

「…危ない香りがするのよ。それも混じりっけのない純粋な悪意の香りがね」

 

 圧倒的な憎悪を持つプリエとも、純粋に強い邪神だったヴァルヴォルガとも、悪意自体が気まぐれであったミシアとも違い、プラムからは破滅や昏迷を好んで行う気配が感じられたのだ。

 

「フフッ、超魔王ともあろう者が私に臆すとは、情けないわね」

 

「なんとでも言ってなさい」

 

「……可愛くない子。ならもういいわ、さっさと帰してくれる?」

 

 面白くなさそうに、超然とした態度を崩すプラム。彼女が初めて見せた心理的なスキに、ちょっとした仕返しとして悪魔的な考えが私の中でひょっこりと顔を出した。

 

「理由、全部聞かなくていいの?」

 

「…まだ、何か?」

 

「ええ、さっきのは小さな理由。大きな理由は、あなたは見た感じ氷系が得意そうだから、シャルロットとキャラが被るのよ」

 

「………は?」

 

「それじゃ『世界(ワールド)「待ちなさい!」何よ?」

 

「ホントにたったそれだけの理由なの?」

 

「たったとは何よ!たったとは!毒だってうまく使えば薬にはなるわ!でもキャラ被りだけは毒にしかならないのよ!

だいたい、私の属性は虚無以外なら風がいいの!『世界扉(ワールド・ドア)』!」

 

「キィィィィ!!覚えてなさい!ゼタでもけしかけて絶対に後悔させてあげるわ!貴方の未来に災いあれ!!」

 

 残念だが、本来に人を後悔させるような一流の悪党は捨てセリフなんて吐かないものだ。地団太というか、空団太を踏みながら去っていくプラムに、私は精一杯の黒い笑みを送っておいた。

 

「ルイズ、さすがにアレは強引だと思う」

 

「ちょっとした仕返しよ。それに、意外と御しやすいって分かったし、もし復讐に来たらまた遊んであげるわよ」

 

「…ルイズが黒い」

 

 さて、次は何を呼ぼうか、ちょっと楽しくなってきた。あんまり強くても面倒だから、ちょっと強いくらいで、今度は天使系統の者を呼んでみようか。

 

「『召喚(サモン)』!」

 

「む?召喚魔法だと?わ──」

 

「却下」

 

 ペンタゴンの簡易な召喚魔法陣から出現した男は、確かに背中から羽が生えていて、服装もそれっぽかった。だが、あんないかつい男を私は天使だとは認めない。

ヴァルヴォルガの方がまだ神々しく思えるほど全く神々しくないし、小悪党感をひしひしと感じたし。だから、すぐさまゲートを生成して元の場所へと送り返した。

 

 しかし、見た目からして神聖な存在は未だに憧れるもので、そういう天使を一度でいいから呼び出してみたい。だからこそ、もう一度天使のイメージを心に描いて、今度は力量制限なしに私は魔法を使った。

 

「『召喚(サモン)』!」

 

 どこか神々しさを感じる複雑な魔法陣が展開され、呼び出されたのは神々しい女性。羽はないため、天使というよりは女神と呼んだ方がしっくりくる。

 最初の召喚で願った『神聖で、強く、美しい』を思い出すような見た目なのだが……

 

「あ、直接召喚はご遠慮くださいね」

 

 ……なんだか、やたらと俗っぽい印象を受ける。なんだろう、横に刺さっているパラソルや、寝転んでいるビーチベッドのせいだろうか。

 ご丁寧にビーチテーブルとココナッツジュースまで用意されていて、天界というよりは海辺が相応しいと思う。

 

「……ああ、うん、悪かったわ…」

 

 なんだか夢を打ち砕かれたような気分になって、失意のままにゲートを作成する。彼女は休暇中だっただけで、本当はもっと天使の威厳と荘厳さを持って仕事に励んでいると思いたい。

 というか、天使に休みがあること自体信じたくないのだが…

 

「それでは、御機嫌ようルイズさん。貴方の未来に祝福あれ」

 

 去り際にそうやって天使らしく祝福されても、寝そべったまま手をわりと大きく振られると気が良くて明るいお姉さんにしか見えない。

 名乗った覚えはないが、いつの間にか邪神や予言者も知っていたぐらいだし、私の意思とは関係なく名が広がってしまっているのだろう。

 

「……ねえ、もしかして、アレって天──」

 

「それ以上言わないで」

 

 先ほどの女性に限れば認めても良かったのだが、あんな悪党面の天使など誰が認めるものか。始祖への信仰を貫き通して果てた際に、あんな者が迎えに来たら、誰だって喜び勇んで地獄行きを選ぶだろう。少なくとも私はそうするし、できるのなら恐らく爆破する。

 

 しかし、先ほどからイロモノばかりで、そろそろ飽きてしまう。とりあえず、次はプリエにはなかったかわいさを求めてみよう。それならばイロモノにはならないはずだ。

 私はぬいぐるみなどのファンシーなものを胸いっぱいに思い浮かべながら、魔法を使った。

 

「『召喚(サモン)』!」

 

「ニャ?」

 

「ニャ!」

 

「ッスー!?」

 

「エリー!」

 

 召喚されたのは小さな亜人たち。一人はネコがそのまま人間の体形になり、二足歩行を始めたような見た目。次の一人?一匹?は、ネコの着ぐるみを着た子供のような見た目で、背中にコウモリのような小さい翼が生えている。そして次の一匹はペンギンのような何かで……何故か爆発して白目を剥いている。最後の一……本?は、その、なんというか……大きなキノコである。プリエから聞いたしゃべるキノコとは、コイツのことではないだろうか?

 

 おかしい。純粋にかわいいと思えるのは二人と言うか二匹だけで、残り半分はどこか受け付けられない……

 というか、キノコはそのしなやかで弾力のある上下運動をやめてほしい。見てるとなぜだかだんだん力が抜けてくる。……キュルケが何か熱のこもった視線でキノコを見つめているのは気のせいだと思いたい。

 

「あれー?おかしいニャあ?ボクはさっきまで甲板をお掃除してたハズだったんだけどニャ」

 

「キミもそうなのニャ?(使い魔の召喚魔法陣が展開されたくせに、コイツは何を言ってるのニャ?てかコイツ、魔界のオトボケ種族のケット・シーじゃニャいか。こんなん本気で言ってると思うと、寒気がするニャ)」

 

「ブクブクブクブク……」

 

「ンギャー」

 

 これで、純粋にかわいいと思える者が一匹減った。別に読心はしていないのに、普通に感じ取れてしまうほどの邪悪な思考はヤバイと思う。

 泡まで吹いているペンギンをヒールで回復させながら、使い魔としての資質を精査するために、私は彼らに話しかけた。

 

「こんにちは」

 

「こんにちはニャ」

 

「ニャア~ン、ゴロゴロ…(どうだ!このボクのかわいさ!さあ、ボクを使い魔にするのニャ!)」

 

「オミャーがエリを呼び出したンギャ?」

 

 普通に挨拶を返してくれたのが二名、思いっきり媚びを売り出したのが一匹、未だ気絶しているのが一匹。とりあえず、これで一つ決まったことがある。

 

「ごめんね。あなたはちょっと使い魔にできないかな?」

 

「ニャ!?(ウソだろ!?このボクのかわいさが通じない!?)」

 

 いや、確かに行動は十分にかわいらしいのだが、その内心が透けて見えてしまうと、すごく微妙な気持ちになるというか……それに、これだけ腹黒いと、裏工作も平気で行いそうで怖いということもある。

 このネコを『世界扉(ワールドドア)』で送り返すと、ちょうどペンギンが目を覚ました。

 

「ハッ!?お、オイラを使い魔にするために召喚してくれたんッスよね!?18時間連続労働でも、給料サンマ3匹でもいいッスから!オイラを雇ってくれッスー!!!」

 

「え、ええ……まあ、とりあえず、あなたのことを教えてくれる?」

 

「喜んでッス!」

 

 ペンギンの妙な熱意に押され、ホントは送り返すつもりだったのだが、話ぐらいは聞いてあげることにした。

 彼はプリニーという種族で、罪を犯した者の魂が入っているらしい。ものすごく必死なのは、なんでも、エトナという主人の悪魔があまりにも横暴だからであるということだ。働いてお金を貯めないと罪を償えないのに、気まぐれにサンマ一匹しかもらえないとか。

 爆発してしまったのは、すごくデリケートな体であるらしく、ちょっとのことで爆発してしまうから、だそうだ。

 まあ、この話を総合すると──

 

「うん、却下ね」

 

「どうしてッスかぁ!!?」

 

「罪人ってのがちょっとね。それに、転んだだけで爆発されるのも困るわ」

 

「しまったッスー!!隠しとけば良かったッス!!」

 

 しかし、このときの態度次第では使い魔とは別で雇っても良かったのだが、普通の待遇なら増長しそうな態度だったので、残念ながら強制送還決定だ。

 それに、話を聞いていると、エトナという悪魔はヒマ潰しと嫌がらせのためだけに動くことがありそうで、そういう意味でも手元には置いておけない。

 彼を送り返したとき、「逃げられるとでも思ってんの?」と、気の強そうな少女の声が小さく聞こえてきたことで、その確信は強まった。

 

「そろそろいいギャ?」

 

「ああ、ごめんなさい

あなたは……ええと、その……なんなの?」

 

「ボクはエリンギャーだエリ。まあ、他の種族からは珍茸族って呼ばれてるエリ」

 

 ………まあ、普通に珍しいキノコの種族という意味なのだろうが、そのネーミングに悪意を感じた。そういう意図がないのなら、稀茸族でもいいと思う。だからそのピストン運動をやめてほしい。

 

「ボクたちのかわいさは女の子に大人気なんだエリ。その証拠に、ボクたちが隣にいると女の子は骨抜きになっちゃうんだエリ」

 

 キノコというインパクトにかき消されて気づかなかったが、よく見れば確かにかわいらしい要素をいくつも持っている。

 ただ、女の子が骨抜きにされるのは絶対にそういうことではないと思う。しなやかなピストン運動、弾力があって強靭そうなその身体、珍茸(チンきのコ)……別に私はソレを見たことがないのだが、そんな私ですら魅力を感じ始めているのだから、ソレの味を知っている女性への効果など言うまでもないだろう。

 キュルケや、シャルロットすらもだんだんと引き寄せられているため、ソノ気がない彼には申し訳ないが、お引き取り願おう。

 

「…ごめんね、キノコの栽培は分からないのよ」

 

「そっか、それなら仕方ないエリ」

 

 それでいいのだろうか、エリンギャー。まあ、彼自身がいいと言うのならいいんだろうが。

 テキトーにでっち上げたひどい理由でエリンギャーを送り返した後、最後に残ったネコが不安そうな表情でおずおずと話しかけてきた。

 

「…あの、ボクはオヤビンのところに戻らないといけないのニャ。だから、キミの使い魔にはなれないのニャ…ごめんニャ…」

 

「あちゃー…こちらこそごめんなさい。きちんと送り返してあげるから、安心していいわよ」

 

「ありがとニャ!」

 

 私は自由自在に呼び出しと送り返しができるのだから、なにも本人の意思を無視してまで使い魔にする必要はないだろう。

 しかし、先ほどのチン……いやいや、エリンギャーを触りたかった欲が未だに残っているし、生ける屍のようになってしまっているキュルケや、モノ欲しそうに顔を赤らめて指を咥えているシャルロットもいることだ──

 

「でも、ちょっとだけお願いがあるんだけど」

 

「大丈夫ニャ。レディーの頼みは断るなってオヤビンが言ってたニャー」

 

 こう言っていることだし、彼には少し申し訳ないが、犠牲になってもらうことにした。

まるで発情したネコのように激しく、そしてあの日の夜のようにじっくりネットリと、全身をモフモフされた彼は、ツヤツヤしている私たちとは対照的に、魂の抜けたような表情で元の場所へと送り返されていった。

 そうやって満足感に浸って恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべていると、コルベール先生が観客の中からおずおずとこちらに近づいてきた。

 

「あの…ミス・ヴァリエール?いくらやり直しができると言っても、これは元々神聖な儀式なので、そろそろ決めていただきたい」

 

「す、すみませんミスタ・コルベール」

 

 自分一人でやる分には何も問題はなかったのだが、こうやって儀式の形を取っている以上、何度もやり直しをすることは始祖を愚弄する行為でもある。

 途中からふざけ半分でやっていたことを反省するように、思いっきり頬を叩く。人間から出るような音ではなかった気がするが、とにかくこれで雑念は晴れた。

 

 どのような使い魔がいいか………ダメだ、どうしてもプリエの特徴が入る。

そういえば、いつも私はプリエに引っ張ってもらっていた。使い魔とはすなわちパートナー、できるならお互いに高め合う存在がいい。

 

 そう考えたとき、一人の少年の姿が思い浮かんだ。

 

 この世界では珍しい、黒い髪を持つ異世界の少年。お人よしだけど、気難しい私を許容するほどの度量はない、平凡な少年。

 ぶつかることは多々あった。それでも最後には私の元に戻っていた…本当なら私の使い魔になるはずだった少年。

 

 “異なる可能性の同じ世界”で見た彼と私は、まさにパートナーと呼ぶのに相応しかった。

 

「『召喚(サモン)』」

 

「…う、此処は…?」

      彼とならきっとできるはずだ ( )

 

「初めまして、平賀才人」

 

「は?…な、なんで俺の名前を?」

          プリエにも負けないような伝説を打ち立てることが ( )

 

「突然で悪いけど、私の使い魔になってほしいの」

                             伝説は、続いていく。




本編はこれにて完結ですが、もうちょっとだけ続きます。

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