伝説の使い魔   作:GAYMAX

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第22話 七不思議

 夏期休暇も無事に終わりを告げ、私たちは学院に戻っていた。

プリエが魅惑の妖精亭の皆に「学院に戻る」と告げたときは、ほとんどの女の子がこの世の終わりのような顔をしていてさめざめと泣く子も出てくる始末だったが、たまに遊びに行くとプリエが約束したら皆の顔がパアッと明るくなった。プリエがどれほど好かれているかが分かる。

 

 アンリエッタは約束通り、リッシュモンを処刑した次の日に即位し女王となった。

色ボケの上、プリエに調教されているので心底不安だったが、キビキビと国の為に働いているらしい。意外だ。

 

 そしてアニエスは、訓練のときに自分の部下を見る目の色が変わったらしい。それでも、元来真面目な性格なので自制して部下には気づかれていないようだ。

 

 しかし、プリエは一応使い魔である。ここまで好き勝手させていいのだろうか?

……使い魔以前に、好き勝手してはいけない領域まで好き勝手している気がするが。

 かと言ってプリエを律する術はないし、堂々と命令できる気もしない。どうするべきだろうか…

 

 それはそうと、夏と言えば怪談。私たちは学院の七不思議の真相を確かめようと、夜中にコッソリと部屋を抜け出していた。

 メンバーは私とプリエにキュルケとシャルロット、ついでにモンモランシーの部屋に行く途中だったギーシュである。

 

 ホントは怪談大会だったのだが、プリエの怪談(実体験談)が怖すぎた為に急遽変更されたのだ。ギーシュを連れて来た理由は、能天気なバカは気分を和ませるからである。

 

「あ、あの、今日はモンモランシーと大事な約束が…

だ、だから、僕はもう行ってもいいかな?」

 

「ダメよ。可憐な女の子が四人も怯えているのよ?それを見捨てるのがバラのやることなの?」

 

「そ、それは…」

 

 まあ、当然プリエは全く怯えていないが。とにかく、両手どころか両足にも華なんだから断る方がおかしいというものだ。

 

 

 

 

 

「一つ目…呪いを紡ぐ男の声ね…」

 

 夜、男子寮のどこかから恐ろしい怨嗟の声が聞こえてきて、その声を聞くと呪われてしまい、異性関係でのトラブルが起こるらしい。

ギーシュが特に恐れていたが、同性関係しか持っていない私たちには関係のないことだ。

 

「―――…!―――…!!」

 

 そして、男子寮の一角を歩いていたら、それらしき声が聞こえてきた。

 

「や、やっぱり僕は今からでもモンモランシーに…」

 

「今すぐに異性関係のトラブルを起こしてほしい?」

 

 がっくりとうなだれるギーシュは置いておき、ルイズは感覚を研ぎ澄まして内容を聞き取り始める。

 

「…クソッ!なんでだ…!なんで僕には何もないんだ…!別に付き合いたいとか高望みはしてない…目があったとか、挨拶をしたとか、そういう些細なことでいいのに…

でも…あのグループの中に入ってみたいなあ…キュルケの豊満な体、かわいらしくなったシャルロット、いろいろと凄いミシアさん、ギャップ萌えという最強クラスの属性持ちのウラヌスさん、そして学院中を虜にするプリエさん…でも、僕の本命は違うんだ…

『女王様』のルイズに『風上?あんたなんて風邪っぴきで十分よこの豚!』と折檻されたいんだぁ!!」

 

 聞こえてきたのはひどい妄言で、プリエやシャルロットもルイズと同様に露骨に嫌そうな顔をしていた。風のメイジであるシャルロットと、破格の能力を持つプリエも、どうやらこの戯言(ざれごと)を聞き取っていたようだ。

 

「何々?どんな話だったの?」

 

「…ただの豚の鳴き声よ」

 

 余談だが、それからは(マリコルヌ)がこのような妄言をヌカした夜には、彼は大量のオカマ(スカロン)に追い掛けられる悪夢を見るようになったとか。

 

 

 

 

 

 

「二つ目は、無限回廊よ…」

 

 曰く、それは虚空へとまっすぐと伸びる廊下らしい。行けども行けども終わりは見えない…それ故に無限回廊なのだが、引き返すとすぐに戻って来られるという。

 

 そして、そのような空間の歪みをプリエが感知したため、そこへと向かった。

噂の通り、構造上有り得ない位置から廊下が続いており、外から見てもその廊下は見えない。

 

「ちょっと調べてくるわ」

 

 そう言ってプリエが廊下の奥の闇の中に消え、ルイズたちが少し心細くなってきた頃にプリエが戻ってきた。

 

「確かに無限回廊ね」

 

 ちなみに、プリエは正真正銘の全速力で飛んでいたので、距離にするとこの星を何億週もできるだろう。

 

 しかし、プリエがお手上げなら私たちに無限回廊の真相を知ることはできない。そう結論づけてルイズが肩を落とそうとしたとき、プリエがパンと両手を鳴らした。

すると廊下の闇が消え、一つのドアが見えるではないか。

 

「やろうと思えば最初からできたけど、それじゃ面白くないでしょ?」

 

 やっぱり、プリエは最高の使い魔だ。私は改めてそう思った。私たちは廊下の奥に進み、恐る恐るドアノブを回し、ドアを開けた。

 

「フフ…あの回廊を突破できる者よ…待ってたわよ

さあ、アタシの胸の中で息絶え──って、プリエ様じゃないですか」

 

 無限回廊のドアの奥、そこにはミシアがいた。なんでも、強者の精を吸いたくなってこんなものを作ったらしい。

 無限回廊は世界各地に遍在していて、各無限回廊と一つのドアが繋がっている。この部屋にはドアが10個あるので、どうやら無限回廊は他に9個あるようだ。

 

 しかし、知り合いが七不思議の一つだったとは拍子抜けだ。

 

 

 

 

 

 三つ目、学院を徘徊する処刑人。

昔、学院が要塞だった頃の処刑人が狂い処刑され、幽霊となって今も獲物を求めて徘徊しているらしい。

 

 しかしプリエによると、それらしきものは感じられないという。所詮は七不思議、ただの噂だったのだろう。

 本当にいるなら、とりあえずマリコルヌを処刑してほしいところだが。

 

 仕方ないので四つ目、異世界に通じる鏡を調べに行く。

その鏡は未来や過去の自分を映すそうだ。それだけならただの怪しげなマジックアイテムだが、時おり全く違う過去を映すらしい。

 

 ついて来たミシアにそこまで説明したとき、ミシアが「あっ」と声を漏らした。

 

 結局、異世界に通じる鏡は、ミシアがただの鏡に“ちょうじくうえんじん”という物を繋いだものらしい。

 理屈はよく分からなかったが“こうだったかもしれない可能性の世界”を映すもので、私が覗いたら、左手にガンダールヴのルーンが刻まれた黒髪の少年を折檻している私が映った。

 いろいろと波乱はあったが、それでもこの明らかに平民であろう少年ではなく、プリエで良かったと心の底から思った。

 

 しかし、この調子でいくと七不思議はほとんどプリエ関連なのではないだろうか?

 

「…どうやら理論は正しかったみたいね。これなら…」

 

 

 

 五つ目の七不思議、とある空き部屋から聞こえる水音と猫の鳴き声。

使い魔となった猫が死んだことに気づかず、今も生前と同じことをしているらしいが………なんとなく違う予感がする。

 

「ニャー♪ニャー♪」

 

 そして、件の部屋の前に行くと、確かに楽しそうな()と水音が聞こえてきた。ミシアは何を想像したのかニヤニヤしている。

 

 まあ、十中八九ウラヌスだろうが、私たちではそれを確かめることは不可能だろう。

 

「ニャッ!?ぷ、プリエ様!?ニャンで此処に!?」

 

 そこでプリエに部屋に入ってもらったのだが、やはりウラヌスだった。

私たちも続いて部屋に入ると、ウラヌスは真っ赤な顔になり、ニヤけるミシアを追い掛けてどこかへ行ってしまった。

 

 これは後からプリエに聞いた話だが、ウラヌスは元来おてんばな性格であり、堅苦しいのは苦手だそうだ。

 かわいいかわいいと言われない為に、ああいう物言いをしているようで、たまにあの空き部屋でミルクを猫のように飲んでストレスを解消していたらしい。

 

 これで、七不思議の内の3つがプリエ関連だったと判明した。見苦しい願望豚も入れるならもう4つだ…

どうせ徘徊する処刑人も、寝ぼけた生徒がブチ切れたウラヌスを見たんだろう。

 

 

 

 

 

「六つ目、床下から聞こえるうめき声…ね」

 

 ここまで肩透かしを食らうと、恐怖心もかなり薄れるというものだ。最初はプリエに抱き着いてガタガタ震えていたシャルロットも、いつの間にかプリエと手を繋ぐだけになっている。

 私も反対側に抱き着いていたが、それはキュルケをプリエに抱き着かせない為だ。決して怖かった訳ではない。決してだ。

 

 そうして、うめき声の部屋の中で少し待っていると「助けて…」「苦しい…」という声が聞こえてきた。

 

 どうせミシアの犠牲になった人だろう。天国と地獄を一緒に体験するなんて可哀想に…

 しかし、「アイツが来る…逃げて…逃げて…」とは?ウラヌスの声は聞こえないので、ミシアが来るはずはないのだが…

 

 ドン、と扉が荒々しく開く。そこにいたのはミシアでもウラヌスでもなく、袋を頭に被った大男で、右手には両手斧を持ち、左手でズタ袋を三つ引きずっていた。

 そんな大男の姿に呆気に取られていると、尋常じゃない狂気を発する大男に向かってシャルロットとキュルケが魔法を放っていた。

 

 しかし、魔法はどちらも大男をすり抜け、廊下に消える。

 

 ここで私たち三人の思考は完全にストップしてしまい、プリエに抱き着いてガタガタと震え出した。大男が足早に近づいて来て股が暖かくなるのを感じながら、ギュッと目を閉じる。

 

「元の世界にお帰りなさい…」

 

 プリエが何かしてくれたのか、全身に心地好い暖かさが広がり、恐る恐る目を開けてみる。

そこには大男の姿はなく、幻想的な光が辺りを照らしていた。

 

「綺麗…」

 

『ありがとう…ありがとう女神様…』

 

 光が消えると、固定化の魔法がかかっているはずの壁が崩れ、その中からどこか一部が欠損している三体分の白骨がプリエに倒れかかるように落ちてきたところで、私たちは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 目が覚めると、私の部屋のベッドの中でプリエにひざ枕をされていた。

下着はプリエが取り替えてくれたらしく、素晴らしい心地好さに身を任せながら、このまま眠るように目を閉じてコトの顛末を彼女から聞いた。

 

 どうやら、過去に狂ったメイジが学院を襲撃したことがあるらしく、そのメイジは聞くも恐ろしいやり方で子供たちを襲ったらしい。不幸中の幸い、早い内にオスマン学院長に仕留められ、被害者は5人だけで済んだそうだ。

 二人は重傷を負いながらもなんとか助かったが、残りの三人は学院のどこを探しても見つからなかった…それが床のうめき声の正体だったらしい。そして当然、処刑人の正体も悪霊化したメイジだったようだ。

 

 では、三人の死体は壁に埋まっていたのに、何故床から声が聞こえてきたのか……怖くてそれは聞けなかった。

 

 そして、七不思議の七つ目…全ての真相を知った者は、恐ろしい存在によって抹消される。

 

 私にはプリエがいるから安心だが、他の三人は危ないかもしれない。

そのことをプリエに伝えると、キュルケにはミシアを、シャルロットにはウラヌスを付けているそうだ。

 

 ギーシュは?と聞いたが、プリエは優しい微笑みを浮かべるばかりで何も答えてくれない。

 翌日、普通にギーシュに会ったので昨夜のことを聞いたところ、昨夜は美容の為に自室でぐっすりと寝ていたと言っていた。

 

 なら…あのギーシュは…?………まさか、ね…

 

 余談だが、その日から常にプリエを交えて女四人で行動するようになり、寝るときはルイズの部屋で、皆がプリエに抱き着いて眠るようになったという。

 




ルイズはもう大魔王クラスですが、それでもお化けは怖いようです。
まあ、いきなり「お前無敵だからヒモ無しバンジーな」って言われてスカイツリーから叩き落されたら、その言葉の真偽に関わらず怖いですよね?つまり、ルイズもそういうことです。

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