伝説の使い魔   作:GAYMAX

20 / 44
第20話 帰省

 月日は過ぎ、夏季長期休暇がやってきた。学院には教師くらいしか残っておらず、ほとんどの生徒は実家に帰省していた。

 ルイズもその例に漏れず、プリエ、そしてシエスタとデルフリンガーを連れて、馬車でのんびりと実家へ向かっているところだ。

 

「…って、なんであんたがいるのよ!」

 

「いいじゃないですか。自分で言うのもなんですが、私、優秀なメイドなんですよ?休暇届は出しましたけど、あなたの家にいる間は専属メイドとして働きますから」

 

「ま、俺はもしかしたら使ってもらえるかもしれねーしな

それに、剣が一本増えたところで、どうってこたぁねえだろ?」

 

「……仕方ないわね」

 

 訂正。ルイズとプリエが乗っている馬車の上に、デルフリンガーを抱えたシエスタが勝手に乗車しながら、実家へと向かっているところだ。

 

 ウラヌスとミシアがついてきてもおかしくはないのだが、ウラヌスはトリステインの練兵統括責任者となり、アニエスを筆頭とした平民の女性出身の特殊部隊を設立したので仕事の都合で来られない。ミシアはどっかで男でも漁っているんじゃないだろうか。二柱とも暇ができたら駆け付けるそうだ。

 ちなみに、特殊部隊の人数は100名程度だが、すでに一人一人がスクウェアクラスすら差し置くほどの超精鋭部隊となっている。

 

 それはそうと、いつまでも馬車の屋根の上にシエスタを乗せておくのもどうかと思い、馬車の中へと招き入れた。意外にも、彼女はプリエの横に座らずにルイズの横へと座り、デルフリンガーも交えて世間話が始まった。

 かなり直接的にアピールをするシエスタが何故おとなしかったのか、ルイズが後でこっそりと聞いてみたところ「たまには引くことだって重要なんですよ」と答えられ、感心すると共に参考にしようと思った。

 

「へえー、大きいわねー」

 

 そして、たわいのない話をしていたらいつの間にかルイズの実家に着いていた。

下がっている跳ね橋を渡り、城を目前に控えると、正門の前に一人の女性が佇んでいるところが見える。

 

「お帰りなさい。わたしのかわいいルイズ」

 

「ちいねえさま!」

 

 その、おしとやかで大きいルイズのような女性に、ルイズは嬉しそうに駆け寄っていく。

 

「お久しぶりですわちいねえさま!」

 

 そして、そのままの勢いで彼女が大きく広げた腕の中へと入り、お互いに抱き合った。

あんなに嬉しそうにはしゃぐルイズは使い魔品評会のとき以来で、微笑ましい様子に思わず頬が緩んでしまう。

 そうやって二人はしばらく楽しそうに話していたが、ルイズの姉と思われる女性がプリエに気づくと、彼女は少し驚いた顔をした。

 

「あらあら。まあ、まあまあ」

 

 目をパチクリさせてプリエを見回す彼女。その程度でも、普段ならば女性であろうと不快感を抱くのだが、ルイズの身内だからなのか、それとも邪気が一切なかったからか、プリエは特にどうとも思わなかった。

 

「ちいねえさま!その人は──」

 

「分かってるわルイズ」

 

 目を輝かせて誇るべき使い魔のことをルイズが語ろうとする前に、ルイズの姉は優しげに微笑みながら全てを知っているかのように言葉を遮った。

 ルイズは姉と以心伝心であったことに嬉しくなり、なによりもプリエを自分の使い魔だと思ってくれたことに舞い上がってしまう。

 

「でも、女性とは驚いたわ」

 

 ……姉のすっとぼけた発言を聞くまでの短い間ではあったが。

 

「え?ちいねえさま?」

 

「あなたの恋人なんでしょう?」

 

「ええっ!?」

 

 面白いほどまでに勘違いをしている姉に、ルイズも先ほどまでの気分を一転させて驚愕していた。

 確かに、一目見ただけで使い魔と分かれというのは酷だったのだろうが、だからといってこの間違え方はありえないだろう。

 少しばかり天然なところがあるとは薄々思っていたが、今確信に変わったし、まさかこれほどとは思わなかった。

 

「ええ、その通りですわお義姉(ねえ)様」

 

 プリエが返した言葉で更に驚き、ルイズは彼女の顔を思わず凝視する。彼女はいつもの顔のまま、しれっと言い放ったようで、本気なのか冗談なのかルイズには分からない。

 その発言に少しだけ嬉しくなっている自分を否定するためにも、ルイズは声を大きくして不満を吐露する。

 

「プリエも乗らないで!」

 

「まあ似たようなモンじゃない」

 

「似てない!」

 

 漫才のような掛け合いが終わると、ルイズは()ねてしまった。

そんなルイズがかわいくて皆がクスクスと笑っていたが、ルイズの姉がそろそろ食事の時間だと言うので、食堂へと移動した。

 

 食堂では既に二人の女性が卓についており、一人はルイズの姉のエレオノールで、もう一人はずいぶんと若く見えるが、おそらくルイズの母親だろう。

 父親は仕事で王宮にいるようだ。新大臣の承認手続きなどを行っているらしい。

 

 しばらくすると食事が始まったが、プリエは貴族ではないので卓には着けなかった。プリエ自身は特に文句はなかったのだが、ルイズが弱々しく、されど最後まで母に食い下がっていた。

 使い魔の意思を尊重することも立派な貴族の役目だと言われ、ぐうの音も出なくなった後もチラチラと母親を見ていたのだが、料理が配膳されると仕方なく食べ始めた。

 

 そして、同じく貴族でないシエスタはというと、当初の約束通りメイドとして給仕を手伝っていた。魔力はまだまだ下級だが、それでもシエスタは使用人5人分の働きをしている。

魔力を使っているとバレてもいいなら30人分の働きはできるだろう。

 

「優秀な使用人ね」

 

 それにしても会話がない。食事作法が上品すぎて下手に会話を振ることができないのだ。

そういえば自分の妹分の王女とお忍びで遊びに行ったとき、最初は食事処の喧騒に驚いていたことをプリエは思い出した。

 

 暇で静かだと息が詰まる。人だった頃から、プリエはそういう畏まった雰囲気が苦手だったのだ。

 

「ところで、ルイズの使い魔ってその亜人かしら」

 

「はい、エレオノール姉さま」

 

 これ以上畏まった雰囲気が続いたら分身を残して城の中の探索でもしようと考え始めたプリエだったが、唐突に話が始まった上に話題にも上がったので、思わず呆けた顔をしてエレオノールを見つめてしまう。

 

「へえ、なるほど…」

 

 エレオノールは、まるで品定めでもするようにプリエをジロジロと観察する。これには少しだけ不快感を覚えたが、ルイズの姉なので我慢することにした。

 

「私は似たような亜人を研究したのよ。その亜人は未知の宝庫だったわ!」

 

「は、はあ…」

 

 だんだん熱を帯びてくる口調にルイズは若干引き気味だ。

 

「その体はありとあらゆる秘薬となり、体がバラバラになっても死ぬことがなく、0から自分の体を作り直して蘇ることができる!」

 

 今にも立ち上がってルイズに詰め寄りそうなほど、エレオノールは興奮している。

そして、ここでプリエは、研究された亜人とエレオノールが言わんとしていることを理解した。

 

「ルイズ、あなたの使い魔を研究させてほしいの!」

 

「だ、ダメです!いくらエレオノール姉さまの頼みでもそればっかりは聞けません!」

 

「どうして!?きっと彼女も命に別状は──」

 

「食事中よ。エレオノール、ルイズ」

 

 二人ともが立ち上がり、にらみ合いからの意地の張り合いがあわや勃発するところであったが、すんでのところで母親にぴしゃりと言われ、二人は恥ずかしそうに席に戻った。

 ちなみに、この時点でプリエは呆れた上に飽きてしまい、分身と入れ代わって城の中を探索していた。

 

 

 

 

 

 

「それでねちいねえさま!私、魔法が使えるようになったの!」

 

「まあ!本当に良かったわねルイズ」

 

 食事の後、ルイズはプリエ(の分身)に先に部屋に戻ってもらい、ちいねえさま―――カトレアの部屋でおしゃべりをしていた。

その内容は自分の素晴らしい使い魔のことから始まり、使い魔との冒険譚を経て、自分の魔法の話へと移っていた。

 

「それで、あなたは何の系統に目覚めたのかしら?」

 

「うっ!そ、それは…」

 

 「虚無です」と言えれば都合がいいのだが、そうは問屋がおろさない。

あの夜の後、始祖の祈祷書を読んでみたら爆発(エクスプロージョン)解除(ディスペル)という虚無魔法を使えるようになったので、虚無の系統であることは間違いないだろう。しかし伝説の系統であるが故に、おいそれと言い触らす訳にはいかない。

 実は虚無に目覚めたことに連動して他の系統魔法まで使えるようになったが、即スクウェアメイジになった上に、ある意味困ったことに全系統を同じくらい使えてしまうのだ。

 

「それは?」

 

「風よ」

 

 昔の自分からは考えられないほど贅沢な悩みで困っていると、ナイスなタイミングでプリエからの助け舟が出た。しかしどうして此処にいるのか、そもそもいつからいたのか、ルイズには全く分からなかった。

 

「風…母さまと同じね」

 

 プリエがいつの間にか部屋の中にいたのに、全く驚かないカトレアは大物なのか天然なのか…

あの場では天然だと断じてしまったが、おそらく半々ぐらいなのだろう。

 この評価には、尊敬している姉がそうであってほしいというルイズの願望も現れてはいるが。

 

「ええと、じゃあ貴方は風の…」

 

「ええ、風の化身よ。そりゃあもう凄いんだから」

 

 プリエはこの世界の精霊より上位の存在だし、ある意味全属性を司っているので、嘘は言っていない。

 だが、それを納得させるような存在感を出さずに言い放ったためか、カトレアはプリエに微笑みを向けた。

 

「ふふ、頼もしい使い魔さんね──ッ!ゴホッゴホッ!」

 

「ちいねえさま!大丈夫!!」

 

「…ええ。いろいろ試してはいるのだけど、あまり良くならないみたい…」

 

 カトレアは昔から体が弱く、とある病を患っている。トリステインで屈指の権力を持つヴァリエール家が手を尽くしても良くならないということは、現状手の打ち所がないということだ。

 

「ふーん、なるほど…

今から気持ち良くなっちゃうけど、ちょっと我慢しててね」

 

 しかし、プリエにとってその程度は朝飯前どころか、息をするようなものだ。

プリエはカトレアが反応する前に頭と胸を無造作に掴み、カトレアの内部の気の操作を始める。純然たる生命の力である気の弱いところをカトレア自身の気で満たし、気の巡りを良くして気の全体量を増やす──魔法ですら治せない病を完治させ、更に体を強くすることができるという、それこそ魔法のような治療法だ。

 

 しかし、気を全く扱えない常人にこの治療をすると、増加した気が快楽となって現れるという副作用が存在する。

 つまり、傍目には“頭を押さえ付けられながらおっぱいを揉まれて気持ち良くなっているようにしか見えない”ということだけが唯一の欠点なのだ。

 ルイズは、プリエが自分の姉にまで発情するようになったのかと心配で気が気でなく、しかしプリエを叱りつけることなどできるわけもないのでオロオロしていた。

 

 そして一分ほど経ち、プリエが手を離すとカトレアはベッドに崩れ落ちて、荒い息遣いで肩を上下させていた。

 

「ぷ、プリエ…ちいねえさまに何をしたの…?」

 

「気の操作。まあ、簡単に言うと治療と後治療を同時にやったのよ。ほら、起きて」

 

 プリエはきつけとして、カトレアの頬を軽く二三回叩く。

 

「ふぇ…?

はっ!や、やだ私ったらルイズの前で…」

 

「…あー、もうちょっと考慮するべきだったわね」

 

 ちなみに、アニエス率いる特殊部隊は自分で気の操作ができるようになるまでこれを訓練として繰り返すので、立ち聞きする兵士が後を絶たないという。

 

「それはそうと、調子はどう?」

 

「え?…あれ?胸が辛くない?それに、体も軽いわ」

 

 カトレアは急に良くなった容態に目を白黒させていたが、やがて自分がどれだけ元気になったかを確かめるようにぴょんぴょんと跳びはねだした。

 

「見てルイズ!もうこんなに動いても平気よ!」

 

 本人もルイズも嬉しさで気づいていないが、カトレアは人間の脚力では到底ありえないほどの跳躍をしている。

 

「だいたい良くなったとは思うけど、一応医者に確認してもらって、毎日ランニングとかの軽い運動をすること。いいわね?」

 

「ええ、分かったわ。使い魔さん、本当にありがとう」

 

「別に。アタシはルイズの為にやっただけよ」

 

 素直になれないプリエはついついそっけない態度をとってしまうが、カトレアは自分の可愛らしい妹がたまに見せる仕草と同じものだとすぐに理解し、凄まじい存在であるはずのプリエが可愛らしく見えて思わず微笑んだ。

 

「そういえば、風の化身なのに治療もできるのね。イメージと違って驚いたわ」

 

「……ま、まあ、人間より上位の生命体だし!人間一人の命をどうこうするなんてワケないわよ!」

 

 言っていることは間違ってはいないのだが、この世界の風の精霊はそんなことなどできない。

 

「それじゃ、アタシは風よろしく風来坊だからこの辺で」

 

 これ以上突っ込まれてボロを出してしまっては癪なので、プリエは言葉通りに一陣の風となって部屋から消えてしまった。

 一瞬だけ、台風が去ったあとのような静寂が残るが、そこには確かな温かさがあった。

 

「ふふ、あなたの言う通りの凄い使い魔ね」

 

「ええ!なんたってプリエだもの!」

 

 いつかと同じ、よく分からない理屈で胸を張るルイズ。

だがそれはあのときとは違い、悪魔だからでも伝説の魔王だからでもなく、プリエが誠実に尽くしてくれたからこそ、彼女の存在そのものが素晴らしいから。というハッキリとした意味を持つようになっていた。

 

「あなたが恋をするのもよく分かるわ」

 

「ち、ちちち違うの!プリエは女の子なの!だから違うの!!」

 

 熟れたイチゴのように顔を真っ赤にして、残像すらもできる速度で顔を横に振るルイズ。

 体を許してしまったとはいえ、アレを強引に使い魔との触れ合いだと解釈し、残った首の皮一枚で否定しているが、もうほとんど認めてしまっているようなものである。

 

「そう?でも、あの使い魔さんは煮え切らないと、スルリと逃げちゃうかもしれないわね」

 

「うっ!うー…」

 

 実際は使い魔の契約がある限りプリエが愛想を尽かすはずがないのだが、大好きな姉から大好きなプリエがいなくなると言われると不安になってしまう。

 

「行ってらっしゃいな、あなたの居場所に」

 

「ちいねえさま…」

 

 優しいまなざしを向けてくれるカトレアに背中を押され、ルイズは意を決してゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 カトレアの治療も終わり、屋敷の中を夕食中に全て探索してしまったプリエは、あの場から立ち去るとすぐさま客用の寝室でデルフリンガーと一緒に暇を持て余していた。

 

「あー…ルイズもシャルロットも本もないから暇だわー…」

 

「俺がいるじゃねーか。試し斬りでもしよーぜ姉ちゃん!」

 

「嫌よ。生き物を斬らないと斬った気がしないし、アンタもその方がいいでしょ?」

 

「いやいや、姉ちゃんのスンゲェ技に使ってくれるなら、たとえ砂を斬ろうが本望だぜ!」

 

 ものすごく興奮気味に話すデルフリンガーに、プリエは少しだけ嫌な顔をする。ガンダールヴのルーンが相まったプリエの剣技は本当に素晴らしいもので、デルフリンガーを心底魅了してしまっていたようだ。

 

「……アンタ、そういう技使うと折れるじゃない」

 

「折れても姉ちゃんが直してくれるだろ?いや、もういっそ折れたままでもいいからさー、頼むよー」

 

 小さくてかわいい女の子におねだりされたのならば(やぶさ)かではないのだが、オッサン声でしゃべる剣などにおねだりされてもゲンナリしてしまうだけだ。

 それならば、いっそのことコイツを女の子にでもしてしまえばいいのではないだろうか?

すでにデルフリンガーの解析は終わっているため、能力を損なわずに変身能力を付与させることなど簡単で、こちらの魔力は吸収しないように作り変えることすらもできる。

 ならば、髪色は柄と同じ金色にして、顔の作りは──

 

「プリエさーん」

 

 ひょんなことから思考の海へと身を投げたプリエは、シエスタの声によって現実へと引き上げられる。同時にドアをノックする音も聞こえるので、いくらノックしても反応がないから声を出したのだろう。

 

「はいはい、今開けるわよ」

 

「えへへー、来ちゃいましたー」

 

 ドアを開けると、夜魔の力で幼くなったシエスタにいきなり抱き着かれた。少しアルコール臭がするので、おそらく雰囲気酔いしたのだろう。

 

「ちょっと、誰かに見られたりしてないでしょうね?」

 

「大丈夫ですよー。えへへー、ふかふかー…」

 

 シエスタはプリエの胸に顔を埋め、その母性を存分に堪能している。いつものシエスタがこんなことをしたら「自分の胸で我慢しなさい変態メイド」と言って引きはがすのだが、幼くなっているシエスタならば満更でもない。

 プリエは、幸せそうな雰囲気を醸し出している彼女の頭を愛おしそうに撫でた。

 

「うーん、こういうの見てるとなんか母ちゃんって感じがするなぁ

まあ、俺は剣だからよく分からんが」

 

 そんな光景をどうやってか視認して、デルフリンガーは感想を述べる。しかし、それが思わぬ竜の尾を踏み抜いてしまった。

 

「ボロクズか少女、どっちがいい?」

 

「……少女で頼むぜ」

 

 伝説の魔王であるプリエも、今は一人の女の子。四桁以上生きている側近の二人ならともかく、老けて見えると取られるような発言は乙女に対してNGなのだ。

 まあ、問答無用でボロクズにされないだけでも僥倖(ぎょうこう)だろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょうどいいところに来たわね。ルイズもやる?」

 

 ルイズが部屋に着いたとき、プリエと何故か幼くなっているシエスタ、そして謎の金髪美少女の三人が円を描いて座っていた。

 そして、謎の少女が皆に数字が書かれたカードを配っている。

 

「えーと…どういう状況?」

 

「ルール無用のババ抜きよ。アタシがビリなら一位の言うことをなんでも一つ聞き、アタシ以外がビリなら一枚脱ぐ。誰かが全裸になったら終了よ」

 

「ミス・ヴァリエールには負けませんよー!」

 

「おうよ!俺が勝って姉ちゃんに使ってもらうぜ!」

 

 使ってもらうという発言を聞き、かわいかったのでどこかからさらって調教でもしたのだろうか?という考えがしれっとルイズの頭に浮かんだ。

 ルイズは、あの夜にプリエが本気だったら、自分も完全に調教されていたであろうことを思い出して頬が赤くなる。

 

「ナニを想像したのかしら~?ルイズってばエッチね~」

 

「ちちちち違うわよ!」

 

「まあ、嬢ちゃんがそういう想像をするのも仕方ねえわな。あの夜、床もベッドもビッショビショだったしよ」

 

 ニヒヒといたずらっぽく笑う少女。しかし、あの夜のことを知っている金髪セミロングの美少女などルイズには心当たりがない。

だが、参加せずに壁に立て掛けてあった剣ならば覚えがあった。

 

「もしかして、デルフリンガー?」

 

「おうよ!」

 

 哀れにも、いや、見事なまでに武骨な剣から愛らしい少女へと変えられたデルフリンガー。おそらくプリエの欲望のままに姿を変化させられた彼女?を見ていたら、なんだか不安でいたのがアホらしくなってきた。

 

「はぁ…もういいわ、お休みなさい」

 

「いいんですか~?プリエさんを私が独り占めしちゃいますよ~?」

 

「ここまで結果が見えてる勝負に乗るほどバカじゃないわよ」

 

 イカサマ無しを徹底するならまだしも、ルール無用と銘打っているのなら、どのような手を使おうが、どのようなゲームであろうがプリエに勝てるはずがないのだ。

 ババ抜きとはどういうゲームかルイズは知らなかったが、自分が参加したのなら、どうせプリエによってビリにさせられてしまうだろう。

 

「あらら、それは残念。お休みルイズ」

 

「ええ、お休みプリエ」

 

 微笑みを浮かべるプリエに、ルイズも微笑みを返す。シエスタはこのとき笑っていたが、これはどちらに転んでも自分に得があることの表れで、哀れなのは未だに勝ち筋があると思っているデルフリンガーだろう。

 

 まあ、勝負の結果は言うまでもないが、無謀にもデルフリンガーが三回挑んだとだけ言っておく。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、お父様が帰ってきたので、みんなの前で遍在やフェイス・チェンジの魔法を見せると感涙にむせび泣かれた。嬉しいことだ。

 そして、ちいねえさまの病気を治して更に丈夫な体にしたプリエは(あつ)く感謝されたあと、使い魔ながら賓客(ひんきゃく)としての対応を受けることになった。これも嬉しいことだ。

 

 そして、正午にウラヌスが正式就任の挨拶の名目で訪ねてきた。

 

「お初にお目にかかるな公爵婦人。トリステイン練兵統括管理官ウラヌスだ。これからよろしく頼む」

 

「臨時外相のミシアで~す。よろしくね~」

 

 男漁りでもしていると思っていたミシアだが、何の因果か臨時外相をしていたようだ。というか、ミシアが臨時とは言え外相とは…本当にトリステインは大丈夫なのだろうか?

 ミシア曰く「バレないイカサマは交渉テクニック」らしい、(はなは)だ不安である。

 

 そして、この日はプリエがウラヌスと一緒に王宮へと行ってしまった。事前の会話で“遊撃隊”、“焼き打ち”、“レベル300”という単語が聞こえたが、何やら不穏な感じがしたのと、プリエの声音がイタズラやイジワルをするときのソレだったので忘れることにした。

 

 しょうがないので、目に光がないままぐったりとしていたデルフリンガーを起こし、剣に戻して、プリエに教えてもらった魔界剣技の練習をした。

 プリエが言うにはソレに重要なのは魔力の変質と制御であり、今の自分ならば、後はとにかく剣を振るっているだけで全ての魔界剣技をマスターできるようだ。

 

 その事実に嬉しくなり、今日は日が暮れるまで剣を振るっていた。

気づけばいつの間にか領地の森が一つ丸裸になっていて冷や汗をかいたが、プリエが全てを元通りにしてくれたために大事には至らなかった。

 

 

 

 

 

 近頃、プリエを研究しようとエレオノール姉さまが動き回っている。

 

 最初の方は、美男、美女、マタタビや猫じゃらしなど、ミシアやウラヌスの交渉に使ったと思われるもので誘惑していたのだが、最近は昔の私のスケッチなど、交渉材料が的を射てきた。

 

 おかげで強制的に若返させられて襲われた。別に嫌ではないが、もう少しだけ慎ましくなってほしいものだ。

 特に100連発は本当に勘弁してほしい。シーツどころか床まで濡れてしまうし、終わってから一日くらいはまともに言葉がしゃべれないほど、頭にモヤがかかってしまうからだ。

 

 そんなお姉さまがミシアの協力を得て若返り、プリエを誘惑したそうだ。その翌日から、恋する乙女のような目でプリエを見るようになったのは気のせいだと思いたい。

 

 動き回ると言えば、ちいねえさまも今では元気に領地内を動き回っている。

私もプリエも、かなりの頻度でちいねえさまについていくのだが、毎度毎度珍獣と仲良くなって連れて帰ろうとしないでほしい。

 

 それにしても、ちいねえさまがプリエの前だとあまりにも子供っぽいのは驚いた。

思慮深く、私に誰よりも親身になってくれたちいねえさまが、頬を膨らませて()ねる姿など、おそらくお母さまでも見たことはないだろう。

 

 プリエも最初は冷たい目を向けていたが、だんだん満更でもなくなっていったようで、慈悲溢れる笑顔をちいねえさまに向けるようになったときはどうしようかと思ったが「嫉妬するルイズもかわいい!」と言って襲われたので、プリエが私から離れる心配はないだろう。

 

 その日は控えめにとお願いしたら、ネットリジットリとした絡みで一回だけだった。

………物足りないはずがない。それで充分、本当に充分なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 今日は色ボ……アンリエッタさまに呼び出された。王女の勅命を賜ったのだが、ウェールズ皇太子との、おのろけのついでだった。

 久しぶりに会うことができたウェールズ皇太子と情熱的な一夜を明かし、その火照りが今もまだ残っているなどと(のたま)いやがったが、その話のチョイスは王女としては大丈夫なのだろうか?

 マザリーニ枢機卿は本当に何を考えてミシアを臨時外相にしたのか…いや、まだミシアのせいと決まった訳ではないが。

 

 とりあえず、こちらの夜の事情をプリエに聞いて、一人で頬を赤らめながら「ああっ!禁断の扉とはかくも素晴らしいものなのですね!やはりワルドにウェールズさまを…」と言いながらクネクネしないでほしい。

 最後の一言は本当に意味が分からない。何故ワルドとウェールズ皇太子が出てきたのだろう?

 

 ちなみに、勅命の内容は平民に扮しての、王宮の評価の調査だ。

国の王女がこれでは革命寸前だと思うのだが、腐っても姫は私のおともだち、そういう噂を流布する(やから)は成敗しておこう。

 

 そして、別に噂を流布している訳ではないが、とりあえずワルドを成敗してプリエが設立した遊撃部隊を見せてもらった。私には全く理解できないファッションセンスの部隊で、その数は400名ほど。

 プリエが言うには、ミシアが昔読んだマンガという書物を参考にしたらしいが、度が過ぎた悪ふざけにしか思えず、そのマンガという書物もきっとふざけた書物なのだろうと思った。

 プリエによれば“かくのふゆ”が訪れたら流行るファッションらしい。よく分からない。というか、こんなファッションが流行るときは世界の終わりだろう。

モヒカンに、肩だけの鎧が標準装備で、“あんしすこーぷ”という奇妙な筒を目につけている者もいれば“Z-666”という入れ墨をしている者もいた。

 皆とにかく筋骨隆々の悪人面で、とても王宮の兵士には見えない。というかコレが民衆に知られたら革命が起こると思う。

 

 コンセプトは“ちょいワル系だけど熱い心を持ったレベル300程度の革命児”らしい。

どう見てもちょいワルではなく極悪人で、熱い心というより恐るべき野心を持って、革命児どころか物理的に革命を起こしそうな集団である。

 

 ところで、レベルとは何か聞いてみたが、私がレベル750、ワルドが50、アニエスが100、アニエスの部隊の平均が25、ミシアとウラヌスが7500としか教えてくれなかったので、よく分からなかった。

 

 そんな訳で、頭が痛くて気も進まないが、それでも明日からは任務。気を引き締めて取り掛からなければ…




アンリエッタは女王として民を導く決意をした後でも、どうしても乙女心を忘れられない一面もあったため、身を引き裂かれるほどの辛い決意の後で、奇跡のような生存を経て再開すれば、ウェールズとは一歩進んだ関係になったと思います……よね?

ただ、跡取りをどうするかということにアルビオン国王とウェールズは少し頭を悩ませているために、まだ結婚はしていません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。