艦隊は衰退しました   作:猫三昧

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episode2

 あれから服を脱がされて外傷はないか確認という名の罰ゲームを受けた私はベットで顔を隠しながら座っていました。

 

「もうお嫁に行けない……」

「知らないうちに怪我をして悪くなるよかマシだろ」

「それでもいきなり脱がさなくてもいいじゃないですか!一瞬襲われるかと思いましたよ!」

「おそっ!?おま、何恥ずかしい事を言ってやがんだ!」

「襲われる?」

「電にはまだ早い!」

「はわわっ?」

 

 顔を真っ赤にさせながら純粋無垢な電と呼ばれた少女に余計なことを覚えさせないよう必死にごまかす天龍さん。

 それはそうと先ほどからずっと気になっていることがあるんですが……

 

「先ほどから貴女方以外の方が見当たらないのですが他には誰もいないんですか?」

「「………」」

「……えっと。ま、まずかったでしょうか?」

「いや、隠そうと思ってなかったから大丈夫だ。そうだな、今この島にはオレとこいつ、電しかいない。他の奴は皆今朝方違う場所に行っちまったよ」

「違う場所、ですか」

「なのです。本当は電達もここを出なければいけなかったのですが無理を言ってここにいるのです。皆の見送りが終わった後浜辺を歩いてたら貴女が倒れていたのを発見したのです」

「なんだかお忙しいところをお邪魔しちゃったみたいで申し訳ないです」

「い、いえっ!そんな謝らないでくださいなのです!」

 

 恐らくここはどこかの島で、この建物は何らかの施設であり先ほど解体されてしまったんでしょう。そしてこの二人は何らかの理由で離れたくはないがために無理を上司的な方に言って残っているんでしょうか。

 そうだとしたら私は結構間が悪いところでこちら側に来てしまったような気がしますね……心中お察しできてない、空気読めてない遭難者です。

 まぁ察しろよと言われても私も被害者なのでどうすることも出来ませんが。

 にしてもこれからどうしたものやら。天龍さん達がいいというのであればこのままこの島を離れずにいたいのですが……

 なんとなくですが、帰るには私が過去に来た時にいた場所ではないといけないような気がするんですよね。妖精さんの道具は一癖も二癖もあるような曰く品ばかりなので最初にいた場所でじゃないと使えないような物を生み出す可能性があります。

 ならばわざわざここを離れるなんてことはせずこの島でお二人に迷惑をかけながら帰れる日を待つのがいいような気がします。そもそもここが過去の電子機器が蔓延った世界である以上街なんかに行ってしまえば電波が苦手な妖精さん達が哀れもない状態になり、私は一生帰ることができなくなることでしょうし。やっぱりこの電波がない島に残るため為、なんとしても説得しなければ。

 

「あの!」

 

 僅かながら沈黙と化したこの空気を打ち破るためにわざと少しだけ大きな声を出す私。若干声が裏返ったのが恥ずかしいですがこれも帰る為です。そんな些細な恥は捨ててしまえ精神で行かなければいけません。

 

「なんだ?やっぱりどこか痛みだしたか?」

「いや身体はホント大丈夫です……その、これからの事なんですが。私をここに置いてもらえないでしょうか?」

「えっと、この島には何もないですし、漂流されていたのなら一度街に行かれた方がいいのでは?」

 

 そうか。今の私は漂流者として扱われているんですね。そういえば私が浜辺で倒れていたのを忘れてました。

 あんなところで倒れてたらそりゃ漂流者と思われてもおかしくない状況ですもんね。

 うぅむ。どう説明したものか。

 

「あー……実は私、未来から来た者でして」

「………やっぱ街に行って医者に診てもらった方が」

「いや!待ってください!」

 

 流石に直球すぎた!だがしかしここで諦めてはいけない!そもそも嘘の理由を言ったところでここで暮らす以上隠し通せる気がしませんし助けてもらった方に嘘をつき続けるって精神的にきついです。

 ならばいっそのこと信じてもらえるように説明しなければいけません。私は原因となった食玩を取り出し掌に乗せます。

 

「未来で妖精さんと呼ばれる方がそもそもの原因でして、その方たちが作り上げたこの食玩のようなものが私をここに連れてきたみたいなんです。嘘かとお思「なぁ電。これ烈風じゃないか?」え?」

「はいなのです」

「………ちょっと待ってください。お二人はこの食玩を知っているのですか?」

「あぁ。これは妖精が作った奴と似てるんだ」

 

 なんということでしょう。まさかこの時代でも妖精さんは存在していたというのですか。未だ解明されていない妖精さん誕生説に新たなる情報を得てしまった私は僅かながら動揺しました。

 何せお祖父さん達立派な学者な方達がずっと議論し続けているものであり、それに関する新たなる発見を私がしてしまったのですから。

 まぁ戻ったとしても口先だけでは何とでも言えるなんて言われて頭のお固い方々には突っぱねられるのがオチでしょうけど。

 

「それに知ってるも何も妖精が私達を作り出したんだぜ?」

「……えっと。私が言うのもなんですが一度お医者様に見てもらったほうがよろしいのでは?」

「ちょっと待ってろ今からその長い髪の毛をバッサリ斬り落としてやるから」

「うわわわっ!どこからそんな刀を取り出したんですか!」

 

 どこに隠し持っていたのか、それはそれは切れ味のよさそうな刀が天龍さんの手にはありましたとさ。

 この前お偉い方々に叱られて切ったというのにまた切られなきゃいけないなんて御免です!な、なんとか電さんの懸命な説得によってその場は事なき終えることができました。

 今度からは天龍さんだけは怒らせないようにしなくては……

 

「あ、ありがとうございます電さん」

「もう変なこと言わないてくださいね?」

「ハイ」

「ったく……少し長くなるが説明してやるからちゃんと聞けよ」

 

 そう言って天龍さんは自分達と妖精さんとの繋がりなどについて説明してくださいました。時々抜けているところは電さんがフォローしてくださってたので大体のことは理解することができました。

 なんでも彼女達は『艦娘』と呼ばれる存在で、突如として海から現れた『深海棲艦』なる艦娘とは非なる者と日夜海の平和の為に戦っているのだとか。

 そして艦娘達には『提督』という存在があり、その提督を通して彼女達は自分達の装備を強化してもらったり改修したり新しい艦娘を建造したりするそうです。

 

「あれ?先ほどここには二人しかいらっしゃらないと言われてましたが……」

「あぁ。ここの提督はある艦娘と恋に落ちてそのまま逃亡、遂には提督がいなくなったせいで私達艦隊は解体されて皆違う部署に飛ばされちまったのさ」

「まさか成人祝いをした直後にいなくなるなんて驚いたのです……」

 

 あーよくある駆け落ちって奴でしょうか?どの時代にもそんな人達がいるんですねー。職を放棄して恋という名の現実逃避に逃げる若者というものは常日頃人とは違う非日常的な刺激を欲しているんでしょう。

 私も若者ですがそういった人達とは違った堅実かつ仕事量の少ない人生を謳歌したい派なのでそんな刺激的なことは好みません。

 時に好奇心にやられてしまうこともありますがそれもまた若気の至りという奴というものです。

 

「でも島を捨てるだなんて。他に手の空いた提督さんはいなかったのですか?」

 

 普通ならこのような砦をわざわざ捨ててまで艦隊を解体し散り散りにするようなことはしないはず。ならば何らかの理由がありそうですがそれでもおかしいと思ってしまったのです。

 深海棲艦なる人類の敵が現れたのなら提督と呼ばれる職を持つ方も多いはずです。国総出で提督を増やすことでしょう。

 

「それが無理なんだよなぁ」

「提督と呼ばれる人材はある条件をクリアしないとなれなくて……その条件をクリアできる方がほとんどいないのです」

「だからこの鎮守府を捨てなきゃならんってことになって今に至るってわけだ」

「それほどまでに厳しい職なんですか」

「はい。私達もちゃんとした提督がいないと全力を出しきれないので仕方がないことなのです」

「ちゃんとした提督じゃなきゃ深海棲艦とまとにやり合うことができなくなってしまう。それぐらい提督って職は重要かつ適当に人を選んでいい職じゃないってことだ」

 

 それって今現在深海棲艦なる者達と戦っても勝ち目がない状況ってことじゃ……

 最悪です。今まで妖精さんのせいであらゆる最悪な場面に直面していますがこれはダントツすぎて何も言えません。

 実際これまでは妖精さんがやらかしたことばかりでしたのでなんとでもなりましたが今回ばかりは本当に不安しかありません。

 

「で、でもっ!アナタさえいればそれも何とかなるのです!」

「は?」

「お前、妖精と意思が疎通できるんだろ?」

「え、えぇ。ある程度は会話を成立させることは可能です」

「提督になるある条件。それが『妖精と意思疎通できる』、たったそれだけなのです」

 

 それを聞いた私はこの後の展開がどうなるのかそれはもう鮮明に予想がつきましたとも。

 あぁ、やっぱり私は巻き込まれなければならないのですね。この童話災害のようなものに深々と。

 

 




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