色を無くしたこの世界で   作:黒名城ユウ@クロナキ

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第8話 不安

 深夜三時過ぎ。

 薄ら寒い夜空の下、天馬は立っていた。

 一足早くフィールドで待つ、『カオス』と戦う為。

 ギュッと左腕の黄色いキャプテンマークを握りしめる。

 正直、彼の心は不安でいっぱいだった。

 

――カオスはあの、SARU達。セカンドステージチルドレンさえも上回る力の持ち主だとフェイは言っていた。

――油断をすれば一瞬で潰されてしまうだろう……

――それに……アステリだって……っ

 

「天馬」

 

 そんな天馬を見かねてか、フェイが心配そうな声で尋ねて来た。

 その声にハッとして顔を上げる。

 フェイは不安そうな天馬の表情を見たからか、彼の肩をポンポンッと叩くと「リラックス、リラックス」と微笑んだ。

 フェイの突然の行動に、天馬は不思議そうな顔で彼を見つめる。

 

「フェイ……?」

「天馬。そんな顔をしていちゃダメだよ。君はキャプテンなんだろ?」

 

 そう左腕についたキャプテンマークを指さす。

 

――ああ、そうだ。確か前にもこんな事……

 

 天馬の脳裏に浮かぶのは、彼――フェイと初めて出会ったあの日の光景。

 未来からサッカーを消す為にやってきたプロトコル・オメガにボコボコにやられて、もうダメだって時、フェイが助けに来てくれた事。

 そのプロトコル・オメガと試合する事になって、真面目な場面なハズなのに【テンマーズ】とか安直なチーム名をつけた、フェイの少し抜けた性格の事。

 そして、自分にキャプテンマークを差し出して言った言葉も……

 

――あの時も確か、今みたいな笑顔で「君はキャプテンなんだろ?」って言ったんだっけ

――そうだ俺、あの時も今みたいに不安でいっぱいで……

――でも、フェイがいてくれたから……一人じゃなかったからプロトコル・オメガを追い払う事も、結果的に未来を救う事も出来たんだ。

 

 スゥと息を大きく吸い込み、吐きだす。

 と、自然と胸のつっかえも消えて行った。

 

「ありがとう、フェイ。そうだよね……どんな時でも信じてればきっと……」

「「なんとかなるさっ!」」

 

 と、互いに声を合わせて唱える。

 それを聞き天馬の表情も普段の様な明るい、前向きな物に変わった。

 その顔を見たからか、フェイも安心した様に笑い出す。

 

 そんな笑顔の中、ふと天馬の目はアステリの方に向けられる。

 彼もさっきまでの天馬の様な不安そうな表情で、グラウンドで待つカオスを見ていた。

 

――やっぱり……アステリも不安なんだな……

 

「……アステリ」

「! 天馬……」

 

 そんな彼の傍に行くと、天馬は声をかけた。

 声に気付いたアステリは天馬の方に顔を向ける。

 天馬は見逃さなかった。その瞳が、不安で揺れている事に。

 「大丈夫?」と尋ねる天馬に、アステリは「大丈夫だよ」と微笑んで見せる。

 天馬に心配かけまいとしての行動か、その表情はどこか無理をしてる様に見えた。

 

「アステリ」

「何?」

 

 そんな彼に天馬は持っていたサッカーボールを差し出す。

 唐突に差し出されたボールを前に、アステリはキョトンとした顔で天馬を見る。 

 

「なんとかなる」

「!」

「絶対、なんとかしてみせる。俺、思い出したんだ。どんなに相手が強くても、怖くても、仲間がいれば絶対何とか出来るって事。だから、アステリも独りで不安と戦ってないで。俺等だってもう仲間なんだから。な?」

 

 そう笑顔で天馬は言った。

 その言葉は、アステリを元気づけさせる以外に、自分に言い聞かせる意味もあったのだろう。

 試合の結果がどうなるかなんて分からない。

 カオスの力だってどれ程の物か分からない。

 百パーセント不安じゃないって言ったら嘘になる。

 そんな彼だからこそアステリの感じる不安も、恐怖も、緊張も、痛い程分かったのだろう。

 だから、彼は尚の事「きっと」や「多分」なんて不確かな言葉より「絶対出来る」って言った。

 そう言えば本当に出来る気がしたから。

 

 そんな彼を見るとアステリはゆっくり息を吐きだし、目を閉じる。

 と何かを決心した様な声で「そうだね」と呟き、差し出されたボールを受け取る。

 

「……ボクもキミ達の"仲間"なんだ……いつまでも不安だなんて思ってられないね」

 

 そう囁く様に話すアステリの眼差しは強く、先ほどまであったであろう不安の色も、どこかに消えていた。

 

「ありがとう。天馬。ボクも、天馬達の力になれる様、頑張るよ」

「あぁっ、一緒に戦おう。アステリ」

「うんっ」

 

 アステリは強く頷いた。

 

 


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