色を無くしたこの世界で   作:黒名城ユウ@クロナキ

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第7話 戦いの舞台

 突如現れた巨大なサッカースタジアムを前に、三人は唖然とする。

 開いた口が塞がらないとはまさにこの事を言うのだろう。

 そんな彼等をしり目にカオスは満足そうな声で話す

 

「うーん、いっちょあがり。我ながらこの完成度には惚れ惚れするねぇ」

 

 自分が創り出したスタジアムを見回しながら、ウットリとした様子で話すカオス。

 そんな彼を――正確には"彼の力"を見て、フェイは歯をギリッと軋らせる。

 

「なんて力だ。SARU達だって一から全て創るなんて力……持ってなかったのに……」

 

 フェイの言うSARU達とは、二百年後の未来に存在する優秀なサッカー遺伝子を持った、いわば“超能力軍団”の事。

 そしてフェイもその内の一人だった。

 彼等は天馬達の活躍によって、自分達の力を捨て、今こそ普通の人間として生きているが、力を捨てる前は念動力で瓦礫を動かし、今の様に巨大なサッカースタジアムを作った事もあった

 

 だけど、カオスは違う。

 スタジアムとなる素材も何も無い所から全てを作ってしまった。

 それもたった一人で。

 

「これも……アイツの力なの……? アステリ」

 

 天馬がそう尋ねると、アステリはコクリと頷いて話し出す。

 

「アイツの得意技だよ。想像した物をその名の通り具現化――実態化させるんだ」

「具現化って……ここまで出来る物なの?」

 

 「想像力が豊かな彼が一番この力を使いこなせるんだ」とアステリは複雑な表情を浮かべる。

 未だ現実を飲み込めず混乱する彼等をよそに、カオスは腕を大きく広げ興奮した様な口調で語る。

 

「舞台は完成した。ここ【カオススタジアム】で君達を虚空の彼方に葬ってあげるよっ!」

 

 そう少し興奮気味に叫ぶも、すぐさま冷静さを取り戻し「でもまぁ」と言葉を続けた。

 

「僕は優しいからね、準備する時間くらいは与えてあげるよ」

 

 余裕綽々なカオスの表情に一同の顔付きが険しくなる。

 

「やるしか……ないみたいだね……」

 

 そう小さく話すフェイに天馬は「あぁ」と頷いて、両チームに用意されたベンチへと歩を進める。

 ベンチに着くと、天馬は混乱しっぱなしの頭の中を整理する。

 突然現れたカオスの事。

 その彼の常人とは考えられない力の事。

 そして試合の事。

 

――カオスはアステリを狙っている。

――でも、あんな奴にアステリを渡す訳には行かない。

――渡したら最後、アステリに待っているのは……

 

 そこまで考えて天馬は首を振った。

 

――止めよう。そんな事を考えるのは。

――とにかく、この試合は絶対勝つ。

――それだけを考えていればいいんだ。

 

 ふと、後ろから天馬を呼ぶアステリの声が聞こえる。

 どうしたのかと振り向く……と、アステリは辛そうな声で話し出した。

 

「この試合……ボクも参加させてもらえないかい……?」

「アステリが?」

 

 アステリの言葉に天馬……それにフェイも驚きの声を上げる。

 正直、メンバーの少ない今の状況で一緒に戦ってもらえるのはとてもありがたい。

 だけど、天馬はアステリの体調の事が気がかりだった。

 そんな状況で試合なんてして大丈夫なのだろうか……

 

「キミ達をこんな目に会わせたのはボクのせいだ……だから、責任をとりたい」

 

 天馬の心配をよそにアステリはそう言葉を並べる。

 その声は暗く、二人に対してだろうか……表情も申し訳なさそうな、悲しそうな風に見える。

 自然と顔も俯きがちになる彼に「アステリのせいじゃない」と元気付ける様に天馬は言った。

 その言葉にアステリは「え」と俯いていた顔を上げる。

 するとフェイも「そうだよ」と言葉を続けた。

 

「何があったのかはよく知らないけど……あのカオスって奴がいきなり襲ってきたのが原因なんだから」

「それに俺達は仲間だろ? 仲間が困ったり悩んでたりしたら助けるのは当たり前だ!」

「二人共……」

 

 二人の言葉に、アステリは心の中に抱える不安を……罪悪感を悟られない様、「ありがとう」と微笑んで見せた。

 

「よろしくな、アステリ!」

「うんっ」

 

 アステリの気分も変わった所でフェイがパチンッと指を鳴らす。

 するとフェイと似た八人の選手が姿を現した。

 と同時に天馬達の服も大きく『天』の字が描かれた赤いユニフォームへと変わる。

 

「! 彼等は……?」

 

 出現したデュプリ達を見てアステリがフェイに尋ねる。

 それに対しフェイは「あぁ」とデュプリの説明を始めた。

 

「化身ってのは知ってるかな?」

「あ、うん」

「彼等はデュプリと言って、化身と同じモノさ。今、メンバーはボクと天馬とアステリしかいないから、足りない分を補ってもらおうと思って」

 

 「化身に変わりは無いから長時間の使用は大変だけど……」と苦笑するフェイに、天馬は「申し訳無いな」と思いながらフェイの話を聞くアステリを見る。

 そこで天馬は気づく。

 

「デュプ……リ……」

(……アステリ……?)

 

 アステリがデュプリとフェイを交互に見ながら、不思議そうな顔をしているのに。




【カオス】
『裏切り者』であるアステリを捕まえる為、天馬達の前に現れた不気味な男。
想像したモノを一から創りあげる等、人類を超越した力を持ち、その力に相当の自信を持っている。
目立ちたがり屋で自信過剰。ナルシスト気味でプライドが高い。
その為、煽り耐性が無く、分かりやすい挑発にもすぐ乗ってしまう。

【容姿】
髪色:赤色。右側に根元から前髪にかけて黒いメッシュ
髪型:肩までのストレートショート。
瞳色:左目は黄緑色、右目は赤のつり目

会話のふしぶしや行動、容姿から分かる通りに厨二病を患っている。
その影響か、右目と左手首に包帯を巻いている。

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