色を無くしたこの世界で   作:黒名城ユウ@クロナキ

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第58話 再戦VSジャッジメント――拒絶の刃

 先程のカオスの一撃で両チーム得点は2-2の同点。宣言通り、ジャッジメントのメンバーは動かず。文字通り異彩を放つカオスのみが雷門の敵として機能している。

 彼の発動した『カルディア』なる未知の力を前に、険しい表情を浮かばせる雷門イレブン。そんな彼等に「頑張れ」とエールを送るマネージャー達の表情も心なしか不安そうに見えた。

 敵の力に気圧されながらの試合再開。ボールを受け取りドリブルで前線へ駆ける天馬の背後から猛然と走り込んできたのは、やはりカオスだ。

 チーム一ドリブルを得意とする天馬も真の力を解放したカオスのスピードに勝つ事は出来ず、あっと言う間に前をとられてしまう。

 

「諦めが悪いんだな、お前達は」

 

 冷たく、静かな声でカオスが言う。

 

「未知の種族、未知の世界、未知の力……全てにおいて何も分からない状況で、世界の命運をかけて戦わなければならないなんて……酷い話だとは思わないか」

 

 激しいディフェンスに何とかボールを死守しようとする天馬。パスを出す暇すら与えぬその動きと比例して、彼の真っ赤な瞳は天馬を捕らえて離さない。

 

「自分達はただ、普通の暮らしがしたいだけなのに。たったそれだけなのに、どうしてこんなに辛い思いをしなくちゃいけないのか。なんで自分だけ、どうしてこんな目に。理不尽だ、不条理だ、ズルイ、ズルイ、もう嫌だ。そう思うだろ? だからなあ、いっその事――ラクになっちゃえば良い」

 

 「諦めろ」……そう訴える彼の言葉は、妙に流暢でいて、まるで何度も自身の中で反芻した事があるかのようだ。

 

「カオス、どうして君はそこまでクロトの野望に賛同するの」

 

 天馬の胸の奥底でずっと引っかかっては疼いていた言葉。

 激情に駆られた今のカオスに言っても、答えてはくれないかもしれない。

 それでも尋ねずにはいられなかった。

 

「……恩人だから」

「え」

「クロト様は僕を救ってくれた恩人。僕を唯一認めてくれる存在。だから従う」

 

 抑揚の少ない声でカオスが言う。

 

「でも……クロトのしている事は間違っているんだよ。自分勝手な願いで沢山の人から心を奪って、世界を変えようとしている」

 

 きっと答えてはくれない。

 そう半ば諦めていた問いの答えに、天馬は驚いた表情を浮かばせながらも彼の言葉に対して反論した。

 例えどんな理由があろうとそんな自己中心的な行動は許されるものでは無い。

 カオスはそんな事すら分からなくなってしまう程、クロトに妄信してしまっているのか。

 それともやはり、自分達人間とイレギュラーとでは考え方が違うのか。

 クロトやカオス達……彼等の間違いを正さねば。そんな固い意思の上で唱えられる天馬の言葉を、カオスは自嘲気味な笑みを浮かべる。

 

「正しいとか正しく無いとか、そんな事はどうだって良いんだ。僕はただあの理不尽な世界を変えたいだけ。……ぼくの願いを叶えるには、それしか方法が無いから……」

 

 口から零れ落ちた言葉に付随して

 激情に燃えていた瞳が、一瞬だけ悲しそうに揺らいだ気がした。

 

「だから、この試合。負ける訳には行かないんだよ!」

 

 天馬の足元にキープされていたボールを奪い、勢いよく駆けあがるカオス。

 沈んだ瞳を再びギラギラと輝かせながら、地面を踏みこむ足にも力を込める。

 

「再臨する! 不滅の時エターナル!」

 

 先程と同じように放つ口上と共に姿を現した化身・エターナルは、相も変わらず無機質な顔面を携えたまま、猛進するカオスと共に雷門陣内へ斬り込んでいく。

 

「止める! これ以上好きにさせるものか!」

 

 ディフェンスに入る雷門イレブンを次々になぎ倒しながら爆走するカオスの前に、剣城と神童が立ちふさがる。

 二人は全身に気を集約させるとほぼ同時のタイミングで二体の化身を発現させた。

 

「「アームドッ!」」

 

 二人の気合いに反応して、マエストロ・ランスロットの二体が光のアーマーへと変貌し、各々の発現者の体へ装着されていく。

 化身は発現するだけでも大幅な体力を労する。ましてやその化身を鎧として着用する化身アームドは持続時間では、ミキシマックスやその他の能力と比べ大きく劣ってしまう。

 だが、そのパワー。そして瞬発力はどの能力と比べてもぐんを抜いて高い。

 化身アームドで確実にカオスからボールを奪い、反撃のチャンスを掴もうと言う事なのだろう。

 

『カオス選手の猛進を阻まんと、神童選手、剣城選手が同時に化身アームドを発動だあ!』

「良いぞ! アイツのスピードについて行けてる!」

 

 いくらカオスの力が強力でもアームドを発動した二人が相手ならば、そう簡単に突破される事は無い。

 カオスの行く手を阻み続ける神童と剣城を目に、ベンチから声を上げる水鳥。そんな一同を嘲笑うかのようにカオスが口を開く。

 

「それぐらいで興奮しちゃうだなんて、本当にめでたい頭だね」

「!」

 

 口角をつり上げ、カオスは叫ぶ。

 

「見るが良い!」

 

 高々と振り上げられた左腕と共に、エターナルが光のアーマーへ変貌する。

 白を基調とした鎧の腰に吊り下げられた翠色の砂時計、胸元につけられた蝶番の装飾が鈍い光を放っている。

 全体的に女性的な印象を与えるアームド姿だが、そこから発せられるオーラは発現者を模すように強い威圧感を放っていた。

 

「ッ……やはりアームドを使う事が出来るのか!」

「そうさ! そしてこれがクロト様から授けられた色の力!」

 

 そう言って掲げた両腕から溢れた禍々しい光は、三日月のように湾曲した大鎌を形作る。

 傍から見てもかなりの重量感がありそうな大鎌をカオスは軽々と持ちあげると、行く手を阻む神童・剣城に目掛け力任せに薙ぎ払う!

 

「アダマスの大鎌ッ!」

 

 辺り一面を吹き飛ばさんばかりの衝撃が二人の体を打ち据える。

 あまりの威力にアームドを形作っていた二人の気力は断ち切られ、そのまま後方へ大きくふっとばされていった。

 化身アームドの力を得て更にスピードの上がったカオスは、漆黒に染まった鎌を手に、地面を滑るような勢いで駆け抜ける。

 

「行かせない!」

 

 水色の光に身を包み、ソウルを発動させたアステリがカオスを迎撃するべく突き進む。

 だがそれもカオスの手にした大鎌のひと振りで打ち倒され、ソウル《白鳥》は純白の羽根を散らしながら消散して行った。

 

「そんな粗削りなソウルで、そう何度もやられるものかッ!」

「ッ――!」

 

『カオス選手、強力なオフェンス技《アダマスの大鎌》で雷門イレブンの選手をバッタバッタとなぎ倒していく!!』

 

 目の前に立ち塞がる全ての者を容赦なく押し退け、斬り捨て、叩き伏せ。カオスがゴール前に辿り着いた時には、多くのメンバーが地面に突っ伏すように倒れていた。

 DFの霧野達もカオスの暴力的とも言えるプレーに倒され、信助の立つゴールを守る者は既にいなくなってしまった。

 手にした大鎌を消し、ボール共々天高く跳躍する。拳を打ち鳴らし身構える信助の姿に不敵な笑みを返すと、カオスは必殺シュートの体勢に入る!

 

「くらうがいい! インフェルノV2!」

 

 自身のオーラを蓄えたボールに、カオスは渾身の一撃を与えた。

 試合開始直後に放った物とは明らかに違う。今までの必殺シュートをはるかに超える、絶大なエネルギーの光線が雷門ゴール目掛け一直線に飛来する。

 信助はとっさに化身発動の構えをとるが、シュートはあっという間にその体を弾き飛ばし、ネットに深々と突き刺さった。

 ジャッジメント、3点目。




《エリュトロン》
カオスのカルディア。
特色は『拒絶』。保有者にとって苦痛となる感覚・感情・要素を排除し、心のバランスを保つ力。
専用技は『アダマスの大鎌』。
力の解放と同時に顔と左腕に巻いていた包帯が外れ、右サイドの前髪が逆立つ。
露出した右目は白目と黒目の境の無い赤眼に変わり、十字架の紋章が浮かび上がる。

《アダマスの大鎌》
カオスの必殺技。
自身のオーラを集約させ作り出した大鎌を振るい、敵を攻撃するドリブル技。
オーラの集合体だが、かなりの重量があるらしく両手で持たなければ扱えない。
カルディア《エリュトロン》解放時のみ使用可能。

《不滅の時エターナル》
カオスの化身。
ウェーブのかかった赤い長髪に、蝶番の装飾がついた白い衣を纏った女性型化身。
女神のような風貌とは裏腹に、石膏像のような無表情な顔を持ち、胸元に掲げた両手の中に翠色の砂時計を浮かばせている。

《ブラッディフェイト》
カオスの化身必殺技。
エターナルの砂時計から噴出したオーラをボールに吸着させ、巨大な翠色の岩塊を生成。
禍々しい闘気を込めた一撃を叩きつけ、岩塊を破壊。解放されたシュートが赤黒い光線になりながら地面を抉り進むシュート技。


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