ジャッジメント優勢の中、試合は再開された。
キックオフは雷門から。ホイッスルと同時に、剣城が蹴り出した。
さらに強く蹴ったボールがフェイへと繋がろうとした瞬間、ボイドとデルタがフェイを押しつぶそうとするように突っ込んできた。
たまらず、左サイドから駆けて来ていたアステリへとパスを繰り出す。
パスを受け、敵陣へと走り込むアステリの頭には、先程のカオスとの空中戦の光景が蘇っていた。
(あの時、ボクがボールを奪う事が出来ていたら、カオスに点を決められる事もなかった。どうにかボクが一点、取り返さないと……!)
「ボールを渡せぇッ!」
「!!」
叫ぶリーズンは光に身を包むと、灰色の体に黒い斑点模様がついた一匹の《ハイエナ》へと姿を変えた。
ハイエナと化したリーズンは前方から勢いよく突進してくると、荒々しいチャージでアステリを吹き飛ばし、ボールを奪取する。
『アステリ選手、リーズン選手の荒々しいチャージに吹き飛ばされたー!! そしてボールは前線のボイド選手へ渡されます!』
「そんな……!」
「はあああ!」
リーズンによって蹴り出されたボールは前線で走るボイドの元にたどりつく事無く、天馬にカットされた。
「天馬……!」
「アステリ! サッカーは一人でやるスポーツじゃないよ!」
訴える天馬の言葉にアステリがハッと目を見開く。
「一人でなんとかしようなんて思わないで、一緒に戦おう!」
「天馬……うん!」
アステリはそう強く頷き返すと、再びゴールに向かい走り出した。
一方……。
「……」
他のメンバーが次々とボールを追って走る最中、カオスだけがフィールドの中央で立ちつくしていた。
向かう視線の先にいるのは、ジャッジメントのゴールを目指し進む天馬だ。
色鮮やかな仲間達に囲まれ、まるでそよ風を思わせるようにさわやかなプレイをする天馬の姿に、カオスの顔がどんどん曇っていく。
――「お前を見てるとイライラする」――
ふと、誰かに言われた言葉が頭をよぎる。
同時に浮かび上がるのは、いつかの記憶。
その中に映った誰かの拳は強く握り絞めてあって
勢いよく振り上げられた直後
真っ正面の自分に向かい
飛んでくる。
忘れたはずなのに。
消してしまったはずなのに。
――どうして今、思い出す。
奥歯を強く噛み締め、嫌そうに顔を歪ませる。
そんなカオスの姿を、高台に立つシエルが静かに見詰めていた。
『さあ、試合は先制された雷門がボールをキープ! ジャッジメントの選手達を次々に交わし、ゴールに向かっております!』
天馬はフィールドを駆けながら、試合前、シエルに言われた言葉を思い出していた。
(今、俺がするべき事。それは、責任を感じて悩んで立ち止まる事じゃない。皆と一緒に、目の前の試合を全力で戦い抜く事だ!)
真っすぐに前を向きながら、そう心で強く唱えると、天馬はアステリへパスを繰り出す。
パスを受けとったアステリの前に、DFのマリスが立ちふさがった。
「潰す! 来い、破壊神デスロス!!」
マリスの背後から姿を現した化身・破壊神デスロスは不敵な笑みを浮かべると、アステリのゆく手を阻まんと腕に携えた二丁の機関銃を向ける。
「天馬達が繋げてくれたこのボールだけは、絶対に渡さない!」
黒い化身を発動させながら突っ込んでくるマリスを睨むと、アステリは眩いばかりの水色の光をボールに纏わせた。
「コメットアロー!」
光の弾丸と化したボールは打ち放った矢の如く、瞬く間にマリスの頭上を通過し、ジャッジメントゴール目掛け飛来していく。
「何!?」
「白竜くん、お願い!」
「!」
叫ぶアステリの声と飛来してきたボールを目に、白竜は小さく頷き返すと、自身の必殺シュートの構えをとる。
街中に吹く風が、空気が、白竜の動作一つ一つに震わされ、力となる。
「ホワイトハリケーン!」
右足に溜まった闘気をボールへと勢いよく叩きつける。そうして蹴り放たれたシュートはフィールドに白銀の暴風を巻き起こし、ジャッジメントのDF達の身動きを封じる事に成功した。
『白竜選手の必殺シュートが炸裂! あまりに強力な暴風に、ジャッジメントDF陣、手も足も出ない!』
「小癪な……だかこの程度の威力、僕の敵じゃ――」
「それはどうだろうな」
不敵な笑みを浮かべた白竜の言葉に怪訝そうに眉を顰めた直後、アビスは気付く。
白銀の暴風に紛れながら、同じく雷門中FW・剣城が、ここまで走り込んで来ている事に。
「まさか……!」
剣城は白竜のシュートに追い付くと高く跳躍し、白い光を纏ったシュートに黒い闘気を叩き込む!
「デスドロップっ!!」
剣城の力を得た白銀の暴風はより一層その威力を上げ、禍々しい黒い火花を散らしながら、ジャッジメントゴールへ突き進んで行く。
「ッ、ゴットハンドX!」
赤いイナズマを放つ巨大な手が白竜と剣城のシュートを抑え込む。
しかし、シュートはアビスの手中で眩い閃光を放つと、ゴットハンドXを玉砕し、ゴールネットへ勢いよく突き刺さった!
試合開始15分。雷門がジャッジメントから一点を取り返した瞬間である。
雷門 1-1 ジャッジメント
得点のホイッスルが鳴り渡る中、天馬は全身で喜びを表し、歓喜の声を上げていた。
フィールドに立つ他の雷門メンバーも、ベンチで彼等を見守る葵達も嬉しそうにはしゃぎ騒いでいる。
「剣城、よく俺のシュートについてこられたな」
「あれくらい当然だろ」
いつもの様にクールに返す剣城に「相変わらずだな」と白竜が静かに笑う。そうやって軽口を叩き合いながらも、ハイタッチを交わす二人の姿を、少し離れた所でアステリが眺めていた。
「すごいね、あの二人。会話もサインも何もなしに、あれだけ息の合った連携が出来るなんて……」
「剣城と白竜はライバル同士なんだ。それこそ、俺達と出会う前から。だからきっと、互いの考えてる事とか分かるんだと思う」
「おい、アステリ」
「! 白竜くん……」
天馬から二人の関係性を聞いていると不意に名前を呼ばれ、振り返る。
そこにいたのは、先程まで剣城と会話をしていた白竜だった。
相変わらず怒ってるのかどうか分からない彼の無愛想な表情に加え、昨日の件もあり、少しだけ不安そうな顔のアステリ。
隣に立つ天馬もそんな二人を心配そうに見つめ続けている。
「いい、パスだった」
低い、彼の声が風にのってアステリの耳に届く。
突然の言葉に目を丸くしたアステリに、白竜はそれ以上何も語る事はせず。踵を返し、自身のポジションへと戻っていってしまう。
「素直じゃないな」。自軍に戻る白竜の後ろ姿に、剣城が呆れたような笑みを浮かべた。
「ほら、悪い奴じゃないって言っただろ」
未だ驚いた様子のアステリに天馬が笑いかける。
その笑顔にようやく今の状況を把握したのか、アステリは徐々に顔を綻ばせると「うん」と穏やかに笑い返した。
《コメットアロー》
アステリの必殺技。
高速で飛来する光の弾丸を打ち放ち、相手を抜き去るオフェンス技。
ドリブルと言うよりパス系統の必殺技に区分される。