色を無くしたこの世界で   作:黒名城ユウ@クロナキ

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第50話 再戦VSジャッジメント――試合開始

『いつでも元気がモットー! 実況者、アルです! 今回は空の街【ヒンメル】から、お届けしていこうと思います!』

 

 快活な声を上げてお決まりの如くやって来たアルを目に、白竜が不信そうな声でフェイに尋ねる。

 

「何だ、あれは」

「あー……彼女はアルって言って、実況者なんだって。悪い子じゃないから安心して」

「女の子の実況者なんて、珍しいやんね」

 

 そう言って無垢に笑う黄名子の様子に「反応するのはそこなのか」と、白竜は呆れた表情を浮かばせた。

 

・【雷門】メンバー&ポジション・

FW:剣城京介

FW:フェイ・ルーン

FW:白竜

MF:アステリ

MF:松風天馬★

MF:神童拓人

MF:錦龍馬

DF:菜花黄名子

DF:狩屋マサキ

DF:霧野蘭丸

GK:西園信助

 

   白竜    フェイ 

      剣城     

アステリ 神童 天馬★ 錦

  狩屋  霧野  黄名子

      信助

 

 

・【ジャッジメント】メンバー&ポジション・

FW:カオス★

FW:ボイド

MF:デルタ

MF:シータ

MF:リーズン

MF:リンネ

DF:ファントム

DF:マリス

DF:リグレット

DF:シェイム

GK:アビス

 

     カオス★ ボイド

 リーズン デルタ シータ  リンネ

ファントム マリス リグレット シェイム

        アビス

 

『新しく白竜、菜花黄名子を仲間に加え試合に挑むチーム雷門! 新加入した二人がどんな活躍を見せるのか、楽しみです! 対して前回と比べメンバーの変更は無いチームジャッジメント! 以前の試合では、途中棄権と言う形で負けてしまった彼等ですが、今回はモノクロ世界での試合! 全力のプレイが期待出来そうです!』

 

 意気揚々と両チームの紹介をするアルを横目に、アステリが口を開く。

 

「今回はモノクロ世界での試合だ。前回みたいな色による体力消耗は起きないだろう」

「前回よりも強敵って事だね」

「それでも、負けられない。必ず勝って、三国さん達を元に戻すんだ!」

 

 息巻く天馬に、アステリは静かに頷いた。

 

 

 

 両チームの選手がポジションにつく頃、グラウンドを見渡せる小高い丘に立ち並んだ白い柱の陰に、あの黒ローブの男は立っていた。

 フードに隠れた黒髪を風に揺らし、誰にも悟られぬよう息を潜める男の目線の先にいるのは、天馬達雷門イレブンの姿だ。

 自らのポジションにつき、仲間に向かい鼓舞の声を上げる天馬。その声にイレブン全員が応じ、チームの士気を高めていく。

 ベンチにいる葵も同じ気持ちだろう。天馬達の動きを目で追いながら、自然と、祈るように手を胸の前で組んでいる。

 

 その光景を睨むように黙って見るカオスに、男は視線を向けた。

 先程まで不敵な笑みを浮かべていた唇は真一文字に結ばれ、鋭く尖った目からは、天馬達に対する怒りのような感情が伝わってくる。

 そんなカオスの姿を、何も言わず、何も行わず。静かに見詰め続ける男の瞳は、なぜか揺れていた。

 

 

 

 試合開始を告げるホイッスルが力強く鳴り響く。

 先攻はコイントスの結果、ジャッジメントになった。カオスがキックオフのボールを蹴り出す。

 

「行くぞ」

 

 そう低く声が響いたと思った刹那、カオスがまるで弾丸のようなスピードで雷門陣内へ斬り込んでいった。

 

『カオス選手! 試合開始早々、雷門ゴール目掛け猛然と走り込んでいきます!』

「ボイド!」

 

 カオスの号令にボイドが蹴り込んだボールは、ロケットのように高く舞い上がり、放物線を描いて雷門陣内を狙う。

 飛来するボールをカオスにキープさせてはならない。他メンバーが一斉に守りを固めようと走り出す最中、アステリは前線を走るカオスより前に、宙を舞うボールへ向かい、跳躍した。

 

「邪魔だよっ!!」

「!?」

 

 少し遅れて飛び上がったカオスは、空中でアステリの体を踏み付けると、更に高く跳躍してみせる。踏み台にされ、空中でバランスを崩したアステリが勢いよく地面に叩きつけられる。

 

「アステリ!」

「ッ……天馬、来るぞ!」

 

 落下したアステリの身を案じる暇も無く、天馬と神童はボールと共に舞い上がるカオスへと視線を集中させた。

 カオスは空中から天馬達の姿を見据えると、会心の笑みを刻み、必殺技の体勢に入る!

 

「神に抗いし者よ、死をもってその罪を償え! インフェルノ!!」

 

 迸るオーラを吸収し膨れ上がったボールは、カオスの一撃により破裂し、溜め込んでいたオーラを一気に吐きだした。

 赤黒い光線と化したシュートはゴールを守らんと構えていたディフェンス陣を吹き飛ばし、雷門のゴール目掛け突き進んで行く。

 ミキシトランスを発動し劉備の力を纏った信助が、ボールから視線を外さず、腰を落として身構えた。

 

「止める!」

 

 信助は果敢にボールに食らい付くが、インフェルノの放つパワーに押し切られ、自分ごとゴールネットに叩きこまれた。

 

「うわあっ!!」

「信助!」

 

 光線に吹き飛ばされ、転倒した状態のまま天馬が叫ぶ。甲高い笛の音と共に、アルの絶叫がフィールド中に響き渡る。

 

『ゴォール!! 試合開始わずか3分! 先制点を決めたのはジャッジメントだァーッ!』

 

「信助、大丈夫?」

「ごめん、天馬……止められなかった……」

 

 地面に転がるボールを見詰め、駆け寄った天馬に言葉を返す信助。腹部に受けた衝撃の痛みも相まってか、その表情は険しい。

 

「大丈夫、点は俺達が必ず取り返す! 試合は始まったばかりなんだ、焦らずに行こう!」

「天馬……」

 

 胸元に掲げた拳を強く握って、天馬は俯く信助に励ましの言葉をかける。

 こんな異常な状況でも変わらない澄み切った灰色の瞳に、信助は「うん」と強く頷くと転がるボールを拾い上げた。

 

 ぞわり。

 不意に走った悪寒に驚いて、天馬は視線を真後ろへと転換させた。

 瞬間、あの黄緑色の瞳が目に留まる。

 

「カオス……」

 

 話す、天馬と信助を遠巻きから観察するように向けられた瞳は冷たい。

 

――まただ。

 

 カオスの瞳を見て、天馬は先程感じた違和感を、もう一度感じ取っていた。

 確かに、彼の視線の先にいるのは自分だ。先程の痛覚の話の時も、今も、それは変わらない。

 だけど、その瞳に映っているのは――その瞳に宿る感情の向く先は、やはり自分では無い。

 この場所にはいない、別の何か。その物体に、カオスの“目”は向けられている。

 怒っている訳でも、悲しんでいる訳でも無い。一度目の試合の時には見る事のなかったカオスの不可解な表情に、天馬は妙な疑念を抱かざるを得ないでいた。

 

 


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