色を無くしたこの世界で   作:黒名城ユウ@クロナキ

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第30話 再戦VSザ・デッド――試合開始

「天馬。アイツ等が話に出てきたモノクロ世界の奴等か……」

 

 雷門中サイド、ベンチにて。ユニフォームに着替え、赤色のキャプテンマークを左腕に付けた天馬に、神童が問いかけた。

 対し真剣な眼差しで「はい」と頷いた天馬。それに続いて、神童の傍にいた霧野が口を開く。

 

「なんだか、不気味な奴等だな……」

 

 緊迫とした面持で語った霧野が見つめる先――――ザ・デッドのベンチにはスキアのメンバーであろう。

 いずれも色を持たず、人間と言うのには明らかに不出来な、異形の姿を持った数名の存在がうごうごと蠢いていた。

 

「異世界からの刺客……写真に撮らないと…………」

「アンタは大人しくしてるんだよ!」

「水鳥ちゃんのケチ……」

 

 こんな異常な出来事を前にしても、いつものように目を輝かせカメラを構える茜の頭を掴み水鳥は声を上げる。

 そんな二人の様子を見て苦笑いをするアステリの背後から、円堂が声をかけた。

 

「アステリ、今回お前も試合に参加してくれ」

「……! はい!」

「アステリ! 頑張ろうな!」

 

 ハツラツとした笑顔を向ける天馬の言葉にアステリも強く頷き、答えた。

 そして、今回の試合にも当然の如く姿を現したのが……

 

『サッカーある所、私あり! いつでも元気がモットー! 実況者、アルです!』

 

 不穏な雰囲気の漂うこの場には不釣り合いな程明るく、弾む様に少女は叫ぶ。

 突如として聞こえたその声の先にはあの小さな実況者が当然の如くマイクを持ち、両チームのベンチエリアの間に佇み、天馬達が立つフィールドを見詰めていた。

 

「ちゅーか、誰? あの子」

 

 雷門ベンチに座る浜野がアルの姿を見詰め、口を零した。

 他の控えのメンバーやマネージャー達も、彼女を訝しい目で見詰めている。

 フェイは困った顔のまま愛想笑いを浮かべると、アルの事を怪しむメンバーに彼女が自称実況者だと言う事と、一応悪い人では無い事を話した。

 まぁ、未だ謎の存在なのには変わりはないが……

 

「また変なのが現れたなぁ」

「あはは……」

 

 ディフェンスエリアに立った狩屋が呟いた言葉に、天馬とアステリは苦笑いを浮かべた。

 そんな彼等の事等気にせず。自称実況者の彼女は、いつものように両チームのメンバー紹介を始めた。

 

・【雷門】メンバー&ポジション・

FW:剣城京介

FW:倉間典人

FW:松風天馬★

MF:神童拓人

MF:錦龍馬

MF:速水鶴正

MF:アステリ

DF:天城大地

DF:霧野蘭丸

DF:狩屋マサキ

GK:三国太一

 

   剣城    倉間 

      天馬★

      神童

 アステリ      錦

      速水

  狩屋  霧野   天城

      三国

 

・【ザ・デッド】メンバー&ポジション・

FW:グリード

FW:マッドネス

MF:スキア★

MF:チェーニ

MF:シャッテン

MF:フォンセ

DF:ヴァイス

DF:オスクロ

DF:エラトマ

DF:ズロー

GK:アグリィ

 

  グリード     マッドネス

       スキア★

  チェーニ      フォンセ

       シャッテン

ヴァイス オスクロ エラトマ ズロー

       アグリィ

 

『松風選手率いるチーム雷門! 前回の試合とはチームメンバーを大幅に変更しての今回の試合! 対するザ・デッド。その存在も、実力も未だ謎の多すぎるチームですが! 一体どのような試合になるのでしょうか!!』

 

 アルの快活とした声が灰色の世界に響きわたる。

 不気味な世界で行われる、見た事の無い異形の者達との試合。

 その場のメンバー全員が様々な思いと不安を抱える中、雷門対ザ・デッドの試合が始まる。

 試合開始のホイッスルが高らかに鳴り響く。先攻は雷門だ。

 倉間はボールにタッチすると、剣城に送り出しつつ前進を開始する。

 剣城は後続の天馬にバックパスを送ると、一気に敵陣に向けて走り始めた。

 

「よし、みんな! 攻め――――――!」

 

 ボールを受け、いざザ・デッド陣内に攻め上がろうとした時。天馬はある異変に気が付いた。

 それはザ・デッドイレブンの挙動。

 試合開始のホイッスルからまだ数秒だが、彼等は初めにポジションについた位置から一歩も動いていないのだ。

 

「なんだ……?」

 

 ザ・デッド陣営に上がった雷門イレブンはパスワークを重ねていくものの、ザ・デッドの理解しがたい挙動に困惑しきってしまっている。

 それはベンチにいるメンバー達も同じで、特にフェイは、先程自分達が戦った時とは違うスキア達の行動に、訝し気な表情を浮かばせていた。

 

『どうした事でしょう。ザ・デッド、全く動きません! 雷門イレブン、ブロックされる事も無く、一気にザ・デッドゴール前だァ!』

「『撃って来い』って事か……」

「ッ……ナメやがって……」

 

 微動だにしないザ・デッドイレブンを見て呟いた神童の言葉に倉間は舌打ちをすると、両足にボールを挟み込み、バク転をしながら自身もろ共高く跳躍した。

 

「サイドワインダー!!」

 

 空中に蹴り出されたボールは倉間の二度蹴りによって緑色のオーラを纏うと、まるで大蛇の様な変則的な動きを見せながらゴール目掛け突き進んでいく。

 

『倉間選手! ここで必殺シュートを繰り出したァ!! まるでゴールを飲みこまんばかりに口を開けた巨大な蛇が、ザ・デッドゴール目掛け、猛進していきます!』

 

 大きなエネルギーを蓄えたボールが、地面をうねりザ・デッドのゴールを狙う。

 その強力なエネルギーを確かに肌で感じながら、スキアは静かに笑みを零した。

 

「オスクロ。お願いします」

 

 そう、落ち着いた抑揚の少ない声音が聞こえた瞬間。倉間の放った必殺シュートの目前に、黒く長身な影が立ちふさがる。

 オスクロと呼ばれたその男は、尾羽の様に扇状に広がった髪を揺らすと猛進してくる倉間渾身のシュートを見据え、軽々と受け止めてみせた。

 

『倉間選手、渾身の必殺シュート《サイドワインダー》をオスクロ選手が見事にブロック! 雷門、得点ならず!!』

 

 声高々に叫ぶアルの言葉に「くそっ」と悔し気に拳を握る倉間。それを見て、受け止めたボールを器用に足先で操りながら、オスクロが囁く。

 

「今のが必殺シュート、ね…………なるほど。粗末な物だな……」

「なんだと……」

 

 嘲笑う様にして発せられた言葉に、剣城が険を含んで応じた。

 

「こんなぬるま湯プレイに負けたんだ、あの男。……さすが、"出来損ない"だ」

「……!」

「さっきから、何を言ってる!」

 

 オスクロの意味不明な言葉に、語気を強めて言い放つ神童。

 目や口と言った一切のパーツが無い彼の顔から表情を読み取る事は出来ないが、発する言葉や話し方から神童達、雷門イレブンのサッカーを馬鹿にしている事は一目で分かり、フィールドに立つメンバーの誰もが怒りの色を顔に浮かべていた。

 

「オスクロ。お喋りもそこまでにしましょう。クロト様に怒られてしまいます」

「了解……フォンセ!」

 

 静かな声でたしなめたスキアに返事をすると、オスクロは前方で待機するMFフォンセへとパスを出した。

 

「行かせない!」

 

 すかさずブロックに入った天馬はボールを奪取する為、必殺技の構えをとる。

 

「ボール、欲しいの……?」

 

 前方から迫ってくる天馬の姿を見つけると、フォンセは低く沈んだ声で囁き、あろう事か持っていたボールを敵である天馬に渡してしまった。

 

「え……」

 

 不意に渡されたボールを反射的に胸でトラップする天馬。

 目の前の男の行為の意味が分からず困惑した、瞬間。

 

「なーんちゃって」

「――――!」

 

 ズガァァッ!と言う衝撃音が天馬の鼓膜を揺らす。

 一瞬、自分の身に何が起きたのか分からなかった。が、直後に襲う激しい痛みに『自分の体がボール越しに蹴られた』のだと気が付く。

 

「ジャッジスルー! オラァッ!」

「うわああ!!」

「天馬!」

 

 自分の身に起きた出来事を理解するのと同時に、天馬はフォンセの激しい蹴りにより吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。その様子に傍にいた神童とアステリが声を上げた。

 

『なんと言う激しい攻撃だぁ!! フォンセ選手の激しい蹴りに吹き飛ばされた松風選手!! かなりのダメージの様ですが、大丈夫でしょうか!?』

 

 突如として動きだしたザ・デッドの激しい攻撃に、アルもたまらず声のボリュームを上げる。あまりの衝撃に起き上がる事が出来ない天馬に、神童とアステリが駆け寄り、声をかける。

 

「天馬、大丈夫!?」

「あ…………あぁ……っ」

「立てるか?」

「平気、です……それより、ボールを追わないと……っ」

 

 天馬はそうか細く唱えると神童の腕を借り立ち上がる。ズキズキと痛む腹部に顔をしかめる天馬の横顔に、アステリはキッとザ・デッドの面々を睨み付けた。

 

「リーダー!」

 

 フォンセの蹴り上げたボールは雷門イレブンの頭上高く舞い上がり、放物線を描く様に前線に上がっていたスキアへ飛来していく。

 

「させんぜよ!」

 

 飛来するボールをスキアにキープさせてはならない。錦は宙に舞うボールを瞳に捉えると、地面を強く蹴りあげ、高く跳躍した。

 

「おや、空中戦ですか……? あんまり、高い所は好きじゃないんですけどねェッ!!」

 

 そう叫んだ言葉とは裏腹にその表情からはこの状況を至極楽しんでいる様な、嬉々とした感情が溢れんばかりに露呈していた。宙を舞うスキアの体は一切の抵抗を受けず、まるで弾丸のようなスピードで飛来するボールの元へと辿り着く。

 

「マッドネス!」

「しまった!」

 

『スキア選手! 空中でキープしたボールをマッドネス選手にパス! 雷門、これには意表を突かれたか! 絶好のシュートチャンスだぁ!!』

 

 スキアの繰り出したパスは雷門ディフェンス陣の頭上を越え、FWマッドネスの元へ真っすぐに飛んでいく。

 白塗りの顔とは呼べない頭部ゆっくり上げると、目の前のゴールキーパー三国を見据えた。

 間近で見る異形の姿に三国は息を呑むと、グローブをはめた両手を強く何度も叩き合わせ「来い!」と声を上げた。

 三国の言葉にマッドネスは空気を吐き出す様な不気味な笑い声を発すると、全身に力を込め、背中から赤黒いオーラを発生させる。

 

「この光って……ッ」

「化身……!!」

 

 マッドネスの体から発せられた赤黒いオーラは一つに固まり、人工的な光を放つ巨大な兵器の様な外見を持った化身へと変貌する。全体像を現したその化身の姿に、雷門は目を見張り驚愕した。

 

「あれは、パーフェクト・カスケイドの……!!」

 

 ベンチにいたフェイ、そしてワンダバが声を上げる。

 かつて、雷門イレブンが戦ったチーム【パーフェクト・カスケイド】。

 メンバー全員がアンドロイドで構成されたと言う前代未聞のそのイレブンで、選手達が使用していた化身がこの《人工化身プラズマシャドウ》だった。

 今まで見てきたどの化身と比べても異質なその外見に、当時の天馬達は驚き恐怖した。

 それが今また、自分達の目の前にいる。

 

「どうして、あいつ等があの化身を……」

「ん……? おいおい。思い違えるなよ、人間。今はそんな事、問題じゃあねぇだろ」

 

 予想だにしない出来事に困惑する一同に、化身を発現したマッドネスが呆れた様に声を上げる。

 

「俺がどんな化身を使おうが、そんなのアンタ等にはどうでも良い事。それより今重要なのは……テメェ等が俺のシュートを止められるかどうか。ただ、それだけだ!」

 

 叫ぶマッドネスの声に反応する様に《人工化身プラズマシャドウ》はその体を電子の欠片に変化させ、彼の体に赤黒い電子の鎧として纏わりついた。

 

「化身アームドまで出来るのか……!」

「最初から化身ですか。相変わらず、堪え性がありませんね」

 

 化身アームドと言う離れ業まで軽々とやって見せるマッドネスに、眉をひそめ呟いた天馬。裏腹にスキアはため息交じりに言葉を吐き出した。

 化身の鎧を身に纏ったマッドネスはボールを蹴り上げ、自らもまた高く跳躍する。

 三国がマッドネスとボールの軌道から目を離さず、腰を落として身構える。

 雷門イレブンが期待を込めて三国を凝視する中、マッドネスは強力なボレーシュートを打ち込んだ。

 空気を裂く程の回転が与えられたシュートが雷門ゴール――正確にはゴールキーパーである三国に襲い掛かる。

 三国は咄嗟に必殺技の構えを取ろうとする。が、化身の力が与えられた超高速シュートはそれを許さず。三国の体ごと、ゴールへと突き刺さってしまった。

 

『ゴォールッ!! マッドネス選手の化身アームドシュートが先制点を決めたァ!!』

 

 興奮気味に叫んだアルの声が、雷門ベンチに座っていたメンバーの鼓膜に突き刺さる。

 他の控え選手と混ざって試合を見守っていたフェイは、悔しそうにスコアボードに記された0-1の文字を見詰めた。

 

「くそっ……!!」

「今のシュート、なんてパワーだ……っ」

 

 悔しさのあまり握りしめた拳で地面を叩く三国の傍で、神童は呟いた。

 ギリッと歯を食いしばり、シュートを止められなかった事に対して謝罪の言葉を並べた三国に、天馬は「大丈夫です!」と元気付けさせる様に笑って見せる。

 

「試合はまだまだこれからです!! 取られた分、俺達が取り返します!!」

「天馬……」

 

 明るく真っすぐに言い放たれた言葉に、三国は自身の頬を一度強く叩くと「よしっ」と気合いを入れ、前を見据えた。

 

「…………取り返す……ですか」

 

 ポジションに戻っていく天馬を見詰めながら、スキアはそう小さく呟いた。


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