色を無くしたこの世界で   作:黒名城ユウ@クロナキ

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第24話 VSザ・デッド――試合開始

『ただいまより、チームテンマーズVSザ・デッドのサッカーバトルを開始いたします! 勝負の会場はここ、色の抜けた稲妻町から! 実況は、私アルが勤めさせていただきます!』

 

・【テンマーズ】メンバー&ポジション・

FW:フェイ・ルーン★

MF:アステリ

DF:スマイル

DF:ストロウ

GK:マッチョス

 

     フェイ★

    アステリ

 スマイル ストロウ

   マッチョス

 

『前回同様、チームの大半がフェイ選手のデュプリにより形成されているこのチーム! チーム名の由縁にもなったキャプテン松風選手が不在なのが気にかかる所ですが、前回と比べ必要メンバー数が減った事により、デュプリを操作するフェイ選手への負担も減った事でしょう。良いプレイを期待しています!』

 

・【ザ・デッド】メンバー&ポジション・

FW:マッドネス

MF:スキア★

DF:オスクロ

DF:ヴァイス

GK:アグリィ

 

   マッドネス

    スキア★

 オスクロ ヴァイス

    アグリィ

 

『前回のジャッジメント同様、モノクロ世界からやって来た不思議な存在イレギュラーで形成されたチーム。過去の試合データも存在しない謎の多いチームですが、一体どの様なプレイを披露してくれるのでしょうか? 注目です!』

 

 腕についたキャプテンマークを握りしめ、フェイはポジションにつく。

 アルの持っていたデジタル端末から放射された光は空中に映像を展開し、両者のエンブレムが描かれた得点ボードを映し出した。

 

『今回のサッカーバトルは先に二点獲得した方の勝利。最後まで気の抜けない戦いになりそうです!』

 

 アルの声を聞きながら、フェイは足元にセットされたボールを一瞥し前を向く。

 目の前では両目、鼻、口が無い、まるで仮面をつけているかの様な顔を持った選手と、その隣で笑顔を浮かべるスキアがいた。

 

「フェイ・ルーンさん……でしたっけ」

「! 何……?」

 

 ツカツカと自分の目の前にまでやって来たスキアに、そう訝しげな声を発する。

 そんな彼の様子をよそに、スキアは満面の笑顔のまま自らの左手をフェイの目の前に差し出した。

 突然の行動に、フェイは一瞬目を見開き驚いたが、すぐさま顔を強張らせ「どう言うつもりだ」とスキアを睨み付ける。

 

「おや。サッカープレイヤーと言うものは勝負の前に握手をするものだと伺っていたのですが……」

 

 フェイの言動にスキアは「何か間違っていますかね?」と小首を傾げた。

 確かに様々なスポーツ事には、試合前に「良き試合を」の意味を込めた握手をする習わしがある。

 その事はサッカープレイヤーであるフェイも勿論知っているし、何度も行ってきたから今更不思議に思う事は無い。

 これが『普通の試合なら』の話だが。

 

「君達にとって、ボク達は敵…………そんな相手に握手なんて……」

「あぁ……警戒していらっしゃるのですか」

 

 フェイの言葉にスキアは「なるほど」と納得した様に呟くと、閉じていた瞳を開きその大きな単眼にフェイの顔を映し出した。

 間近で見る獣の様な大きさの瞳に、フェイは思わず息を飲んだ。

 

「安心してください。今回のゲームはサッカーバトル……アナタ方に直接危害を加える様な事は致しません。この握手も『正々堂々戦いましょう』と言う気持ちの表れにございます」

 

 そう目を細め笑うスキアにフェイはしばらく差し出された左手を見詰めた後、ゆっくりと自らの左手をスキアに差し出した。

 

「…………ボク達は絶対に負けないから」

「はい。……楽しいゲームに致しましょう」

 

 睨みを効かせながらそう吐き捨てるフェイにスキアは目を細めそう唱えた。

 握手を終えポジションに戻るスキアを見詰めるフェイに、後ろにいたアステリが囁く。

 

「フェイ。アイツの言葉……信じない方が良いよ」

 

 「どうせ嘘だ」と続けるアステリにフェイも一つ頷いた。

 『左手での握手は敵意や挑発の現れ』……一般に知られている握手の常識。

 「楽しい試合にしよう」……そう唱えた時のスキアの表情を見る限り、彼はそれらの常識を知っていてわざと左手での握手を求めて来たのだろう。

 その行動は彼の口から発せられる様々な言葉とは反対に、フェイ達の事を明らかに嘲弄しているのが嫌でも分かった。

 ギュッと拳を握り絞め、力を籠める。

 

「負けてたまるか……」

 

 そう一人呟き、目の前の景色へと視線を投げた。

 

『両チーム、ポジションに着きました! テンマーズのキックオフで、試合開始ですっ!!』

 

 アルの声と共に、試合開始を告げるホイッスルの音が響き渡る。

 それと同時にフェイは背後のアステリにパスを出し、ザ・デッド陣内へと走り込んでいく。

 

『試合開始早々、テンマーズFWのフェイ選手がザ・デッド陣内へと斬り込んでいく!! それに続いて、ボールを持ったアステリ選手も前線へと上がって行きます!!』

 

「フェイっ!」

 

 そう叫び、アステリはゴール前まで上がっていたフェイにパスを出す。

 DFを振りきり、ゴールキーパーと一対一の状況。

 フェイは真っすぐにキーパーの姿を見据えると、キッと強く相手を睨み付けた。

 

「力の出し惜しみはしない。一気に行くよっ!」

 

 そう言い放つと、フェイはボールと共に飛び上がり全身に力を籠め始める。

 直後、フェイの背中から紫色のオーラが発動し、大きな兎の耳を持つ化身が姿を現した。

 

「光速闘士ロビンっ!!」

 

『フェイ選手! ゴール前にて化身を発動! そしてそのままシュート体勢だぁー!!』

 

「満月ラッシュ!!」

 

 青い満月の夜空をバックに、ロビンとフェイが互いに向き合う様な形で、ロビンは拳打を、フェイはキックを一つのボールに向かって何度も繰り出す。

 両者の激しいの連撃を受けたボールは一つの大きな満月と化し、強力な隕石の様なシュートとなってゴールへ向い突き進んでいく。

 

『出たぁー! フェイ選手の化身シュート技、《満月ラッシュ》! 巨大な満月と化したシュートがザ・デッドゴールを襲います!! このまま、テンマーズ先制点なるか!?』

 

「おやおや、初っ端から飛ばしますねぇ…………」

 

 フェイの後ろで、スキアがそう愉快そうに呟く。

 その間にも、フェイの繰り出したシュートは青いオーラを纏いながら猛スピードで、ザ・デッドのゴールに向かって突き進んでいく。

 

 不気味な敵、不気味な世界……

 その中で行われるサッカーバトル……

 言い表し様の無い不安感を抱える中、ここで取る一点はチームにとって大きな支えとなる。

 大半がデュプリで形成されたこのチームで、メンバーは自分とアステリだけだけど……

だからこそ、この一点は大切だ。

 

 強く蹴り落としたシュートを見詰め、そう言葉を巡らす。

 青い光を放つシュートがゴールキーパー、アグリィの正面目掛けて飛んでいく。

 

「……………………ぇ……ッ」

 

 瞬間、フェイは自分の目を疑った。

 ゴール目掛け突き進んでいったシュートは、アグリィの横脇をかすめると

 あっけなくゴールに突き刺さってしまった。

 

『ご……ゴォォォルッ!! アグリィ選手! フェイ選手の繰り出した強力なシュートに身動きがとれなかったのか!? ザ・デッド、テンマーズに先制点を奪われてしまいましたぁー!!』

 

 得点を知らすホイッスルの音とアルの声が響きわたる。

 空中に映し出された得点ボードに刻まれた、1-0の文字を見詰めるフェイの表情がだんだん険しくなっていく。

 

「フェイ」

「! アステリ……」

 

 名前を呼ばれ振り返ると、同じく険しい表情をしたアステリが立っていた。

 アステリは空中に映し出された得点ボードを一瞥すると不快感からか眉間に薄くシワを寄せ、ザ・デッドのゴールへと視線を移し口を開いた。

 

「さっきのシュート…………わざと、止めなかったんだよね…………あのキーパー……」

「あぁ……恐らく……」

 

 フェイの繰り出したシュートは文字通り誰にも阻まれる事無くゴールへと突き刺さった。

 あのキーパーはシュートを前に"わざと"ゴールを許したのだ。

 ふとポジションに戻っていくスキアと目が合う。

 スキアは二人の様子に気付くと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、自らのポジションへと戻っていった。

 

「……今の表情…………最初からこちらに先制点を取らせるのは決まっていたみたいだね……」

「…………ここからが本番って事か…………」

「どんな手で来るか分からない。気を引き締めて行こう……」

「あぁ……そうだね」

 

 


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