色を無くしたこの世界で   作:黒名城ユウ@クロナキ

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第23話 サッカーバトル

 鉄塔から下り、少し歩いた先にスキアはいた。

 河川敷程の広さは持たないが、5vs5と言う比較的小人数で出来るサッカーバトルをするには十分な広さを持ったこの場には

 スキアが設置したのだろうか、二つの白いサッカーゴールが堂々たる存在感を放っている。

 

「あぁ……来ましたね」

 

 現れた三人の姿を見て、スキアはそう微笑む。

 よく見てみると、彼のチームメンバーだろうか……スキアの後ろに四人の人影が見えた。

 皆、人の形を成してはいるものの、やはり何処かおかしな姿をしており、フェイは息を飲む。

 

「……それが、キミのチームのメンバーかい……?」

 

 後ろの四人を見据えたまま、アステリが尋ねる。

 アステリの問いに「あぁ」と背後の四人を一瞥すると、得意の営業スマイルでスキアは答えてみせた。

 

「そうですよ。彼等が私と共に戦ってくれる【ザ・デッド】のメンバーです」

 

 「よろしくお願いしますね」と笑うスキアとは反対に、【ザ・デッド】と呼ばれた他の四人はフェイ達と口をきく所か、目すら合わせようとしない。

 

「所で…………アナタ方のメンバーさん達は何処でしょうか? もしかして、そちらのぬいぐるみさんが……?」

「私はぬいぐるみではなぁーいっ!」

「おや、それは失礼しました」

 

 こんな状況でも『ぬいぐるみ』と言うワードに過剰反応するワンダバを少し困った様に見詰めながら、フェイは指を鳴らした。

 パチンッと言う軽快な音の後に現れたのは、大きく天の字が書かれたユニフォームを着た三人のデュプリ達。

 そして、デュプリ達が出現するのと同時に、フェイとアステリの服装も赤いユニフォームへと変化した。

 

「おや、それが噂に聞くデュプリですか…………良いですねぇ、人間にしては中々個性的な力を持っている様で」

 

 そう笑うスキアの言葉は昨夜のカオスとは違って、おちょくっているのか本心なのかすぐに読み取る事が出来ない。

 スキアの言い方にフェイは少しムッとした表情を浮かべたが、だからと言ってわざわざ突っかかる様な事を言う必要もない。

 言いたい奴には言わせておけば良い……そう、自分で自分の心を抑え、スキアの方へと向き直った。

 

「それでは……準備も出来た様ですので、そろそろ始めましょうか」

「あぁ……」

 

「ちょっと待ってくださぁぁぁいっ!!」

「!?」

 

 突然、辺りに響いた声にその場にいた全員が驚きの表情を浮かべる。

 それは、どこかで聞いた事のある様な、場違いな程明るく、騒がしい声。

 そしてフェイ達【テンマーズ】とスキア達【ザ・デッド】の丁度境目に"彼女"は降ってきた。

 

「あ! 君は……」

「どうも! 昨日ぶりでございますね!」

 

 目の前に降り立ったのは、カオスとの試合の時に『実況者』として突然現れた少女だった。

 

「確か……アルちゃん……だっけ? 昨日も空から降ってきたような……」

 

 そう、眉を下げ苦笑するフェイの言葉に「覚えていてくださったんですか!」と無邪気に笑う彼女の表情は

 目の前のスキア達や世界とは正反対な程に明るく、眩しいモノだった。

 

「おやおや……これはまた、ずいぶん個性的な方ですね。お友達ですか?」

 

 尋ねられた言葉に「いえ」と返すと、アルはスキアの方に身体ごと向き直り話し始めた。

 

「私は実況者『アル』と申します! サッカーバトルと聞いて、急いで駆け付けて来たのです! 今回のサッカーバトルの実況、ぜひ私にお任せください!」

「実況ですか……別に構いませんが……」

 

 突然の提案に、さすがのスキアも困惑の声を漏らすも、表情だけは崩す事無く笑顔を浮かべる。

 昨夜のカオスの様に感情をすぐ表に出さないだけ、スキアの方が大人なのだろうか

 ……逆にそれが、フェイ達の警戒心を強める要因ともなっているのだが……

 

「では! これより、5対5のサッカーバトルを開始いたします! ルールは二点先取。サッカーバトルなので、オフサイド等の面倒なごたごたは無しでよろしいですね?」

 

 アルの説明に双方が承諾の声を発する。

 両チームの承諾も受け、早速バトルを開始しようとした矢先、持っていたデジタル端末を見たアルが「あの」とフェイの方へと話しかけ始めた。

 

「チーム名は【テンマーズ】と言う事ですが……キャプテンである松風選手がいませんよ?」

 

 「これではバトルを開始出来ません」と言うアルの言葉を受け、フェイが「あ、そうか」と目を瞬かせた。

 

「天馬がいないと自然的にキャプテン不在になっちゃうのか……」

「じゃあ、フェイがキャプテンをやれば良いんじゃない?」

「え、ボクが?」

 

 アステリの提案にフェイが間抜けな声を上げる。

 続いて傍にいたワンダバも「そうだな」と同意の声を上げた。

 

「デュプリの操作で大変だとは思うが、入ったばかりのアステリ君に任せる訳にもいかないしな……」

「ごめんねフェイ……キミに全てを背負わせてしまう形になってしまって……」

 

 アステリの申し訳なさそうな言葉に「大丈夫だよ」と笑うと、「分かった」とワンダバから黄色いキャプテンマークを受け取り左腕に付けた。

 

(天馬のチームだからテンマーズだったのに、これじゃあ"フェイーズ"だなぁ)

 

 そう一人、苦笑いを浮かべると傍にいたアルに準備が完了した事を告げた。




【スキア】
天馬達の戦いにより動けなくなったカオスの代わりに『裏切り者』であるアステリを連れ戻しに来たモノクロ世界の住人。【ザ・デッド】のキャプテン。
一人称は『私(わたくし)』等、比較的丁寧な口調で話すモノの、どこか毒吐いている様な印象を受ける。
『影』を操る力を持ち、その力で天馬達の住む稲妻町の『模造品』を造り出し、フェイ達を驚かせた。

【容姿】
髪色:真っ黒
髪型:頭頂部がケモ耳の様にハネ上がったショートボブ
瞳色:黒。左目だけで右目は無い

『影』そのモノの様な存在。
他のイレギュラー同様『色』が弱点な他に、日の光も苦手らしく、普段は黒い日傘を差している。

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