色を無くしたこの世界で   作:黒名城ユウ@クロナキ

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第15話 VSジャッジメント――狂気のソウル

 後半戦開始間近。陣営を交代した両者はポジションに着く。

 カオス達の足元にセットされたボールを一瞥すると、天馬は上へ視線を移す。

 そこには、最初会った時よりも顔色が悪くなっているカオスやジャッジメントのメンバーが立っていた。

 

――本当に、色のせいで調子が悪いみたいだな……

 

 自分達にとってごく当たり前の様にソコにある『色』と言う存在。

 そのせいで調子が悪くなったり消滅してしまうなんて、話を聞いている時には信じられなかった。

 が、カオス達の様子を見た今なら、それもなんとなく理解出来る。

 

 自分を見つめる視線に気付いたのか、カオスは不快そうに眉をひそめ天馬を睨み付けた。

 「見世物じゃ無い」。青白い顔をしたカオスの口がそう動いた気がして、天馬は目線をそらす。

 

『両者ポジションに着きました! ジャッジメントのキックオフで試合再開ですっ!』

 

 アルの声と共に、試合開始を告げる笛の音がスタジアム中に鳴り響く。

 その音を合図に、駆けだしたボイドは背後のリンネへとパスを繰り出す。

 そのボールを颯爽と奪い去ったのはフェイだった。

 同点に追いつき、相手は自分達の力を出し切れない状況。

 追い風に乗ったテンマーズは前半とは裏腹に、ジャッジメントの選手を圧倒していた。

 

『テンマーズ! 前半戦とは打って変わって巧みな動きでジャッジメントを翻弄していますっ!!』

「通しませんっ」

「!」

 

 ジャッジメント陣内。ゴールへと突き進んでいくフェイの前に、前髪で片目を隠した男が立ちふさがる。

 男は全身を黒い光で包み込むと、こげ茶色の針を持った《ハリネズミ》に変身した。

 ハリネズミは身体を丸めると、まるでタイヤの様に回転し、フェイに向かって突き進む。

 

「うわっ!?」

「フェイ!」

『ソウル《ハリネズミ》を発動したリーズン選手! 強烈なアタックでフェイ選手からボールを奪取! ジャッジメント、反撃かぁ!?』

「リーダーッ!」

「! マズイ……ッ!」

 

 フェイを吹き飛ばし、ソウルを解除したリーズンは中盤を走るカオスへとロングパスを繰り出す。

 パスを受け取ったカオスは猛スピードでデュプリ達を追い抜いていく。

 

「もう一点、頂くっ!」

 

 そう叫ぶと、カオスの身体が赤黒く光り出す。

 弾けた光の中からは今までのソウルとは違う、異様な雰囲気を醸し出す一匹の《オオカミ》が出現した。

 

『カオス選手! ここでソウルを発動!! あれはオオカミと言うより、神話に登場する《フェンリル》の様な出で立ちですっ!!』

 

 顔と身体に鎖を絡ませた、巨大な赤いオオカミがテンマーズの選手達を次々になぎ倒していく。

 なぎ倒されたデュプリ達はあまりの衝撃ですぐに立ち上がる事が出来ない。

 

『カオス選手! 単独でテンマーズ陣内へと突撃だぁ!! これは、前半戦の最初の頃と同じ!! テンマーズ、またもや点を決められてしまうのかぁ!?』

「俺が止めるっ!!」

 

 興奮した様子のアルの声に混じって、そう叫ぶ天馬の声が響いた。

 カオスの猛進を見て危険を察した彼は、ゴール前まで下がってきていたのだ。

 天馬はカオスの目の前に現れると、身体を水色の光に包み込み、真っ白な翼を携えた《ペガサス》へと姿を変えた。

 

『松風選手、ここでソウル《ペガサス》を発動!! テンマーズゴール目掛けて猛然と突き進むカオス選手に立ち向かっていきます!!』

「……あれが、天馬のソウル……」

 

 禍々しい黒いオーラを発するフェンリルとは対照的に、神々しい白い光を発するペガサスがフェンリル目掛け、突き進んでいく。

 互いはぶつかり合うと、激しい爆風を生み出し、周りの選手達を圧倒する。

 

《っっっく…っ!!》

《貴様の様なただの人間に……この僕が負けるモノかっっ!!》

 

 そう叫ぶと同時に、フェンリルも大きな遠吠えを上げ、天馬のソウルを圧倒していく。

 

――力は前半より劣っている。そのハズなのに……っ!

 

 ボールを挟んで伝わってくるフェンリルの凄まじい力に、ペガサスはズリズリと後ろに下がって行ってしまう。

 

『激しい神獣同士の対決が繰り広げられております!! フェンリルの方が力が上なのか!? ペガサス、押され気味です!!』

 

 ソウルVSソウルの激しい戦いを前に、フェイ達は、二体のソウルから発せられる爆風に飛ばされない様に必死に耐える事しか出来ない。

 

「っっ……!!」

「天馬ぁーっ!!」

 

 フェイが大きく声を上げる。

 その瞳は真剣で、ペガサスに変身した天馬の瞳を真っすぐに見据えていた。

 

《! フェイ……! ぐっ……ぅぅぅっ!!》

 

――そうだ……ここで負けたら、また点を決められてしまう……

――フェイとアステリ達が頑張って繋げてくれたボールが……頑張って取った一点が……全て無駄になってしまうんだ

――皆の頑張りを、希望を踏みにじってしまう……っ

 

 激しい爆風と音が響く中、フェイの声が届いたのか、天馬のソウルが一歩ずつ、前へと進み出した。

 

「! 天馬っ!」

《!? 何……っ!?》

 

 力では何倍も上だったハズのフェンリルを相手に、今度はペガサスがズリズリと押し進んで行く。

 カオスは一瞬驚いた後、すぐさま先ほどの様に圧倒しようと力を入れる。

 が。

 

《!? なぜだ……僕が押し負けてるなんてっ……!?》

 

 先ほどは圧倒出来たハズ。

 いくら前半戦と比べ力が劣っていると言っても、天馬達を圧倒出来ないまでに劣った訳では無い。

 

――そのハズなのに……ッ

 

《これ以上、点は決めさせない……っ! 絶対に止めるんだぁっ!!》

《馬鹿な……っ!?》

《はぁぁぁぁぁっ!!》

 

 ペガサスは最後に大きくいななくと、体当たりでフェンリルを跳ね飛ばした。

 跳ね飛ばされたフェンリルはカオスの姿へと戻り、地面を転がっていく。

 直後、ペガサスは大きく翼を広げ、空を駆けるように飛び出していった。

 

『激しいソウル同士の戦いの末、勝ったのは松風選手だぁ!!』

「くそっ……!!」

「さすが天馬っ!!」

 

 元の姿へ戻ったカオスはそう、悔しそうに眉をひそめた。

 そんな彼とは裏腹に、フェイは嬉しそうな声を上げる。

 

『松風選手! 美しくジャッジメントの選手達の頭上をを駆け抜けて行く! そしてそのまま、前線へとボールをつなげていきます!』

「アステリっ!!」

 

 ジャッジメント陣内、ゴール前。

 ソウルを解除した天馬は、前線を走るアステリへとパスを繋げる。

 アステリはパスを受け取ると、真っすぐにゴールキーパーのアビスを見据える。

 

『松風選手からパスを受け取ったアステリ選手! ゴールキーパーと一対一だぁー!!』

「愚かな……まだ、我等に逆らうつもりか! この裏切り者が!!」

「ボクは裏切ってなんかいないっ! ボクは、ボクが正しいと思う道を走るだけだっ!!」

 

 憎しみの混じった瞳で睨み付けるアビスに、そう強い言葉で言い放つと、アステリはボールと共に天高く飛び跳ねる。

 

――ボクを仲間だと言ってくれた天馬やフェイの為。

――彼等が必死に繋げてくれた、このボールだけは……

 

「絶対に、決めてみせるっ!!」

『アステリ選手! これはシュート体勢だ!!』

 

 蹴り上げたボールは天高くで、星屑の混じったオーラを吸収し、一つの大きな星の様な輝きを発する。

 

「スターダスト……! いけぇぇっ!!」

 

 銀色の輝きを発していたボールはアステリに蹴り落とされると、数百の粒子の光線へと姿を変え、ゴール目掛け突き進んでいく。

 

「あれがアステリの必殺技!」

「止めるっ! ゴッドハンドXッ!!」

 

 アビスは前半同様、赤いイナズマを纏った巨大な手を出現させ、アステリ渾身のシュートを抑え込む。

 が。

 

「――――!! ぐぅっっ……っ!!」

 

 直後、アビスの顔が苦痛に歪む。

 すると、今までアステリのシュートを抑えていた赤い手がコナゴナに砕け、消え去ってしまう。

 自らを抑える壁が無くなったシュートは、そのままの勢いでアビスの脇をすり抜け、ゴールネットへ勢いよく突き刺さった。

 

『ゴォォォォルッ!! アステリ選手の必殺技、《スターダスト》が《ゴッドハンドX》を玉砕!! テンマーズ、ついに追い抜いたぁぁぁー!!』

 

 アルの声と共に、スコアボードに2-1の文字が刻まれる。

 その文字が、カオスの瞳に嫌でも映り込む。

 

「2-1……僕達が、負けている……っ!?」

 

 「あり得ない」……そう言いたげにカオスは俯くとギリッと歯を噛み締める。

 不意にズキッと痛み出す左胸を抑え、天馬達の方に視線を移す。

 

――僕はカオス。

――イレギュラーの中でも特殊な、選ばれた人材。

――なのに、あんな普通の人間に負けているなんて……

 

 ズキズキと胸の痛みが酷くなる。

 それと同時に、怒りも恨みも根強くなる。

 

「許さない……この僕が負けるなんて……。そんな結末、あってはならないっ……!!」

 

 その痛みが、思いが、自らの分身であるジャッジメントのメンバー全員にも伝染して行く。

 

 そんなカオス達の事なんてつゆ知らず。シュートを決めたアステリは「ふぅ……」と安堵の息を吐きだして、嬉しそうに顔をほころばせていた。

 と、後ろから自分の名前を呼ぶ天馬とフェイの声が聞こえ、振り返る。

 

「天馬、フェイっ!」

「やったな、アステリ! さっきのシュート、凄かったよっ!!」

「本当ビックリしたよ! あんな凄いシュートを隠し持ってたなんて!」

「えへへ……ここまでボールを繋げてくれた、皆のおかげだよ」

 

 興奮した様子の二人からそう言われ、アステリは照れ笑いを浮かべる。

 その顔はどこか誇らし気で、幸せそうな笑顔だった。

 

「さぁ! 相手も疲れてる! この調子でドンドン攻めて行こうっ!」

「あぁ!」

「うん!」

 

 天馬の言葉に、テンマーズの士気が再び高まるのを感じた。




《スターダスト》
アステリの必殺技。
天高く蹴り上げたボールに星屑のオーラを吸収させ、大きな一つの星の固まりへと変化。
変化したボールを蹴り落とし、数百の粒子の光線を放つシュート技。

《ソウル:フェンリル》
カオスのソウル。
顔と体に鎖を絡ませた、巨大な赤色の狼へと変身する。


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