タイトル、めちゃくちゃ無難な感じになりましたが、本当に感謝を色々な人が伝える回なのでいいかな、と。このセリフ、何回も出てきますし。
では、本編をどうぞ!
夏休みは明け、2学期が始まり約1週間が経過。
結局あのことがあってから、優美とは2人とも気軽にしたいときに連絡し合うという感じに自然となった。
もちろんある程度はお互い無言で気を使いつつ、お互いに支障が出ない感じだから、気がすむまでってわけにはいかなかったけど。
今日は文化祭。今は自分もちょい役で出演した演劇部の公演を終え、クラスの方の当番をやっている。
ちなみに今年うちのクラスはアイス屋さん。何やら去年それをやっていた3年生のクラスが大成功だったらしく、やってみようってことだ。
確かにまだまだ暑いしアイスは飛ぶように売れる。雨でも降って気温が寒かったらどうなったかって話ではあるがまあいいだろう。
そんな中少し客足が途切れた時間、隣で一緒に売っていたクラスメイトと雑談。
「ねねね、最近どうなの?」
「え?何が?」
「ほら、カノジョさんと!」
「あー・・・」
まああれだな。女の子が俺に話しかけてくることなんてその話題しかないか・・・。
「まあ、順調じゃないか?」
「何で疑問形なの!?」
言われて気がついた。なんでだろうなあ?
「あ、わかった!」
「え?」
「自信ないんでしょ!?その子がどう思ってるかどうがわからないから!」
あ、確かにそうかも。
「言われてみればそんな気がする」
「でしょー?私のカレもそんな感じでね、もっと自身で自信持っていいよ!って言ってるんだけどね!」
「シャレか?」
自身で自信とか(笑)
「反応するとこ違うでしょ!まあとにかくねー、きっとカノジョさんは自分が思ってるよりもずっと好きだってこと!」
「のろけとか聞かされてもなあ!」
「だーかーらー!」
と、その子が言いかけた瞬間、かなり小声ではあったけど、それでも絶対聞き漏らさない声が聞こえた。
「あの・・・」
声の方を振り向くと・・・。
「竹下さん!?」
いやまさか来るなんて思ってもいなかったし、驚く俺。
「・・・来ちゃった!」
何やら優美は1人で来たとのこと。そう言えばさっき公演の後に、この時間からこの時間が当番でとは伝えていたのを思い出す。でも1人でってことはもしかして・・・?
優美は俺にか、周りにか、どちらかわからないが、いずれにしても気を使って、耳元で小声で話してきた。
「あのさ、ちょっと早く来ちゃったけど、当番終わったら一緒に回りたいなあって」
「あ・・・」
ちょっと予想通りとは言え、やっぱり嬉しい。
「うん、嬉しい」
と短く答えると優美は頷き、「じゃここで待ってるね」と言いながら教室の飲食スペースへと移動した。
・・・まあ、当然と言えば当然なんだが、今の俺たちのやり取りを見てたクラスの人たちがスルーするなんてことはなく。
「あれって林崎のカノジョだよな?」
「何話してたんだろ?」
「聞こえなかったけど誘われたんじゃね?」
とかなんとか。アレ、小声だったのにバレてるじゃないか・・・。
で、ポンと肩を叩かれ、振り向くと。
「あと少しだし待たせるの悪いから行っていいよ!」
「楽しんで来な~!」
「いや、でも悪いよ」
一応否定はする。断れる雰囲気ではないけどね。
「大丈夫大丈夫!」
「俺らに任せな!」
「爆発しろ!」
と言うわけで、優しいクラスメイトに促され、少し早く優美と一緒になれた。最後はアレだったけどな!
とりあえず適当にぐるぐる回ろっか、ということで雑談しながら歩く。
「なんかさらっと最後終わっちゃったけどもう引退なんだよねっ!」
言われて気がつく。そう言えば簡単にだが、優美と亜由美は挨拶してたな。
「やっぱり寂しい?」
「今はあんまり実感わかないかなあ?それにみんなと全然会えなくなるわけじゃないしねっ!」
受験勉強が忙しいとは言え、優美や亜由美なら心配してちょこちょこ部活に見に行きそうだしな。
「どこか見てみる?」
そう言われたがこれと言ってって感じ。そもそも優美と一緒にいられるだけで楽しいし。
「あ、竹下さんのクラスは?行ってもいい?」
何をやってるかとかは特に聞いてなかったけど。
「あ、ウチのクラスか・・・」
何やら苦笑い。
「まあ、いいよ?」
なんだかよくわからんが行けることに。
少し歩き到着、中に入るとそこは・・・。
「いらっしゃい!女装男装カフェへようこそ!」
そこには女装をした、去年のクラスは一緒だった友人がいた。
なるほど、苦笑いの理由がわかる。
「って林崎!?うわお前に見られるとかないわ!」
「似合ってるぞー」
「感情全然こもってないぞ!あ、竹下さんもこんにちは~!あ、これありがとな」
「え?何がありがとう、なんだ?」
その質問には優美が答えてくれた。
「あ、この服私のだから。あはは・・・」
何ぃ!?
「お前許さん!」
だからなんだと言うわけではないが、優美の服を・・・いや、そもそもよく着れたなお前!確かにこいつは細めだけど。
「じゃあお前変わるか!?俺だって恥ずかしくないわけじゃない!」
うん、優美の服か。きっといい香りが・・・。
「林崎くん!今なんか変なこと考えてたでしょー?」
ジト目で怪しげな視線を送る優美。ジト目も可愛いぜ!って違う!
「いやいや!」
「ホントに?」
「お、おう!」
「怪しい・・・」
そんなやり取りをしていたら・・・。
「すいませ~ん!ここはカップルは入れませんよ~!」
「イチャイチャなら外でやってくれるかしら?」
声の方を見るとまあ予想通りだよねって人が。もちろん亜由美も麻由美も男装をしていた。
2人は当番ではあったが、時間も時間だったためお客さん少なく、2人とも一緒に雑談をした。
話している時によくよく考えたらこの4人でこうやって他愛のない話を出来るのも、もしかしたら今日が最後かも知れないと思った。
そう考えると大切にしなきゃいけないなあ、と。
× × ×
一般公開も終わり今は後夜祭。昼間のイベントの決勝戦や3年生によるダンスコンテストも終わり、最後のイベントに。
最後のイベントは去年はやらなかったことで、誰かに何かをステージに上がって伝えるもの。
ステージに上がる人は事前に決まっており、感謝を伝えたり、告白したり・・・などなど。
『次が最後です!どうぞ!』
ステージに上がった人には見覚えがあった。演劇部の後輩くん。知り合いだし何を言うか気になる。
「あら、彼は何を言うのかしら?」
隣で一緒見ていた亜由美も興味がありそうな感じ。
「自分はお世話になった人に感謝をしたいと思います!」
彼がそう言うと、さらに3人ステージへと上がった。その3人も、演劇部の後輩だった。
・・・え、もしかして・・・と思ったときには彼らは言葉を発していた。
「小松亜由美センパイ、竹下優美センパイ!!」
「今日、文化祭の公演で引退と言うことで、言い尽くしても言い尽くせなくはありますが、感謝の気持ちを伝えます!」
「半年も経っていない短い期間でしたが、色々ご指導いただきました本当にありがとうございました!」
「これからセンパイたちはいなくなりますが、1年生一同、センパイは築いたことを胸に精一杯頑張ろうと思います!」
まさかの出来事に驚く私。しかもこれには更に続きがあった。
『それでは今お名前を呼ばれた、竹下センパイと小松センパイはステージへお上がりくださいませ!』
私は隣にいる亜由美を顔を見合わせた。いきなり過ぎて何がなんだかわからない。亜由美も普段は見せない、驚いた顔になっていた。
「えっと・・・」
「と、とりあえず上がった方がいいのよね・・・?」
「う、うん」
なんかよくわからないけど、1年生たちにいきなり感謝の言葉を言われて、さらにステージに上がれという展開に戸惑いつつも私は亜由美と一緒に立ち上がり、ステージへと向かう。当然のことではあるが、生徒全員からの視線を感じる。
『お2人ともどうもありがとうございます!それでは、よろしくお願いします!』
司会の子がそういうと、一度ステージ裏に戻った1年生がなんと、花束を持って私たちへ前へと来たのだった。
「小松センパイ、竹下センパイ」
「私たちはあまり知りませんが、大変な時期を乗り越えて、演劇部という部活を存続して下さって、本当にありがとうございました」
「もしセンパイ方がそのようなことをして下さらなかったら、僕たちは演劇に出会うことはありませんでした」
「2年生がいない部ということで、これからをきっと心配して下さってると思いますが、そんなことは絶対ないように精一杯頑張ります!」
「3年間、お疲れ様でした!」
最後に4人でそう言い、私と亜由美は花束を渡された。最初は驚きばかりで感じなかったが、だんだんと彼らの感謝の言葉に実感し、次第に視界がぼやけていくのが分かった。
私と亜由美、亜由美も少し顔を赤くし、目には涙が浮かぶ。2人で顔を見合わせ後、1つ頷き、4人へと感謝の言葉を返した。
「ありがとう・・・ほんとに嬉しい・・・ありがとう・・・」
「私からもありがとう・・・!頼りない・・・センパイだったと・・・う、う、う・・・」
声は涙のせいもあって小さかったけど、4人にはしっかり届いたはず。
演劇部に何があったかとか知らない人もかなり多いと思うけど、会場からは優しい拍手が私たちに届けられ、友人やクラスメイトからは私たちに向け、色々な言葉をかけてくれた。
そしてしばらくして会場も静かになり、司会の子が締めようとしたときだった。
「・・・待ちなさい!」
『・・・!?』
「私も、私とこの子も、せっかくだしこの場を借りて感謝を伝えるべき人がいるわ。ね、優美?」
私も亜由美のその言葉だけで、誰に何を伝えるか瞬時に理解した。そして2人で笑顔で頷き、叫んだ。
「林崎圭くん、梅田麻由美さん!」
会場が再びざわつき、そのざわつきに中に2人の「え!」という声も聞こえた気がした。
「2人なしで演劇部存続はあり得なかったわ。改めて、感謝を伝えるわ」
そう言った亜由美は司会の子へと何やら目線を送る。「あの2人をその場で立たせて」という訳に私は感じた(笑)
『え、えっと・・・それじゃあ今名前を呼ばれたお2人はその場で立ってください!』
2人は戸惑いつつも顔を見合わせながら立ち上がってくれた。生徒会長と副会長ということもあって、生徒のざわめきはどんどん増していく。
私と亜由美だけでなく、1年生たちとも顔を見合わせ頷き、そして全員で彼らに伝えた。一番短い、一番素敵な言葉を。
「ありがとうございました」
会場からは再び拍手や言葉が飛び交う。その流れに乗るように司会の子も続ける。
『お2人からは何かありますでしょう、か?』
麻由美ちゃんと林崎くんは顔を見合わせ、林崎くんが「お先どうぞ」とジェスチャー。麻由美ちゃんが返事を返してくれた。
「え~っと、あ、みなさん知ってると思いますが、生徒会長の梅田です。みなさんは、さすが生徒会長!と思っているかも知れませんが、私が彼女らにしたことなんてたかが知れてます」
「本当に大変だった時期に、私は何も出来なかったことを今でも後悔してます。それでも2人だけになった演劇部にも、1年生が4人も入ったくれたことが私にとっての救いかなって思って」
「でもそんな私にもこんな感謝の言葉をかけてもらって本当に嬉しい!・・・って私らしくないよね!・・・うーん、以上!どういたしまして!」
言い終わった麻由美ちゃんはその場で少し目元をぬぐっていた。そして林崎くんに「どうぞ!」とジェスチャーし
、彼の番になった。
「・・・俺もいきなりで、はい、驚いております。せっかくなので言いたいこと言います」
「演劇部なんてそんな部活潰れたって、と思う人もたくさんいるかと思いますが、どんな小さなことだってそれを大切にする人がいる限り、勝手に潰しちゃダメなんだなって」
「もう半年くらいで3年生は卒業するけど、1、2年生のみなさんには演劇部みたいな悲劇の部活が絶対に出ないようにして欲しいと俺は思いました」
「・・・臭いことっぽくてすいません。あ、感謝には感謝で。俺からも、ありがとうございました」
こうして私の、私たちの最後の文化祭、そして部活動は終わった。
後夜祭の場面はテンプレというか、臭いセリフが多かったですが、まあ、こういうのもいいかなと思い(笑)
次回は飛んで、飛んで、年明け、初詣の回になります!