異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者ハンターと吸血鬼の王

 

 俺はまだホロサイトを覗き込んでいる。ホロサイトのカーソルの向こう側で笑っているのは、かつてこの帝都を壊滅させた伝説の吸血鬼だ。エミリアとフィオナもレリエルに向かってSaritch308を構えているけど、まだトリガーを引かない。装着されたホロサイトを覗き込んで、レリエルに照準を合わせているだけだった。

 

 レリエルがどのような攻撃をしてくるかはまだ分からないけど、恐らく先制攻撃を仕掛ける事が出来るのは俺たちの方だろう。魔術は発動させてもすぐに攻撃できるわけではないし、弓矢を持っている様子はない。身体能力は俺よりも遥かに上だと思うんだけど、遠距離攻撃の手段はそれほど持っていないのかもしれない。

 

 つまり、距離が離れている以上はこちらが有利だ。

 

 今すぐトリガーを引けば先制攻撃を仕掛ける事が出来る。でも、まだ誰もトリガーを引かず、ホロサイトの向こうのレリエルを睨みつけるだけだ。

 

 奴の隣にはアリアが立っているというのに、誰も彼女に銃口を向けない。皆が銃口を向けているのは、伝説の吸血鬼のレリエル・クロフォードだけだった。

 

「―――!」

 

 その時、レリエルの背後にある巨大な窓の向こうに見えていた帝都の夜景が、強烈な蒼白い光に飲み込まれた。俺たちが装備している紫外線を放つ特殊なライトと同じ光だ。その蒼白い光はレリエルとアリアを飲み込むと、そのまま窓の外で動きを止める。

 

 その蒼白い光を放っているのは、先ほど俺たちを塔の屋上に下ろしていった迷彩模様のスーパーハインドだった。機首のターレットと翼の部分に、大型のライトを搭載しているんだ。

 

 レリエルは猛烈な光に飲み込まれても全く動かなかった。ずっと銃口を向ける俺たちを見つめて笑っているだけだ。でも、奴の眷族のアリアは呻き声を上げ、背後からライトで照らしてくるスーパーハインドを睨みつける。

 

 すると、スーパーハインドの機種に搭載されているターレットの23mm機関砲が蒼白い光の中で猛烈なマズルフラッシュを煌めかせ、23mm弾の群れが窓もろともアリアの肉体を木端微塵に粉砕してしまった。床にガラスの破片と千切れ飛んだアリアの肉片が転がる。

 

「む・・・・・・。飛竜か・・・・・・?」

 

 いきなり隣に立っていたアリアが粉々にされても、レリエルは全く驚かなかった。彼女はギュンターたちと戦った吸血鬼で、心臓に銀の弾丸をぶち込まれても再生する事が出来る強力な吸血鬼だ。だから俺も、彼女が粉々になって死ぬわけがないと思っていた。

 

 やっぱり、スーパーハインドに搭載された強力なライトの光の中で、アリアは再生を始める。でも彼女を貫いたのは銀の23mm弾で、しかもスーパーハインドが照らしているライトは紫外線を放つ特殊なライトだ。そのせいで、彼女が再生するのは遅い。

 

 23mm弾で吹き飛ばされた上半身が、再び断面から生え始める。骨と内臓が形成され、すぐに筋肉と皮膚が骨と内臓を包み込んでいく。そして肉片と一緒に吹っ飛ばされた服も再生させると、アリアはゆっくり起き上がり、再びスーパーハインドを睨みつけた。

 

 あのスーパーハインドに乗っているのは、もちろん信也とミラだ。

 

「レリエル様。あの空を飛んでいる敵は私が相手をします」

 

「好きにしろ」

 

「はい」

 

 その時、蒼白いライトの中に建っていたアリアの背中から黒い翼のようなものが突き出たのが見えた。まるで蝙蝠のような巨大な翼だ。

 

 吸血鬼は翼を生やすこともできるのか?

 

 スーパーハインドを操る2人は、アリアが翼を出現させたのを見た瞬間、すぐにスーパーハインドを反転させて帝都の方へと飛び始めた。アリアは長い舌で口の周りを舐めると、背中から出現させた蝙蝠の翼を広げ、23mm弾で粉砕された窓からジャンプする。

 

 真っ白なマントを揺らしながら、彼女は飛び去っていくスーパーバインドを追い始めた。

 

 信也の作戦通りだ。レリエルはスーパーハインドを追わず、眷族に追撃を任せた。これで俺たちはレリエルと戦う事が出来るし、アリアをあのままカレンとギュンターが待ち伏せしている場所まで連れて行く事が出来る。

 

「―――撃ち方始めッ!!」

 

 アリアがスーパーハインドを追って行ったのを確認した俺は、レリエルに銃口を向けている仲間たちに向かって叫ぶと、すぐにSaritch308ARのトリガーを引いた。

 

 アサルトライフルに装着されているライトの蒼白い光と、マズルフラッシュの輝きが時計塔の最上階の部屋の中で暴れ回る。周囲で回る歯車たちの音を叩き潰した銃声は、銀の7.62mm弾を引き連れてレリエルへと襲い掛かった。

 

 蒼白いライトに照らされていたレリエルの肉体に、次々に銀の弾丸がめり込んでいく。でも、俺たちの目の前に立っている吸血鬼の王は胴体や手足に大きな風穴が開いているのにまだ笑ったままだった。

 

 7.62mm弾はマークスマンライフルやバトルライフルに使用される弾で、M16やG36Cが使用する5.56mm弾よりも強力な弾丸だ。そんな強烈な弾丸を3人にフルオート射撃で叩き込まれているというのに、この吸血鬼の王はまだ笑ったままなんだ。

 

「くそ・・・・・・!」

 

 トリガーを引いたままにしていたため、もうマガジンの中に入っていた30発の銀の7.62mm弾を撃ち尽くしてしまった。50発入りのマガジンを装着しているフィオナのSaritch308PDWはまだマズルフラッシュと弾丸を放ち続けているけど、もうマガジンの中の弾丸を撃ち尽くしてしまう筈だ。

 

『そ、そんな・・・・・・!』

 

「再装填(リロード)を!」

 

 フィオナもマガジンの中の弾丸を撃ち尽くしてしまう。俺はフィオナに早く再装填(リロード)するように叫ぶと、グリップの後ろにある空になったマガジンを取り外し、ポケットの中から新しいマガジンを取り出す。

 

 端末で装備したスキルの『所持可能弾薬UP』のおかげで、端末が用意してくれる弾薬は再装填(リロード)3回分から再装填(リロード)5回分に増えていた。

 

「なるほど、銀か。我らの弱点を知っているのだな・・・・・・」

 

 レリエルの体中に開いた風穴がゆっくりと塞がり始める。紫外線を放つ特殊なライトで照らされている上に弱点の銀の弾丸で風穴だらけにされたというのに、レリエルの体中に開いた風穴はもう再生していた。

 

 今の3人の射撃であいつに叩き込んだ銀の弾丸の数は113発だ。しかも、マークスマンライフルやバトルライフルに使用される強烈な7.62mm弾だった。

 

 その時、再生を終えたレリエルの肉体がいきなりバラバラになったかと思うと、無数の蝙蝠になって部屋の中を飛び回り始めた。俺はすぐに再装填(リロード)を終えたアサルトライフルで叩き落とそうと思ったんだが、照準を合わせようとていたライフルの銃口を下げ、仲間たちに「散開しろッ!」と叫びながら前に向かってジャンプしていた。

 

 エミリアとフィオナも、銃口を下げてすぐに立っていた場所から離れる。

 

 部屋の中を飛び回っていた蝙蝠たちは俺たちの頭上に集まり始めると、真っ黒な塊へと変貌を始める。その黒い塊は段々と人の形になり、唸り声を上げながら俺の方へと落下してくる!

 

「うおっ!?」

 

「ふん・・・・・・」

 

 黒い塊の中から姿を現したのは、漆黒のコートを身に纏った吸血鬼の王だった。長い爪の生えた指先を俺に向け、爪を俺の顔面に突き刺そうとしているようだ。

 

 俺は素早く銃身の右側のカバーに収納されている漆黒のナイフ形銃剣を展開させると、落下しながら手を伸ばしてくるレリエルに向かって姿勢を低くしながらナイフ形銃剣を突き出す。

 

 漆黒のナイフ形銃剣の刃は、レリエルが突き出して来た指の間にめり込んだ。そのまま手の肉と骨を引き裂いていく。

 

 切り裂かれて血飛沫を上げながら俺の頭の上を突き抜けて行ったレリエルの手からナイフ形銃剣を引き抜いた俺は、今度はがら空きになっている腹に向かってナイフ形銃剣を突き刺した。すぐに引き抜いてもう一度突き刺してやろうと思ったんだけど、レリエルの手を切り裂いたナイフ形銃剣は普通の銃剣だ。銀の弾丸で撃ち抜かれた傷よりも再生するのは早いだろう。

 

 ナイフ形銃剣を腹から引き抜き、俺はレリエルの傷口を蹴飛ばすと、すぐに後ろに下がって距離を取った。

 

 そして左手でアサルトライフルの銃身の下に搭載されている40mmグレネードランチャーのグリップを掴み、トリガーを引いた。

 

 ナイフ形銃剣で貫かれた傷を再生していたレリエルの腹に、今度は40mmグレネード弾が突き刺さる。塞がり始めていた傷口にめり込んだグレネード弾はそのまま爆発し、爆風でレリエルの肉片を吹き飛ばしながら聖水を彼の肉体にぶちまけた。

 

 すると、聖水をぶちまけられたレリエルの肉体が、まるで硫酸をかけられた肉のように溶け始めたのが見えた。傷口を包み込んだ皮膚が再び崩れ始め、聖水で溶けた肉片が床に落ちていく。

 

 グレネードランチャーから空になったグレネード弾の薬莢を取り出した俺は、再生している途中のレリエルに向かって銀の弾丸をぶっ放そうとする。

 

『―――力也さん、危ないッ!』

 

「何!?」

 

 その時、レリエルをSaritch308PDWで狙おうとしていたフィオナが叫んだ。なんと、ホロサイトの向こうで体を再生させている最中のレリエルが、皮膚が溶けたままの右手の手の平を俺に向けると、手の平で紫色のエネルギー弾のようなものを生成し、それを俺に向けてぶっ放してきたんだ。

 

 魔術なのか!?

 

 俺はすぐに左側に向かって回避した。紫色の電撃を纏いながら突っ込んできたエネルギー弾を躱すことは出来たんだけど、エネルギー弾が纏っていた電撃が俺の肩を貫いたようだ。エネルギー弾を回避した俺の右肩から鮮血が吹き上がる。

 

『詠唱しないで魔術を使った!?』

 

「くっ!」

 

『大丈夫です! ―――ヒール!』

 

 PDWを灯の杖に持ち替えたフィオナが、すぐに魔術のヒールを使って俺の右肩の傷口を塞いでくれた。出血が一瞬で止まり、紫色の電撃で貫かれた穴も塞がっている。

 

「助かった!」

 

「力也、接近戦だ!」

 

「おうッ!!」

 

 アサルトライフルを腰の後ろに下げたエミリアが、腰の鞘からバスタードソードを引き抜く。俺もアサルトライフルを腰の後ろに下げ、腰の鞘からアンチマテリアルソードを引き抜くと、ホルスターの中から銀の弾丸を装填してあるプファイファー・ツェリスカを取り出した。

 

「フィオナ、魔術で援護してくれ!」

 

『分かりました!』

 

 傷を負っても、すぐにフィオナに傷を塞いでもらう事が出来る。だから信也は強敵と戦う事になる俺たちとフィオナを一緒にしてくれたんだ。

 

 レリエルの傷はもう塞がっていた。溶けていた肉や皮膚も元通りになっている。

 

 これが伝説の吸血鬼か。アリアよりも強力な再生能力を持っている上に、魔術を全く詠唱しないで使う事が出来るようだ。

 

 やっぱり強敵だ。転生者よりも強いぞ!

 

「行くぞ!」

 

「おう!」

 

 俺はアンチマテリアルソードの柄を握ると、エミリアと一緒にレリエルに向かって走り出した。

 

 

 

 

 


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