異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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液体金属ブレード

 

「失礼するよ、フィオナちゃん」

 

『はーい、どうぞ』

 

 僕は2階にある彼女の研究室のドアを開くと、静かに部屋の中に足を踏み入れた。元々ここは空き部屋だったらしいんだけど、掃除してから依頼でもらった報酬で実験用の器具を買いそろえて、兄さんとエミリアさんが彼女専用の研究室に改装してしまったらしい。

 

 部屋の中に置いてある木箱や樽の中には、相変わらず見たことのない薬草や薬品がぎっしりと入っている。フィオナちゃんはこの少し狭い部屋の中で、魔術の分厚い本や実験器具に囲まれながら、毎日エリクサーの制作や魔術の研究をしているんだ。

 

 僕たちの端末で生産できるのは武器や兵器だから、防具や甲冑は生産できない。でも、前みたいにまたアップデートがあれば、もしかしたら防具とかも作れるようになるんじゃないかな。

 

「エリクサーの素材に使うのってこの薬草でしょ?」

 

『あ、はい。それです』

 

 僕が彼女の部屋を訪れたのは、さっき彼女に頼まれて買ってきた薬草を部屋に置いておくためだった。

 

 フィオナちゃんが作ってくれているエリクサーは、今のところ3種類ある。傷口を塞ぐ事が出来る『ヒーリング・エリクサー』と、毒や呪いなどを治す事が出来る『ホーリー・エリクサー』と、出血の量が多い場合に血液の代用にする事が出来る『ブラッド・エリクサー』だ。

 

 ヒーリング・エリクサーなら傷を塞ぐことは出来るけど、傷口から出血した血液の量まで元通りにすることは出来ない。だからフィオナちゃんは、売店でも売られていないブラッド・エリクサーというオリジナルのエリクサーを研究して完成させたんだ。

 

 これで失血死の可能性もかなり下がる。

 

 ちなみにブラッド・エリクサーの素材には『蝙蝠(こうもり)の肝』を使うらしい。

 

「ん?」

 

 彼女に頼まれた薬草を木箱に入れ、本棚の近くに置いてから立ち上がろうとしたその時、僕は魔術の分厚い本がずらりと並ぶ本棚の中に、1冊だけ他の本よりも明らかに薄い本を見つけた。その薄い本の背表紙には『レリエル』と紅い文字で書かれている。

 

 明らかにこれは魔術の本ではない。絵本だろうか?

 

『あ、その本ですか?』

 

「え? ああ、ちょっと気になって・・・・・・」

 

 フィオナちゃんはかけていたメガネを外して机の上に置くと、椅子から立ち上がってから僕の傍らへと飛んできた。彼女は幽霊だから、自由に浮かび上がったりする事が出来るらしい。

 

『このお話は、ずっと昔のお話なんです。私が生まれる前ですね』

 

 フィオナちゃんは僕の隣に着地すると、本棚の中に並んでいるその本を取り出した。表紙には黒いコートを身に纏い、右手に黒い槍を持ちながら無数の黒い蝙蝠を従えている吸血鬼のような男の姿が描かれている。よく見ると、その男の口の部分には牙が生えているようだ。

 

 この世界には写真は存在しないから、基本的に歴史の教科書に載っている偉人の顔は全て画家が描いた絵だ。

 

「この人は吸血鬼なの?」

 

『はい。レリエル・クロフォードっていう恐ろしい吸血鬼です』

 

「レリエル・クロフォード・・・・・・」

 

 転生する前の世界では聞いたことのない吸血鬼の名前だった。フィオナちゃんはその絵本を机の方まで持っていくと、僕を手招きしてから壁に立て掛けていた自分の杖のランタンを絵本に近づける。

 

『クロフォード家は何千年も昔から存在する吸血鬼の一族だったんです。その一族として生まれたレリエルは非常に強力な吸血鬼で、彼を倒すために送り込まれた騎士たちを次々に返り討ちにし、何万人もの人々の血を吸ったそうです』

 

「実在した吸血鬼なの?」

 

『はい。彼は実在した伝説の吸血鬼です。レリエルは300年間も世界を支配していたのですが、神々から与えられた2本の剣を持った大天使によって倒され、封印されてしまうのです』

 

「大天使?」

 

『はい。右手に剣を持ち、左手にダガーを持って戦ったんだそうですよ』

 

 彼女からそう聞いた時、僕は兄さんの戦い方を思い出していた。兄さんは接近戦では刀と小太刀を使って二刀流で戦っているんだ。

 

 偶然なんだろうか? 兄さんも自分の剣術は我流だって言ってたしね。それに、転生する前に兄さんがやっていたのは剣道ではなくラグビーだ。

 

『剣で心臓を貫かれたレリエルは、そのまま怪物たちが住み着いた屋敷の地下に封印されてしまうんです。でも、彼を倒した大天使の剣はレリエルの血で汚れてしまい、全てを切り裂いてしまう魔剣へと変わってしまいます。神々と大天使たちはその魔剣を破壊し、レリエルを倒した屋敷から離れた地に封印したのです』

 

「剣が魔剣に変わっちゃったのは、レリエルの呪いなのかな?」

 

『それは分かりません。でも、そうかもしれませんね。―――ちなみにダガーの方は、大天使を邪悪な吸血鬼の攻撃から守り抜いた聖剣として、聖地に保管されているそうですよ』

 

「へえ。そんな伝説があるんだね。・・・・・・ところで、そのレリエルが封印されている屋敷っていうのはどこにあるの?」

 

『それは分かりません。彼が封印された可能性のある場所は世界中に存在しますからね』

 

「なるほどね。―――じゃあ、僕はそろそろ授業にいくよ」

 

『頑張ってくださいね!』

 

「うん。ありがとう」

 

 僕は応援してくれた彼女に礼を言うと、レリエルの本を本棚に戻し、彼女の研究室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「終わったか?」

 

「ああ」

 

 店の中に並んでいる武器や防具をしばらく眺めていると、カウンターの奥の部屋からレベッカとエミリアが戻ってきた。どうやら大きさを測る作業は終わったようだ。

 

「では、防具は明日のお昼にお届けしますね!」

 

「いや、また取りに来るよ。―――それと、あのショーケースに並んでるチンクエディアが欲しいんだけど、いいかな?」

 

「え?」

 

 俺が指差したのは、さっきエミリアと2人で眺めていたショーケースの中に並んでいるチンクエディアだった。

 

 俺は並んでいる武器をいろいろと眺めていたんだけど、エミリアはレベッカが出てくるまでずっとあそこに並んでいるチンクエディアをじっと眺めていたんだ。彼女は騎士団出身だし、やはり銃よりも剣の方が慣れてるんだろう。多分、彼女はあのショーケースの中のチンクエディアが気に入ったのかもしれない。

 

 だから俺は、彼女にそのチンクエディアをプレゼントすることにしたんだ。

 

「はい、ありがとうございます! 銀貨30枚です!」

 

「おう」

 

 俺は制服のポケットの中から銀貨の入った袋を取り出すと、カウンターの上にそのまま袋を置いた。レベッカはショーウィンドーを開けて中からチンクエディアを取り出すと、刀身を鞘に納めてからカウンターの上に置き、袋の中の銀貨の枚数を確認し始める。

 

「―――ありがとうございます!」

 

「ああ。それじゃ、防具は明日取りに来るよ」

 

「はい、お待ちしております!」

 

 笑顔で俺たちを見送ってくれるレベッカに手を振ると、俺は購入したチンクエディアを早速腰に下げたエミリアの手を引き、店の外へと出た。

 

「り、力也・・・・・・」

 

「ん?」

 

「いいのか・・・・・・?」

 

「だってお前、さっきその剣だけ見てたろ?」

 

「そ、そうだが・・・・・・その、お金は―――」

 

「―――俺からのプレゼントだよ」

 

 俺は申し訳なさそうにする彼女を微笑みながら見つめながら言った。

 

「ぷ、プレゼント・・・・・・」

 

「おう」

 

「・・・・・・ふふふっ」

 

 彼女は俺の顔を見上げてから、腰に下げたチンクエディアを見下ろして嬉しそうに笑う。喜んでもらえたようだ。

 

「よし、屋敷に戻るか」

 

「ああ」

 

 屋敷に戻るにはここに来る途中に通った傭兵ギルドの事務所のある通りを引き返せばいいんだけど、もしかしたら俺たちのことを嫌っている連中に喧嘩を売られるかもしれない。

 

 だから、俺は別の道を通って少し遠回りすることにした。せっかく彼女にプレゼントを買ってあげて喜んでもらえたのに、その帰りに喧嘩を売られるのは嫌だからな。

 

 彼女の手を引いてさっき通ってきた通りの反対側へと歩き出すと、エミリアが俺の肩にそっと頭を寄せてくる。

 

「・・・・・・ダメか?」

 

「いや、最高だよ」

 

 俺は顔を赤くしながら俺を見上げる彼女に向かってニヤリと笑うと、そのまま別の道を通って屋敷へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どりゃあああああああああああああああッ!!」

 

 訓練の時のように雄叫びを上げながら、俺はSaritch308LMGのトリガーを引きっぱなしにし、7.62mm弾の群れを草原に出現したゴブリンたちに叩き付けていた。マズルフラッシュの向こう側で何度も血飛沫と肉片が舞い上がり、弾丸に命中したゴブリンたちの肉体が次々にバラバラになっていく。

 

 前まで俺が使っていた汎用機関銃のPKPのベルトは100発だったんだが、旦那が用意してくれたこのLMGは250発入りのヘリカルマガジンを搭載している。そのため、PKPよりも多くの弾丸を連射している事が出来るというわけだ。

 

「・・・・・・くそっ。弾切れだ。再装填(リロード)する!」

 

「さっさと済ませなさいよ!?」

 

 俺の近くでそう言いながら、7.62mm弾の銃声の残響を新たな銃声で押し潰していくのは、マークスマンライフルで生き残ったゴブリンたちを正確に狙撃していくカレンだ。

 

 旦那と姉御が買い物に行っている間に、商人から草原に出現したゴブリンの大軍を全滅させてくれと依頼された俺は、カレンと2人でネイリンゲンから少し離れた草原でゴブリンの群れと戦っていた。

 

 やっぱり、カレンの狙撃はかなり正確だった。さっきから銃声が草原に響き渡る度に必ずゴブリンが倒れている。彼女はまだこの戦いで1発も弾丸を外していない。

 

 レベル10の射撃訓練でも狙いを全然外さないからな。やっぱりカレンは、優秀な選抜射手(マークスマン)だ。

 

「ちょっと、再装填(リロード)はまだなの!?」

 

「いや、ちょっとこいつを使うわ。援護頼む」

 

「え?」

 

 俺がそう言いながら腰の後ろから取り出したのは、大剣の柄の部分だった。柄には何かのボタンがついているだけで、ハンドガードや装飾は全くついていない。それに、柄の上には大剣の刀身すら装着されていなかった。

 

 俺は2丁のLMGを背中に背負うと、本来ならば刀身が装着されている方向を空へと向け、柄についているボタンを押した。

 

 すると、いきなり柄から空に向かって銀色の液体が吹き上がった。柄から吹き上がったその銀色の液体は普通の水のように空中で飛び散るようなことはなく、互いにくっつき合いながら空へと延びていくと、段々と巨大な何かを形成していく。

 

 その銀色の液体たちが形成したのは――――俺の体よりもでかい大剣の刀身だった。

 

 この剣も旦那にあの端末で生産してもらった剣だ。『液体金属ブレード』という名前の剣で、柄の中に入っている液体金属で刀身を形成する事が出来るという特殊な大剣なんだ。

 

 俺は液体金属ブレードの刀身を4mくらいまで伸ばすと、巨大なバスタードソードのような刀身の形成が終わったのを確認してから、大剣を構えてゴブリン共の生き残りの群れの中へと向かって突っ込んでいった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 刀身を少し伸ばし過ぎたかもしれないな。筋力には自信があるんだが、この液体金属ブレードは重く感じる。

 

 でも、刀身は4mもあるんだぜ? これを叩き付ければ、一撃でゴブリン共は全滅だ!

 

「やりなさい、ギュンター!」

 

「任せろぉッ!!」

 

 俺に飛び掛かろうとしていたゴブリンが、カレンが放った7.62mm弾に頭を貫かれ、鮮血を草原の上にまき散らしながら吹っ飛んでいく。俺はゴブリンたちの死体を踏みつけながら大剣を構えると―――液体金属で形成された4mのバスタードソードを、左から右へと向かって振り払った。

 

 銀色の刀身を胴体に叩き込まれたゴブリンたちが、次々と草原の上で真っ二つになっていく。この一撃でゴブリンの群れが全滅すると予測したカレンの銃声が止まり、その代わりにゴブリンたちの断末魔と背骨がへし折られる気色悪い音が、死体だらけの草原に響き渡った。

 

「・・・・・・終わったぜ、カレン」

 

「さすがね」

 

 目の前に転がっている真っ二つになったゴブリン共の死体を見下ろしながら、俺はもう一度柄についているボタンを押した。液体金属で形成されていた刀身がボタンを押した瞬間にいきなり溶け出し、柄の中へと吸い込まれていく。

 

 俺は再び柄だけになった液体金属ブレードを腰の後ろに戻すと、マークスマンライフルを背負ってバイクのサイドカーへと向かって歩き出したカレンの後について行った。

 

 

 


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