地下にある射撃訓練場は、カレンが領主をやっている父親に頼んで王都の騎士団の訓練用の設備を用意してもらったおかげで更に広くなっている。俺がまだこのギルドに入る前に訪れた時の３倍は広くなっているだろう。
俺はコントロール用の蒼い魔法陣を何度かタッチしてから訓練のレベル７をタッチすると、壁に立て掛けておいた俺の銃を２丁拾い上げ、銃口を的の出現する方向へと向けた。
このギルドで正式採用されている銃は、ブルパップ式のSaritch308だ。旦那と姉御はアサルトライフルのSaritch308ARを使っているし、フィオナちゃんとミラと信也は小型のSaritch308PDWを使っている。カレンが使っているのは、マークスマンライフルのSaritch308DMRだ。
俺が両手に持っているでっかい銃は、LMG（ライトマシンガン）のSaritch308LMGだ。Saritch308の銃身を伸ばし、その長い銃身をブローニングM1919重機関銃のようなバレルジャケットで包み込んだような形状をしている。そのバレルジャケットの下にはロケットランチャーのRPG-7を装着していて、キャリングハンドルに装着されているフロントサイトとリアサイトの中間には折り畳まれたロケットランチャー用の照準器が用意されている。グリップの後ろのほうに装着されているでかいマガジンは、7.62mm弾が２５０発も入っているヘリカルマガジンだ。間違いなくこの銃は、仲間たちが使っているSaritch308の中では一番でかい銃だろう。
バレルジャケットを装着しているため銃剣は装備できないが、その代わりに旦那から強力な剣を貰っている。問題ないだろう。
銃口を的が出現する位置へと向けて待っていると、いきなり目の前にいくつも赤い魔法陣が現れ、左右や上下に素早く動き始めた。現れた魔法陣の数は７つだ。
「へへへっ。―――おりゃあああああああああああッ！！」
俺はいつものように雄叫びを上げながら、両手のLMG（ライトマシンガン）のトリガーを引きっぱなしにした。キャリングハンドルの上には照準を合わせるためのアイアンサイトが装着されているが、俺は基本的にこうやって２丁の銃を乱射するような戦い方をするためあまり覗くことはない。
この戦い方は、俺が旦那たちと初めて一緒に戦った時から全く変わっていない。俺の役割はこの火力で敵の群れを叩き潰し、戦っている仲間たちを援護することなんだ。他の戦い方や隠密行動の訓練も受けているが、一番気に入っている戦い方はこれだった。
俺は昔から体を鍛えていたし、４種類のエルフの中で最も肉体が強靭だと言われているハーフエルフだから、7.62mm弾を連射する武器でも片手で撃つ事が出来る。
２丁のLMGを撃ちまくる俺の目の前で、次々に赤い魔法陣たちが俺の7.62mm弾に撃ち抜かれ、穴だらけになって消滅していく。実戦レベルに設定された魔法陣の動きは非常に素早いが、俺のSaritch308LMGから次々に放たれる7.62mm弾の群れが魔法陣たちをマズルフラッシュの向こう側でかき消していくのを睨みつけながら、俺はトリガーを引き続けた。
最後の魔法陣に大量の風穴が開き、その赤い魔法陣が動きを止めてから消滅する。俺は銃口を下げてからLMG（ライトマシンガン）を壁に立て掛けると、コントロール用の蒼い魔法陣が投影されている場所まで空の薬莢が散らばっている床の上を歩いた。
「得点は８７点か」
カレンや旦那だったらレベル１０でも簡単に１００点を取ってしまうだろう。カレンはこのギルドで一番優秀な選抜射手（マークスマン）だし、旦那は長距離狙撃なら外さないらしい。
旦那は今まで何人も他の転生者を仕留めてるんだが、接近戦だけではなく2kmも離れた場所からの狙撃で、スピードのステータスで強化された状態の格上の転生者の頭を正確に撃ち抜いて一撃で倒したこともある。
俺は自分の得点を確認して魔法陣から手を離すと、愛用の武器を肩に担ぎながら１階に続く階段を上り始めた。武器を部屋に置いたら裏庭に行って筋トレでもしよう。旦那と姉御も誘ってみようかな。
もしかしたら、また姉御の胸が揺れるのを見れるかもしれないぜ！
「へへっ」
「あら、ギュンター」
「あ？ カレンか。なんだ？ 射撃訓練でもしてくるのか？」
階段を上がりきったところで、俺はマークスマンライフルを背負って廊下を歩いてきたカレンと会った。
「まあね」
「ところで、旦那と姉御を見なかったか？ 筋トレに誘おうと思ってるんだが」
「力也とエミリアなら、２人で街に行ったわよ？」
な、何だと！？ ２人で街に行った！？
買い物か？ 確かに旦那と姉御は仲がいいし、前に温泉から帰ってくる時に姉御が旦那に膝枕してあげてたってフィオナちゃんが言ってたな。
羨ましいなぁ・・・・・・。巨乳の美少女と一緒に買い物か。
「買い物か？」
「確か、エミリアの防具を買いに行くんですって」
「防具？ だって、俺たちはいつも防具つけてないだろ？ 何で買いに行くんだよ？」
他のギルドだと防具を身に着けて敵と戦うのが普通なんだが、このモリガンでは防具は一切装着しないで戦っている。
そういえば、確か姉御はラトーニウス王国の騎士団に所属してたんだよな。騎士団だと防具をつけて戦うから、このギルドで防具を付けずに戦うのはなかなか慣れなかったんだろう。
それにしても、防具を買いに行ったってことは実戦や訓練でも防具をつけて戦うってことだよな。ということは、もう剣を振る度に滅茶苦茶揺れてた姉御のおっぱいを見ることは出来なくなるってことか。
何ということだ！
「防具付けたら、もう姉御の胸が揺れるのが見れなくなるじゃねえか！」
「なっ、何言ってんのよ！？」
顔を更に赤くして、何故か両手で胸を隠しながら言うカレン。そういえばこいつも結構胸がでかいんだよな。
「こ、この変態ハーフエルフ！」
「ぶっ！？」
両腕で胸を隠していたカレンが、いきなり片手を振り上げて俺の左側の頬に本気で平手打ちを叩き込む。強烈な平手打ちを喰らった俺は、頬を赤くしながら廊下の壁に叩き付けられた。
カレンはまだ顔を赤くしながら、地下の射撃訓練場へと向かって階段を駆け下りていく。俺は彼女に殴られた頬を左手で押さえながら立ち上がると、ニヤリと笑ってから外に向かって歩き出した。
ネイリンゲンには色んな店やギルドの事務所が並んでいる。もちろん、この街で一番数が多いギルドは傭兵ギルドだ。この世界で数が多いギルドは傭兵ギルドとダンジョンの調査を行う冒険者ギルドの２つなんだけど、ネイリンゲンの周りはあまり魔物が出ない上にダンジョンが少ないため、冒険者ギルドの数も少ないんだ。
俺たちの屋敷に進む道から街へと入り、露店が並んでいる大通りを右に曲がると、目の前には傭兵ギルドの看板やポスターがずらりと並ぶ通りに出る。ここを通り過ぎたところに、確か鍛冶屋があった筈だ。
「す、すまないな、力也・・・・・・」
「気にすんなって」
俺は笑いながら彼女に言った。
事務所の中や事務所の前で、鍛冶屋に向かって歩いていく俺とエミリアを他の傭兵たちが見つめているのが見えた。中には俺たちの事を睨みつけている奴らもいる。
俺とエミリアがギルドを作ってから最初に受けた依頼を成功させたせいで、俺たちはかなり有名になった。普通ならば騎士団が大部隊を派遣しなければ勝てないほどの数の魔物をたった２人で殲滅してしまったんだ。そのせいで他の傭兵ギルドではなく俺たちに依頼をしてくる人が一気に増えた。
そのせいで他の傭兵ギルドに依頼をする人が減ってしまったんだ。以前に俺たちが助けたフランツさんのように俺たちのことを認めてくれる傭兵もいるけど、俺たちを目の敵にする奴もいるということだ。
だから俺はそんな奴らが突っかかって来ないように、依頼に行く時のように武器を装備した状態でその通りを歩いていた。腰の左側には93式対物刀と小太刀を下げ、腰の右側にはスコープとバイボットを装備したプファイファー・ツェリスカの収まったホルスターを下げている。
傭兵ギルドの連中は基本的に大人だ。だから、１７歳の少年の姿になっている俺が武器を持たずにエミリアを連れてここを歩いていれば、俺たちをなめている奴が絶対に突っかかるか喧嘩を売ってくる。武器を装備しているのは、そいつらが喧嘩を売ってこないようにするための威嚇だ。
何とか突っかかられずにその通りを抜けた俺とエミリアの目の前に鍛冶屋の看板が見えてきた。店の前には槍と銀色の甲冑が飾られているのが見える。
「ここだな」
俺たちの武器は端末で生産したものばかりだし、防具を身に付けないで戦っているから、鍛冶屋を訪れたことはまだ１回もない。
この鍛冶屋はネイリンゲンに駐留している騎士団に防具や武器を販売している鍛冶屋らしい。店の中からドアを開けて出てきたオルトバルカ王国の騎士団の制服に身を包んだ２人の騎士が、店から購入した籠手とロングソードを持って向こうへと歩いていくのが見えた。
「騎士団もここで買ってるのか・・・・・・」
「行こうぜ」
「あ、ああ」
俺はエミリアの手を引くと、入り口の近くに飾られている防具をちらりと見てからドアを開けた。
店の中にはいろんな武器や防具が飾られていた。壁には2m以上もある槍や大剣が飾られていて、ショーケースのガラスの向こうにはソードブレイカーやチンクエディアが並んでいる。これらも商品らしく、近くには値札が置かれていた。
「いらっしゃいませー！ レベッカの鍛冶屋へようこそっ！」
「わっ！？」
俺とエミリアがショーケースの中の短剣と防具を眺めていると、いきなりカウンターの向こうから元気のいい少女の声が聞こえてきた。俺とエミリアがびくりとしながらカウンターの方を見ると、いつの間にかカウンターの向こうに少女が立っていて、俺とエミリアの事を楽しそうに笑いながらじっと見つめていた。
カウンターの向こうにいたのは、エメラルドグリーンの髪と瞳の少女だった。ツインテールにしたエメラルドグリーンの髪から突き出ているのはエルフのような長い耳なんだけど、肌は非常に白くて耳もミラやギュンターよりも長く、少しだけ上の方を向いている。おそらく、彼女はハイエルフなんだろう。
魔術師ならばすぐにエルフとハイエルフを体内の魔力で見分ける事が出来るらしい。外見の違いは、エルフよりもハイエルフの方が肌が更に白くて耳が長く、耳の先が少し上を向いていることだ。
「あ、その黒い制服はモリガンの傭兵さんですね！？」
「ああ、そうだけど・・・・・・」
「何をお探しでしょうか！？」
カウンターの向こうから俺たちの方へとやっていたミラと同い年くらいのハイエルフの少女は、さっきまでショーケースの中を見ていた俺たちに微笑みながら訪ねてくる。
「君は？ ここの店員なの？」
「この鍛冶屋は私１人で経営してるんです。ですから私は店主ですよ」
「そうなんだ」
「はい！ 私、ハイエルフのレベッカって言います。よろしくお願いしますね！」
「ああ、よろしく」
この世界で最も数が多い種族は人間で、それ以外の種族は奴隷にされていることが多い。当然ながらハイエルフも奴隷にされていることもある。しかもハーフエルフとダークエルフは奴隷にされる上に、他の種族からも迫害されるらしい。
でも、彼女は奴隷ではないようだ。安心した俺は、自己紹介してくれたレベッカに「彼女の防具を買いに来たんだけど・・・・・・」と言った。
「女性用の防具ですね？ この国の騎士団にも女性はいらっしゃいますからね」
「ああ。できれば甲冑ではなく、籠手や胸当てを買いたいのだが・・・・・・」
「胸当てですか？」
レベッカは自分の小さい胸を見下ろしてからエミリアの胸を見つめると、ため息をついてから「籠手や他の防具は問題ないと思うのですが、胸当てはおそらくそこにあるものでは小さいかと・・・・・・」と言った。
「あ、新しく作るということか？」
「そうですね。大きさを計ってから生産することになります」
胸当てだけ特注ということか。確かにエミリアの胸は大きいし、ショーケースの中に並んでいる胸当てでは小さいだろう。
「エミリア、それでもいいか？」
「ああ、大丈夫だ」
「では、胸当てを頼む」
「かしこまりましたっ！ では、こちらへどうぞ！」
レベッカはにっこりと笑うと、黒い制服に身を包んでいるエミリアをカウンターの向こうにある部屋の中へと連れていく。
俺はエミリアが戻ってくるまで店の中の武器と防具を眺めていることにすると、ショーケースの前から離れ、壁に立て掛けられている大剣をじっと見つめていた。