異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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第6章
転生者ハンター


 

 城郭都市の中にある屋敷の中には、防具に身を包んだ男たちの死体が転がっていた。彼らが吹き上げた鮮血によって真っ赤に汚された彫刻や絵画が並ぶ廊下を、俺は刀と大型のリボルバーを持ちながら進んでいた。

 

 この屋敷を警備していた守備隊は、今頃防壁の外にミラが誘導してきた魔物の大軍と戦闘中だ。おそらく、この屋敷に残っている兵士はもういないだろう。つまり、残っているのはターゲットだけだ。

 

 目の前にあった豪華なドアを蹴破り、俺は左手の大型リボルバーの銃口を部屋の中へと向けた。この部屋の中にターゲットがいる筈だ。

 

「来やがったな」

 

「・・・・・・あいつらのリーダーはお前だな?」

 

 部屋の中の窓の近くに立っている人影に、俺は左手のプファイファー・ツェリスカの銃口を向けた。間違いなく、こいつがこの城郭都市を支配している男だろう。貴族が身に着けるような豪華な服に身を包んだ、眼鏡をかけた少年だった。

 

 少年は部屋に敷かれているカーペットの上を歩きながら、銃を向ける俺に「俺を倒しに来たのか?」と笑いながら言うと、ポケットの中から携帯電話くらいの大きさの端末を取り出し、画面を何度かタッチし始めた。すると彼の腰にいつの間にか黄金の装飾の付いた剣が鞘に収まった状態で出現する。

 

 間違いない。こいつがターゲットだ。

 

「漆黒のオーバーコートとフードの羽根・・・・・・。お前だよな? 転生者ハンターっていうのは」

 

「・・・・・・」

 

 俺は少年に返事はせず、黙ってプファイファー・ツェリスカの照準をその少年の頭に向けていた。このオーストリア製の大型リボルバーが放つ強烈な.600ニトロエクスプレス弾ならば、相手が格上の転生者だろうと簡単に倒す事が出来るだろう。俺はリボルバーに搭載したスコープのカーソルを少年の頭に向けながら、彼の顔を睨みつけていた。

 

 少年が剣を鞘から引き抜きながらニヤリと笑う。どうやら俺の事を格下の相手だと思っているらしい。今まで俺が倒してきた転生者たちと同じだ。今まで俺が殺してきた転生者たちは全員、俺の事を格下の相手だと思い込んで戦いを挑んできたんだ。

 

 こいつも同じようだ。

 

「調子に乗るなよ? お前みたいな雑魚ならすぐに倒せる。俺はレベル90だからなぁッ!」

 

 相手のレベルは90か。きっと俺の事を格下の転生者だと思って自分のレベルを教えたんだろう。もし本当に俺があいつよりもレベルが下だったのならば怯えていたのかもしれないけど、俺には全く意味がない。

 

 俺が今まで倒してきた転生者は、全員格上だった。最初に倒したブタ野郎も、俺よりもレベルが22も上の格上の転生者だ。

 

 少年が「死ねぇッ!」と叫びながら俺に向かって突っ込んでくる。レベル90の転生者の動きは、3つのステータスが非常に高いせいで当然ながらあのブタ野郎よりも素早い。

 

 でも、俺は目の前の転生者に敵わないとは全く思えなかった。むしろ、失望していた。またこんな小物が俺の相手だったことに落胆しながら、俺はプファイファー・ツェリスカの照準を少しだけ右にずらし、まるで銃床を取り外したライフルのようなサイズのリボルバーのトリガーを引いた。

 

 猛烈な銃声が部屋の中に響き渡り、部屋の白い壁を一瞬だけ凄まじいマズルフラッシュが照らした。

 

 照準を少しだけ右にずらしたせいで、カーソルの向こうには部屋の白い壁が見えていたんだけど、トリガーを引く直前に再びあの転生者の顔がカーソルの向こう側に出現していた。

 

 その転生者の顔面へ、俺がぶっ放した.600ニトロエクスプレス弾が向かっていく。カーソルの向こう側で転生者が驚いているのが見えたけど、もうレベル90の転生者が持つスピードのステータスでも、回避するのは不可能だろう。凄まじいスピードで頭を左右のどちらかに動かしたとしても、弾丸は確実に彼の頭を半分抉り取る。

 

 俺の目の前で、俺に向かって斬りかかろうとしていた転生者の頭が砕け散った。強烈な.600ニトロエクスプレス弾が、容赦なく彼の頭を叩き割ったんだ。もちろん、断末魔は聞こえなかった。

 

 肉片と鮮血をまき散らしながら、頭のなくなった転生者の死体がカーペットの上に崩れ落ちる。俺はため息をつきながらプファイファー・ツェリスカと93式対物刀をホルスターと鞘に戻すと、剣の柄を握ったまま倒れている転生者の死体のポケットから彼の端末を取り出し、床に叩き付けてから踏み潰す。転生者の持つ端末は、持ち主が死亡すると機能を停止してしまう。もしかしたら転生者たちの端末を仲間たちに使わせられるかもしれないと思っていたんだけど、俺が倒した転生者たちの端末は全て起動する事が出来なかった。

 

 だから、これを仲間たちの所に持って行っても意味がない。

 

「・・・・・・俺より格下じゃないか」

 

 俺は頭が吹っ飛ばされた死体を見下ろしながら呟いた。

 

 2ヶ月の間、俺はネイリンゲンで喫茶店を経営しているピエールに情報を提供してもらいつつ、あのブタ野郎のように人々を虐げている転生者を狩り始めるようになった。もちろん、俺たちは傭兵ギルドだ。だからネイリンゲンの人々や商人たちからの依頼も疎かにしていない。

 

 今まで倒した転生者は格上ばかりだった。だから彼らを倒していれば、次々にレベルが上がっていった。あのブタ野郎を倒した時に俺のレベルは28になっていたんだけど、今ではもう俺のレベルは98にまで上がっていた。

 

 これで、俺が倒した転生者は32人目だ。そのせいで、他の転生者たちや転生者の存在を知る奴らからは『転生者ハンター』と呼ばれているらしい。

 

 さっきこの転生者は自分のレベルを90と言っていたけど、俺の方がレベルが8も上だったようだな。

 

『力也、終わったか?』

 

 耳に装着した無線機から、エミリアの声が聞こえた。おそらく部屋の外にもさっきのプファイファー・ツェリスカの銃声が聞こえていたんだろう。

 

「ああ」

 

『よし、脱出しよう。ギュンターたちも離脱したぞ』

 

「了解」

 

 俺はカーペットの上を窓に向かって走り出すと、部屋の窓に向かって思い切りタックルして突き破り、そのまま外に向かって飛び降りた。

 

 さっき俺が転生者と戦っていたのは屋敷の3階だ。無数のガラスの破片と共に俺は屋敷の庭へと着地すると、屋敷の庭の中でバイクのサイドカーに乗って待っていたエミリアの元へと向かった。

 

 あのブタ野郎を倒した後に、転生者の持つ端末にアップデートが行われたんだ。今までは武器と能力しか生産できなかったんだけど、そのアップデートのおかげで武器と能力以外に『スキル』、『兵器』、『必殺技』の3つが生産できるようになったんだ。

 

 だから俺は兵器の中からこのバイクを3台生産し、カスタマイズでサイドカーと装甲と重機関銃を装備しておいたんだ。

 

「早かったな」

 

「相手が格下だったからな。―――よし、ミラと合流してから帰るか」

 

「ああ」

 

 今頃、この城郭都市の守備隊は魔物の群れと防壁の外で戦いを繰り広げているだろう。

 

 その魔物たちをここまで誘導してきたのは、ギュンターの妹のミラだ。彼女が森で魔物たちに攻撃を仕掛けて彼らを刺激し、ここまで連れてきたんだ。そのせいで転生者は手下の守備隊を魔物の迎撃に割かなければならなくなった。彼女のおかげで、俺は簡単に屋敷に侵入する事が出来たんだ。

 

 彼女はまだ傭兵見習いだけど、この作戦が成功したら傭兵になることになっている。

 

 32人目の転生者を倒した俺はバイクのエンジンをかけると、エミリアと共にミラと合流するために、屋敷の庭から城郭都市の防壁を目指して走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 城郭都市を脱出して1時間ほど草原を走っていると、目の前の森の方から別のバイクのエンジン音が聞こえてきた。バイクや車が存在しないこの世界での移動手段は、基本的に徒歩か馬に乗るしかない。飛竜に乗って移動するのは貴族や王族だけだ。

 

 だから、俺たち以外にバイクに乗るのは、同じギルドの仲間か他の転生者のどちらかだ。サイドカーに乗るエミリアが確認のために、森の方へと首に下げた双眼鏡を向けている。

 

「―――赤いマフラーが見える。ミラだな」

 

「無事だったんだな」

 

「ああ。だが、サイドカーに誰か乗っているぞ」

 

「なに?」

 

 サイドカーに誰か乗っているだと?

 

 彼女は単独行動を取っていた筈だ。ギュンターとカレンは2人で組んで館に侵入する俺たちを支援していたし、フィオナは2人をサポートしていた筈だ。もしかするとギュンターたちが合流していたんだろうか?

 

 サイドカーに乗るエミリアが、目の前からこっちに接近してくるミラと確認のために通信を始めた。

 

「ミラ、聞こえるか? こちらエミリア。応答せよ」

 

『はい、聞こえますよエミリアさん』

 

 無線機からは、確かにミラの声が聞こえる。彼女はあのブタ野郎に喉を潰され、二度と声を出せなくされてしまったんだけど、彼女が修得した音響魔術によって擬似的に喋れるようになっていた。

 

 音響魔術と言うのは、元々エルフたちが大昔に使っていた魔術らしい。魔力を放出して空気を振動させて音を出す魔術なんだけど、昔に廃れてしまったらしい。

 

「無事か?」

 

『はい、任務は成功です』

 

「良かった。これでお前も傭兵だな。今夜は歓迎会だぞ」

 

『ふふふっ。それは楽しみです』

 

「ところで、サイドカーに乗っているのは誰だ?」

 

『えっと、森の中で会った転生者です』

 

「転生者だと・・・・・・?」

 

「・・・・・・」

 

 一緒に行動しているということは、敵ではないのか? 俺はブレーキをかけてバイクを草原で停止させると、バイクから下りて転生者を連れてきたミラをエミリアと2人で出迎えた。

 

 転生者をサイドカーに乗せたミラのバイクが、俺たちのバイクの近くで停まる。

 

(ターゲットの転生者は?)

 

「無事に始末した」

 

 彼女にターゲットの転生者を始末したことを伝えながら、俺はサイドカーから降りた転生者を見つめた。

 

 高校の制服に身を包んだ黒髪の少年だった。年齢はおそらく、転生して若返った状態の俺と同じ17歳くらいだろうか。

 

「ん? ―――おい、お前・・・!」

 

「え?」

 

 ミラが連れてきた眼鏡をかけた転生者は、見覚えのある転生者だった。俺が高校を卒業して就職してからは貸家で生活していたためあまり会うことはなかったんだけど、俺は7歳年下の弟の顔をしっかり覚えていた。

 

 サイドカーから降りてきたのは、間違いなく俺の弟の速河信也だった。

 

「お前、信也か・・・・・・?」

 

「え? 僕の事を知ってるんですか?」

 

 俺は両手でかぶっていたフードを外した。今の俺は何故か17歳まで若返ってしまっているけど、信也も俺の顔を覚えている筈だ。

 

「――――に、兄さん・・・・・・・・・?」

 

「久しぶりだな、信也」

 

 こいつがこの世界にいるということは、あの世界で信也も死んでしまったということだ。そしてあの端末を手に入れ、この異世界に転生してきたんだろう。

 

「なんでここに? に、兄さんは車上荒らしに殺されて・・・・・・!」

 

「ああ、死んだ。そして、この世界に転生したんだ」

 

 俺はポケットから自分の端末を取り出すと、俺の顔を見て驚いている信也に「持ってるだろ?」と言いながら俺の端末を見せた。

 

「・・・・・・僕も死んだんだ。乗ってたバスが谷に・・・・・・」

 

「そうか・・・・・・お前も死んだのか・・・・・・」

 

「うん・・・・・・。ところで、兄さんは何をしてるの?」

 

「ああ。この世界で傭兵ギルドをやってる」

 

「モリガンって名前の?」

 

「おう。今からみんなで帰るところだ。ついて来いよ。行く当てないんだろ?」

 

「う、うん」

 

 信也はまだ転生してきたばかりらしい。つまり、この異世界の事をまだ全く知らない。俺が転生してきたばかりの頃と同じだ。

 

 俺は再びバイクに乗ると、エンジンをかけてネイリンゲンの屋敷へと向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 兄さんが率いる傭兵ギルドの屋敷は、ネイリンゲンという街から少し離れたところにあった。まるで貴族が住んでいるような立派な屋敷なんだけど、幽霊が出るせいで買い手が誰もいなかったから、兄さんはこの屋敷を無料で購入した上、その幽霊までギルドの仲間にしてしまったらしい。

 

 門の向こうでは、2人のメンバーが兄さんたちを待っているようだった。片方は黒いドレスのような制服を身に纏った金髪の少女だった。他のメンバーの制服は黒一色なんだけど、彼女の制服は襟やスカートの一部などが紅くなっている。紅い装飾も制服についていて、まるで貴族のようだ。

 

 もう1人のメンバーは、背が高い筋肉質の少年だった。彼の制服は黒いダスターコートのようになっていて、頭には漆黒のカウボーイハットをかぶっている。彼がミラの兄妹のギュンターさんなんだろうか。まるでならず者のような人だった。

 

「お帰り。・・・・・・力也、その人は?」

 

「俺の弟だ。こいつも転生してきたらしい」

 

「へぇ。旦那の弟さんか。なんだか双子みたいだなぁ」

 

「は、初めまして。速河信也です」

 

「私はカレン。このギルドで選抜射手(マークスマン)を担当してるわ。よろしく」

 

 微笑みながら自己紹介するカレンさん。僕と同い年らしいんだけど、僕よりも大人みたいで綺麗な人だ。

 

「俺はギュンター。ミラの兄だ。よろしくな!」

 

 僕に右手を差し出しながら自己紹介するギュンターさん。僕は彼の大きな手を握り返しながら「よ、よろしくお願いします」と返事をする。

 

「ギュンター、フィオナは?」

 

「フィオナちゃんなら、中でエリクサーを作ってるぜ」

 

「分かった。信也、ついて来い」

 

「う、うん」

 

 兄さんはバイクを庭に停めると、屋敷の玄関に向かって歩き出した。多分、僕を屋敷の中でエリクサーを作ってるフィオナさんの所に連れていくつもりなんだろう。

 

 屋敷の中には絵画や彫刻が飾られていた。天井にはシャンデリアが吊るされている。屋敷の中を見渡していると、僕の前で階段を上り始めた兄さんが「前の持ち主の物らしい。俺の趣味じゃないぞ」と言った。

 

 確かに、兄さんの趣味じゃない。兄さんが高校生の時、兄さんの部屋にはマンガが何冊も置いてあったからね。彫刻や絵画に興味がある筈がない。

 

 2階に上ると、兄さんは廊下の向こう側にあったドアの前まで歩き、そのドアをノックしながら「フィオナ、入っていいか?」と言った。

 

『あ、どうぞ』

 

「失礼」

 

「し、失礼します・・・・・・」

 

 部屋の中には、見たこともない植物がいくつも壷や木箱に入って並べられていた。窓の近くには机があり、上にはフラスコや試験管が分厚い本と一緒に並んでいる。その机の近くに、容器に2種類の液体を調合している白髪の幼い少女がいた。

 

 彼女がこの屋敷に住んでいた幽霊のフィオナさんなんだろう。100年前に病気で死んでしまってからは、ずっと12歳の時の姿のままこの屋敷に住んでいたらしい。僕に霊感はない筈なんだけど、彼女の姿はよく見えた。

 

『あれ? 力也さん、その人は?』

 

「俺の弟だ。最近転生してきたらしい」

 

『転生者なんですね? ・・・・・・力也さんにそっくりですね。私、フィオナっていいます。よろしくお願いしますね?』

 

「ぼ、僕は速河信也です。よ、よろしく」

 

 彼女は微笑みながら自己紹介すると、緑色と黄色の液体が入っていた試験管を机の上に立て掛け、机の上に置いてあったピンク色の液体の入った瓶を僕に渡してきた。

 

「あの、これは?」

 

『さっき作ったエリクサーです。もしよければどうぞ』

 

「あ、ありがとう」

 

 僕は彼女からエリクサーの入った瓶を受け取ると、制服の上着のポケットの中にしまっておいた。

 

『ところで、信也さんもこのギルドに入るんですか?』

 

「え?」

 

 どうしようかな。僕はまだこの世界に転生してきたばかりだし、この世界の事を全く知らない。それに行く当てもない。

 

 異世界に転生して兄さんと再開できたんだから、このギルドに入って兄さんたちと一緒に傭兵をやるのもいいかもしれない。僕は「どうする?」って聞いてきた兄さんの顔を見ると、首を縦に振った。

 

「僕も、このギルドに入っていいかな?」

 

「ああ。歓迎するぜ」

 

 ニヤリと笑いながら、兄さんは僕に右手を差し出してきた。

 

「またよろしくね、兄さん」

 

「おう。今夜はミラと一緒に歓迎会だな」

 

 確か、ミラはさっきの仕事で傭兵見習いを卒業するんだよね? ということは、今度は僕が傭兵見習いか。

 

 僕は転生した異世界で兄さんと傭兵をやることにすると、兄さんの差し出した右手を握り返した。

 

 

 

 


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