段々と僕を乗せたサイドカーが揺れなくなってきた。僕たちの周りには、森の中に何本も鎮座していた巨木たちの群れではなく草むらが広がっている。
どうやら森から脱出する事が出来たようだ。僕はため息をつくと、サイドカーの座席の上でポケットから端末を取り出し、電源をつけてみることにした。
≪レベルが上がりました≫
「あ、レベル上がってる」
僕はレベルを確認してみた。僕のレベルは1から2に上がっていて、ステータスも強化されている。それに、武器や兵器を生産するために必要なポイントも新たに2000ポイントも追加されていた。
今度はアサルトライフルやPDWを生産しておこう。ここは本当に異世界だ。だから、絶対にまた魔物と戦う羽目になる。
(あ、ギルドの仲間よ。迎えに来てくれたんだ)
「え?」
武器の生産をしようと思っていると、バイクを運転していたミラが言った。僕は顔を上げると、目の前の草原を見つめる。
草原の向こう側から、もう1台サイドカー付きのバイクが走って来るのが見えた。このバイクと同じくモスグリーンとブラウンの迷彩模様で、サイドカーにはブローニングM1919重機関銃が装備されているのが見える。
『―――ミラ、聞こえるか? こちらエミリア。応答せよ』
(はい、聞こえますよエミリアさん)
その時、ミラが耳に着けていた無線機から女の人の声が聞こえた。前からこっちに向かってくるバイクに乗っている仲間だろうか。
『無事か?』
(はい、任務は成功です)
『良かった。これでお前も傭兵だな。今夜は歓迎会だぞ』
(ふふふっ。それは楽しみです)
『ところで、サイドカーに乗っているのは誰だ?』
(えっと、森の中で会った転生者です)
『転生者だと・・・・・・?』
目の前から向かってくるバイクがゆっくり止まると、そのバイクとサイドカーに乗っていた2人が下りたのが見えた。片方はおそらくミラよりも年上の少女だろう。漆黒の軍服のような服を着て、頭に漆黒の軍帽をかぶり、腰には鞘に収まった軍刀を下げているのが見える。ポニーテールの蒼い髪の凛々しい雰囲気を放つ少女だった。
そして、バイクに乗っていたのはおそらく少年だ。フードの付いた漆黒のオーバーコートに身を包み、かぶっているフードには真紅の鳥の羽を飾っている。腰には大型のリボルバーや奇妙な形状の刀を下げ、背中には折り畳まれた状態のアンチマテリアルライフルを背負っているのが見える。
ミラはバイクをその2人の近くで止めると、静かにバイクから下りた。僕も彼女の仲間に挨拶するために、サイドカーから降りる。
(ターゲットの転生者は?)
「無事に始末した」
フードをかぶった少年がミラに返事をしたんだけど、どこかで聞いたことのある声だ。
誰だ? ここは異世界なんだし、僕の知り合いなんていない筈だ。
「ん? ―――おい、お前・・・!」
「え?」
ミラと話をしていた少年が、僕の方を見つめている。聞き覚えのある声の彼は、僕の事を知っているようだ。
「お前、信也か・・・・・・?」
「え? 僕の事を知ってるんですか?」
すると、そのフードをかぶっていた少年は、両手で静かにかぶっていたフードを外した。
「―――に、兄さん・・・・・・・・・!?」
僕の目の前に立っていた少年の顔は、間違いなく僕の兄の速河力也だった。小さい頃によく遊んでくれた、僕の兄さんだったんだ。でも、確か兄さんはもう社会人だった筈なんだけど、目の前にいる兄さんは若返っているような気がする。きっと僕と並んだら双子のように見えてしまうだろう。
若返っていた上に髪が伸びていたけど、その聞き覚えのある声の少年の正体は、半年前に車上荒らしに殺されてしまった筈の僕の兄さんだったんだ。