異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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白き烈火

 

 もし、絶対にかなわないような強敵と戦う羽目になったらどうする? 

 

 小さい頃、俺はあいつにそう聞かれたことがあった。

 

 俺は体を鍛えていたし、喧嘩も強い方だったから、それまで絶対にかなわないような強敵と戦うようなことはなかった。苦戦することは何度もあったけど、いつも勝ってたのは俺だ。

 

 でも、あいつは体を鍛えてたわけじゃないし、気が弱かった。だから小さい頃はよく体の大きい奴らに虐められてて、その度に俺が仕返ししに行ってたっけ。あいつをいじめてたやつらが兄貴とかを連れてきても、俺は関係なしに殴りかかってたな。

 

 俺と比べると、あいつは弱かった。だから俺にそんな質問をしてきたんだろう。

 

 確かにあいつは弱い。でも、俺より賢い奴だ。テストはいつも100点だったし、学校の成績もトップだった。

 

 きっと、あいつはもう自分で小さい頃の自分の質問に答える事が出来るだろう。もし絶対にかなわないような強敵と戦う羽目になったらどうするのか? あいつはきっと、頭を使って戦う筈だ。

 

 相手が自分よりも力が強いならば、攻撃を避けながら弱点を探す。相手が素早い奴ならば、罠を張って引っかかるのを待つ。俺だったら正面から戦うんだが、あいつはちゃんと作戦を立ててから戦いに挑むような奴だ。

 

 死んで異世界に転生しても、俺は未だに絶対にかなわないような強敵と戦ったことはない。

 

 なぜならば、俺の目の前にいる俺よりも格上の転生者は、もう既に絶対にかなわないような強敵ではなくなっているからだ。格上が格下の相手に怯えてどうするんだよ?

 

「ぽ、ポリアフッ! ポリアフッ! こいつを攻撃しろ! こ、殺せ! 僕を助けろ!! ポリアフッ!」

 

「うるせえなぁ」

 

「ギャアッ・・・・・・!?」

 

 ブタ野郎の右肩に突き刺した白い刀を強引に引き抜いた俺は、そのまま右足をブタ野郎の腹に押し込むようにして蹴り込み、自分が端末で生み出したポリアフに助けてもらおうと必死に叫ぶブタ野郎を燃え上がる館の方へと吹っ飛ばしてやった。

 

 多分、フィオナから力を借りていなければ、今のようにこのブタ野郎を蹴り飛ばす事なんてできなかっただろう。俺はポリアフと連呼しながら燃え上がる館の中に突っ込んでいったブタ野郎に「ポリアフに頼り過ぎなんだよ」と言った。

 

「端末で作った幼女にばかり頼ってないで、自分で戦え」

 

 転生者の持つ端末は、武器や能力を自由に生産して装備する事が出来る。でも、こいつはあの蒼い大剣とポリアフしか使っていない。

 

 確かにあいつは俺よりも格上の強力な転生者だけど、攻撃の種類は少ないんだ。

 

「り、力也なのか・・・・・・?」

 

「おう、エミリア」

 

 左手で右腕を押さえながら、エミリアが俺の姿を見て驚いている。彼女たちは多分、俺がフィオナの力を借りて戻って来る事が出来たことを知らないんだろう。

 

「右腕、どうしたんだ?」

 

「あ、これは・・・・・・・・・」

 

 よく見ると、彼女がいつも気に入っている軍帽もかぶっていない。そして、彼女の傍らの石畳の上には、何度も踏みつけられたような跡がついた迷彩模様の軍帽が転がっているのが見える。

 

 そうか。あのブタ野郎がやったのか。

 

「・・・・・・待ってろ。俺が倒してくる」

 

「ま、待て、力也! その姿は・・・・・・?」

 

「―――フィオナが力を貸してくれたんだ。一緒に戦ってくれるってさ」

 

「フィオナが・・・・・・・・・?」

 

 彼女はあのブタ野郎の攻撃から俺を庇って消えてしまった。でも、彼女は消えてしまっても、俺と一緒に戦うと言ってくれたんだ。それにさっきは、ブタ野郎の氷の攻撃から俺を守ってくれた。

 

 だからこの戦いは絶対に負けられない。それに、あのブタ野郎は絶対に倒さなければならない。

 

 俺は俯くエミリアの蒼い髪の上に手を置くと、よくフィオナの頭を撫でていたように、優しくエミリアの頭を撫でた。フィオナは頭を撫でると喜んでくれたんだけど、エミリアは喜んでくれるだろうか?

 

 頭を撫でられていたエミリアは、静かに俺の顔を見上げると、微笑みながら頭を撫でている俺の左手を掴んだ。

 

「・・・・・・力也、あいつを倒してくれ。フィオナのためにも」

 

「ああ。絶対に倒すよ。・・・・・・それに、俺のエミリアの腕を折った仕返しもしないとな」

 

「な、何? お、俺のエミリア・・・・・・!?」

 

「ん?」

 

 俺の手を掴みながら、エミリアが顔を真っ赤にしている。

 

「当然だろ? お前は俺が貰ったんだからさ」

 

「そ、そうだな。その通りだ。私は・・・・・・力也に貰われたのだからな・・・・・・」

 

 俺の左手を握りながら、エミリアは顔を赤くしたまま再び俯く。彼女は俺の左手を強く握ってから再び俺の顔を見上げると、俺の瞳を見つめながら「頑張れ、力也!」と言った。

 

「おう、任せろ!」

 

 俺もニヤリと笑うと、彼女から左手を離し、さっきブタが吹っ飛んでいった方向を睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 私から手を放し、燃え上がる館を睨みつける力也。館の壁には力也に蹴り飛ばされたあの転生者が開けた大きな穴があり、その向こう側には真っ赤な烈火が見える。

 

 真っ白なコートに身を包み、頭髪が白に変色した力也は同じく真っ白に変色した93式対物刀を構えると、静かに館の方へと歩いていく。

 

「!」

 

 その時、燃え上がっていた館の炎たちが、一斉に氷の柱によって蹂躙された。窓ガラスや壁を突き破り、次々に蒼白い巨大な氷の柱が館から突き出てくる。私たちが火炎放射器で生み出した炎たちはその氷の柱の群れに飲み込まれ、姿を消してしまった。

 

 残った炎は、力也が身に纏う白い炎だけだった。

 

「痛てえなぁ・・・・・・! 僕よりレベルが下のくせに・・・・・・!」

 

 館の壁から突き出た氷の柱の群れの中から、あの太った転生者が姿を現した。奴の背後には、やはり奴が端末で生み出したポリアフが、氷の杖を持ち、蒼いマントを羽織って浮かんでいる。

 

 ブタのような転生者が力也に付けられた傷は大きいようだった。右肩を刀で貫かれ、その傷口の内側と周囲を力也の白い炎に焼かれたのだ。貫かれた穴の周りには火傷の痕があった。

 

 その傷のせいで右腕が動かなくなったらしく、あのブタのような転生者は大剣を右手から左手に持ち替えていた。

 

「ポリアフ、あいつをぶっ殺せ!」

 

 転生者の背後に浮かんでいたポリアフが無表情で頷くと、力也に向かって氷の杖の先を向けた。

 

 その時、館の壁から突き出ていた無数の氷の柱の内の1本が外れ、まるでミサイルのように力也へと向かって放たれた。先ほど力也が何度も逸らしていた氷の槍よりも巨大な氷の柱。力也は刀を右手で構えると、左手にいつも愛用しているダガーを構え、そのまま白い火の粉をまき散らしながら正面から突っ込んでいった。

 

 どうやら、氷の柱を切り裂いて防ぐつもりはないらしい。先ほどのように攻撃を逸らすつもりなのだろうか? 

 

「力也、避けなさいよ!」

 

「危ねえ、力也!」

 

 カレンとギュンターが力也に向かって叫んでいるが、私は何も言わずにそのまま氷の柱へと向かって突っ込んでいく力也を見守っていた。

 

 あいつは私を連れてナバウレアから逃げ出し、フランシスカを倒して無事にオルトバルカ王国まで私を連れて行った男なのだ。それに、生身で宇宙空間から帰ってきた男だ。

 

 あいつならば、大丈夫だ!

 

「死ねぇッ!」

 

「――――うるせえブタ野郎だ」

 

 その時だった。

 

 氷の柱の前から、真っ白なコートを身に纏った力也の姿が、突然消え失せてしまったのだ。

 

「―――は?」

 

「えっ?」

 

 力也を押し潰すはずだった氷の柱は、力也の代わりに彼が残した真っ白な火の粉をいくつか押し潰し、その先にあった館の庭の石畳を木端微塵に粉砕して、石畳の破片と氷の破片を白い火の粉と共に舞い上がらせた。

 

 力也の血飛沫など、全く見当たらない。

 

 接近してくる氷の柱の前から、まるで幽霊になってしまったかのように力也が消えてしまったのだ。

 

「ど、どこに行った・・・・・・!? おい、出て来い! 僕よりレベルが低い雑魚が、調子に乗るんじゃないぞ!」

 

 冷や汗を流しながら、ブタのような転生者が氷の柱の上で叫ぶ。彼はまだ力也を見下しているようなことを言っているが、氷の柱の上に立つ彼の肥えた両足は震えているようだった。

 

 彼は力也に怯えているらしい。

 

「―――ここだ、馬鹿」

 

「!?」

 

 力也の声が聞こえたのは―――あの転生者の背後からだった。

 

 脂肪だらけの太った転生者の背後に、長い白髪の力也が、周囲に白い火の粉を纏いながら立っていたのだ!

 

「ば、馬鹿な・・・・・・!? スピードのステータスは、まだ僕の方が上の筈・・・・・・!?」

 

「ステータスじゃねえ」

 

 確かにあれはステータスによるものではない。スピードであの転生者の背後まで回り込んだのではなく、本当に姿を消してあそこまで移動したかのようだった。

 

「まさか、あの力は―――」

 

 今のは、フィオナの力なのか?

 

 彼女はネイリンゲンの屋敷に住む幽霊だ。普段はあの白いワンピースを着て私たちの周りにいることが多いが、彼女は自由に姿を消すこともできるのだ。

 

 私たちがあの屋敷で射撃訓練をしている最中に力也が白い何かを見たと言ったことがあったが、あの時その白い何かを見失ってしまったのは、今のように姿を消してしまったからではないのか?

 

 それに力也が金縛りにあった時も、彼女はいつの間にか姿を消していた。

 

 さっき力也は、フィオナが力を貸してくれていると言っていた。まさか、その自由に姿を消すという能力も使えるということなのだろうか?

 

 幽霊と同じように姿を消し、更に格上の相手すらも焼き尽くしてしまうほど強力な白い炎を自在に操る事が出来るということなのだろうか?

 

 その時、力也の傍らに白いワンピースを身に纏ったフィオナが浮かんでいるのが見えたような気がした。ゆっくりと私の方を振り向いてから微笑むと、彼女は無数の白い火の粉となって消えていく。

 

 力を貸してくれているだけじゃない。力也は――――あの幽霊の少女に守られているのだ。

 

 

 

 

 

 

「ざ、雑魚のくせに―――」

 

「うるせえ、格上の雑魚が」

 

 ポリアフの攻撃を回避しブタ野郎の背後に回り込んだ俺は、まだ俺の事を見下しているブタ野郎を睨みつけながら、右手に持った純白の93式対物刀を思い切りブタ野郎の脂肪だらけの腹に向かって叩き付けた。

 

 でも、ブタ野郎は慌てて後ろに飛び退く。そのせいで、白い刀身が引き裂いたのはブタ野郎の汗まみれの腹の皮と、あいつが身に着けている派手な装飾の服だけだった。

 

「ぽ、ポリア―――」

 

 またポリアフに攻撃させるつもりか。

 

 俺は左側から右側へと振り払った刀身を振り上げながら、飛び退いたブタ野郎を追撃するために踏み込む。

 

 俺の目の前にポリアフが現れ、氷の杖を俺に向けてくる。また氷の矢か槍を飛ばすつもりなのか? でも、俺はもうポリアフに接近してしまっている。まだポリアフは、氷の矢も槍も生成できていない。

 

 攻撃の準備もできていない状態で俺に接近されてしまったポリアフは、もう俺たちに焼き尽くされるか、切り刻まれるしか選択肢はなかった。

 

 振り上げた刀を、ブタ野郎ではなくポリアフに向けて振り下ろす。フィオナが力を貸してくれたおかげで漆黒の刀身から純白の刀身へと変色した俺の93式対物刀は、峰の部分から白い火の粉を散らしながら、ポリアフが氷の矢を生成するために集中させていた冷気の中を突き抜け、氷の杖を持った氷の精霊の頭にめり込んだ。

 

 ポリアフの両断された頭に白い炎が燃え移り、氷の精霊が何も表情を浮かべぬまま真っ白な炎の中に飲み込まれていく。俺はポリアフを焼き尽くした白い炎の残滓の中を突き抜けると、蒼い大剣を持つブタ野郎へと向かって突っ込んでいく。

 

「ぽ、ポリアフが・・・・・・・・・!? あり得ない! ポリアフは最強の能力だ! ざ、雑魚に負けるなんてあり得ないッ!」

 

 本当にうるさい奴だ。俺は呆れながら踏み込むと、ポリアフを簡単に両断し、焼き尽くした刀を思い切り振り上げる。

 

 でも、ブタ野郎は俺よりレベルが上の転生者だ。左手で氷を纏った大剣を振り下ろし、俺の振り上げた刀を受け止める。俺はそのまま大剣ごとこのオタクを両断してしまおうと思ったんだけど、大剣の重量とブタ野郎の攻撃力のステータスが生み出すパワーによって、段々と俺の刀が押し返され始める。

 

「ハハハァッ! 死ねよ、雑魚がぁッ!」

 

「だからうるせえんだよ、格上の雑魚め」

 

「何が格上の雑魚だ! お前はこのまま氷漬けにされて―――」

 

「―――周りをよく見ろ、馬鹿」

 

「はぁ? ――――なッ!?」

 

 驚愕するブタ野郎の顔を見ながら、俺はニヤリと笑った。

 

 宇宙空間から戻ってくる時、俺の背中には5匹のナパーム・モルフォが止まっていて、ジェットエンジンのように炎を噴射していた。俺をここまで連れてきてくれた彼らは、今は俺の背中に止まっていない。

 

 俺と同じように真っ白に変色した炎の蝶たちは、俺の仲間たちが装備を解除した火炎放射器の燃料タンクを持ち上げ、オタクの足元に投下していたんだ。

 

「俺の作戦さ」

 

 さっきから、こいつは俺に怯えているようだった。つまり、俺にしか警戒していない。ならば俺を囮にして、ナパーム・モルフォたちにこの燃料入りの火炎放射器の燃料タンクを準備させても全くバレないってわけだ。

 

「くっ!」

 

 俺が燃料タンクを爆発させる前に逃げようと、ブタ野郎が慌てて館から突き出た無数の氷の柱の中を走り出す。

 

 もちろん、こいつを逃がすわけにはいかない。

 

 俺はフィオナの能力をもう一度使わせてもらうことにした。幽霊の彼女と同じように姿を消すと、背中に燃料タンクを運搬し終えたナパーム・モルフォたちを呼び出し、再び真っ白な炎を噴出させると、そのまま巨大な氷の柱の間を超高速ですり抜けて飛行し、一瞬でブタ野郎の目の前に姿を現す。

 

「ひぃっ!?」

 

「黙って焼豚になりな。ブタ野郎」

 

 俺は刀を氷の柱の上に突き立てると、一瞬で背中に止まっていたナパーム・モルフォを右手の甲に止まらせ、そのまま白い炎を噴射させた。純白のナパーム・モルフォが吐き出す炎に俺の右手の拳が引っ張られ、そのまま逃げようとしていたブタ野郎のみぞおちにめり込む。

 

「ギエッ!?」

 

 拳があいつの腹に叩き込まれた瞬間、まるで銃声のような音が聞こえた。

 

 気色悪い声を上げながら再び燃料タンクが3つ用意してあるところまで転がっていくブタ野郎。俺は奴に向かってワイヤー付きのペレット・ダガーを放り投げると、ダガーとワイヤーでつながった鞘を腰から外し、近くにあった氷の柱に縛り付けた。

 

「や、やめろぉ・・・・・・! やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 もちろん、やめるつもりはない。敵は皆殺しにするつもりだったからな。

 

「―――俺みたいな格下に歴史的な大逆転負けをしたお前に敗因を教えてやるよ、ブタ野郎」

 

 口から涎を流しながら、何とか呼吸を整えて俺を見上げるブタ野郎を見下ろし、俺は言った。

 

「それはな、てめえの考えが干上がりかけの水溜りみてえに浅かったことだッ!!」

 

 腰のホルスターから、俺はスコープとバイボットが装着されたレイジングブル・バントラインスペシャルを引き抜いた俺はスコープを覗き込むと、銃口をブタ野郎ではなく、その近くに転がっている燃料タンクに向けた。

 

 ブタ野郎が必死に命乞いを始めるが、俺は容赦なくトリガーを引き、マグナム弾を燃料の入っている火炎放射器の燃料タンクに叩き込んだ。

 

 レイジングブルの強烈なマグナム弾が燃料タンクを貫通し、ナパーム・モルフォが用意した3人分の火炎放射器の燃料タンクが大爆発を起こす。無数の氷の柱の群れの中で煌めいた爆炎は、無数の氷の破片と火の粉を舞い上げながら、氷の柱とブタ野郎を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 黒煙の中から、まだあの白い姿のまま力也が戻ってくるのが見えた。片手には傷だらけのブタ野郎を抱えているのが見える。

 

 力也は館の庭の石畳の上に降り立つと、抱えていたブタ野郎を石畳の上に放り投げた。傷だらけのブタ野郎が呻き声を上げ、必死に命乞いを始める。

 

 でも、力也はブタ野郎の命乞いを無視していた。ブタ野郎が力也の白い制服のズボンにすがり付き始めても、黙って蹴飛ばすだけだった。

 

「・・・・・・ギュンター、止めはお前が刺せ」

 

「は?」

 

 力也はホルスターから銃身の長いスコープ付きのリボルバーを引き抜くと、シリンダーの中にマグナム弾が入っているのを確認してから、そのリボルバーを俺に渡してきた。

 

「こいつは・・・・・・フィオナちゃんの仇だろ?」

 

「ああ。でもこいつはお前の仲間を何人も殺してるし、ミラの喉も潰してる。仇を討つべきなのはお前だ、ギュンター」

 

 力也は俺の目を見つめながら、自分のリボルバーを俺に渡した。いつの間にか、こいつの瞳はフィオナちゃんと同じく蒼に変色している。

 

 俺は力也からリボルバーを受け取ると、グリップを握りしめ、力也に命乞いをしようとして蹴飛ばされたブタ野郎へと向かって歩き出した。

 

 こいつはもうあの大剣を持っていない。傍らにポリアフもいない。

 

「ひ、ひぃっ! ・・・・・・た、助けて・・・お、お願いしますッ! 殺さないでください・・・・・・!」

 

「関係ない。やれ、ギュンター。そのブタ野郎を撃ち殺せ」

 

 ああ、殺してやる。このリボルバーのマグナム弾を頭に叩き込んで、このブタ野郎をぶっ殺してやる!

 

 妹は喉を潰された。奴隷たちもこいつと手下の兵士たちのせいで何人も死んでいった。俺がこいつに向かってリボルバーのトリガーを引けば、全員の仇が取れるんだ。

 

「や、やめてくれぇ・・・・・・! た、助けてください・・・・・・!」

 

「うるせえ・・・・・・! よくも俺の仲間たちと、大切な妹の喉をッ!」

 

 俺は涙を流しながら命乞いを続けるブタ野郎の胸ぐらをつかむと、リボルバーの銃口を頭に押し付けながら叫んだ。

 

「どれだけ命乞いしても無駄だッ! 俺はてめえをぶっ殺して、みんなの仇を取るッ! ここの仲間や妹の分だけじゃねえ! 俺たちのために戦ってくれた、フィオナちゃんの分もだッ!!」

 

「ギュンター・・・・・・」

 

 モリガンのみんなのおかげで、このブタ野郎を倒す事が出来た。でも―――フィオナちゃんが犠牲になってしまった。

 

 彼女の仇を討つべきなのは力也だが、彼は俺に止めを刺させてくれるらしい。ならば、俺が彼の代わりに彼女の仇も討つ。

 

「死ねぇッ! ブタ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「ひぃぃぃぃぃッ!!」

 

 俺は叫ぶと、力也が貸してくれた漆黒のリボルバーのトリガーを引いた。

 

 装填されていたマグナム弾が、銃口を押し付けられていたブタ野郎の頭を貫く。響き渡った轟音がブタ野郎の絶叫を飲み込み、消滅させてしまった。

 

 銃声の残響が段々と消えていく。もう、ブタ野郎の命乞いは聞こえなかった。

 

 


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