異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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レベル23の反撃

 

 俺が身に着けている制服には、まだ返り血がついている。レベル上げをしていた時に付着した、俺が倒した魔物たちの返り血だ。ブラウンとモスグリーンの迷彩模様に真っ赤な返り血が加わり、3色の奇妙な迷彩模様となった制服を身に纏った俺は、火炎放射器のグリップを握りしめながら、湿地帯の町の中心に鎮座するあのオタクの館を睨みつけていた。

 

 ドアは俺がグレネードランチャーで吹っ飛ばした時のままだ。中は再び蝋燭で照らされているらしく、破壊されたままの階段が少しだけ見える。庭に転がっていた兵士たちの死体は片付けられたみたいだけど、血痕はまだ庭の花壇の淵などに刻まれたままだった。

 

「・・・・・・戦闘準備」

 

 俺と同じく館を睨みつけている仲間たちに言うと、俺は火炎放射器の銃口を館へと向けた。

 

 仲間たちも、背中から火炎放射器の銃口を取り出し、館へと向ける。

 

 あいつの使っていたポリアフと言う能力は、きわめて強力な氷属性の能力だ。氷を自由自在に操る精霊を1体だけ召喚する事が出来る能力で、生産するには9000ポイントも使用する。

 

 今の俺よりもかなりレベルが上の奴と戦うには、たった6匹のナパーム・モルフォだけでは間違いなく足りない。だが、このアメリカ製のM2火炎放射器ならばどうだろうか?

 

 確かに俺はあいつよりもレベルが下だが、5人で一斉に火炎放射器をぶっ放せば、あの氷の能力を突破する事が出来るかもしれない。

 

 それに、用意してきたのはこの火炎放射器だけではないんだ。

 

「―――やるぞ」

 

「攻撃開始ッ!」

 

 館に火炎放射器の銃口を向け、俺たちは一斉にトリガーを引いた。

 

 銃口が真っ赤に煌めき、5つの炎の槍が真っ直ぐに館へと向かって伸びていく。炎の槍たちは館の外壁に次々に突き刺さると、段々燃え広がり始めた。

 

 真っ白な館の壁が炎に飲み込まれていく。窓ガラスが割れ、燃え広がった炎が館の中へと次々に入り込んでいく。

 

 グレネードランチャーで吹っ飛ばされたドアの向こうでも、館の中を照らす蝋燭以外の赤い光が見えた。玄関の奥で火の粉が舞い始め、蝋燭の火が館の中に侵入した炎たちに取り込まれていく。

 

 俺は館に火炎放射器で放火しながら、ちらりと同じく火炎放射器のトリガーを引き続けているギュンターの方を見た。あのブタ野郎に襲い掛かっていった時のように怒り狂っているのかと思ったけど、今のギュンターは非常に落ち着いていた。真っ直ぐに館を睨みつけながら、無言で炎を館へと放射している。

 

「放射止め!」

 

 これくらいで大丈夫だろう。俺はトリガーから指を離し、燃え上がった館を見つめた。

 

 まだ館を火炎放射器で燃やしただけだ。これだけで勝負がつくはずはない。あいつはいったいどこから襲い掛かってくる?

 

 その時、突然館を覆っていた烈火の中から、1本だけ太い氷の槍が突き出たのが見えた。火炎放射器の烈火を貫いたその氷の槍は高温で溶けることはなく、冷気を放ったまま烈火の中に鎮座している。

 

 間違いなく、あの氷の槍はポリアフによって生成された槍だった。

 

「―――ひひひっ。なんだ、カス共がまだ来たのか?」

 

 相変わらず気色悪い笑い方だ。身に着けている豪華な装飾がついた服と、あの蒼い大剣は立派だけど、あのオタクには似合っていない。脂肪だらけの丸い顔に汗を浮かべながら、眼鏡をかけたあいつは氷の槍の上から俺たちを見下ろしていた。

 

「・・・・・・・・・よう、ブタ野郎」

 

「ひひっ。今まで何してたんだ?」

 

「お前を倒すためにレベル上げをね」

 

「レベル上げぇ? ・・・・・・ひひひぃっ! お前じゃ僕には勝てないよ! たったレベル10くらいの雑魚が、1日ずっとレベル上げしたとしてもね!」

 

 確かにな。今の俺のレベルはたったの23。1日中ずっとレベル上げをしていたおかげで元のレベルの倍ほど上がったけど、レベル45のお前に挑むにはまだ足りないかもしれない。

 

 でも―――作戦は考えてあるんだよ。

 

「発射!」

 

 今度は館ではなくオタクへと向けて、俺たちは一斉に火炎放射器の炎を放った。あいつは俺たちが銃を持ってると思っていたらしく、黙って氷の槍の上に突っ立ってたんだけど、銃口から放たれたのが弾丸ではなく炎だったことに気が付き、驚いてから氷の槍の上からジャンプした。

 

 5人で一斉に放った炎たちが、オタクが立っていた巨大な氷の槍の先端部を飲み込んだ。館に燃え移った烈火の中でも冷気を放っていた氷の槍の表面に水滴が浮かび始め、やがて溶けながら炎の中へと崩れ落ちていく。

 

「炎で攻撃してくるとはね。でも―――無駄なんだよ! 雑魚共がぁぁぁぁッ!」

 

 氷の槍の上から空中にジャンプし、蒼い大剣を振り上げるオタク。レベルが45ということは、スピードのステータスも滅茶苦茶高いってことだよな。確か、ジャンプ力はスピードのステータスの中に含まれている筈だ。

 

 お前にそんなジャンプは似合わねえよッ!

 

 俺は火炎放射器の銃口を空中から襲い掛かろうとしているオタクへと向けた。仲間たちも銃口を上へと向け、大剣で攻撃しようとしているオタクを炎で迎え撃つ。

 

「ポリアフ!」

 

「来たな・・・・・・!」

 

 オタクを焼き尽くすために放たれた5人分の炎の正面に、突然氷の塊が出現した。あの氷を盾にして炎を防ぐつもりなんだろうか? でも、さっきあいつが立っていた氷の槍は一瞬で融解してしまったから、氷で防御するのは無理だろう。

 

 その時、その氷の塊が割れ始めた。

 

 次嗣に亀裂が入り、破片が剥がれて上空へと舞い上がっていく。その氷の中から現れたのは、蒼いマントを纏った蒼白い肌の幼い少女だった。右手には、さっきの氷の破片で生成された氷の杖を持っている。

 

 おそらく、あれがポリアフだ。9000ポイントも使って生産する、氷を自由自在に操る氷の精霊。

 

 そのポリアフが氷の杖を振るった瞬間、ギュンターに重傷を負わせたあの吹雪が、火炎放射器から放たれた炎へと叩き付けられた。

 

 猛烈な冷気と烈火がぶつかり合う。こっちは5人分の火炎放射器で攻撃してるというのに、ポリアフはたった1体でこっちの攻撃を防いでしまった。

 

「可愛いだろ? これが僕のポリアフだぁっ!」

 

「何言ってんだ。こっちにも可愛い幽霊がいるんだって。―――フィオナ、頼むぞ」

 

『は、はいっ!』

 

 火炎放射器のトリガーから指を離し、顔を赤くしながら返事をするフィオナ。彼女の傍らには、既に俺が召喚しておいたナパーム・モルフォが1匹舞っていた。

 

『ごめんね。また・・・・・・力を貸して?』

 

 火の粉をまき散らしながら飛んでいたナパーム・モルフォが、フィオナの白髪の上に、まるで蝶の形をした髪留めのように舞い降りる。その瞬間、ナパーム・モルフォが炎を凄まじい勢いで放ち始め、その火柱がフィオナを飲み込んだ。

 

 そして、フィオナを飲み込んでいた火柱が段々と火の粉になって消え去り始める。その火柱の中に浮かんでいたのは、漆黒のオーバーコートに身を包み、鎌の刃が搭載されたアンチマテリアルライフルを肩に担いだ黒髪のフィオナだった。彼女は周囲を舞っていた火の粉を吹き飛ばしながら舞い降りると、ゲパードM1の銃身の下に搭載されていた鎌の刃を展開し、ポリアフへと向かって飛んで行った。

 

「頼むぞ、フィオナ・・・・・・!」

 

 彼女があの姿になったのは、俺とカレンを助けに来てくれた時だった。あの時の彼女はまだマシンピストルの訓練しか受けたことがなく、戦闘の経験も全くない状態だったんだけど、フィオナはあの姿で俺たちを助けに来てくれたんだ。そして、暗殺者たちを次々に葬っていった。

 

 彼女はナパーム・モルフォから力を借りたって言ってた。ナパーム・モルフォは俺が装備している能力で、俺のステータスが上がればあの蝶たちも強化される。つまり、レベルが23に上がった俺のナパーム・モルフォから力を借りれば、あの時よりも遥かに強くなるという事だ。

 

「ひひっ。確かにその子も可愛いねぇ・・・・・・。お前を殺したら、彼女も僕の奴隷にしてしまおう」

 

 キモい奴だ。

 

 どうやらあいつはフィオナの相手をポリアフにやらせるらしい。よし、作戦通りだ。

 

 端末でポリアフの説明文はしっかりと読んできた。あの吹雪や氷の槍を生み出しているのは、オタクではなくポリアフだ。つまり、フィオナを迎撃させるためにポリアフから離れてしまったあのオタクの武器は、大剣と俺を上回るステータスしかない。

 

「よし! 3人とも、武器を拾ってくるんだ!」

 

 俺は背中から火炎放射器の燃料タンクを外すと、腰に下げていた鞘から93式対物刀とペレット・ダガーを引き抜いた。こっちの剣術は我流の二刀流だが、恐らくあいつも我流だろう。

 

 フィオナがあの姿になっている最中は、端末を操作できなくなる。もちろん、途中で装備を変更したり、武器を生産することは不可能だ。

 

 だから、予めいつもの装備を館の防壁の外に用意しておいたんだ。

 

「ぐっ!」

 

「ひひひぃっ! 1日中レベル上げしても、やっぱり雑魚だなぁッ!」

 

 ヤバい。こいつの大剣の一撃が滅茶苦茶重い!

 

 猛烈な衝撃だった。ステータスに差があり過ぎるせいで、ガードしたダガーごと切り裂かれてしまう可能性もあったけど、俺が左手に持った漆黒の小太刀のようなダガーの刀身には全く亀裂が入っていなかった。

 

 そのまま左手で押し返そうと思ったんだけど、多分無理だろう。俺が全力でこいつを押し返そうとしても、こいつは俺よりもレベルが上の転生者だ。

 

「うっ!?」

 

 俺はニヤリと笑うと、大剣を受け止めていたダガーの切っ先を手前へ少しだけ傾けた。俺のダガーを粉砕しようと力を込めていたオタクの大剣が火花を散らしながらダガーを傾けた方向へと滑り、脂肪だらけのオタクの体がぐらりと揺れる。

 

 俺は「バカだな」と言いながらオタクの脇腹を蹴飛ばすと、蹴った足を地面に下ろしてからすぐに時計回りに回転し、今度は右手に持った93式対物刀を突き出した。

 

 刀の切っ先はオタクの腹に突き刺さった筈なんだけど、俺の攻撃力のステータスが低いうえにあいつの防御力のステータスが高いせいで、切っ先が脂肪にめり込んだだけだった。

 

 ダメだ、切り裂けない。

 

 俺はそのまま転んだオタクには追撃せず、すぐに距離を取った。

 

「くそっ・・・・・・!」

 

「この雑魚がッ!」

 

 有利だった自分が転ばされ、怒り狂うオタク。オタクは近くに転がっていた自分の大剣をすぐに拾い上げると、俺の事を睨みつけながら、姿勢を低くして突っ込んでくる!

 

「力也」

 

「おう。準備はできたな?」

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 俺の隣に、防壁の外に用意しておいた武器を拾った仲間たちがやってきた。エミリアはサイガ12が装着されたAEK-971を構え、ギュンターはいつものロケットランチャー付きのPKPを2丁構えている。カレンの持つM14EMRの銃口には、ライフルグレネードが装着されていた。

 

 そして、俺も左手のダガーを鞘に戻し、腰のホルスターから愛用のリボルバーを引き抜く。

 

 俺が引き抜いたレイジングブルは、ここに来る前にカスタマイズしておいたため、形状が変わっていた。この世界に転生した時に生産したレイジングブルは、銃身を12インチに伸ばしてスコープを取り付けていたんだけど、今のレイジングブルの銃身は更に長くなっていた。

 

 今のレイジングブルの銃身は、なんと16インチ。スコープを取り付け、更に銃身の下に狙撃用にバイボットも取り付けてある。

 

 確か、銃身を16インチに伸ばした時、武器の名称が『トーラス・レイジングブル』から『トーラス・レイジングブル・バントラインスペシャル』に変わってたな。

 

 俺はそのレイジングブル・バントラインスペシャルの銃口をオタクへと向け、スコープを覗き込むと、仲間たちと共に一斉射撃を開始した。

 

 

 

 


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