異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者がレベル上げをするとこうなる

 

 私はサイガ12が装着されたAEK-971を構えながら、もう一度窓から外を確認した。外に見えるのは、相変わらずボロボロの木造の建物と、幹の表面が湿気で湿った大きな木ばかりだ。あの兵士たちのリーダーが追ってくる気配はない。

 

 ため息をつきながら窓の近くに座り込む。私たちが隠れているこの建物は、ギュンターが数日前まで働かされていたという仕事場だそうだ。部屋の中にはまな板と刃こぼれを起こしている大きな包丁がずらりと並んでいて、まな板にはまだ血がついている。窓は開けているのだが、血の付いたまな板たちが発する血の臭いはおそらく消えないだろう。

 

 部屋の中では、フィオナが必死にあの男の攻撃を受けたギュンターの凍傷を治療している。力也がナパーム・モルフォでなんとか彼をあの吹雪の中から引っ張り出したおかげでギュンターはなんとか生き残る事が出来たが、重傷だ。

 

 私は窓の外に腰を下ろしたまま、ちらりと隣の窓から外を覗いている力也の顔を見上げた。

 

 敵兵のリーダーがもし追撃してきても居場所が発見されないよう、部屋の中のランタンに明かりはつけていない。奴隷たちも全員逃げ出してしまったため、この町に住民は誰もいない。街灯にも明かりがついていないため、町の中は静かな上に真っ暗だった。

 

 それにしても、敵が持っていたあれは―――力也の持っている端末と同じものではなかったか? 力也にその端末はどこで手に入れたのかと聞いても今まで全く教えてくれなかったが、今は彼に聞くべきなのかもしれない。

 

「―――なあ、力也」

 

「ん?」

 

 AN-94に取り付けた暗視スコープから目を離し、力也がこちらを振り向いた。

 

「・・・・・・教えてくれ。あいつが持っていたのはお前と同じ端末なのだろう?」

 

「・・・・・・ああ」

 

 フィオナに治療されているギュンターを見守っていたカレンが、静かに力也の方を見た。フィオナも、ギュンターを治療しながら彼の方を見つめている。

 

「あれはどこで手に入れたのだ? 教えてくれ」

 

「・・・・・・・・・そうだな。もう教えるべきだ」

 

 アサルトライフルを壁に立てかけ、力也は頭にかぶっていた迷彩模様のフードをそっと外した。

 

 力也は話し始める前に、暗闇の中で私の瞳を見つめてきた。教えてくれるのかもしれないが、躊躇しているようだ。

 

「――――俺は、この世界の人間じゃないんだ」

 

「―――え?」

 

 何だって? 力也、何を言ってるんだ?

 

 力也がこの世界の人間ではないだと?

 

「・・・・・・どういうことだ? 冗談か?」

 

「いや、本当だ。―――俺は、自分の住んでいた世界で殺されて、気が付いたらこの世界にいたんだ。この世界に来た時、ポケットの中にこの端末が入ってたんだ」

 

「いったい誰が入れて行ったのだ?」

 

「分からん・・・・・・」

 

 力也は―――本当に、この世界の人間ではないのか?

 

 私は目の前にいる、共にラトーニウス王国からここまで旅をしてきた仲間を見つめた。彼はポケットから端末を取り出してからそれを足元に置き、真剣な表情で私を見つめ返してくる。

 

 本当に冗談ではないのか? 力也は本当に、別の世界で殺されてこの世界へとやってきたのか?

 

「俺が端末で生産した銃も―――俺のいた世界の武器だ」

 

「この武器は、異世界の武器・・・・・・」

 

 カレンが力也の話を聞きながら、ホルスターの中からベレッタM93Rを取り出して眺めている。

 

 この銃は―――力也のいた世界の武器だったのか。確かに、この世界に銃は存在しない筈だ。

 

「力也、その端末には武器や能力を生産して装備する以外に何か機能はあるか?」

 

 今まで彼と共に戦ってきたから、彼の持つ端末には武器と能力を生み出し、それを装備する機能があるという事は知っている。だが、もしかしたら他にも何か機能があるのかもしれない。

 

 先ほど館で戦っていた時に、あのブタのような男が確かレベル45と言っていたような気がするが、それも端末の機能なのだろうか?

 

「・・・・・・この端末を持つ者は、レベルを上げることによって簡単に強くなる事が出来る。攻撃力と防御力とスピードの3つのステータスがあって、レベルが上がる度にそのステータスが上がっていくんだ」

 

「ちなみに、今の力也のレベルは?」

 

「まだ11。さっき端末の電源をつけたら、10から11に上がってた。でも、あいつのレベルは45だ・・・・・・。今のレベルでは太刀打ちできない」

 

 あの男が言っていたレベルとはそういう事なのか。レベルが45だったという事は、ステータスがかなり高いという事だな。だから銃弾が通用しなかったのか。

 

「これが、転生者の持つ端末の機能だ」

 

「転生者・・・・・・」

 

「・・・・・・厄介ね。つまりあのブタみたいな奴は、力也よりもかなり強いって事なんでしょ?」

 

「そういうことだ」

 

 ギュンターはあの男に一撃でやられてしまった。それに、こちらの攻撃も全く通用していないようだった。勝ち目はあるんだろうか?

 

「なあ、力也。聞いてもいいか?」

 

「何だ?」

 

「―――お前は、私たちの味方なのか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 力也も、あの男と同じ転生者だという事実が生み出した疑問だった。彼は優しい男だ。ナバウレアから私を連れだし、ジョシュアの追手と共に戦いながら一緒にオルトバルカ王国まで逃げて来た仲間なのだ。敵である筈がない。

 

 だが、私は彼に聞いてしまった。

 

 力也は治療を続けるフィオナとカレンの顔を見てから、黒い瞳で私を見つめた。

 

「―――当たり前だ。俺はエミリアたちの味方だよ。絶対に、あのクソ野郎みたいな力の使い方はしないさ」

 

 彼はそう言うと、傍らに置いておいた端末を拾い上げ、AN-94の装備を解除すると、端末を何度かタッチしてFA-MASを装備してからゆっくりと立ち上がった。両手で再び短い黒髪をブラウンとモスグリーンの迷彩模様のフードで覆い、静かに仕事場の出入り口のドアのほうへと歩いていく。

 

「フィオナ、ギュンターの治療が終わるまでどのくらいかかる?」

 

『た、多分1日くらいです』

 

「分かった」

 

「力也、どこに行くつもり?」

 

「・・・・・・ちょっとレベル上げに行ってくる」

 

 ギュンターの治療が終わるまでの間に、湿地帯の魔物と戦ってレベルを上げるつもりなのか? 確かに、奴らのリーダーを倒すためにはレベルを上げる必要があるが、まさか1日中湿地帯の凶暴な魔物を相手にするつもりなのか?

 

 力也はFA-MASを背中に背負うと、ボロボロのドアを開けて外へと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 猛烈な轟音が湿地帯の中で轟き、周囲に生えている大きな木の幹で何度も反響を繰り返しながら立ち去っていく。

 

 アンチマテリアルライフルの12.7mm弾で貫かれたゴーレムの亜種が外殻の破片と肉片をまき散らして崩れ落ちていくのを確認すると、俺はさっき端末で生産したフランス製アンチマテリアルライフルのヘカートⅡのボルトハンドルを引き、再びスコープを覗き込んだ。

 

 もうマガジンを2つも使ってしまっている。他に持ってきた銃は、王都で暗殺者たちと戦った際にも使ったFA-MASと、愛用のレイジングブルだ。それ以外の武器は手榴弾が2つと、93式対物刀とペレット・ダガーだ。

 

 FA-MASとレイジングブルも、接近してくるゴブリンやハーピーを迎撃するために使用したため、残っている弾薬は持ってきた分の半分以下に減ってしまっている。レベル上げに行くって言って隠れ場所にしていたギュンターの仕事場を後にしてからまだ3時間くらいしか経っていないんだけど、既に何体も魔物を倒しているため、もうレベルが11から12まで上がっていた。

 

 あのクソ野郎を倒すために、必死にレベル上げをしている最中だった。今までこの端末を持っているのは俺だけだと思ってたけど、あいつも俺と同じ端末を持った転生者だった。しかも、俺よりもレベルは上だ。

 

 仲間たちに俺が転生者だという事を言わなかった理由は―――拒まれるかもしれないと思っていたからだろう。信じてもらえないという理由は、自分が恐れていたその可能性を隠してしまうための言い訳だった。

 

 異世界の人間ということは、もちろんこの世界の人間ではない。常識や文化も全く違う別の世界の人間だ。

 

 仲間たちに拒まれてしまうのが怖かった。だから俺は―――転生者だという事を言わなかったんだ。

 

「くそ・・・・・・!」

 

 スコープの向こう側に、また外殻の表面を苔とツタで覆われたゴーレムが出現する。俺はすぐにヘカートⅡのカーソルをそのゴーレムの顔面に合わせると、苔とツタだらけの顔面に12.7mm弾をお見舞いした。

 

 12.7mm弾が、ゴーレムの硬い外殻を容赦なく叩き割る。剣や矢を簡単に弾き飛ばす外殻が木端微塵に粉砕され、苔が付着したままの岩のような外殻の破片が薄暗い湿地帯の中を舞った。

 

 ボルトハンドルを引き、そのまま索敵を続けようかと思ったけど、俺はスコープから目を離してバイボットを折り畳み、すぐにヘカートⅡを背中に背負った。

 

 背後から、唸り声を発しながら狼の群れが接近していたんだ!

 

「・・・・・・かかってこい、雑魚共」

 

 やかましい唸り声を発しながら突っ込んでくる狼たちを睨みつけながら、俺は腰の鞘から刀とダガーを引き抜いた。

 

 クガルプール要塞を目指す最中に遭遇した狼とは大きさと体毛の色が違うようだ。この狼たちも、あの時戦った狼の亜種なんだろうか?

 

「―――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

 まだレベル上げのために湿地帯に足を踏み入れてから3時間だ。ギュンターの凍傷の治療が終わるまで、俺はあの仕事場に戻るつもりはない。アサルトライフルのフルオート射撃で一掃すれば簡単に狼の群れなんて全滅させられるんだけど、弾薬は温存しておきたかった。

 

 端末が用意してくれるのは、再装填(リロード)3回分の弾薬のみだ。弾切れを起こしたら補充されるのを待つか、ポイントを消費して別の武器を生産して使うしかない。

 

 今の俺がやるべきなのは、レベル上げではなくあのオタクをぶっ殺すことだ。レベル上げで弾を撃ち尽くしてしまっては意味がない。

 

 俺は怒り狂ったギュンターのように雄叫びを上げると、ダガーと刀を構えて群れの中に突っ込んでいった。

 

 狼たちがジャンプし、俺に向かって飛び掛かってくる。俺はその飛び掛かった狼の腹にダガーを放り投げて突き刺すと、ダガーのグリップから鞘に伸びた真っ黒なワイヤーを掴み、ダガーで腹を貫かれた狼をハンマーのように他の狼に叩き付けた。

 

 突き刺したダガーを引き抜き、俺にかみつくために接近してきた狼の頭の側面に突き立てると、ダガーを引き抜きながら右手の93式対物刀を振り払ってまとめて3頭の狼を両断する。

 

「ぐっ!」

 

 右足の脹脛に、背後から接近した狼が噛みついた。俺は激痛を無理矢理黙らせながら刀の切っ先を何度も噛みついていた狼の顔面に突き刺すと、動かなくなったその狼の死体を突っ込んでくる狼たちに投げつける。

 

 ワイヤー付きのダガーを木の上に放り投げ、木の上に移動しようと思ったその時だった。頭上から、他の魔物の鳴き声が聞こえて来たんだ。

 

「ハーピーか・・・・・・くそっ!」

 

 血のように紅い羽根を持つ魔物たちが、ツタに覆われた巨大な木々の間を舞いながら、高度を落として俺に向かって襲いかかってくる!

 

 俺はダガーを鞘に戻すと、ホルスターから素早くレイジングブルを引き抜き、足の爪を俺に向けながら急降下してきたハーピーの顔面にマグナム弾を叩き込む。マグナム弾で顔面を貫かれたハーピーが、鮮血と羽根をまき散らしながらそのまま狼の群れの中へと墜落していった。

 

 他のハーピーたちも、俺に爪を向けながら急降下してくる。マグナムで迎撃しようと思ったけど、狼が俺の左肩に飛び掛かってきたせいで俺の体勢が崩れてしまう。

 

「がぁっ!!」

 

 左腕で飛びついてきた狼を木の幹に叩き付けたけど、ハーピーの急降下を回避することはできなかった。ハーピーたちの両足に生えた爪が俺の左肩を切り裂き、鮮血が吹き上がる。

 

 俺は右手の93式対物刀のグリップを握ると、そのまま一回転し、俺の肩を切り裂いて離脱しようとしていたハーピーの顔面に刀の刀身を叩き付けた。漆黒の刀身が嘴を引き裂き、ハーピーの全身が簡単に真っ二つにされる。

 

「はぁっ、はぁっ・・・・・・・・・!」

 

 自分の血と魔物たちの返り血で迷彩模様の制服を真っ赤に汚しながら、俺は狼の群れと頭上のハーピーの群れを睨みつけた。狼はまだ40頭以上もいるし、ハーピーもまだ10羽以上いるだろう。

 

 しかも、狼たちの群れの背後から、初めてこの湿地帯に足を踏み入れた時に見た苔とツタに覆われた巨体が何体もこっちに向かってくるのが見えた。間違いなく、ゴーレムの亜種の群れだ。

 

 ハーピーの爪に切り裂かれた左腕は痙攣している。おそらく、さっきみたいにレイジングブルをぶっ放すことはできないだろう。

 

 刀を木の根に突き刺し、辛うじてレイジングブルのグリップを握っている左手から愛用の銃を奪い取ると、それをホルスターに戻してから再び右手で刀を引き抜き、俺は目の前の魔物の群れを睨みつけた。

 

「はははっ。こいつらを倒せば、きっとレベルがかなり上がるぜ・・・・・・!」

 

 そうすれば、あのオタクを倒す事が出来るんだ。

 

 俺は再び雄叫びを上げると、刀を構えて魔物の群れの中へと突っ込んでいった。

 

 


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