異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者と転生者が戦うとこうなる

 

 俺の持っている端末は、この世界に転生してきた時にポケットに入っていたものだ。車上荒らしにナイフで刺されて意識が遠退いていく中で、次に目を覚ましたらポケットの中を見てみろと誰かに言われ、ポケットの中を調べてみたらこの端末が入っていた。

 

 この端末を使えば、様々な武器や能力を生産し、自分の物として装備することが可能だった。例えば、拳銃を生産して装備すれば、その拳銃を自分の武器として使う事が出来る。俺が最初に生産した武器は、強烈なリボルバーのトーラス・レイジングブルとパイルバンカーの2種類だった。

 

 そして、レベルを上げれば端末に表示されている俺のステータスも上がり、どんどん強くなっていく。最初にジョシュアと戦った時も、凄まじいジャンプ力であいつの剣を回避している。

 

 この端末のおかげで、俺は現代兵器の存在しないこの異世界で強敵と戦っても生き残る事が出来たんだ。

 

 その端末を――――目の前のオタクみたいな奴も、持っていた。

 

 俺の端末は黒い端末なんだが、あのオタクみたいな奴の端末は紫色だ。色は違うようだけど、形状は同じようだ。

 

 もしかすると、あいつも俺と同じように転生してきたのかもしれない。

 

「ひひひっ。3人も美少女を連れてるなんて羨ましいねぇ・・・・・・」

 

 貴族が身に着けるような派手な服に身を包んだオタクは、左手でかけていた眼鏡を直しながら笑う。

 

 気色悪い笑い方だ。とっとと5.45mm弾の2点バースト射撃を頭に叩き込んでぶち殺してしまおうか。

 

 俺はドットサイトを睨みつけると、両手で構えていたAN-94のトリガーを引き、2発の弾丸を階段の踊り場の上でまだ笑っているオタクの顔面へと叩き込んだ。先手必勝だ。

 

「―――終わりだ」

 

 いくらあんな蒼い大剣を持っていても、接近して俺たちに振り下ろす前に弾丸を叩き込まれれば意味がない。俺は右目をドットサイトから放すと、アサルトライフルの銃口をゆっくりと下げた。

 

「・・・・・・終わり? ひひひひひっ。何が?」

 

「―――は?」

 

 まさか、まだ生きてる!?

 

 俺は慌てて再びアサルトライフルの銃口を踊り場の上のオタクへと向けた。ドットサイトを覗き込み、2点バースト射撃からフルオート射撃へと切り替える。

 

 確かに顔面に命中したはずだ。5.45mm弾が2発もだぞ!? 普通なら即死している筈なのに、どうして奴はまだ生きている!?

 

 ドットサイトの向こうで、ニヤリとオタクが笑う。奴は左手で再び眼鏡をかけ直しながら「無理だね」と言った。

 

「お前じゃ僕を倒すことなんてできない。不可能だよ」

 

「だったら次は一斉射撃だッ!!」

 

 俺の傍らに立つ仲間たちが、一斉に持っている武器の照準を踊り場の上のオタクへと向ける。今度はアサルトライフル1丁だけじゃない。仲間たちの持つ銃の弾丸が、一斉にあいつに襲い掛かるんだ。

 

 頭に2発喰らってくたばらないんだったら、一斉射撃で全身をズタズタにしてやるだけだ!

 

「撃てぇッ!!」

 

 再び、さっき敵兵たちを殲滅した時のような一斉射撃が始まった。俺とエミリアの5.45mm弾のフルオート射撃が踊り場の上のオタクへと襲い掛かり、ギュンターの持つ2丁のPKPから次々に放たれる7.62mm弾が踊り場の上に叩き付けられる。その無数の弾丸に襲い掛かられているオタクの顔面にセミオート射撃で7.62mm弾をぶち込んでいるのは、M14EMRを構えるカレンだ。フィオナも、救出したミラを庇いながらP90のフルオート射撃をぶっ放している。

 

 人間1人を倒すためにしては、明らかに火力があり過ぎる。でも、相手は俺と同じ転生者。ステータスとレベルは不明だけど、俺と同じように特殊な能力や武器を生産しているに違いない。

 

「くそっ!」

 

 その時、俺のAN-94が弾切れになった。隣でフルオート射撃をぶっ放していたエミリアも「弾切れか・・・・・・!」と呟きながら、マガジンを取り外して再装填(リロード)を開始する。

 

 30発も5.45mm弾を叩き込んでやったっていうのに―――まだギュンターとカレンとフィオナの攻撃を受けているオタクは、被弾しながらもまだ踊り場の上で立っていた。

 

 よく見ると、散々被弾しているというのにオタクの体には全く傷がない。身に着けている服も、最初に姿を現した時のようにピカピカだ。

 

「何だ・・・・・・? まさか、端末で生産した能力なのか・・・・・・?」

 

「ひひひっ。君、まさか僕よりもレベルが下なんじゃないの?」

 

「何だと?」

 

 ついにギュンターとカレンとフィオナも弾切れを起こし、再装填(リロード)を開始する。

 

 オタクはニヤニヤ笑いながら、踊り場の上から俺たちを見下ろしていた。

 

「―――ちなみに、僕のレベルは45だ」

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 レベル45だと!?

 

 今の俺のレベルはまだ10だ。35もレベルに差がある! 

 

 拙いぞ。レベルが上がった時にステータスもどんどん強化されていくから、レベルが高いという事はその分ステータスの数値が高いという事だ。

 

 まさか、散々銃弾を叩き込まれても無傷だったのは、能力を装備していたわけではなく、あいつの防御力のステータスと俺の攻撃力のステータスに差があり過ぎたからなのか!? 

 

「クソ野郎が! 死なないんだったらもう1回弾丸を200発叩き込んでやるだけだぁッ! ぶっ殺してやるッ!」

 

「待て、ギュンター!」

 

 再装填(リロード)を終え、オタクにPKPの銃口を向けようとするギュンター。俺はアサルトライフルの銃口を下げると、慌ててギュンターを止めた。

 

 あれだけ銃弾を叩き込んでも無傷だったんだ。これ以上撃ち続けても傷をつける事が出来る可能性は低いし、ギュンターの装備しているPKPの弾薬も、今装填した分で最後の筈だ。ここで弾丸をぶち込んでも、無駄弾にしかならないだろう。

 

「離せ、力也ぁっ! あのブタ野郎をぶっ殺してやる! よくも俺の妹を・・・・・・っ!!」

 

「妹? まさか、そこにいるミラちゃんのお兄さんかい?」

 

 踊り場の上で、大剣を肩に担ぎながらオタクが言った。フィオナの後ろに隠れているミラが、踊り場の上のオタクを見上げながらぶるぶると震えている。

 

「何だと?」

 

「その子、可愛いんだけどねぇ・・・・・・・・・ここに連れてきてから気に入ったから、可愛がってあげるって言ったんだけど、ずっとお兄ちゃんに会いたいってうるさかったんだ」

 

「ミラ・・・・・・」

 

 さらわれてからずっと兄に会いたがっていたミラ。ギュンターは後ろで震えている最愛の自分の妹を見つめる。

 

「ある日、ミラちゃんが僕に平手打ちをしてきてね。・・・・・・ムカついたから、二度とお兄ちゃんに会いたいって言えないように、喉を潰してやったんだ! ひひひひひひっ!!」

 

 そんな理由でミラを二度と喋れなくしたのか! 兄に会いたがっている妹に何という事を!

 

「・・・・・・そうか。ミラの喉を潰しやがったのは、てめえだったのか・・・・・・・・・!」

 

「おい、ギュンター。止せ・・・・・・!」

 

 踊り場の上を睨みつけるギュンターの肩を掴み、俺は彼を止めようとした。またここで機関銃を乱射しても無駄弾になってしまう。何か作戦を考えるか、退却して新しい武器を生産してからもう一度攻撃を仕掛けるべきだ。

 

 でも―――ギュンターは、俺の言う事を聞かなかった。唸り声を上げながら機関銃の銃身で彼の肩を掴んでいた俺の左手を振り払うと、両手に持っていた2丁の汎用機関銃を放り投げ、背中の鞘からマチェーテを引き抜く。

 

「ギュンター!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 マチェーテを構え、ジャンプして踊り場の上のオタクへと襲い掛かっていくギュンター。相手は俺よりもレベルが上の転生者で、ステータスの数値も俺よりも高い。あのマチェーテで接近戦を挑んでも、傷をつけられるわけがない!

 

 俺もアサルトライフルを腰の後ろに下げ、腰から93式対物刀とペレット・ダガーを引き抜こうとしたその時だった。踊り場の上で、オタクが肩に担いでいた大剣をギュンターに向かって構えたんだ。

 

「ひひひっ。馬鹿が。氷漬けにしてやる! ―――ポリアフッ!」

 

「なッ!?」

 

 その時、階段の踊り場が突然吹雪に包まれた。壁に掛けられていた蝋燭の炎が一斉に消え、館の白い壁が徐々に凍り付いていく。頭上に吊るされている黄金のシャンデリアには、いくつも巨大な氷柱が出来上がっていた。

 

 そして―――その吹雪は、マチェーテを構えてオタクに襲い掛かろうとしていたギュンターに襲い掛かった!

 

「ぐあぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ギュンター!」

 

「拙い!」

 

 吹雪の塊に飲み込まれたギュンターの体が、段々氷で覆われていく。あのままでは、ギュンターが氷漬けにされてしまう!

 

「ナパーム・モルフォ! ギュンターを助けろ!!」

 

 彼をあの吹雪の中から助け出すには、この炎を操る蝶たちを使うしかない。王都でカレンを護衛する際に端末で生産した、6匹の炎を操る蝶たちを召喚するこの能力ならば、レベルが上の転生者の攻撃から仲間を助けられる筈だ。

 

 俺は6匹のナパーム・モルフォたちをすべてギュンターを飲み込んでいる吹雪へと向かって突撃させた。真っ赤な炎に包まれた蝶たちが、火の粉をまき散らしながら蒼白い吹雪の中へと潜り込んでいく。

 

「ナパーム・モルフォか・・・・・・確かに強力な能力だね。僕は生産しなかったけど」

 

 この吹雪を操っているのは、間違いなくあのオタクの能力だ。確か、さっきポリアフって言ってたな。

 

「でも、ステータスに差があり過ぎなんだよぉっ!! この雑魚共がぁっ!!」

 

「!!」

 

 オタクが、吹雪の中で氷漬けにされかけているギュンターに向かって、大剣を構えてジャンプした。まさか、止めを刺すつもりか!?

 

 拙いぞ。ナパーム・モルフォたちは全部ギュンターを助けるために突撃させている。ギュンターの体の氷を炎で溶かしながら彼を吹雪から引っ張り出そうとしているけど、オタクが大剣をギュンターに振り下ろす方が早い! あのままでは、ギュンターが殺されてしまう!

 

 妹の前で、兄を殺させてたまるか!

 

「力也、無茶だ!」

 

 俺は腰から刀とダガーを引き抜きながら走った。ステータスがあのオタクよりも低くても関係ない。ギュンターを死なせるわけにはいかない!

 

 氷漬けになった階段の残骸が転がっている床の上を突っ走り、さっきギュンターがオタクに襲い掛かろうとしたように、俺もジャンプする。そして、右手の93式対物刀を、ギュンターに向かって大剣を振り下ろそうとしているオタクに向かってトリガーを引きながら振り下ろした。

 

 刀の内部から銃声が轟き、峰の部分に刻まれたスリットから爆風が一瞬だけ噴射される。アンチマテリアルライフル並みの運動エネルギーを持つ刀の一撃が、オタクの後頭部へと向かって振り下ろされていく。

 

「!」

 

「ひひっ。甘いんだよ。レベルが低いクズのくせに!」

 

 俺が振り下ろした刀の一撃は、このブタ野郎の大剣で簡単にガードされてしまったけど―――その隙に、ナパーム・モルフォたちが氷漬けにされかけたギュンターを、吹雪の中から引っ張り出した。

 

 俺はすぐに刀を引き戻して左手のダガーを天井へと放り投げると、ワイヤーを掴んで天井へと昇り―――そこで氷柱だらけになって氷漬けになっているシャンデリアを吊るしている紐に、93式対物刀の刃を叩き付けた。

 

 太い木の枝やゴーレムの外殻すら簡単に切り裂いてしまう切れ味の刀だ。トリガーを引かないでそのまま振り払ったけど、アンチマテリアルライフル用の弾丸を消費するまでもないだろう。氷が付着した紐が切り裂かれ、シャンデリアが氷のかけらをまき散らしながら落下し始めたのを確認した俺は、俺を追撃しようと下からジャンプして飛び上がってくるオタクへと落下していくシャンデリアを足場にして仲間たちの方へとジャンプする。

 

「!」

 

 大剣を振り下ろし、俺の背後で氷漬けになったシャンデリアを一刀両断するオタク。でも、俺はもう仲間たちの傍らに着地して、背中からアンチマテリアルライフルを取り出していた。

 

「撤退だ!」

 

 さすがに武器の弾薬も少なくなっている。新しい武器を生産して、それから作戦を考えなければあのブタ野郎に勝つことはできないだろう。

 

 俺はOSV-96の銃身の下に装着されているロケットランチャーを、シャンデリアを両断して着地したばかりのオタクへと向けてぶっ放した。ロケット弾が脂肪だらけの腹にめり込み、爆炎がオタクを飲み込む。

 

 その隙にアンチマテリアルライフルを折り畳んで背中に背負うと、俺はエミリアと共にギュンターに肩を貸し、館の庭の方へと向かって走った。

 


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