異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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騎士団のエミリア

 

 

「随分変わった武器を持っているのだな」

 

 街に接近していた魔物が全滅したとの知らせですぐに普段の営業を再開した喫茶店にエミリアと2人で入った俺は、向かい合うように座りながら話をしていた。カウンターの向こうでは、店主が紅茶を淹れてくれている。

 

「凄い音が街の中にも響いていたぞ。それにあの爆発は何だ?」

 

「それは………こいつで攻撃したからだよ」

 

 俺はすぐ隣の壁に立て掛けておいた、愛用のバレットM82A3に装着された対戦車ミサイルランチャーを軽く叩いた。本来の対戦車ミサイルから小型化されたとはいえ、まさかあそこまで破壊力がるとは俺も予想外だったけど。

 

 レイジングブルとバレットM82A3という現代兵器のおかげで、2回もの魔物との戦いに圧勝してるんだ。これならこの世界のことを全く知らない俺でも生きていけるだろう。

 

 店主が2人分の紅茶を持ってきてくれる。礼を言いながらカップを受け取ったエミリアは、テーブルの上の入れ物から角砂糖を1つ取ると、紅茶の中へと入れ、軽くかき混ぜながら俺に次の質問をしてきた。

 

「最初にゴーレムを全滅させたときは、その隣にある大きい武器は持っていなかったはずだが?」

 

「えっ?」

 

 あ、そうだった。あの時はまだバレットM82A3を作ってなかったんだった。

 

 どうやって誤魔化そうか。あまり悩んでいると怪しまれると思った俺は、エミリアと同じように紅茶に角砂糖を淹れながら、取り乱さないように答えを返した。

 

「ああ、宿屋に預けてたんだ。すぐ駆けつけるには小型の武器の方がいいからな」

 

「では、どうして今回は持っていた?」

 

「そろそろこの街から出て行こうと思って、丁度準備を済ませてたところだったんだ」

 

「そういえば、力也は一人旅をしているんだったな」

 

「まあね」

 

 紅茶はまだ冷めてなかったから少し熱かったけど、美味しい紅茶だった。角砂糖で少し甘くなった紅茶を飲みながら、俺も彼女に質問をしようと考え始める。

 

「実は、こっちのほうに来るのは初めてでさ。今のところ行く当てがないんだよ」

 

「どこから来たんだ?」

 

「東のほうからだな」

 

「ふむ…………遠いな。よくここまで来た」

 

 どうやら怪しまれてはいないらしい。俺は安心しながら、もう一口紅茶を飲む。

 

「どうだった? ここまでの旅は」

 

「楽しかったけど、護身用に武器を持っておいて本当に良かったと思ってるよ。噂通り、本当に魔物が狂暴化してるみたいだからな。騎士団も大変だろ?」

 

「全くだ。恐らく、魔王が倒されたことが原因なのだろうな」

 

「魔王が…………?」

 

 え、魔王がこの世界にいたのか。でももう倒されてるみたいだし、あまり問題はなさそうだな。もしこの世界に転生するのがもっと早かったら、もしかしたら俺も魔王と戦う羽目になってたかもしれない。

 

「半年前に魔王が勇者に倒されたという知らせは聞いただろう?」

 

「ああ」

 

 半年前に倒されたのか。魔物が狂暴化する前は街を襲うことなんてなかったんだろうか?

 

「魔王は確かに倒されたが………まだ油断はできない状況だからな」

 

「そうだな」

 

「それで力也、さっき行く当てがないと言っていたよな?」

 

「ああ」

 

「もし良ければ、一緒にナバウレアまで来ないか? 一人旅をしているならこのあたりの情報も必要だろう?」

 

「ナバウレア……?」

 

「草原を進んだ先にある街だ。騎士団の駐屯地がある」

 

 なるほど、だからエミリアはこの街にすぐ駆けつけたわけか。そういえば最初にゴーレムが襲撃してきたとき、逃げながら住民の人が騎士団に救援要請を出したって言ってたっけ。

 

 確かに行く当てもないし、この世界の情報も全く持っていない。結局、ここでエミリアから聞き出せたのは魔物が狂暴化している原因は魔王が倒された事である可能性と、その魔王は半年前に勇者に倒されたということだけだった。もう少し知りたい情報はあるんだが、あまり聞き過ぎると怪しまれそうだ。

 

「いいのか?」

 

「ああ。無料で宿泊できる宿舎もある。まあ、騎士団の宿舎の空き部屋だがな」

 

「それはいいな」

 

 金を持ってない俺からすれば非常にありがたい話だった。さすがにいつまでもお世話になるわけにはいかないだろうから数日くらいで出ていくつもりだが、その間に次の行き先と金の稼ぎ方を知ることが出来れば問題ないだろう。

 

 無料で宿泊できる宿舎という話を聞いた俺は、彼女と共にナバウレアへ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 アンチマテリアルライフルを背中に背負いながら、俺は草原の中をエミリアと共に進んでいく。目的地は、彼女の所属する騎士団の駐屯地があるナバウレアだ。

 

 背中に背負った対戦車ミサイルランチャー付きのバレットM82A3は非常に重かったけど、端末を取り出して装備を解除するわけにはいかない。装備を解除すればこうして身に着けて持ち歩く必要はないんだが、エミリアはこの端末の存在と、俺がこの世界の人間ではないということを知らない。怪しまれないためにも、俺はこうしてM82A3を背中に背負って歩いていた。

 

 街に接近してた魔物を全滅させたせいなのか、ナバウレアへと向かう俺たちの目の前には魔物の姿は見当たらなかった。休憩中に何度かバレットM82A3の狙撃補助観測レーダーで確認したが、半径2km以内には魔物の姿がない。

 

「騎士団が訓練も兼ねて、定期的に魔物を掃討しているからな。ナバウレアの近くに魔物が現れるのは稀なんだ」

 

「そうなのか? じゃあ、エミリアは何度も魔物との戦いを経験してるのか?」

 

「当たり前だ。今回も魔物との戦いが待っていると覚悟を決めてきたというのに、力也が全部倒してしまうものだからな…………」

 

「すまん。仕事を取るつもりじゃなかったんだが………」

 

「はははっ。冗談だよ」

 

 笑いながら隣を歩く俺の方を振り向くエミリア。真面目で凛々しい印象の彼女が浮かべている笑みはとても楽しそうな笑みだった。ジョシュアと会った時には絶対に浮かべないような顔だろうな。あいつ、かなり彼女に嫌われてるみたいだし。

 

 それにしても、何であいつはあんなに嫌われてたんだろうな。確かに性格は俺も気に入らなかったけど、エミリアが彼女を嫌っている理由はそれだけじゃないような気がする。

 

 まあ、それは聞かないことにしよう。まだエミリアとは出会ったばかりだし。

 

「見えて来たぞ」

 

「あれがナバウレアか?」

 

 草原の向こうに見えた城壁のような壁を指差しながらエミリアが言った。草原の中に鎮座する巨大な城壁。あの中に街があるんだろうか。よく見ると、その要塞のような防壁の上には弓矢を手にした騎士たちが数人立っているのが見える。

 

 魔物どころか人間の軍勢に攻め込まれても陥落させるのは難しそうな街だ。俺はそんなことを考えながら歩いてたけど、隣を歩くエミリアの顔からは、ナバウレアに近づくにつれて先ほどまで浮かべていた楽しそうな笑顔が消え始めていた。

 

 そんなにジョシュアに会うのが嫌なのか。

 

「エミリア、その男は何だ!?」

 

「東から一人旅をしてきた男だ! 行く当てがないというから連れて来た! 門を開けてくれ!」

 

 防壁の上にいた見張りの騎士に叫ぶエミリア。騎士が防壁の奥の方へと向かっていったかと思うと、俺たちの目の前にあった門がゆっくりと開き始める。

 

 その開いた門の向こう側には、ずらりと並んだ騎士たち。俺は門の中へと歩き出したエミリアの後に黙ってついていく。

 

「エミリア、お帰り」

 

「………ああ」

 

 目の前から聞こえてきた聞き覚えのある声。黄金の装飾が付いた白銀の鎧に身を包んだジョシュアが、整列している騎士たちの向こうでエミリアの帰りを待っていた。

 

 少し低くなった彼女の声音から、きっと今の彼女はまた嫌そうな顔を浮かべているんだろうなと思いながら、俺は何も言わずにエミリアの後ろ姿を見つめる。

 

「それで、そうしてその男まで一緒なんだ?」

 

「行く当てがないらしい。少しの間、宿舎の空き部屋に置かせてやって欲しいんだが」

 

「エミリア。ナバウレアの宿舎は行く当てのない旅人を宿泊させる宿屋じゃないんだ。それに、こいつは奇妙な武器を持っている」

 

「騎士団の役目は人々を魔物から守ることだろう? 彼はここに来るのが初めてで、この辺のことを良く知らない。そんな状態の彼を草原に放り出せと言うのか?」

 

 どうやらジョシュアは俺を宿舎に数日間置いておくというエミリアの考えに反対しているらしい。

 

「だが、そいつの武器は3体のゴーレムを一瞬で倒してしまうほど強力なんだろう? もしそんな奴が我々に牙を剥いたらどうなる?」

 

 レイジングブルのことを言っているらしい。どうやらゴーレムは魔物の中でも強敵に分類されるらしく、ジョシュアの言葉を聞いた騎士たちが口々に「ありえない」と騒ぎ出し始めた。

 

 もちろん、俺は騎士団に対して牙を剥くつもりはない。今のところはな。

 

「ここに来るまで彼と話をしていたが、彼がそんなことをする人間には思えないな。何だ、ジョシュア。お前は騎士団以外の人間が強力な武器を持っているからと言って手を差し伸べないとでも言うのか?」

 

「いや、そんなことは無いけど…………」

 

「なら、彼を拒むこともないだろう。…………それに、私が見張っておく」

 

「――――分かった」

 

 ジョシュアは少し悔しそうにそう言うと、数歩下がってから俺たちに道を譲った。

 

 エミリアの後に続いて街の方へと歩いていく俺。俺を追い出そうとして失敗したジョシュアは、まるで恨んでいるかのようにずっと俺の事を睨み付けていた。

 

 俺はそんなジョシュアを視界から除外するように、パーカーのフードをかぶってエミリアの後についていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ひとまず、ここを使ってくれ。最低限の家具くらいしか置いてないが…………」

 

「いや、助かるよ。ありがとう」

 

 エミリアが案内してくれたのは、騎士団の駐屯地の敷地内にある宿舎の1つだった。木造の宿舎の3階にある部屋に案内された俺は、背負っていたバレットM82A3を壁に立て掛けて軽く腕を回しながら部屋の中を見渡した。

 

 エミリアの言う通り、置いてあるのは最低限の家具だけだった。ベッドとテーブルが置いてあるだけで、それ以外には何も置いてない。掃除は毎日されているらしく、部屋の中には特に汚れはなかった。

 

「食事の時は呼びに来る。それと、私の部屋はこの上の階の廊下の一番奥にあるから、何かあったら来てくれ」

 

「助かるよ。本当にありがとう」

 

「気にするな。力也があの時2回も魔物を倒してくれなければ、間違いなく犠牲者が出ていた。私も間に合わなかっただろうしな………。それに力也と話しながらここまで来るのは、楽しかったよ」

 

「エミリア………」

 

「では、今日はゆっくり休んでくれ」

 

 手を振って俺の部屋から出ていくエミリアを見送ると、俺はベッドの上に腰を下ろした。息を吐いて左腕のパイルバンカーを外しながら、俺はエミリアがここに来る途中で浮かべた笑顔を思い出す。

 

 あの時のエミリアは本当に楽しそうだった。でも、ジョシュアと一緒にいる時の彼女は全く違う。

 

 ジョシュアに連れ戻された時にちらりと俺に助けを求めるような目で見てきた彼女のことを思い出した俺は、もう一度息を吐きながらベッドの上に横になった。

 

 

 


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