屋敷の裏側にある小さな門の外に、ギルドの制服を身に纏った仲間たちが並んでいた。仲間たちが身に着けているのはいつもの黒い制服ではなく、モスグリーンとブラウンの迷彩模様の制服だ。
昨日、フィオナに頼んで作ってもらった制服だった。今回の目的地はネイリンゲンから東側にある湿地帯の中心。いつもの黒い制服よりもこっちの迷彩模様の制服を着て行った方がいいだろう。
「ギュンター、道案内は頼むぜ」
「任せてくれよ」
俺と同じデザインの制服を身に纏ったギュンターが、荷物を馬に乗せながら言った。ギュンターの制服も俺と同じ迷彩模様のオーバーコートで、首の後ろにはフードがついている。でも、サイズは俺より一回り大きい。
ギュンターの町がある湿地帯は、ネイリンゲンから馬で移動したとしても1日では到着できないほどの距離がある。途中にある宿で宿泊するか、野宿をするつもりだ。だから馬に乗せている荷物の中には、野宿用の道具と非常食が入っている。
「よし、出発しよう」
「おう!」
ギュンターは荷物を乗せた馬の上に乗ると、森の方へと続く道へと向かって馬を走らせ始めた。その後にエミリアとカレンがついていく。
「行くぞ、フィオナ」
『はいっ!』
俺の傍らに浮かんでいるフィオナに言うと、俺も馬を走らせ、仲間たちの後についていった。俺の隣を飛んでいるフィオナも、モスグリーンとブラウンの迷彩模様の制服に身を包んでいる。デザインは俺の前を走っているカレンとエミリアの制服に似ていて、頭の上には少し大きい迷彩模様のベレー帽が乗っていた。
カレンがマークスマンライフルの射撃訓練をしていた丘の近くにある道を通過していく。彼女が射撃訓練に使っていた的は、ギュンターが2丁のPKPのフルオート射撃で木端微塵にしてしまったから、また作り直さないといけない。
湿地帯に向かう途中に森があるから、帰りにそこで的を作るための木材でも調達していくか。93式対物刀の切れ味ならば、簡単に木を切断することが可能だろう。
屋敷の近くにある丘を通り過ぎると、商人の馬車とすれ違った。荷台にどっさりと木箱や樽を積んだ荷馬車で手綱を握っていた商人の男性が、迷彩模様の制服姿で森へと向かっていく俺たちをじっと見つめていた。
今回の依頼で相手にするのは、湿地帯の魔物たちだけではない。ギュンターの町を支配している人間の兵士たちも倒さなければならない。でも、彼らが騎士団や傭兵たちのように金属製の防具や甲冑を身に纏っていたとしても、俺たちの持つ銃の弾丸ならば簡単に貫通してしまうだろう。魔物の堅牢な外殻でも、銃弾を防ぐことは不可能だ。
以前に北の森の中で戦ったアラクネにアサルトライフルの5.45mm弾を弾かれてしまったけど、外殻に覆われていない顔面に2点バースト射撃を叩き込んでやれば簡単に倒す事が出来た。それに、もし弾丸を弾くようならば徹甲弾や更に大口径の弾丸をぶち込んでやればいい。
射程距離と威力と連射の3つが、俺たちのアドバンテージなんだ。
ギュンターの町がある湿地帯へと向かう途中には森が広がっている。俺とエミリアがラトーニウス王国から逃げてくる時に通過した森ほど深くはなかったけど、アラクネと戦った北の森のように薄暗い森だ。ネイリンゲンまで逃げてくる時にギュンターもここを通ったらしい。
この森を通り抜ければ、また草原が広がっている筈だ。その草原を越えれば湿地帯が広がっているらしいんだけど、この森の奥にある草原は非常に広い。多分、その草原で野宿をする羽目になるだろう。
俺の前を走っているエミリアが、突然片手で手綱を握りながら右手を腰のサーベルへと向けた。彼女の隣を走っている馬の上で、カレンが「どうしたの? 敵?」と彼女に問い掛ける。
確か、ギュンターは魔物に襲われながらも湿地帯から逃げ出してこの森を通り抜けた時、山賊に襲われたって言ってたっけな。エミリアがサーベルの柄を握ったのは、恐らく山賊たちのことを察知したからなのかもしれない。
「・・・・・・止まれ、みんな」
俺たちを湿地帯まで案内するために先頭を走っていたギュンターが、突然馬を止まらせながら片手で背中のマチェーテを引き抜いた。
ギュンターの前方に、剣を手にした人影たちが立ちはだかったのが見えた。おそらくギュンターがここに来る途中で襲われたと言っていた山賊たちだろう。
「はぁ・・・・・・」
俺はため息をつくと、迷彩模様の制服のポケットから端末を取り出し、武器と能力の装備のメニューをタッチした。今の俺が装備している武器は腰のホルスターに納まっているサプレッサー付きのMP443だけだ。まだ目的地に到着していないというのに、弾丸をぶっ放すわけにはいかないだろう。
アンチマテリアルライフルの項目をタッチし、既に生産した4種類の強烈なアンチマテリアルライフルたちの名前が縦に並ぶ画面を開くと、俺はすぐにいつも使用しているロシア製アンチマテリアルライフルのOSV-96を装備することにした。相変わらずなぜか一番下に並んでいる鎌の刃付きのゲパードM1を装備するためにタッチしても、エラーと表示されて装備することはできなかった。
背中に折り畳まれた状態で装備されたOSV-96を取り出した俺は、狙撃補助観測レーダーのモニターを折り畳んだまま銃身を展開すると、銃身の下にロケットランチャーが搭載されたアンチマテリアルライフルを肩に担ぎながら馬から下りた。
スコープのハッチは閉じたままだ。バイボットも展開していない。
「ガキ、見慣れない武器を持ってるな」
「金とその武器を渡せ。そうすれば逃がしてやるぜぇ? ぎゃははははっ!」
「おい、可愛い女もいるぜ。そいつらも置いてけよ?」
「――――あ?」
アンチマテリアルライフルを担ぎながら、俺はギュンターの前に出ると、目の前に立ちはだかっている山賊たちを睨みつけた。俺を殺した車上荒らしの野郎を思い出した俺は、山賊共の態度にキレながら「どけよ、山賊が」と言い返す。
あいつらの武器は剣と槍とトマホークだ。弓矢やクロスボウを持っている奴はいないし、木の上にも隠れていない。もしかしたら魔術を使う奴がいるかもしれないけど、問題はないだろう。
「力也、下がれ。私が全員斬り殺してやる」
「いや、大丈夫だエミリア。お前がこいつらを斬る必要はない」
「いいのか?」
「おう。すぐに叩きのめすさ」
俺は馬に乗りながらサーベルを引き抜いていたエミリアの顔を見上げながらニヤリと笑うと、OSV-96を担ぎながら一歩前に踏み出し、目の前に立ち塞がっている山賊たちへと向かって走り出した。
俺を殺した車上荒らしの奴は走り出した俺に威嚇するようにナイフを向けて来たけど、山賊たちは剣を構えて俺に向かって突っ込んでくる。
「力也!」
『力也さんっ!』
大丈夫だ。こんな奴らには負けないよ。
俺はサムホールストックにカスタマイズしたOSV-96のグリップを握ると―――左手でキャリングハンドルを握り、接近してきた山賊の脇腹に向かって、OSV-96の銃身を思い切り叩き付けた!
「グエッ!!」
アンチマテリアルライフルの銃身に脇腹を殴打され、薄汚れた甲冑を身に着けていた男が脇腹を抑えながら崩れ落ち始める。俺はその男に向かって一歩踏み出すと、今度は銃身ではなく―――12.7mmキャニスター弾と12.7mm焼夷弾のマガジンが納められたホルダー付きのサムホールストックを、脇腹を殴打されて苦しんでいる男の顎へと叩き込んだ。
OSV-96の重量は約13kgだ。俺が使っているOSV-96にはロケットランチャーのRPG-7が銃身の下に装着されている上に、銃身の脇には狙撃補助観測レーダーも装備されている。間違いなく重量は20kg以上になっているだろう。
そんなライフルで脇腹と顎をぶん殴られ、山賊の男が回転しながら後ろへと吹っ飛んでいった。
「て、てめえっ!!」
「うるせえ」
銃身を突き出してボロボロの剣を振り下ろしてきた男の攻撃を受け止めると、俺はすぐにその男の右足に向かってローキックを放つ。
俺に向かって剣を振り下ろすために前傾姿勢になっていた足だ。ダメージを与えるためではなく体勢を崩すために放ったローキックを喰らい、山賊はぐらりと体勢を崩してしまう。
俺は受け止めていた銃身をそのまま押し出してその山賊の顔面に叩き付けると、鼻を押さえながら後ろに下がったそいつの顔面を、アンチマテリアルライフルの先端部に取り付けられていたマズルブレーキでぶん殴った。
気を失って倒れそうになる山賊の男を蹴飛ばすと、俺に右からトマホークの刃を叩き付けようとしていた男に左肩でタックルすると、左手でキャリングハンドルを持ち上げ、俺のタックルで突き飛ばされた男の顎をまたマズルブレーキで殴りつける。20kgのアンチマテリアルライフルでぶん殴られた男は、血と欠けた歯をまき散らしながら草むらの中へと吹っ飛んでいった。
「な、何なんだこのガキ!?」
「くそっ!」
「!」
槍を持った山賊の男が正面から突っ込んでくるのが見えた。やっぱりその男の槍の刃もボロボロだ。
「死ねぇっ!」
叫びながら槍を突き出してくる山賊。俺は左手をキャリングハンドルから放しながらその男へと一歩踏み出すと、踏み出した左足を軸足にしてくるりと一回転し、男の槍を躱しながら銃身を山賊の右足へと叩き付けた。
踏み出した右足を20kgのアンチマテリアルライフルの銃身で殴りつけられ、ぐらりと槍を持っていた男が倒れ込む。俺は振り払ったOSV-96のキャリングハンドルを掴むと、銃身を逆方向へと薙ぎ払った。
「ギャアッ!?」
倒れていた山賊のこめかみに、薙ぎ払われたアンチマテリアルライフルのマズルブレーキがめり込む。俺は叫びながら地面を転がった山賊の男へと、止めにOSV-96のサムホールストックを思い切り振り下ろした。
「―――まだやるのか?」
「ひいっ・・・・・・!!」
サムホールストックでぶん殴られた男の頭を踏みつけながら、俺はアンチマテリアルライフルを担ぎ、ボロボロの武器を持ちながら怯えている情けない山賊どもを睨みつけた。
「全員こうなるぜ?」
俺はニヤリと笑いながら言った。山賊たちはアンチマテリアルライフルでぶん殴られ、傍らで気を失っている仲間たちをちらりと見ると、次々に森の奥へと向かって逃げ出していく。
気を失っている山賊の男の頭から足を退けた俺は、かぶっていた迷彩模様のフードを取ると、左手で端末を取り出して武器と能力の装備のメニューをタッチし、OSV-96の装備を解除してから後ろを振り返る。
「行こうぜ」
「お、おう・・・・・・」
応戦するために引き抜いていたマチェーテをゆっくりと背中の鞘に戻しながら返事をするギュンター。俺は再び自分の馬に乗ると、ちらりと俺を見てから走り出したギュンターの後についていった。