力也が生産してくれたP90のドットサイトの向こう側には、漆黒の服に身を包んだ暗殺者が見える。窓の外で短剣を引き抜き、会議に参加しているカレンを暗殺しようとしているようだ。
昨日の夜に宿屋で私たちが立てた作戦は、外から接近してくる暗殺者たちを力也が狙撃で迎撃し、私とフィオナとナパーム・モルフォのうちの1匹がカレンの傍らで彼女を護衛するという作戦だった。力也は狙撃補助観測レーダーの範囲を広げることができる特殊なクロスボウで暗殺者たちを察知し、狙撃で仕留めると言っていたのだが、撃ち漏らしてしまったのだろうか。
背中に背負っていたP90を取り出した私は、銃口にサプレッサーが装着されたそのPDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)を会議室の外で短剣を引き抜いた暗殺者へと向けた。会議の途中にいきなり背中から武器を取り出した私を他の領主の護衛が何人か睨みつけてきたが、こいつらはあの暗殺者に気が付いていないのか? もしあの暗殺者のターゲットがお前たちの主君だったならば、簡単に暗殺されてしまうぞ。
「おい、何故武器を―――」
「窓の外だッ!!」
腰の剣の柄に手をかけながら声をかけてきた護衛の言葉を怒鳴り声でかき消した私は、窓から会議室の中へと飛び込もうとジャンプした暗殺者へと向け、P90のフルオート射撃をぶっ放す。サプレッサーが装着されているため、以前に屋敷へと侵入してきた暗殺者たちへアサルトライフルのフルオート射撃をぶっ放した時のような轟音はしなかったが、フルオート射撃でP90から放たれた5.7mm弾たちは、会議室へと飛び込もうとしていた暗殺者よりも先に窓ガラスを粉砕し、ガラスの破片たちと共に暗殺者の胴体を食い破った。
暗殺者の断末魔と、粉砕された窓ガラスの破片が地面に落ちる音が会議室の中に響き渡る。
「な、何だ今のは!?」
「暗殺者か!?」
「ああ、暗殺者だ。おそらく―――」
領主たちが連れている護衛と、この会議を警備している兵士たちで暗殺者たちを迎え撃てば、カレンを暗殺するために襲撃してきた暗殺者たちを簡単に退けられるだろう。ここまで接近してきた暗殺者は、おそらく力也が撃ち漏らした暗殺者だ。警備をしている兵士たちを上回る数でここまで到達できるわけがない。
それに暗殺者たちは防具を身に着けていない。私とフィオナは強力なPDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)を持っているし、他の護衛や警備の兵士たちは金属製の防具を装備している。有利なのは私たちだろう。
その時、私の5.7mm弾が食い破った窓ガラスの向こう側に2人の暗殺者が立っているのが見えた。今度は先ほどの暗殺者のように短剣を手にしているのではなく、クロスボウを装備している。あそこからカレンを狙撃で仕留めるつもりなのだろう。
「カレン、伏せろッ!」
「えっ!?」
P90を構えていた左手で椅子に座っていたカレンの肩をつかむと、私は彼女を会議用の大きなテーブルの下へと隠れさせ、右手で暗殺者に照準を合わせつつ、ドットサイトを睨みつけながら左手でペレット・サーベルを引き抜く。
『エミリアさんっ! 矢が……!』
カレンを隠れさせている間に、窓の向こう側でクロスボウを構えていた2人の暗殺者が先に矢を放ってきた。カレンを隠れさせていなければ、矢を放つ前に2人とも5.7mm弾の餌食にしてやれたのだが、私たちが受けている依頼は暗殺者の殲滅ではない。カレンの護衛だ。
割れた窓ガラスの向こう側から飛んできた2本の矢へと、私は鞘から引き抜いたばかりの漆黒の刀身を叩き付けた。このサーベルは小型の散弾をグリップの中から放つこともできる特殊なサーベルだが、刀身は私がラトーニウス王国の騎士団に所属していた頃に使用していた剣よりも頑丈だ。力也が以前に使っていたペレット・ブレードはこのサーベルと同じくらいの細さの刀身だったのだが、そのペレット・ブレードはジョシュアやフランシスカの強烈な剣撃をガードしてもへし折れることはなかったのだ。
右側へと振り抜いたサーベルをくるりと逆手持ちにしてから腰の左側に下げている鞘の中に戻すと、私はサーベルのグリップを握っていた手を再びP90へと戻し、窓の外でクロスボウに矢を装填しようとしている暗殺者へと5.7mm弾を叩き込むことにした。
5.7mm弾に貫かれ、血まみれになりながら屋根の上から落ちていく2人の暗殺者たち。力也が撃ち漏らしたのはこの3人だけなのだろうか?
「おい、また暗殺者だ!」
「何だと!?」
先ほど背中から武器を取り出した私に声をかけてきた護衛の男が、別の方向にある窓を指差して叫んだ。フィオナもP90を背中から取り出し、私と共に窓の外を確認する。
私が3人の暗殺者を始末した反対側にある窓ガラスの向こう側の建物の屋根の上に、更に10人以上も暗殺者が立っているのが見えた。
『力也さんが撃ち漏らしたんでしょうか……?』
「まさか………」
力也には狙撃補助観測レーダーと、ビーコンを搭載した矢を装備したクロスボウを持っている筈だ。それに、力也は私よりも射撃が上手い。更にナパーム・モルフォが5匹もいるのだ。
「私たちが奴らを食い止める! 領主たちを避難させろッ!!」
弓矢を持った暗殺者が構えたのを見た私は、フィオナと共にP90を窓の外へと向けた。
「くそっ………!」
FA-MASに装着されているマガジンはもう4つ目だ。端末で生産した銃は、基本的にマガジンが装着された状態で生産され、装備すると再装填(リロード)3回分の弾薬が用意されるようになっている。つまり、あとこのマガジンの中にある25発の5.56mm弾を撃ち尽くせばFA-MASは弾切れになるということだ。
5匹のナパーム・モルフォたちに援護してもらいながら、俺はFA-MASを腰の後ろに戻し、背中に背負っていたチェイタックM200の狙撃補助観測レーダーを確認する。
スピードのステータスが900になっている俺が追撃した暗殺者たちは、FA-MASのフルオート射撃か、ナパーム・モルフォたちが次々に放つ炎の弾丸の餌食になって壊滅している。だが、まだレーダーのモニターに赤い点が表示されたままだ。
その赤い点が表示されているのは、会議が開催されている会場の方向なんだ。
「別の方向からも接近してきたのか!?」
会場へと向かう暗殺者を追撃するために狙撃を断念してから、俺は狙撃補助観測レーダーを確認していない。おそらく、その確認していない間に別の方向から暗殺者たちが会場へと接近して行ったんだろう。
カレンを暗殺しようとしている奴は、いったい暗殺者を何人雇ったんだ? 会場の方向に表示されている赤い点の数は、間違いなく30個以上もある。
モニターを折りたたんでチェイタックM200を背負った俺は、腰の後ろからFA-MASを取り出す前に、腰の右側のホルダーからペレット・トマホークを取り出し、銃口にライフルグレネードを装着した。
漆黒のパンツァー・ファウストに斧のの刃を装着したようなトマホークを右手に持った俺は、左手で腰の後ろからFA-MASを取り出し、会場へと向かって屋根の上を突っ走った。
木造の建物の屋根から路地の向こうにあるレンガ造りの家の屋根へと向かって飛ぶ。煙突の脇を駆け抜けて次の屋根の上へと飛び移ると、俺は屋根の上から飛び降り、会議が開催されていた会場へと向かった。
会場の外には警備をしていた騎士や兵士たちが集まり、会議に参加していた領主たちを護衛しているようだ。でも、兵士たちに護衛されているのは豪華な服を身に着けた中年の男性ばかりで、以前に俺たちの屋敷にやってきた金髪の美少女はいない。
まさか、まだ会場の中にいるのか?
「おい、カレンは!?」
「カレン? まだ中だ! 今、彼女の護衛が暗殺者と戦ってる!」
「何………!?」
エミリアとフィオナはまだ、会場の中でカレンを守るために戦っているようだ。
俺はライフルグレネードを装着したペレット・トマホークを右手に持ったまま会場の入口へと向かって走り出す。数十分前にエミリアたちが入っていた真っ赤な扉の前に立った俺は、ペレット・トマホークに装着されたライフルグレネードをドアへと向け、発射スイッチを押した。
漆黒のライフルグレネードが真っ赤なドアに食い込み、閉じられていたドアが爆風で木端微塵に粉砕される。ペレット・トマホークをホルダーに戻した俺は、オーバーコートのフードをかぶったまま、FA-MASを構えて会場の中へと突入した。
今の爆発で吹っ飛んだドアの破片や金具が、会場の1階に用意されていた絵画や彫刻に突き刺さっていた。ドアの金具の破片が突き刺さって引き裂かれた肖像画の前を通り過ぎ、俺は階段へと向かった。確か、会議が開かれるのは2階だったな。
階段を上った俺は、FA-MASを構えながら会議室へと向かった。金色の模様のカーペットの上には真っ黒な服に身を包んだ暗殺者の死体が何人か倒れていたけど、おそらくこの暗殺者を殺したのはエミリアたちではなく、さっきの領主たちを護衛していた騎士たちだろう。
「!」
その時、会議室のドアの向こう側から銃声が聞こえてきた。エミリアとフィオナが持っている銃にはサプレッサーが装着されているけど、エミリアのペレット・サーベルにはサプレッサーが装着されていない。おそらく今の銃声は、彼女がグリップの中の小型の散弾をぶっ放した音だ。
俺はドアの近くまで走ると、左手でポケットの中から端末を取り出してスモーク・グレネードを1つ生産すると、ドアノブに手をかけて開く準備をしながら、静かにスモーク・グレネードの安全ピンへと手を近づけた。
「―――エミリアッ!」
「力也!」
安全ピンを引き抜き、スモーク・グレネードを会議室の中に投げ込む。俺はスモーク・グレネードが煙を出す前に会議室の中へと突入すると、エミリアと短剣で斬り合っていた暗殺者へとFA-MASのフルオート射撃を叩き込み、他の暗殺者にも5.56mm弾をぶっ放す。
「ぐあっ!!」
「ぎゃっ!!」
スモーク・グレネードの真っ白な煙の中で、5.56mm弾にズタズタにされた2人の暗殺者が会議に使われていた資料が置かれたままになっている大きなテーブルの上に倒れ込む。テーブルの上の資料は、俺に殺された暗殺者たちの返り血で真っ赤に汚れていた。
今の射撃でFA-MASの弾丸を撃ち尽くしてしまったらしい。俺は端末を取り出してFA-MASの装備を解除すると、代わりにサムホールストックを装備したAN-94を装備し、暗殺者たちをP90で迎え撃っていたエミリアたちの方へと向かう。
「みんな、大丈夫か!?」
「力也!」
『力也さん!』
「久しぶりね、力也!」
「ああ、久しぶりだな!」
白い煙の中でにやりと笑うカレン。30人も暗殺者が襲撃してきたというのに、彼女を護衛していたエミリアとフィオナもどうやら無傷のようだ。
「よし、脱出しよう」
「ああ!」
もしかすると、また暗殺者たちの増援がこの会場に来るかもしれないからな。だからカレンを連れて、ここを脱出するべきだ。俺は端末でAEK-971を装備すると、そのアサルトライフルを白煙の中でエミリアへと渡した。
彼女に渡したAEK-971にはドットサイトとブースターが装備されている。銃身の下には40mmグレネードランチャーを装着していて、銃口の右側には折り畳み式のナイフ形銃剣を装備しておいた。
俺が持っているサムホールストックのAN-94にも、銃剣以外は同じものが装備されている。俺のアサルトライフルの銃剣は、ナイフ形銃剣ではなくスパイク型銃剣だった。
「―――行くぞッ!」
俺とエミリアはアサルトライフルを白煙の中の暗殺者たちへと向けると、彼らに向けてトリガーを引いた。