異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者がナパーム・モルフォを使うとこうなる

 

 スコープの向こう側で、俺が放った弾丸が屋根の上をジャンプしていた暗殺者に襲い掛かった。会場の方にある建物の屋根の上に着地しようとしていた暗殺者が、サプレッサーを装着したチェイタックM200の弾丸に胸の部分を食い破られ、空中で肉片と鮮血をまき散らす。真っ赤になった屋根の上からすぐに次の暗殺者のいる方角へと銃口を向けながら、俺はチェイタックM200のボルトハンドルを引き、モニターを確認する。

 

 会場へと接近している増援の人数は最初に接近してきた暗殺者たちの倍だ。接近してきた8人のうち、俺が撃ち漏らしてしまったのは2人。16人の増援をこのまま迎え撃った場合、全員を会場に接近する前に倒すのは難しいだろう。

 

 撃ち漏らした奴らをナパーム・モルフォたちに片付けさせようと思っていたけど、あの撃ち漏らした奴らはエミリアたちに任せて、俺はナパーム・モルフォたちとチェイタックM200で迎え撃つべきなのかもしれない。

 

「………!」

 

 接近してくる暗殺者たちの増援の中から一番近い奴を狙おうと銃口を向けたその時、俺がチェイタックM200で狙撃していた建物のベランダの木製の柵に、会場へと向かっていた暗殺者たちの1人が放ったクロスボウの矢が突き刺さった。俺はすぐにスナイパーライフルのスコープから目を離し、狙撃補助観測レーダーのモニターを確認しながらベランダに立て掛けられていた木の板の陰にしゃがみ込んだ。

 

 恐らく、俺を狙ってクロスボウをぶっ放してきたのは5時の方向にいるこいつだろう。距離は170mくらいだ。

 

 少しだけ木の板の陰からからクロスボウの矢が飛来した方向を睨みつける。屋根から突き出たレンガ造りの煙突の陰に、クロスボウに矢を装填しながらこっちを睨みつけてる暗殺者がいた。

 

「うおっ!?」

 

 隠れていた木の板に、もう一本クロスボウの矢が突き刺さる。矢の先端部は板を貫通していないようだけど、このまま矢を避けるために隠れていれば、撃ち漏らした奴も含めて18人の暗殺者が会場へと向かうことになる!

 

 俺は木の板の陰に隠れながら、チェイタックM200のグリップを右手から左手に持ち替えた。もうボルトハンドルの操作は終わっているから、照準を合わせてトリガーを引けば弾丸をぶっ放せる。

 

 木の板の陰からサプレッサーの装着された銃口を出して3本目の矢を放とうとしている暗殺者の方へと向けると、俺は左目でスコープを覗き込んだ。今度はさっきみたいにバイボットを展開して伏せた状態での狙撃ではない。しかもトリガーを引くのは利き手の右手ではなく、左腕だ。

 

 でも、距離はたったの170mだ。

 

 俺をクロスボウで狙っていた暗殺者が、矢を装填し終えて煙突の陰から飛び出してくる。俺はスコープを覗き込んだまま照準をその暗殺者の頭へと向けると、左手でチェイタックM200のトリガーを引いた。

 

 サプレッサーが轟く筈だった銃声を黙らせる。静かに放たれた弾丸は大通りの方から聞こえてくる人々の声の中を通過していき、俺が狙った暗殺者が放ったクロスボウの矢を簡単に粉砕する。矢をあっさりと木端微塵にしたその弾丸は、ついにフードをかぶってクロスボウを構えていた暗殺者の顔面へと直撃した。

 

 飛び散った血飛沫で彼が隠れていた煙突の白いレンガが真っ赤になる。俺はヘッドショットでその暗殺者を倒したことを確認すると、バイボットを元に戻してスナイパーライフルを背中に背負い、ポケットから端末を取り出しながら4階のベランダから近くの建物の屋根の上へと飛び降りた。

 

 さっきの暗殺者を狙撃で倒した間に、他の暗殺者たちの増援は会場へと向かっている。俺は端末でフランス製のブルパップ式アサルトライフルのFA-MASを装備すると、屋根の上を突っ走って暗殺者たちを追撃することにした。

 

 腰の後ろに下げていたFA-MASを取り出した俺は、昨日の夜に宿屋でカスタマイズをした時と同じくフォアグリップとサプレッサーが装着されているのを確認しながら屋根の上を突っ走ると、俺から見て11時方向にある少し高い屋根の上を走っている暗殺者の背中へと銃口を向けた。

 

 フルオート射撃で放たれた5.56mm弾が、会議の会場にいるカレンを暗殺するために屋根の上を疾走する暗殺者の背中に次々と風穴を開けていく。銃声の代わりにFA-MASのフルオート射撃の犠牲になった暗殺者の断末魔が屋根の上に響き渡り、5.56mm弾にズタズタにされた暗殺者が屋根の上から転げ落ちていく。

 

「モーガン!?」

 

「な、なんだ!? 警備の兵士かッ!?」

 

「違う、傭兵だッ!!」

 

 俺が身に着けているのは騎士団の防具ではなく、全く装飾のついていない漆黒のオーバーコートだ。金属製の防具は全く装着していない。俺を警備の兵士ではなく傭兵と判断したのは、俺が装飾のついた金属製の防具を装着していなかったからだろう。

 

「お前たちは会場に行けッ!」

 

「分かった!」

 

 1人の暗殺者が屋根の上で立ち止まり、俺を睨みつけながら腰の鞘から両刃の短剣を引き抜く。俺を足止めしようとしているその暗殺者の頬には大きな傷があった。

 

「モーガンの仇だ………!」

 

 さっき俺のFA-MASに穴だらけにされ、屋根の上から転げ落ちていった仲間の仇を取るために、頬に傷のあるその暗殺者は姿勢を低くし、短剣を構えて突っ込んできた。

 

 以前にナバウレアで戦ったジョシュアよりも素早い。短剣を逆手に持って接近してきた暗殺者は、俺の首を狙って短剣を振り払う。

 

 俺は姿勢を低くして暗殺者の短剣を回避すると、グリップをフォアグリップを握ったFA-MASをくるりと回し、まるでボディブローをお見舞いするかのようにアサルトライフルの銃床で思いきり暗殺者の鳩尾を殴りつけた。

 

 暗殺者たちは俺たちと同じように、金属製の防具を一切身に着けていない。もし防具を装着していたらこのカウンターは全く効かなかっただろう。

 

「ぐうッ!?」

 

「邪魔だッ!!」

 

 俺はFA-MASの銃床で暗殺者を殴りつけて突き飛ばすと、鳩尾を抑えている暗殺者にFA-MASの5.56mm弾を叩き込んで止めを刺し、崩れ落ちたその死体を置き去りにして会場へと向かう暗殺者たちを追撃する。

 

 確かにあの暗殺者の動きはジョシュアよりも素早かった。でも、今の俺のレベルはナバウレアでジョシュアと戦った時よりも上がっている。能力から剣士を外したせいでスピードのステータスは1020から900まで減っているけど、俺のスピードはあの暗殺者のスピードよりも上だ。

 

 つまり、このまま屋根を走って暗殺者たちに追いつき、追撃することができるということだ。

 

「―――ナパーム・モルフォ」

 

 屋根の上を疾走する俺の周囲の空間に、5つの小さな炎の渦が出現する。火の粉を散らしながらその渦たちは段々と炎を纏った蝶の姿へと変わっていく。

 

 俺が3000ポイントも使って生産した能力だ。6匹まで召喚できるこの炎の蝶たちで敵を焼き尽くすことができる。狙撃補助観測レーダーと組み合わせれば、こいつらの炎で敵を遠距離から空爆させることもできるらしい。

 

 でも、ここは王都の屋根の上だ。さすがに王都の中で空爆するわけにはいかない。

 

「奴らを焼き尽くせッ!」

 

 屋根の上を走ってFA-MASで暗殺者たちを射撃しながらナパーム・モルフォたちに命令する。

 

 FA-MASのアイアンサイトを覗き込みながら暗殺者の背中を狙っていると、突然俺の周囲から真っ赤な弾丸がFA-MASのフルオート射撃のように他の暗殺者たちへと向けて放たれた。俺がぶっ放しているのは5.56mm弾だけど、俺の周囲から放たれているその弾丸は火の粉を残しながら飛んでいく炎の弾丸たちだ。

 

 その炎の弾丸のフルオート射撃をぶっ放しているのは、たった今俺が召喚して暗殺者たちを攻撃するように命令した5匹のナパーム・モルフォたちだった。火の粉をまき散らして俺の周囲を舞いながら、カレンを暗殺するために会場へと向かっている暗殺者を無数の炎の弾丸で攻撃している。

 

 彼らの炎の弾丸に被弾した暗殺者が、俺が覗き込んだアイアンサイトの向こう側で火達磨になったのが見えた。絶叫しながら崩れ落ち、燃えたまま屋根の下へと落ちていく。

 

「こいつら、再装填(リロード)しなくていいのか?」

 

 ナパーム・モルフォたちはずっと炎の弾丸のフルオート射撃をぶっ放し続けている。俺は走りながらFA-MASのマガジンを交換して再装填(リロード)すると、再びアイアンサイトを覗き込み、5匹のナパーム・モルフォたちと共に暗殺者たちを追撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 会場の2階にある会議室の大きなテーブルには、派手な装飾のついた服を身に着けた中年の男たちが腰を下ろし、税金や魔物についての話をしている。狂暴化した魔物たちの襲撃によって他の領主たちの領地は大損害を受けているようだ。

 

 会議に参加しているほかの領主たちの傍らには、銀色の防具を身に着けた護衛の兵士が立っている。私とフィオナもカレンを暗殺者の襲撃から守るために彼女の傍らに立っていた。

 

 中年の領主たちが意見を言っている間に、椅子に腰を下ろしているカレンがテーブルの上の資料を確認しながら用意された紅茶のカップを持ち上げる。

 

 彼女が眺めている資料には、ネイリンゲンの北の森にアラクネが出現したという事も書かれているようだった。恐らくフランツさんを救出した際に戦ったアラクネたちの事だろう。

 

「カレン、各領地の騎士団の増強についてなんだが………」

 

「ええ。私も増強するべきだと思います。それと、傭兵ギルドにも援助を―――」

 

 カレンはテーブルの上の資料を確認しながら、紅茶のカップを戻す。彼女は魔物の迎撃のために騎士団を増強するべきという意見に賛成するつもりらしい。

 

 私とフィオナはカレンの傍らで彼女を護衛することになっているが、力也は会場の外で暗殺者たちを迎撃することになっている。もし彼が襲撃してきた暗殺者を撃ち漏らした場合は私たちが戦うことになっていた。私の武装はP90とハンドガンのFive-seveNとペレット・サーベルの3つで、フィオナはP90のみだ。後は、力也が召喚したナパーム・モルフォという炎を纏った蝶が1匹だけ私の右肩に止まっている。

 

 最初はこの蝶に止まられたら火達磨になってしまうのではないかと思っていたが、ナパーム・モルフォの炎は私の制服に燃え移ることはない。素手で触っても火傷はしなかった。

 

 炎を纏った蝶を肩に止まらせたままカレンが意見を言っているのを見守っていると、突然ナパーム・モルフォが炎を纏った羽を広げ、火の粉を散らしながら舞い上がり始めた。この蝶とはよくフィオナが遊んでいたため、彼女の方へ飛んでいくのだろうと思っていたが、ナパーム・モルフォはフィオナの方へは飛んで行かずに、カレンの頭上を舞い始めた。

 

 こいつはカレンが気に入ったのかもしれないな。だが、カレンは会議に参加している最中だ。私は蝶を手に止まらせるために右手を伸ばしたが、ナパーム・モルフォはなかなか私の指に舞い降りようとしない。

 

 どうして指に止まらない? 

 

 そういえば、力也はこの蝶を6匹まで召喚できると言っていたな。その6匹のうち5匹を外で暗殺者を迎撃するのに使って、残った1匹には私たちと一緒にカレンを守らせると昨日宿屋で言っていた。

 

 つまり、このナパーム・モルフォにはカレンを守るように力也が命令しているという事だ。先ほどまで静かに私の肩に止まっていたこの蝶が突然舞い上がって彼女の頭上を飛び始めたということは、暗殺者が接近しているという事なのかもしれない。

 

「………フィオナ、戦闘準備だ」

 

『えっ?』

 

 背中からP90を取り出しながら会議室の窓の外を睨みつけると、私はドットサイトを窓の外の暗殺者へと向けるのだった。

 

 


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