異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者が狙撃手をやるとこうなる

 

 フィオナが作ってくれたこの漆黒の制服は気に入っている。騎士団に所属していた頃は制服の上に金属製の防具を装着していたのだが、力也とフィオナと共にモリガンを作って依頼を受けるようになってからは、全く金属製の防具を身に着けることはなくなった。

 

 お気に入りの漆黒の軍帽をかぶり直しながら、私はこの制服を作ってくれた可愛らしい幽霊のフィオナと共に、カレンが出席する会議が開催される会場へと向かって歩いていた。会場は宿屋から王都の中心へと向かったところにあるレンガ造りの建物で、既に会場の周囲を騎士団の騎士と出席する領主の私兵や護衛たちが警備を始めていた。

 

「やはり、防具を身に付けないというのは慣れないものだな………」

 

 当然、会場を護衛している騎士や私兵たちは金属製の防具や甲冑に身を包んでいる。だが、私は全く防具を身に着けていない。漆黒の制服と軍帽を身に着け、腰に漆黒のサーベルとハンドガンの収まっているホルスターを下げている。背中には、昨日の夜に力也にあの便利な端末で生産してもらったPDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)のP90を背負っていた。

 

 腰のホルスターの中にはドットサイトとサプレッサーが装着されたFive-seveNが入っている。背中に背負っているP90にも同じくドットサイトとサプレッサーが装備されていた。

 

 各国の騎士たちや傭兵たちは、必ず防具を装着して魔物たちと戦っている。サーベルと銃を装備し、防具を身に着けずに会場へとやってきた私たちをじろじろと見てくる彼らの前を通過した私とフィオナは、カレンを探すために会場の入口へと向かった。

 

『やっぱり、みんな防具をつけてるんですね』

 

「警備に参加するんかで防具をつけていないのは私たちくらいだろう」

 

 私の傍らを浮かんでついて来るフィオナも、私と同じくサプレッサーとドットサイトを装備したP90を背負っている。でも、暗殺者たちと戦闘になった場合は彼女には治療用の魔術での手当てを最優先にしてもらうつもりだ。

 

「―――あら? もしかしてエミリアとフィオナちゃん?」

 

『カレンさん!』

 

 2階への大きな階段の近くに立っていた真っ赤なドレス姿の金髪の少女が、入口で警備をしていた騎士たちに挨拶してから中へと足を踏み入れた私たちに声をかけてくる。彼女の傍らには、3日前にこの会議に参加するカレンを護衛してくれと依頼してきた護衛の男も立っているのが見える。

 

 やはり、警備する者たちが金属製の防具に身を包んでいる中で、全く防具を装着せずに漆黒の制服を身に着けているのは目立つのだろう。私は頭上の軍帽を取ると、手を振りながらゆっくりとこちらに向かって歩いて来るカレンに「久しぶりだな」と声をかけた。

 

「今回も護衛してくれるのね?」

 

「ああ」

 

 彼女は会議に参加するために来ているため、以前のように愛用の弓矢を持っている様子はない。護身用に腰に短剣を下げているようだが、たった1本の短剣で暗殺者たちと戦うのは危険だろう。

 

「あれ? 力也は?」

 

『力也さんもちゃんと来てますよ』

 

「どこにいるの? 会場にいる?」

 

「いや、会場にはいないな」

 

「え?」

 

 私とフィオナは会場の中でカレンを守る。力也は会場の外を見張るという役割になっている。だが、力也は外で警備を行う騎士たちと共に整列しているわけではない。

 

 私は再び軍帽をかぶると、会議室のある2階へとカレンたちを連れて向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 スコープのカーソルの向こう側で、エミリアとフィオナが会場の入口で警備をする2人の騎士に挨拶をしてからレンガ造りの建物の中へと入っていくのが見えた。警備している騎士が入口の扉を閉めたのを確認してからスコープから目を離した俺は、狙撃補助観測レーダーを確認してから会場の方を眺める。

 

 俺がいるのは会議が行われる会場から1km離れた建物の4階のベランダだ。どうやらこの建物は空き家で、誰も住んでいないようだ。俺は昨日宿屋で生産したばかりのチェイタックM200のスコープを再び覗き込み、レンガ造りの建物の周囲を7スコープで見渡す。

 

 俺が装備しているこのチェイタックM200は、アメリカ製のスナイパーライフルだ。射程距離は約2kmで、威力と命中精度が高い。ボルトアクション式のスナイパーライフルであるため、1発ぶっ放したらボルトハンドルを操作する必要がある。

 

 銃口にはサプレッサーが装着されていて、銃身の脇には狙撃補助観測レーダーのモニターが装備されている。銃身の下に装着されているのは、ビーコンを搭載した矢を放つことができるクロスボウが搭載されている。

 

 このクロスボウの矢のビーコンは、矢が着弾すると作動する仕組みになっている。作動すると、矢の刺さった場所から狙撃補助観測レーダーの装着された武器の射程距離と同じ範囲をモニターに表示してくれる。

 

 つまり、狙撃補助観測レーダーで表示できる範囲を更に広げてくれるというわけだ。既に矢をクロスボウで射出して展開していて、モニターには俺の位置から半径3km以内のマップが表示されている。

 

 更に、会場の近くに5匹のナパーム・モルフォを展開して警戒させている。最大で6匹まで召喚できるんだけど、あと1匹はカレンの近くで警備をさせるつもりだ。

 

 まるでレーダーサイトのようだ。今までアンチマテリアルライフルを生産した時は対戦車ミサイルやロケットランチャーを銃身の下に搭載してたけど、こんな索敵特化型の装備もあるんだな。

 

「………来たな」

 

 狙撃補助観測レーダーの隅に、赤い点がいくつか表示されたのが見えた。間違いなく、カレンを狙っている暗殺者たちだろう。

 

 数は8人。会場から2km離れたところまで纏まっていた反応が、2人ずつの4組に分かれて会場へと接近を開始する。俺はチェイタックM200の照準を赤い点の方向へと向け、スコープを調整した。

 

 既にチェイタックM200の射程距離に入っている。俺はまたスコープから目を離し、屋根の上を疾走している2人の暗殺者を見つけてからスコープを覗き込んだ。

 

 以前に俺たちの屋敷を襲撃してきた暗殺者たちと同じ格好だ。漆黒の服に身を包んだ男たちが、腰に短剣を下げて会場へと向かっている。

 

「見つかってるぞ」

 

 まず最初のターゲットは2人だ。片方を仕留めてから素早くボルトハンドルを操作して、すぐにもう片方を狙撃すれば問題ないだろう。銃という武器を知らない彼らならば、相方が狙撃でやられたとしてもすぐに物陰に隠れたり、地上に飛び降りて俺の死角に入ることはない筈だ。それに彼らはカレンの暗殺のために来ているんだから、俺の狙撃から逃れるためとはいえ騎士が巡回している地上には飛び降りないだろう。

 

 会場へと向かって走る2人の暗殺者のうち、前を走っている男の方にカーソルを合わせると、俺はチェイタックM200のトリガーを引いた。

 

 響き渡るはずの銃声をサプレッサーが黙らせる。静かに放たれた弾丸がカーソルを重ねた暗殺者へと向かって飛んでいき―――屋根の上が、暗殺者が吹き上げた鮮血で真っ赤に汚れた。

 

 俺がぶっ放したチェイタックM200の弾丸は暗殺者の首筋に命中したらしい。破壊力の高いチェイタックM200の弾丸に首筋を食い破られた暗殺者の頭が千切れ飛び、首のなくなった胴体と共に屋根の下へと転がり落ちていく。

 

 いきなり目の前を走っていた仲間の首が吹っ飛び、驚いて立ち止まってしまう暗殺者。俺はその隙にボルトハンドルを引くと、すぐにスコープを覗き込み、カーソルをもう片方の暗殺者へと向ける。

 

 彼は再び会場へと向かって走り出したけど、屋根の上には全く遮蔽物がない。2階建てや3階建ての建物の上を走っている彼らを狙撃しているのは、4階建ての建物のベランダにいる俺なんだ。

 

 フランシスカと戦った時に躊躇したせいで後悔したくないと決意していた俺は、屋根の上を必死に走る暗殺者に照準を合わせ、トリガーを引いた。

 

 後悔しないように、躊躇はしない。

 

 弾丸が暗殺者の頭へとめり込む。最初に首を食い破られた暗殺者と同じように頭を引き千切られた2人目の暗殺者は、肉片と鮮血を吹き上げながらそのままうつ伏せになって倒れた。

 

 あと6人だな。ボルトハンドルを引きながらスコープから目を離し、狙撃補助観測レーダーのモニターを確認する。

 

「増援………?」

 

 いや、恐らく途中で別れた暗殺者たちは、今俺が仕留めた2人が俺にやられたということは知らないだろう。殺気の奴らはモニターの右上の方から接近していたけど、今接近している暗殺者たちは右下の方から侵入してきている。恐らく、最初に侵入した8人が騎士団に発見された場合はそのまま暗殺を後続の暗殺者たちに任せ、先に侵入した奴らに陽動をさせるつもりだったんだろう。

 

 右下から侵入してきた暗殺者は16人。拙い、数が多いぞ。

 

「くそ………!」

 

 もしかすると撃ち漏らしてしまうかもしれない。

 

 すぐに次のターゲットを発見した俺は、カーソルをその2人組の暗殺者へと向ける。まず先に、会場へと接近している残りの6人を始末するべきだろう。そいつらを殲滅したら後続の16人へと攻撃を仕掛けるべきだ。

 

 もし会場に接近されてしまった場合は、既に展開している5匹のナパーム・モルフォで迎撃しておこう。残った1匹はエミリアたちと共にカレンを護衛させるつもりだ。

 

 トリガーを引き、屋根の上を走っていた暗殺者に弾丸を叩き込む。脇腹を弾丸に食い破られた暗殺者が、800m先の屋根の上から地上へと落ちていくのが見える。

 

 もう1人の暗殺者が仲間を射殺した俺を探し始めるけど、800mも離れた建物のベランダでスナイパーライフルを構えている俺を発見できる筈がない。

 

 俺は短剣を引き抜いて仲間の敵を取ろうとしている暗殺者をヘッドショットで倒すと、ボルトハンドルを引きながらスコープから目を離し、また敵の位置をモニターで確認する。

 

 暗殺者たちから会場まであと400mしかない。恐らく、狙撃で仕留められるのはあと一組くらいになるだろう。

 

「………頼むぞ、ナパーム・モルフォ」

 

 3000ポイントも使って生産した俺の能力だ。あと一組を狙撃したら、残った一組は炎を操る蝶たちに任せるしかないだろう。

 

 スコープを覗き込む前に、狙撃補助観測レーダーのモニターに表示されている5匹の蝶のマークを見つめた俺は、会場へと向かって走っていく暗殺者たちを狙撃するためにチェイタックM200のスコープを覗き込んだ。

 

 

 


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